『仮面ライダーエグゼイド』感想・第30話
◆第30話「最強VS最強!」◆ (監督:山口恭平 脚本:高橋悠也)
「おまえの力はこんなもんじゃない! まだまだ限界を超えられる。だから、俺がおまえを覚醒させてやる」
果てしなく厄介なファンの正体は、締め切り二日前、原稿の修羅場に降臨した脳内自分であり、イける! まだ、カラー原稿を足せる! と、床にぶっ倒れながら永夢先生がエナジードリンクに手を伸ばしていた頃、CRに戻ったポピ子さんは、黎斗の旧アジトで発見した物品を皆に披露していた。
それは、6個目のゲーマドライバーと、ウィルス抑制効果を持ったLV0ガシャットであり、プロトガシャットよりも更に前のタイプに違いない、と大我はその危険性を指摘。
果たしてそれは、永夢の救助、そして打倒パラドの切り札になり得るのか……救急通報が入ってバイクバグスターが暴れている現場へ向かった4人は、負傷している飛彩と大我に代わり、ポピ子とニコが並んで変身。
「あれ? 目が青い!」
「ん? ふふ、私が陽性のバグスターになったから!」
さりげなく、根も葉もなかった追加設定が盛り込まれ、悪性腫瘍と陽性腫瘍みたいな理屈で、良いバグスターも居るんだよ! とポピ子の存在を認可しようとするのですが、人体乗っ取りという根本的問題が解決していないのに、陽性も悪性も無いゾ。
ポピ子といいパラドといい最後に出てくる人といい、この問題にはいずれ抜け道が用意されそうな雰囲気が強くなってきましたが、バイクを追い払った後に、やたらにこやかな永夢が姿を見せる。
「やあみんな!」
「永夢! 無事だったの?!」
「なんとか逃げてきたんだ」
「良かったぁ!」
「……世話が焼ける奴だな」
ええ?! 普通に受け入れるの?!
「ありがと。俺のこと心配してくれて」
「……俺?」
「違う。そいつはパラドだ!」
引っ張らずに気付いてくれて本当に良かったですが、約半年、割と濃いめの時間を共有してきた同僚その他の判断基準が一人称「俺/僕」しかない衝撃の現実に、みな永夢先生にこれっぽっちも興味ないな?!
永夢先生だって、本当は、自分以外の人間と『ガーディ○ンヒーローズ』やりたかったんですよ?!(今のところ、やってくれたのは別の宇宙から来たラッキーな男だけ)
「はははははは、バレたぁ?」
永夢の肉体を解放したパラドは、裏切り者のポッピーを消すと宣言してTAROパラドクスに変身。
「やめろ……やめろぉぉぉ!!」
「……ん?」
「……戦うなら……僕と戦え!!」
永夢はゲーム病のノイズを振り払って立ち上がり、ポピ子を両断する寸前で斧を止めたパラドクスは満足げに振り返る。
「あっははははははは! それだよ! それを待ってたんだ! 自分のゲーム病を治す為じゃ、おまえは本気になれない。傷つく誰かを守る時にこそ――おまえは覚醒するんだ」
「……パラド……おまえは……僕が切除する」
仲間たちを遠ざけた永夢は、単身パラドとの決着に向かい…………うーん……どうも前回今回と、パラドが急に一人で盛り上がっている感についていけないのですが、せめてもう少し、『仮面ライダークロニクル』の進行状況と繋げて描けなかったものか。
話の焦点が散らばるのを避けたい意図はあるのでしょうが、新社長もグラファイトも不自然に出てきませんし、大きなパラダイムシフトを引き起こしたのに、それがあまりキャラの行動の変化と繋がって見えないので、もっと根っこのところで、散漫以上の分裂が発生してしまっています。
「きっとこれは、私がやるべき事……」
永夢から患者を託された飛彩、ゲーム攻略を任された大我&ニコ、それぞれがそれぞれの今できる事に突き進む中、ポピ子はバグスターである自分ならば……と、テストガシャットに手を伸ばす。
「永夢の笑顔は、私が取り戻す!」
永夢とパラドが、6年前のパラド誕生の地、ネクストゲノム研究所跡を決戦の地として両者揃ってマックス大変身する一方、ヒロイン力を急速に高めていくポピ子は、画像がモノクロ時代の『マイティアクションX』を起動……するが変身は起こらず、やむなくポピ子は、待機状態で展開されたゲームの世界の中へ飛び込んでいく事に。
ゲームの中でバグスター戦闘員に追われるポピ子は、逃げ惑っている内に、敵対行動を取らず、ただぼんやりと座っているだけの奇妙なバグスターを発見。
外部では、LV99同士の激突、ブレイブvsバイクバグスター、大我とニコのバグスター狩り(やはりクリアガシャット入手の為にはトドメはライドニコが刺す必要がある模様)が並行して展開し、案の定というか、ライドプレイヤーの目的が「ゲーム起動によって罹患したゲーム病を自らの手で治療する為」という壮大なマッチポンプになっている為、患者の反省を医療ドラマ風に挟み込まれても茶番劇めいた空気が漂い、『クロニクル』要素がいまいち活きません。
そこから飛彩が、「あいつも患者じゃないか!」と永夢の為に立ち上がる“気づき”は格好良かったですが、大我もまた、ニコに背中を押され、ゲーム攻略に必要なパラドクス退治と理由を付けて、永夢の元へと走る。
「勝者は世界の支配者になって、敗者は世界から滅びるんだ!」
「人類の運命は、僕が変える!」
「バグスターの運命は、俺が変える!」
ゲームフィールドではMAX同士の激しい戦いが続き、人類最強vsバグスター最強による種の命運を賭けた代理戦争になぞらえられるのですが……バトルの構図を盛り上げようとそれっぽい台詞を加えたらかえって、パラドの行動原理が中途半端に分裂してしまった印象。
上述したように、『クロニクル』の状況とパラドの行動が巧く連動していない(どころか前回今回は実質『クロニクル』の存在が無視されている)ので、パラドの加熱ぶりが物語の流れと噛み合っていないのですが、それならそれで真の願望としての「エムとガチで戦う」があらゆる面で最優先されるならまだしも、その念願のガチバトル中に急に「人類攻略だ!」が浮上してくるので、パラドの情念が激しく蛇行。
双方を重ねるのなら、それにふさわしい段取りの積み重ねが必要ですし、それが出来ていない以上は、エゴとエゴの衝突を種全体の興亡にまで広げるにはジャンプ台の高さが全く足りず、瞬間的な盛り上がりに気を取られて、貫く軸を見失ってしまったように思えます。
死闘の末、両者のクリティカル技が衝突すると、大地に倒れ、変身が解けたのは……永夢。
「敗者にふさわしい、エンディングを見せてやる。――さよなら、永夢」
駆けつけた飛彩と大我も変身前に一蹴され、エナジードリンクの切れた永夢めがけて、無情な締め切りの銃口が火を噴く寸前、突然パラドクスを攻撃したのは、体に銀色のラインの走った、新人アシスタント・ゲンムゼロ。
「約束通り、永夢を連れて逃げるよ、え、ちょっと?!」
ポッピー? と思わせて、当のポッピーが横から出てくるタイミングが面白く、動き出すゲンムゼロ――
「随分楽しそうじゃないか、パラド。ゲームマスターの私をさしおいてぇ!」
……あれ?
これは、この世にカムバックさせては、いけない人では?(笑)
どこかで聞いたような声と台詞回しで、よろけ気味ながらもパラドクスに襲いかかるゲンムゼロの攻撃は何故か有効打を与え、面倒くさいと場所を変えようとするパラドだが、永夢の体に憑依する事が出来ない。
ゲンムゼロの展開するゲームエリアにはバグスターウィルスの力を抑制する効果があり、一人森林火災で燃え盛っていたところをゲンムインパクトにより燃焼に必要な酸素を吹き飛ばされてしまったパラドは、鎮火して帰宅。
そして一難去ったCRでは、また一難、こと檀黎斗が椅子にふんぞり返っていた(笑)
「復活したみたい……バグスターとして」
えええ(笑)
ポピ子が白黒『マイティアクションX』の中で見つけた挙動不審のバグスター戦闘員はどういうわけか黎斗の姿となり、悩んだポピ子がドライバーを付け、ガシャットを起動すると、それは黎斗の記憶と人格を持った存在として復活し……非常用のバックアップ??
「ゲームオーバーすらも超越する……私こそ神だぁぁぁああああーーーーー」
超満面の笑みを浮かべ、生前と同じく傲岸不遜な態度を見せる外付け黎斗バグスターだったが、神ムーヴの途中でポピ子によってバグバイザーの中に回収され、なんだか、カプセル怪獣×たまごっちみたいな扱いとなったところで、つづく。
どん底に追い詰められたギリギリの状況から、思いがけない衝撃でガラリと全体の雰囲気が(明るく)変わるパターンでありますが、その衝撃をもたらしたのが、よりにもよって檀黎斗、なのは良い味に。
個人的には、『クロニクル』起動後に一旦ペースを落としテンポの変化を入れた方が良かったのではないかと思っており、転調の無いまま走り続けようとする構成が生んだ仕掛けと状況の活用不足が響いて率直にここ3話ほどはノれない内容だったので、この劇薬の投入が良い方向に効いてくれる事を期待したいです。
次回――檀黎斗再教育ゲーム『くろとっち』はじまる……よ?
ところで前回から、予告がえらく長くなったような(15→25秒?)。