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すいせいのみゅーじしゃん

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第31話

◆ドン31話「かおバレわんわん」◆ (監督:山口恭平 脚本:井上敏樹
 「俺たちは互いに正体を知らない」という犬塚の悲しいモノローグから一転、ジロウも交えたドンブラ一同は喫茶どんぶらで流しそうめんを楽しんでいたが、そこでジロウが、
 「え? ……イヌって、犬塚翼さんじゃないんですか?」
 とアバンタイトルから爆弾発言。
 無数の「え?」が飛び交う店内だが、その根拠が“匂い”だった事から揃って一笑に付され、腐ったオムレツのようなペンギン野郎候補の重要参考人であるところのマスターは、だんまりを決め込んでいた。
 「よし、この際だ。イヌの正体を探るとしよう」
 そして始まる、そのイヌ、ロックオン。
 珍しく冒頭から、石像顔に宝冠を被り、白鳥アーマーを身につけたヒトツ鬼が現れてドンブラザーズと戦闘になり、痩せたい痩せたい軽くなりたい天使の羽のランドセル!
 ところが、衝撃スキャンダル映像が脳裏にこびついたイヌが気もそぞろな内に天使の鬼に逃げられてしまい、一同ログアウト。戦いが終わったら「喫茶どんぶらへ来い」と赤から呼び出しを受けた黒だが……これは確実にシメられる流れ、と逃走……するまでもなく話をよく聞いておらず、当然始まる誤解のメリーゴーラウンド。
 はるかは、たまたま客の連れてきたトイプードルに向けて名乗り、シンプルな作戦が空振りに終わったドンモモが物理で捕縛を試みた結果、「27歳! 嵐のスカイックボイス! 一緒にバンドやってくれるメンバー募集中!!」な売れないストリートミュージシャン・乾龍二との取り違えが発生し、意識を回復した龍二が見たのは、何故か自分に親しげに話しかけてくる全く見覚えの無い4人の男女だった――の完全にサイコホラーな見せ方が素晴らしい(笑)
 これまでの山口監督の演出でも、トップクラスに好きな場面かもしれません(笑)
 「ずっと君に会いたかった」
 怖い! 絶妙に怖すぎるよ猿原!!(笑)
 「ある意味、初めまして」
 「君の仲間ですよ、ドンブラザーズの」
 (……ドンブラザーズ? バンドか?)
 「俺たちは、ずっとおまえの活躍を見てきた」
 (もしかしてスカウトか?)
 そして繋がる勘違いの妄想エクスプレスが、巧い……!!
 展開に説得力の高さを生む構成と人物配置の妙に加え、前回ラストと次回予告でシリアスな予兆を積み上げてからの、肩すかしどころか肩関節の外し具合も、当人たちは至って真剣なだけに笑いに繋がり、実にお見事。
 (ようやく会えた……! 俺の音楽を認めてくれる人間に!)
 事態を飲み込みきれないまま、自分視点で都合良く解釈するミュージシャン(ここに今作のコアが示されているのもお見事)は、犬塚が落としていった呪いのサングラスを渡されるが、そこにラララ天使の鬼が3度目の登場。
 「またか。忙しいな、今日は」
 鬼の出没は完全に話の都合なのですが、劇中人物に先んじてツッコませる事でねじ伏せてくる『ドンブラ』スタイル。
 「行くぞ、イヌブラザー!」
 よくわからないままタロウらについていったミュージシャンは、天装鬼を見ておののきつつも、皆に倣ってサングラスを装着。
 (ここでかけるのか)
 すると、目の前にポンと現れるドンブラスター。
 (これは……楽器か?)
 も徹底していて面白かったです(笑)
 「「「「アバターチェンジ!!」」」」
 (ここでライブを?!)
 流されるままにドン・ドン・ドンブラコ! すると……あ、イヌブラザーに、なれた。
 変身したのが明らかに元の体型を逸脱したイヌブラザー、というのは、非常識な事態に巻き込まれている実感を否応なく得る説得力を増して今作の特性を活かし、動転する乾イヌだが、偶然のしゃがみガードで鬼を転ばせて、34点。
 から火を噴く一斉ドンブラスター。
 (これはバンドじゃない……マフィアか?!)
 じゃなかった、
 (これはバンドじゃない……ヒーローか?!)
 一方、事態を飲み込めていないもう一人の男――犬塚翼は、自分が賞金首になっている事とサングラスの紛失に気付き、更には自分ではないイヌブラザーが戦っている姿を目撃。
 天装鬼の攻撃で吹き飛んだ乾イヌから外れたサングラスを拾って変身すると、銃撃を浴びせた鬼は逃走し、サングラスを拾った(押しつけられた)乾が呪いのバンド活動に巻き込まれた顛末を知る犬塚。
 「オレ夢を追ってきたんですけど……上手く行かなくて。彼女にもフられて……」
 「……なら、あんたがやれ。イヌブラザーを」
 イヌブラザー=指名手配犯・犬塚翼、と気付いたドンモモ一味が賞金に目がくらんだのではないか疑惑を拭いきれない犬塚は、ひとまず乾を身代わりに仕立て上げる策を講じ、喫茶どんぶらでは5人揃ったお祝いにマスターから生姜焼き定食が振る舞われると、「オレ実は昔から黒いヒーローが好きで!」と犬塚の提案を受け入れた乾は、一人カウンターに足を組んで、なんか……入っちゃっていた。
 「オレが流す涙は……ただ、戦いの中で、血を流す」
 「なんか……格好いい! 乾さん、そういうキャラなんですね。もっとなんか言って下さい!」
 ……割と、好評だった(本物の犬塚翼も若干“そういうキャラ”なところに、洒落が利いています)。
 「たとえ天がオレを見放しても……オレの拳は、裏切らない」
 髪をオールバックになでつけ、気取った仕草で浮ついた言い回しを連発する乾、「納豆と男が大嫌い」といえば結城凱なので、他も元ネタがあるのかもですが、今回の鬼モチーフ絡みの黒いヒーローといえば、「やあみんな! 今日は悪かった! 俺は、反省すべきところはちゃんと反省して、直すべき所はちゃんと直す! だから、 問題点をどんどん言ってくれ!」ですね!
 なおその天装鬼の正体はダイエットに執着する太めの男であったが、食堂で女性店員から「いっぱい食べてくれる人が好き」と言われた事で情念が綺麗に雲散霧消してしまい、市井の一般市民によって祓われるミラクルが起きており、ここまで30話書いてきて、まだ上のギアを隠していたのか井上敏樹ぃ……!
 そして、すっかり乾に感化されてしまった雉野の前には真剣な表情で犬塚が現れ、開始17分(CM込み)でようやく、予告が予告していた展開に(笑)
 みほに関する情報を得ようとする犬塚は、美容院の客だった雉野がみほに一目惚れして連日通い詰めた末に、髪型がパーマになったその日、ついにOKをもらったという二人の馴れ初めを聞き出すと、かつて夏美が美容師を目指していた事からますます困惑。
 (微妙に繋がる……判断がつかない……みほは、夏美なのか? 別人なのか?)
 そこに近づいてきたみほを一目見て間違いなく「夏美」と認識する犬塚だが、思わず姿を隠している内に、通りすがりの警官にロックオンされてエスケープ。一方、ギター背負った乾がみほを元カノの「ショウコ」と主張して大騒ぎとなり、みほ/ショウコを巡る雉野と乾の争いは、タロウの「個人的な感情をドンブラザーズに持ち込むな」発言により、両者の私闘へと発展。
 今回の趣向としてもセルフパロディを持ち込みすぎな感があって個人的にはマイナスでしたが、思えば『機界戦隊ゼンカイジャー』のジェットマン最終回パロディフィニッシュ(第18話)も山口監督だったので、単純に山口監督は『ジェットマン』を好きで判断ラインが緩めになりがちなのか……(勿論、脚本段階であった台詞かもですし、原典が好きならOK、と思うわけでもないのですが)。
 雉野と乾、両者アバターチェンジしての決闘が始まる寸前、みほちゃんが飛び込んでくると乾の目の前で雉野に対して膝枕から耳掃除の必殺コンボを見せつけ、完膚なきまでに精神を破壊されて乾ジエンド。
 全身の毛穴という毛穴から血涙を噴き出した乾は、完全に祓われていなかった天装鬼と融合すると「ショウコちゃん」を求めて暴れ回る鬼と成り、ここまでのヒトツ鬼の出現パターンとはズレがありますが、全て丸く収めるにはこれしか無い展開に。
 「乾……すぐに元に戻してやるぜ!」
 呪いのサングラスがアイテム欄に戻ってくると、物陰から戦いを目にした犬塚が躊躇なく変身するのは今作の良いところで、真イヌブラザーが参戦すると格好いい挿入歌バトルに突入。
 「また仲間外れですか……もう、やめてくださいよ、そういうの」
 かなり深刻な呟きをもらすジロウも金ドラで参戦すると、天装鬼のガチャバスターをトラドラガード。ドンブラザーズも大合体して人間大のままロボバトルとなり、オニタイジンのスーツは相変わらず動き映えします。
 「ショウコちゃぁん……ショウコちゃーーーん!!」
 天使二刀流で暴れ回る天装鬼は両サイドからWロボの攻撃で高々と空中に打ち上げられると、鉄槌・ドンブラダイナミック!
 五体満足で生き残れるのかちょっぴり不安になるレベルの大爆発を起こして弾け飛ぶも、無事に売れないストリートミュージシャンに戻った乾の様子をアフターフォローしていた犬塚は、そこにショウコが現れてよりを戻す姿を目撃する。
 (あれがショウコ?! どういう目してるんだあいつ)
 犬塚は、本物のショウコが、みほとは似ても似つかぬラテン系の顔立ちな事に驚くが、雉野みほに収まる前のツルの獣人が、“物語を紡ぐ”為に乾を引っかけていた可能性はゼロでは無かったので、別人が存在していてホッとしました(笑)
 一方で、乾が不自然かつ凶暴なまでに、みほ=ショウコを主張していた事を考えると、ツルの獣人には“物語になる程に強く求める女性の姿を映す力”があり、雉野みほが雉野みほに見えているのは、雉野つよしだけの新たな爆弾の可能性も浮かんできて、戦々恐々。
 (……だが、良かったな。おまえには彼女がいる。夢がある。でも……俺は……一人。……そして……ずっと迷子だ)
 乾の再スタートを確認した犬塚は夕陽に照らされながら歩み去り……喫茶どんぶらでは、時が来れば自ずとわかるだろう、とイヌブラザーの正体確認については方針転換。
 はるかが、あくまでもイヌの正体は犬! にこだわっているとそこに犬塚が顔を見せ、賞金首を狙うどころか、さっすが犬塚さん、と喜ぶ雉と鬼。
 犬塚がドンモモ一味に抱いた一抹の疑念は本人の知らぬところでは視聴者に向けて解消されるのも鮮やかな目配りで、(ふんっ……ほっとけ!)で綺麗に落着してドンブラコ。
 見える景色がちょっとずつ違う皆様から生まれる誤解や勘違いが転がり回るザ・『ドンブラ』劇場の中で、犬塚・雉野・乾、の恋や夢が少しずつ重ねられて物語を織り成し、最後は格好だけではないヒーローの精神が示されて大団円となる、冴えた一篇でした。
 今や本作最大の引き要素と化している〔雉野-みほ/夏美-犬塚〕問題は、引き要素だけに相変わらず進みそうで進まず大山鳴動して……になりがちなのですが、それでも真実へ向けて緩やかな加速が始まった事が感じられ、今後の展開にますます期待したいです。
 ……その蓋が開いて良いのかどうかはさておき。
 次回――あー…………ホントに、フォークリフトもとい、乗ってきちゃった、神輿……。
 ところで、決闘膝枕の場面でみほちゃんの音声が明らかにおかしかったのですが、撮影時の台詞が全て使えなくなって、急遽代役で吹き替えたとかトラブルでもあったのでしょうか……まあ、みほちゃんがいきなり公開膝枕始めるのもそれはそれで不自然だったのですが……さすがに、全て幻影だったとは思いたくない(笑)