東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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「叩き込め、ダークロボ精神!」

人造人間キカイダー』感想・第30話

◆第30話「アカネイカ美人女子大生を狙う」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 「ふふふふふふふ……その姿の方がずっと美しい。おまえは俺の部品となって、大いに役立つんだからな、うふははははは」
 ダークロボット・アカネイカが、必殺のイカドクロ飛行により、ダークロボットとしては頭部・モチーフの生物としては胴体、を飛ばすと、風呂敷包みのように広がった外套膜が犠牲者を覆い尽くして後には脳髄を抽出したパーツだけが残り、駄目そうなサブタイトル見た目の間抜けな技ながら、開幕から非常にえげつなめの殺人描写。
 前回、良心回路の設計図が燃え尽きた事により辛うじてショック死は免れたプロフェッサー・ギルだったが、連戦連敗と組織の経営難による心の複雑骨折はまだ癒やされていないようで、何故か「天才女子大生」にこだわる奇行を見せると、格闘技・ヴァイオリン演奏・電子技術・薬物学、それぞれの分野の才女を次々と襲わせ、アカネイカの頭脳回路に対キカイダー用の強化頭脳回路をセットさせていく。
 そう……
 「私はダークのアンドロイド敗北の理由を考えてきた……そしてわかったのだ、そのわけが。パワーが同じなら最後に物をいうのは精 神 力!!! その精神力が、足りなかったのだ!!」
 すなわち……
 「そこでこの天才、プロフェッサー・ギルが開発したのが、ダークロボ精神注入棒
 つまり……
 「叩き込め、ダークロボ精神!」
 …………すみません。
 今作から約20年後に東映が世に問う怪作はともかくとして(今作から『ジャンパーソン』までより、『ジャンパーソン』から現代までの方が時間が経過しているのは、なんだか恐ろしい事実)、毎日毎日、今季の決算報告書を見て胃の縮む思いをしながらギルは考えたのです。
 キカイダーの強みとは、その場その場の状況に応じて柔軟かつ適切な判断力をもたらす良心回路にあり、それに対抗する為には、人間の脳を組み込む事でダークロボットの判断力を引き上げればいいのだと!
 かくしてそのテストケースとして天才女子大生の脳パーツを組み込まれたアカネイカは、向上した頭脳回路の性能により、キカイダーを倒す為には今ひとつのパーツが必要であると具申し……以前から思っていたのですが、ダークロボの各アジトの壁にそれぞれのシルエットが刻印されているのは、ダーク組織の“可愛い”に対する並々ならぬこだわりを感じさせます。
 「殺せ……殺せ殺せ殺せぃ……殺すのだ!」
 ギルの指示により、ロボット工学の天才女子大生・島村チドリを標的とするイカだったが、ダークロボットを見ても冷静に対応するチドリにペースを握られてしまう一ひねり。
 珍しくジローも振り回されるコミカルな一幕を挟み、基本シリアス時空の今作、恐らく、それはそれとして明るい場面を、といったオーダーに応えた結果が、半平(コメディーリリーフ)とダークロボット(基本使い切り)に偏って、特にダークロボットの喋り散らし路線の形になっっているのでしょうが、一方で、ジロー・ミツ子・マサルはコミカルさからは意識的に切り離されていたのだな、と改めて(この辺り、当時のヒーロー像やヒロイン観もあったのでしょうが)。
 キカイダーの動きを呼んでトラップを用いるなど、意外とちゃんと強かったアカネイカをなんとか撃退したキカイダー。チドリによりジロー/キカイダーが別人と誤解される、ありそうでなかった要素は、この後あっさり解決して、特に広がらず。
 タクシー運転手を辞め、流しのホットドッグ屋となっていた光明寺は、島村家と親しくなっており……
 「その後、少しは何か、思い出しまして?」
 「いいえ。……もしかしたら、何も思い出さずに、こんな生活をしている方が幸せなのかもしれませんねぇ」
 つい先日、騙されての事とはいえ、結構な殺人兵器を野に放ったばかりですしね!
 話の流れからすると多分に偶然の産物かとは思いますが、人造人間と良心回路の開発により神の領域に近づく禁忌を冒した光明寺が、記憶を失い彷徨を続けている……と見ると、「フライング・ダッチマン」の伝説などが重なって見えるのは、なかなか面白いところ。
 5年前に父が謎の失踪を遂げたチドリは、ロボット工学にやたら詳しいホットドッグ屋のおじさんに、同じく研究者だった父の姿を重ねており、チドリ父の失踪にダークの関与が窺わされつつ、その道の泰斗である筈の光明寺の顔写真ぐらい見た事は無いのか、という気には少々(笑)
 まあ光明寺光明寺で、ダークに拉致されて世間的には消えていた人物ではありますが……光明寺家の家族模様と、島村家の家族模様を繋げようとした結果、肝心の接続部分に、若干の無理が出てしまいました。
 再びイカに襲われたチドリをジローが救い、一同はチドリの誕生パーティに招かれる事に。そこで謎のホットドッグ屋について知るミツ子とマサルだが、仕事を終えて島村家に向かっていた光明寺は、イカ部隊によってチドリがさらわれる光景を目撃してしまう。
 だがシーン切り替わると、イカがさらったのはチドリではなく半平の変装でした、となって、必要、判断力、必要。
 ただこの場面、ジローが半平に女装を頼む布石シーンはしっかり描かれているのに、肝心の光明寺による拉致目撃シーンが、短すぎる&イカの体色と偽チドリの服の色がかぶっている為に、ぱっと見でチドリがさらわれた光景だとは大変わかりづらく、半平の女装の甲斐無く、あまり効果的ではない展開になってしまいました。
 笛の音が響いて危機に陥るジローだが、イカの吸盤攻撃が耳を塞いだ事で窮地を脱し、必要、判断力、必要。
 チェンジ成功してED曲でのバトルとなり、飛び交うイカヘッドはキカイダーの反撃で大爆発。苦悶するイカに回転アタックから大車輪投げ、そしてデンジエンドが炸裂し、アカネイカは四人の被害者の脳髄と共に、弾け飛ぶのであった。
 またも「私は不幸を呼ぶ男」とうなだれる光明寺は島村家を訪れないまま姿を消し、用意したまま渡す事の出来なかった花束はなかなかに寂寥感を醸し出し、光明寺が自分の境遇をしばし忘れて積極的に他者に関わるのは基本「若い女性に好感を持たれた時」だけなのは、(メタ的な事情を省くと)「無意識に娘の面影を見ているから」なのでしょうが、博士にはもう少し、視聴者に見えるところで、好感度と信頼感を稼いでほしいところです(笑)
 ロボット工学に詳しいホットドッグ屋さんとは出会えぬままにミツ子とマサルは島村家を辞し、チドリは「高性能な人造人間」としてのジロー/キカイダーにしか興味は無い、と人ならぬものに対するミツ子さんの険しい恋路にエールを送り、あわよくば、論文の題材にする気満々に違いありません。
 ……伊豆編からこっち、伊上先生に遠慮しなくて良くなった為なのか、鎖から解き放たれた獣のように、長坂さんが、ジロー×ミツ子の関係を押し込んできますが、ギリシャ神話の「ピュグマリオン」など古くからある題材を水脈として、これもまた、神と人と人形の境界に関わる要素とはいえましょうか。
 次回――最近どうやら、海産物が流行りらしいダーク。イカの次はタコだ!