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伊豆の壺焼

人造人間キカイダー』感想・第27話

◆第27話「バイオレットサザエの悪魔の恋」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳
 トゲトゲの怪物が奇声をあげ、ミニスカの女性たちがピョンと跳ねると次々に桃色アンドロイドマンへと変わっていく今回予告映像の時点で、迸るちょっと嫌な予感……(笑)
 そして、
 「なに?! 設計図を手に入れん内に、バイオレットサザエがアラキ博士を殺してしまったとは……」
 「はい……」
 「馬鹿者! 二人もいて……なんというざまだ!」
 だから! 女性型のアンドロイドはやめましょうって! あれほど会議で皆が止めたのに!
 巨大なゴルフボール状の頭をしたグリーンカイメンがプロフェッサー・ギルに深々と頭を下げ、何故こうなったかといえば…………伊豆・七滝温泉の地において、白衣の男性――アラキ博士を追う5人の女たちの不始末が、事の始まりであった。
 女たちは博士を滝の連なる風光明媚な山中(ロケ地としては、後に天宮勇介とドクター・ケンプが戦った辺りでしょうか……?)に追い詰めると、桃色アンドロイドマンとダークロボット・バイオレットサザエの正体を現し、必殺サザエ車によって放たれるトゲを、割と華麗にかわす博士(笑)
 台詞からすると掴みの脅しだった筈なのですが、博士が棒立ちだったら確実に爆死していた位置にトゲが飛んでおり、この時点で既に、設計ミスへの疑念が浮上します。
 滝上に立つジローがギターを響かせると博士からダークを遠ざけ、チェンジしようとするも珍しく開始4分で響く悪魔の笛。
 「ダークに生まれし者は……ダークに帰れ……! ダークに帰るのだ……!」
 笛の音に苦しむジローはサザエトゲで貫かれ、迫り来るサザエ焼きで絶体絶命に陥るが、博士がダークの狙う設計図を渡すと叫んでジローを助けるこれまた珍しい展開で、一同は大家荘へと戻る。
 「さあ、設計図はどこだ!?」
 「……ここだ」
 おもむろに鉄の箱を取り出した博士がダイヤルを捜査すると、電光が走った!!(笑)
 「他に方法が無かったんだ。気の毒だが、あんたの体は、作り替えさせてもらうよ」
 謎ビームで動きを封じたサザエに向けて、満面の笑みかつゆったりとした口調で再改造を宣告するアラキ博士、間違いなく光明寺の同類であり、どちらかというと、プロフェッサー・ギルの片腕になるべき男だったのでは。
 基本的に、「気の毒だが○○させてもらう」って、悪役の台詞ですし!
 アラキ博士の手により魔改造ヴァイオレットエヴァーサザエ誕生寸前、何故か室内に置かれていた巨大なサボテンから煙が噴き出すと、ダーク忍者・カイメングリーンが出現する一方、サザエに放置されたままのジローは未だ悪魔の笛に苦しんでおり、プロフェッサー・ギルは多分、(おい、ワシ、いつまで笛を吹いていればいいの?!)と、アジトで困っていた。
 ミツ子とマサルの助けを拒んだ末に、足を滑らせて谷底へと真っ逆さまに落下するジロー……だが、割と普通に立ち上がっており、悪魔の笛による精神ダメージの方が大きそうだった(笑)
 ナレーション「この時、落下する大きな滝の音が、ギルの笛の音を消した! ジローはキカイダーに変身する!」
 窮地を脱して大家荘へ急ぐキカイダーだったが、そこでは既に怒りに任せたサザエのトゲが博士を貫いており、キカイダーの攻撃を受けたサザエは胸から火を噴き上げて逃走。残った海綿グリーンは大車輪投げを受けてバラバラに吹き飛ぶが、アラキ博士もまた、ダークの狙う良心回路の設計図を娘に託した事を告げ、絶命してしまう。
 「良心回路が完全なものにでもなったら、我々ダークは壊滅させられる」
 アラキ博士は、光明寺博士から受け取った設計図を元に完全なる良心回路の開発に成功しており、その図面がキカイダーの手に渡る事を恐れるギルの自己認識が世知辛いですが、次作『01』の惨劇を考えると的を射た分析という他ありません。
 ギルが設計図入手の為に伊豆の地に更なる増援を送り込む一方、ジローの良心回路を完全にしたいミツ子と、それを頑なに拒否するジローの毎度お馴染みの愁嘆場が演じられ、悪の総帥の怯える完全なる良心回路の搭載を、ヒーローが自ら否定しているのが、なかなかシニカルな構図。
 ただ、完全な良心回路の設計図なんてものがあるから無関係なアラキ博士は巻き込まれて死んだのだ、だからそんなものは不要だ、と主張するジローは、そもそもミツ子の勧めるように完全なる良心回路を内蔵していれば、ジローを助ける為にアラキ博士が決死の取引を持ちかけずに済んだ筈、という前後の因果関係を無視して論点をずらしており、恐らくこの場においては、脚本の方でもそれがわかった上で目をつぶっているのは、今作の抱える危うい要素が欺瞞の形で出てしまった部分。
 ジロー大事で設計図を取りに行きたがるミツ子(キャラの積み重ねからは外してはいないのですが、ことさらにミツ子が私情を優先しているように描かれているのも、今回のジローの欺瞞を隠そうという意図は見えます)を、アラキ博士の娘まで巻き込みたくは無い、と止めるジローは何かの気配に気付くと、胸部を損傷したサザエ女を発見。
 女を部屋に運び込んだジローは、ミツ子から冷たい視線を浴びながらも、例えダークロボットでも、助けを求めてきた者を見捨てたくはない、と同族意識を見せて修理を敢行。
 「君たちは、悪い人間の言うことだけを聞くように作られた、アンドロイドだ。君たち自身に罪は無い」
 から、
 キカイダー、あたしも、あたしも良心回路がほしい」
 は、ゾクッとくる鮮やかな流れ。
 良心回路が完全ではないからこそ、そこに自分自身の“心”が存在していると考えているジロー・もちろん無関係な人間は巻き込みたくない・だが、良心回路があれば“そういう風に生まれてきた”ダークのアンドロイドを救う事が出来るかもしれない……
 と、千々に悩めるジローは、ミツ子には禁止した設計図の回収に自ら向かう事を決断し、テーゼの盛り込みから、ジロー自身の行動理念に与えられる強烈な揺らぎとその末のエゴイスティックな選択、までは非常に面白かったのですが…………ですが……増援のアカオニオコゼと復活した海綿グリーンに詰め寄られたサザエ女は、いやこれ罠だから、とジロー不在の場であっさり告白。
 真相の明かし方としては凄まじく面白くないですし、処刑を逃れる為にやむを得ず……のニュアンスが入っていると見ても表現が曖昧にすぎて効果が出ず、どちらの意図にせよ、もっと腰を据えて描いて欲しかった展開。
 個人的には、ジローの精神に与えるダメージの大きさとして、最初から全て罠だった事がクライマックスで劇的に突きつけられるのを期待していた為に、非常にガックリしてしまいました。
 結局ジローは、ちょっとあだっぽいアンドロイド女がいいのね! と嫉妬に燃えるミツ子は単独行動によりアラキ娘の元へ向かおうとし、ミツ子はミツ子で、“完全なる良心回路を内蔵する事で、ジローを理想の男として完成させる”独善に導かれており、それはジローの望む意識とは明確にズレ始めていて、割と男女関係のややこしい一面が描き込まれている感。
 サザエと海綿の襲撃を受けたところでジローのギターが鳴り響き、結果としてはミツ子の暴走がサザエの奸計を打ち破る事になっているのですが、数分前の、おおこれは……! の興奮を返してほしい(笑)
 悪魔の笛は変則パターンで前半に吹いたのでジローはあっさりチェンジ成功し(プロフェッサーは血圧がだいぶ上がってしまった為、リラクゼーションルームで世界の可愛い動物ビデオに癒やされている真っ最中です)、サザエの壺焼き攻撃を受けながらも懸命な説得を行うが、もはややむなし、とデンジエンド。
 「待ってキカイダー! さっき言ったことは本当だった! でもあたし達はプロフェッサー・ギルから逃れられないのよ!」
 「なぜ私の言う通りにしなかった!」
 「出来ることなら、あの美しい女の姿で、死にたかったぁーーーぁ!!」
 抜け忍ものというかノワール風味なやり取りですが、刺客の悪い女がほだされるが結局……をやるならやるで(サブタイトルからすると、主題はそれだった感もありますが)、そこにしっかりと焦点を合わせてくれれば面白く跳ねそうだっただけに、あれもこれも、なんだか中途半端な作りになってしまって残念。
 バイオレットサザエは爆死し、「なぜ言う通りにしなかったか」と無断外出したミツ子を責めるジロー、昭和の男といえば昭和の男なのですが、今回はやたら亭主関白フォーム。
 両者の関係がささくれだつ中、オコゼがマサルを追いかけ、海綿もこっそり復活し、まさかのつづく。
 なお今回の光明寺は、『伊豆の踊子』に引っかけた大正風学生コスプレの半平を乗せたタクシー運転手としてさらっと登場し、もう完全に、コント扱い。