『人造人間キカイダー』感想・第11話
◆第11話「ゴールドウルフが地獄に吠える」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳)
田所家に毎晩かかってくる不審な電話……そして塀を越えて侵入をもくろむ怪しげな黒衣の男……明らかな不審者として警官に呼び止められた男の胸には、不可思議な装置が。
「なんだ貴様、人間じゃないのか?!」
思ったより皆、人型ロボットに順応してくるな『キカイダー』世界……!
先日のサソリブラウンといい、コスプレの不審者レベルの扱いが続きますが、満月の光を浴びて男の胸の装置がぺかぺか輝くと、その姿が見る見るうちに金色の狼へと変貌し、ゴシックホラー調の導入で、美女とドラキュラ、と見せて狼男でした、の一ひねり(まあ予告とサブタイトルで「ウルフ」とわかっているとはいえ)。
「言え! ゴールドウルフ! 命令も無しに何故に、田所博士の家など行った!」
警官二人を殴り殺してアジトに戻ったゴールドウルフはプロフェッサー・ギルから叱責を受け、その体内には光明寺製の良心回路が内蔵されている事が判明。
ゴールドウルフは、月光電池にエネルギーが蓄えられている間は忠実な破壊部隊の一員だが、そうでない時はギルの命令に従わない可能性を持ったアンドロイドであり、プロフェッサー・ギルとは、KAWAIIのプロなのであり、人造人間の事は、光明寺にお任せです!!
ギルが光明寺の確保に拘る理由の一端が明確になりましたが、そんな危うい状態のアンドロイドを野放しにしていていいのかダーク。
これは、高度に政治的でスリリングな裏切られフラグプレイなのか。
戦闘員に「ギル!」「ギル!」と連呼させているのも、ギリギリの所を攻めるロマンと露出狂的な快感の生み出すマリアージュなのか。
秘密結社総帥の椅子とは、かくも人を狂わせるものなのか。
プロフェッサー・ギルの性癖に重大な疑惑が浮かび上がる中、父の行方を求め、記憶喪失の世界的権威・田所博士の元を訪れようとしていたミツ子とマサルは、これがまさかのどんぴしゃり。
スウェーデンの学会に出席している博士不在の田所家に寝泊まりしている極めて怪しげな中年男性と化していた光明寺とはまたもすれ違い、助けに出てきたジローをギターで殴り返そうとする暴挙に出たアンドロイドマンにさらわれてしまう二人だが、その前に現れたゴールドウルフ良心体は、二人に逃走ルートを示す。
「どうしてあたし達を?」
「……私は……光明寺博士が好きだった」
ジローよりも更に不完全な良心回路(テストタイプ?)を内蔵したウルフの目的は、田所娘のストーカー……ではなく、田所家に厄介になっている光明寺博士をより安全な場所に連れ出す事にあり、いやに短いスカートでヒロイン感を出す田所娘とドラキュラ風紳士の配置そのものがミスディレクションであり、田所娘は眼中に無かったという、ムーンサルト。
娘よ、これが、父のヒロイン力だ!
……
・悪の秘密結社に追われている
・記憶喪失でなんだか弱々しい
・大切な指輪を探偵への依頼料代わりとする
・特殊な力(技術)を持つ
・土壇場では幸運と知勇を発揮する
・組織から裏切り者を生み出す
……なんなの?! 光明寺博士、なんなの?!
もはや、光明寺博士(CV:島本須美)みたいな事になっているのですが。
ちなみに、レギュラーのミツ子さんを始め、登場女性キャラのスカート丈がだいぶ短くて今見ると少し驚きますが、世界的なミニスカートブームが起きたのが1960年代後半という事で、TVドラマという要素はあるだろうにせよ、それなりに時代を反映したファッションの範疇に収まる模様(多分)。
ウルフ良心体の真意を知り、一緒に逃げようと持ちかけるミツ子だが……夜の訪れと共に月光電池が作動を始めるとウルフは凶悪な殺人ロボと化し、予告の映像だと格好いい系にも見えたのですが、真っ赤なギョロ目に丸い両手(鉄球ハンド)で、そこにあるのはやはり、可愛い、でした。
キカイ腹時計センサーによりミツ子らの元に駆けつけたキカイダーがウルフと激突するが、ミツ子の制止に手を止めた隙を突かれ、ウルフバズーカ(ロケット鉄球パンチ)の直撃を受けてしまう。
ひとまず田所家に運び込まれたジローだがミツ子の技術と手持ちの部品では修理する事が出来ず、責任を感じるミツ子はアンドロイドマンの部品を拝借する事を思いつくと、おしゃれワンピース姿で、ハンドバッグを小脇に抱え、小学生の弟をともなって、ダークの勢力下に向かうミツ子さーーーーーん!!
今回ミツ子さんがハンドバッグを携帯しており、年頃の女性としてのリアリティは上がっている一方、ダークの施設に近づく際のリアリティは下がっているのですが、やはり基地破壊と因縁深い光明寺の血を引く者として、バッグの中には自爆用のダイナマイトが仕込まれているのでしょうか。
「この光明寺ミツ子! ダークに囚われておめおめと死ぬつもりはない! 一匹でも多く道連れにしてくれるわぁっ!!(ちゅどーーーん!!)」
メンタルとサバイバル能力の高さではそんじょそこらのサイドキックには負けないミツ子が、ダーク仕込みのステルスアクションに突入していた頃、田所博士のスウェーデン土産と称される巨大な狼の石膏像が届いた田所家には、光明寺博士が戻ってきていた。
ダーク構成員に追いかけられたショックからか、記憶に混濁の様子が窺える博士は、ベッドに横たわるジローを発見すると、憑かれたように修理を開始。
「なぜだ? なぜ私の手が勝手に動く?! ……私にこんなロボットを直す力があるとは……」
深層の記憶に導かれるまま、黙々と作業を続ける光明寺博士の背後では怪しすぎた狼像に無数の亀裂が走り、不在の父を訪ねてきた謎の男性を泊めたばかりに、毎晩の不審電話と怪しい人影に悩まされ、巨大な石膏像を送りつけられ、これから自宅で一騒動起こりそうな気配の上で、ゲストヒロインでさえない田所娘さんが被害者すぎます(笑)
光明寺ハリケーンを使う間もなく石膏像の名から飛び出したウルフに捕まってしまう博士だったが、ステルスミッションに失敗してアンドロイドマンに追われ、半平に助けられて逃げてきたミツ子たちとウルフが鉢合わせしたところにギターの音色が響き、ミツ子視点だと、洋ゲーばりの死体漁りで部品を回収して戻ってきたら何故かジローが復活しているのは、面白い錯綜。
まあその為に、ミツ子たちの姿を見た途端、ウルフが光明寺を放り投げてしまったのは強引になりましたが(優先命令を一つしか遂行できないにしても、どう考えても光明寺確保の方が優先なので…………小まめに確認しよう命令プログラム!)。
「やめるんだゴールドウルフ! おまえは他の破壊部隊とは違う筈だ!」
「だ、黙れジロー!」
共に良心回路を持った機械の体、ウルフの説得を試みるジローの前で月が雲に隠れると殺意を喪失したウルフは良心体となり……太陽電池が機能しないと著しく弱体化するイチロー兄さん(次作『01』主人公)の逆を行く設定なのですが、面と向かうと、とても面倒くさい(笑)
ダークの軛を逃れるかと思われたウルフだが、満を持して響き渡るギルの笛の音に、ウルフとジローは揃って苦悶。
「ダークに生まれしものは、ダークに帰れぃ!」
更に再び月が顔を出してしまい、またも殺人ロボットと化したウルフに殴られたジローは、その衝撃で聴覚が途切れる事に気付くと、敢えて左右のフックを連続で受ける事で笛の音を克服し、Mパワーーー!(ちょっと違う)
「チェンジ! スイッチオン! 1・2・3!」
変身成功したキカイダーはサイドマシーンに乗り込むとアンドロイドマンの周りを激走し、アンドロイドマンの動きを見るにフィルムもだいぶ早く回しているのでしょうが、縦横無尽に走り回るサイドマシーンの動きがかなりの迫力。
「ゴールドウルフ! 今ならおまえを助ける! ギルの命令なんかに従うな!」
「ウルフビーム!」
「よせ、ゴールドウルフ!」
「ウルフバズーカ!」
ウルフの猛攻を辛うじてかわしながら説得を続けるも、鉄球パンチの連打を浴びせられ、追い詰められていくキカイダーは、やむなく反撃のチョップ。
「やめるんだゴールドウルフ……ぐっ、大車輪投げ!」
あ、スイッチ入った(笑)
「デンジエンド!」
これも哀しいロボットの定めなのか、一度走り出した必殺コンボプログラムは止まらず、地面に膝を突いたゴールドウルフに向けて、キカイダーはノータイムでデンジエンドを打ち込み、悲運にもその瞬間、月にかかる群雲。
「……月が……月がもう少し早く、隠れていてくれたら……あおぉぉぉぉーーーん!」
ゴールドウルフは殺人ロボと良心を持った人間の姿を行き来しながら転落し、無情にも大破。
地面に散らばる歯車を、敢えてキカイダーのまま見下ろす姿に、機械の胸に宿る悲しみが強く示され、その瞳からこぼれ落ちるのは、オイルなのか涙なのか……ジローは征く、果てしなき戦いの道を……!
いわゆる“良い怪人”のエピソードでしたが、その組み込まれた回路により悪に染まりきれない怪人の苦悩を描き、後の『01』後半戦の萌芽も感じさせる一篇。
無口さでいらぬトラブルを発生させたものの、渋く寡黙なゴールドウルフ良心体が、説得力のある好キャストでした。
そして何より、ものの勢いで田所家が吹き飛ばされなくて良かった。