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ようやく秋の読書メモ

山田風太郎入門編

◆『虚像淫楽』(山田風太郎
 2010年に山田風太郎賞が創設されたのを機に、新しい読者を意識して編まれた「山田風太郎ベストコレクション」と銘打ったシリーズのミステリ編で、「眼中の悪魔」「虚像淫楽」「厨子家の悪霊」「蝋人」「黒衣の聖母」「恋罪」「死者の呼び声」「さようなら」「黄色い下宿人」の9編を収録。
 密室で発見された奇怪な死体……という如何にもな不可能趣味の道具立てから、伝奇要素も交えた妖美な奇想が飛び交い、(読んだ事ないのに)なにやら後の《忍法帖》シリーズの気配を感じさせる「蝋人」は、とある名作を彷彿とさせる着地点も素晴らしく、非常に面白かったです。実際のところ、『○○○○』に影響を与えたと言われれば信じてしまいそう。
 そして今作、個人的な、“山田風太郎ってこんな感じ”が全て詰まった内容な上で、ぐいぐいと物語に引き込まれたので、以後、だいたいの山田風太郎はいけるのではないかと、謎の自信が付きました(笑)
 もう一つ、特に面白かったのが、戦後間もない時代を舞台に、戦中/戦後の分断が生んだ悲劇をミステリの形式で描いた「黒衣の聖母」。
 今作も上述の「蝋人」も、いずれも劇中に手記や手紙が挿入されるのですが、それによる興味の引きつけ方と、感情の増幅のさせ方が、実に上手い。
 なおこの書簡体の活用は山田風太郎の得意とするところだったようで、収録9編中、6編において何らかの形で用いられています。
 個人的にあまり、主観人物以外の手記(など)が大きく幅を取る作品って好きではないと思っていたのですが、その認識を新たにさせられる短編集でもありました。
 他、印象に残ったのは、ペスト菌発見の報で無人となった街に不自然さを感じて訪れた二人の老刑事が、戦中にある凶悪犯を追って辿り着いたのと全く同じ街区をそこに見る不可思議な状況から、思わぬもくろみに辿り着く「さようなら」。
 それから巻末の「黄色い下宿人」は、なんとシャーロック・ホームズパスティーシュであり、こんな引き出しもあるのか、と作品そのもののサプライズが最後に仕掛けてあるのが、にくい構成。今では珍しくない、とあるアイデアが持ち込まれているのですが、割とそのはしりの方だったりしたのでしょうか。
 まずは好きなジャンル――ミステリ作品を続けて読んでみましたが、今日的な“謎解き小説”というよりはサスペンス色が強いものの、山田風太郎の入門編として成る程の質の高いラインナップで、色々と、他の作品にも手を広げていきたいところです。