東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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秋の読書メモ

遅れてきた山田風太郎祭とか

◆『妖説太閤記』(山田風太郎
 “猿”といわれる容姿から来る女性コンプレックスを抱え、それが遠因となってどこへ奉公しても長続きしない漂泊の旅の途上、たまさか織田家中の一団が野盗に襲われるのを未然に防いだ男は、まだ年若き、織田信長の妹・お市を一目見て欲望を抱く。
 生来の愛嬌を活かし、織田家に奉公する事に成功した男は「藤吉郎」の名を得ると、上司や同僚を巧妙に追い落としながら、家中で頭角を現していく……全ては、市姫に近づくその為だけに。
 後の太閤・豊臣秀吉の立身出世の原動力は、まだ十代前半の市姫への恋慕というより劣情であったと置き、一歩ずつ一歩ずつ頭上の障害を排除し、あらゆる他人を利用し蹴落とす事に一切の痛痒を感じない藤吉郎が、その情念一つに基づく行動により、やがては美濃の竹中半兵衛にその器を見込まれ、その指南と補佐を受けながら一個の怪物へと至る姿を綴る、山風版太閤記


 安国寺恵瓊という雲水の占いがどこまであたったのか。
 藤吉郎が市姫の草履取りとなったのは、その翌年の春であった。がんまくが死んだのである。前年の秋から妙な咳をして寝込んでいたがんまくは、その冬の寒さに風邪をひいて、それでとどめを刺された結果となった。その後任に藤吉郎を推薦したのは、組下となった彼をよく見ていた浅野又右衛門である。
 「さすがにお頭は、人を見る目がある」
 と、藤吉郎はニタニタした。
 「しかし、おれが毎晩、長屋に寝ているがんまくの足もとの戸を、そっとあけておいたのはまさか見ていなかっただろうな」

 悪辣な人物として秀吉を描くのは(今日では)珍しくありませんが、その行動原理の中核に一つの執念を設定した上で、今作における秀吉は、歴史上の悪人という以上に現代で言う“犯罪者的性向を持つ人物像”として描かれている傾向が強く、要所要所でぞくりとさせられるのが、ミステリにも数多くの著作を残す著者の筆の冴え。
 なにぶん50年近く前の作品なので、人物や逸話などの描写は今読むとさすがに通俗的に過ぎるところはある上、スーパー軍師・竹中半兵衛が幾らなんでも未来見えすぎとか、何かにつけ蜂須賀党が有能すぎるとか、伝奇歴史小説としては物足りない部分もありましたが、狡猾にして周到、道化になる事もいとわずに着々と目標に向け歩を進めていく高度な頭脳犯を主人公とし、歴史に題材を採ったピカレスクロマンとしては、古びない面白さ。
 ……と、上巻を読み終えた時点では思っていたのですが、今作の真骨頂は、栄華を極めた秀吉が終わりに向かっていく様を描く後半戦。
 秀吉が“あがり”を迎えた双六とは別の盤面に戦いの次元を移し替えようと画策し、秀吉の掌中で転がされるばかりではない徳川家康との対決が妙味を加え、それまで積み重ねてきた布石の全てが「唐入り」に収束していく流れは実にダイナミック。
 またそこに、山田風太郎らしいエロチシズムや妖異な闇の世界が濃厚さを増していき、ある意味では作風の暴走というか、あくまで史実をなぞりながらも虚実の狭間で自由さを増していく筆により、前半から用意していた伏線が縦横無尽に駆使されながら伝奇ロマンとしての大きな飛躍を見せ、解説(尾崎秀樹)の言葉を借りるならば「あり得たこととあり得ることのみごとなモザイク」が、皮肉に絡まり合った人の心の曼荼羅絵図として完成するのが、実にお見事でありました。
 大変面白かったです。
 現在、併読していた『魔界転生』も下巻を読み進め中。

◆『綾辻行人有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)』
 本邦新本格の旗手といえる二人の作家が、ラジオのDJならぬMJとして、対談の合間にテーマに沿った一曲もとい一作を紹介する趣向の、対談+アンソロジー
 ミステリガイド本の宿命である「内容に踏み込みきれない」問題を、紹介したい短篇を丸ごと収録する事により、読後に心置きなく語ろう! という力業で、実作もジャンル知識も豊富な二人の語り口に乗せられるままに作品に触れるのが面白い体験で、対談・収録短篇ともに、なかなか楽しめました。
 掌編「残されていた文字」が収録された井上雅彦は、一度読んでみたいと思いつつ初読だったのですが、改めて作品集を読んでみたいな……と思いつつ、ホラー要素がどの程度なのかわからないが悩ましい。