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『恐竜任侠伝』最終話「さらば雄々しき龍よ」

恐竜戦隊ジュウレンジャー』感想・第42話

◆第42話「ブライ死す…」◆ (監督:東條昭平 脚本:杉村升
 重傷を負った耕太少年を病院に運び込んだブライは耕太の母親から憤りをぶつけられ、何故かその現場に居合わすゲキ……という前回ラストからの派手な断絶にまず困惑。
 ゲキ達に対する《投石》については今回全く触れられも拾われもせず(冒頭のあらすじ映像だけ)、本当にただ、前回ゲキ達が身動きしない言い訳だけのシーンになってしまって、大変がっくり。
 ブライが耕太少年に自らの恐竜メダルを握らせるのは、以前ゲキが同様の行為をしたのを踏まえて良いシーンとなったのですが……ブライが少年を救おうと自らの意思で変身能力を失うのが劇的なだけに、同じ「誰かを救おうとして変身能力を失う」でも、強制的に取り上げられて戦場で右往左往と全く劇的にならなかったゲキたちと完全に悪い形の対比を生んでしまい、どうしてそんな流れになったのか……。
 「ドラゴンシーザーは?」
 「……一人で懸命に戦っている」
 ええ?!
 戦場も仲間も放置してブライの後をついてきた事になったゲキ、幾らブライの寿命が近いにしても、前回からの行動はヒーローとしてあまりに杜撰なのでは。
 ここでは、ヒーロー・ゲキではなく、人間・ゲキの部分が強く出ている、といった意図なのかとは思われますが……ゲキ、基本的にキャラクター性の中核が「正義のヒーロー」にあるので、それを取り外して肉親の情を最優先に行動させるならば、もっと「ゲキ一人の暴走」に焦点を合わせても良かったような。
 「俺は死ぬ。でも…………わかってくれ、ゲキ。俺は、生きてる内に何かしておきたいんだ。だからあの子を……」
 「兄さん……」
 残された時間はあと1時間あまり……ブライはゲキに耕太との関係を語り、ブライとゲキに、対面で感情を爆発させる会話シーンが欲しかったのはわかるのですが、この局面で、命の泉を目指して走っているのがゴウシとダン、というのも前回からずっと、なぜ……? 感が付きまといますし。
 勿論、ゲキばかりではなく仲間たちもブライを助けようとしている姿の補強にはなっているのですが、分断側の一方が石を投げられていただけなので、これといって皆の力で、といった形にもならず、焦点も補強箇所も土壇場で施工箇所がズレている印象。
 「いや、本当は……俺は……生きていたいんだ。生きて、おまえと一緒に暮らしたいんだ!」
 「兄さん……兄さん!」
 ゲキを前にブライは生の感情を吐露し、逃れられない死を前に自分には何が出来るのか、とゲキたちの前では運命を受け入れた意志を見せて虚勢を張っていたブライが、その影で見せていた死の恐怖に怯える姿、ヒーロー/人間の象徴的な表裏がゲキの前で遂にさらけ出され、ブライの体を固く抱きしめるゲキ。
 ブライの葛藤は、《スーパー戦隊》において、“ヒーロー性の引き下げ”に踏み込んでキャラクターの“人間的弱さ”を従来以上に描き出す事で戦隊作劇の殻を破った前年の『鳥人戦隊ジェットマン』を継承しているといえますが、これが“追加戦士”としてイレギュラーな存在にして、既存メンバーより年長(“大人”であり、メタ的には戦隊OB)であるブライによって持ち込まれているのが、結果として『ジュウレンジャー』の構造の興味深い点。
 言ってみれば、外付けされた“90年代的キャラクター”ブライに、“80年代的ヒーロー”ゲキが引き寄せられていく作りになっているのですが、その綱引きをどこに着地させるのが『恐竜戦隊ジュウレンジャー』としての最適解なのか? を突き詰めきれなかった感がある――故にゲキの立ち位置があやふやになってしまっている――のが、惜しまれます。
 こう捉えると今作もまた、“80年代戦隊的なるもの”に一つの区切りがついた後、90年代における過渡期の作品的葛藤が見えてくるな、と。
 余談ですが、当初は退場予定だったそうなのでやむを得ないところですが、登場時のブライがあまりにも武闘派ヒットマンすぎて、その後も年長の兄キャラとしては機能しなかった事を鑑みてか、今作の継承要素の強い後の『ギンガマン』では、ヒュウガが“あらゆる点で主人公リョウマの目標となる兄キャラ”として設定されているのは、シリーズ史として面白いところ。
 力の戦士・ブライ!!
 (ゴウシ、ダン、間に合ってくれ……!)
 ゲキはブライに命の水の事を伝え、どうしてこの局面でブライの命運をゴウシとダンが握っているのか、不可解レベルの展開が続きますが、その二人はいよいよ泉に辿り着くも、露骨に怪しい彫像が命の水の入った瓶を抱えており、当然、近づいてきた二人を攻撃(笑)
 簡単に取れそう、と見せかけて不意打ちを仕掛けてくる神々のタチの悪さに戦慄する一方、ブライは生身のままシーザーに搭乗して贋作大獣神に立ち向かい、神を、超えよ!!
 (偽物とはいえ、ここに至った経緯を思うと、ちょっと面白みのある状況設定)
 ゲキ・ボーイ・メイは、グリフォーザとゴーレム兵を前にようやく生身で戦い始めるのですが、運命を変えるため苦難を乗り越える意気を示すには、時あまりに遅し。
 タイムリミットに向けて秒針が時を刻み続ける中、変身を繰り返すドーラ贋作を相手に奮戦するシーザーだが決定打を与えるには至らず、ゲキ達もまた大量の敵を前にじりじりと追い詰められていく。
 「駄目だ! 変身できないなんて……このままじゃ、やられる!」
 「ゴウシとダンは、まだなの!?」
 制作上のやむにやまれぬ事情などがあったのかもしれませんが、巨大戦はブライに任せ、命の水回収はゴウシ・ダンに任せ、肝心のゲキを含むパーティが宙ぶらりんになってしまい、パーティ分割が話の盛り上がりにさっぱり寄与しないのは、本当に首をひねります。
 「ゴウシ、もう時間が!」
 「おのれぇ、ダイノバックラーさえあれば!」
 泉の守護者に苦戦するゴウシは、試練の前提条件まで立ち戻ってしまい、前回の格好いい徒手空拳発言はどこへ。
 ブライの命がかかっているのだから必死になって言行が多少支離滅裂にもなる、とは取れるとしても、神の試練を超える為に神の与えてくれた力を求める、というのはどうにも格好が付きません。
 ブライの命はあと5分、シーザーは思いきりスイングで投げ飛ばされ、それを見たゲキが車の上に乗るので、ここに来てようやく生身で何か意地を見せるのかと思ったら……
 「神よ! それでいいのか?!」
 試練の前提を覆す泣き言を言い出した。
 「俺たちは懸命に戦っている! 人の命を救う為に、地球を守る為に! それなのに、まだ俺たちを試すつもりか! 守護獣たちよ! 現れてくれ!」
 平たく言えば、俺たちこれだけ頑張ってるんだからブライの命ぐらい延ばせよ! という訴えになるのですが、その自己認識でいいのか、ゲキよ。
 これが、ゲキたちが独自に発見したブライ延命の法に対して、死の運命を覆そうとしたらいかんぜよ、と親分筋が代紋もといダイノバックラーの回収を始め様々な嫌がらせを仕掛けてきたならば、ちょっと不条理なのでは?! と抗議をぶつけるのもまだわかるのですが、自分たちで祈って受けた試練をクリアできそうにないので、難易度調整が間違ってる! とクレームを付け出すのは、どうにもこうにも、格好が付きません。
 ……もしかすると今回、ブライの死を前になりふり構わないゲキたちの“格好悪さ”を敢えて描き、そこから人間的泥臭さや、ヒーロー的“格好良さ”に繋げたい狙いだったのかもしれませんが(少なくともブライにおいてはそれが成功しているのですが、逆に言えば、ブライでそれを見せるなら、ゲキたちでも同じ事をやるのは余計になるわけで……)、結果やっている事が「途中リタイアしてはじめて抗議」なので、格好いいに転換できる限度を超えてしまっており、やはりとっかかりのところで、神に祈らせてはいけなかったのではないか。
 「俺の命はどうなってもいい……でも、耕太くんの命を、地球を救いたいんだ! ……神よーーー!!」
 ひとりブライがシーザーのコックピットで叫ぶと……その時、不思議な事が起こった。
 天から降り注ぐ光を浴びたブライはメダルなしでドラゴンレンジャーへと変身し、その体に、最後の力が宿る。
 「だいじゅうじーーーん!!」
 割れる大地と轟く雷鳴と共に大獣神が姿を見せるとゲキ達のダイノバックラーも返却され、己の命を顧みずに他者を救おうとするその魂に超越者が力を貸し与えるのは円谷方面でもしばしば見られる情景ですが、そうではなくてもなんとかなりそうな希望を与えておいて、それを果たせず絶望に落ち、祈るしか無くなった所で神の力を見せつけるやり口に、大星団ゴズマもビックリです。
 ゲキらもダイノバックラーすると、青黒不在だが細かい事は気にせずに時間が無いので究極パニッシャーで贋作を撃破。
 だが、無情にも午後2時の鐘は鳴り響き……同刻、変身して戦況を逆転するも、命の水入りの壺を公園の池に落としたショックで座り込むゴウシとダン……ゴウシとダン……泉の中から女神が! をやりたかったにしてもあまりにあまりなのですが、崩れ落ちる二人の前で泉の守護者は女神の姿に変わると、もうブライの寿命は尽きました、と宣告し、ニュースの伝え方もあまりにあまり(笑)
 女神の姿はクロトに変わり、一度死んで甦ったブライは、神の力でも復活させる事は叶わない、と曲げられぬ摂理が改めて告げられる。
 「守護獣たちよ……なんの為に俺たちはここまで戦ってきたんだ!」
 ホントですね……。
 「でも聞きなさい。ブライの最後の願いだけは、かなえてあげて」
 女神は、瀕死の耕太少年を救う為の命の水を渡し、おまえ達がここに来たのは無駄では無かった……とするのですが、試練を与えた当人たちが運命を覆せない事は知っていたにも拘わらず、見せかけの試練と嫌がらせの時間稼ぎを行っていたのが最低最悪の上、その結果として市街地の被害が無駄に拡大し、そもそも耕太がブライの夢に紛れ込んでいた事から神の差し金っぽいと、邪悪以外の感想が出てきません!
 最大限好意的に解釈すると、もともと不可避の死の運命にあった耕太少年を、丁度良いやとブライに干渉させ、その命を救わせる事でブライに満足感を与えてから死なせようという神なりの配慮という事になり、結果的に拡大した市街地などの被害に関しては些細な事フォルダに入って自動で消去されていきそうなのは、大変、神様らしいといえばらしいですが……私は基本、“神殺し”の物語構造の方が好きなのだな……と、しみじみ(笑)
 運命に翻弄される哀しき勇士たちは、究極大獣神のコックピットからペッと弾き出されたブライを、海岸で発見。
 「俺は、幸せだった……長い眠りから、目を覚まし、短い時間だったが、弟のおまえや、ジュウレンジャーの仲間達と、一緒に、戦えたこと……」
 ブライとゲキの姿が緑と赤に変わり、何事? と思ったら、ドラゴンレンジャーからティラノレンジャーへと黄金アーマーが転送され、託された獣奏剣と共に、ブライはここで去るが、その魂はジュウレンジャーと共に戦い続ける事を示すのは、好みのシチュエーションで格好良かったです。
 ……が、どうして、ゴウシとダンはここに居ないのか。
 「ゲキ……最後まで、地球を守り、子供たちを、守って、くれ…………頼む」
 今作のテーゼをストレートに示す言葉を遺し、ゲキの手を握りしめながら、ヤマト組プリンス補佐・ブライ、死亡。
 「兄さん?! にいさぁん!!」
 ゲキは男泣きにくれながらその体を抱きしめ……それを遠くから見つめるクロト。
 「ブライお兄ちゃん……お兄ちゃんの使命は終わったわ。さあ、永遠の世界へ、旅立つのよ!」
 クロトの手の中で運命の蝋燭が燃え尽きるとブライの肉体は消滅し、勇者には、遺骸を弔う事さえ許されないのだ!!
 後にはただ獣奏剣だけが遺され、ゲキらが慟哭する一方、病院ではゴウシとダンが運び込んだ命の水により耕太少年が息を吹き返し…………う、うーん……たびたび書きますが、“ヒーローが特定個人に肩入れして病気や怪我の治療に便宜を図る”のは慎重に行われるべき、という個人的な判断基準に照らし合わせると、病院という場でたった一人の少年を救うのに奇跡のアイテムを用いるのは、アウト。
 その問題のエクスキューズとして、耕太少年はブライの関与により巻き込まれたようなもの、として描いたのでしょうが、そのブライの関与自体に何者かの作為を感じる作劇になったのを始め、糸を余計にこんがらがらせた感があり、耕太少年の使い方そのものが、あまり良いとは思えないものになってしまいました。
 ブライを巡る「命」のテーゼとしては、第37話「恐竜が生まれる」(監督:小笠原猛 脚本:杉村升)で綺麗に示せていただけに、それをゲキがどう捉え受け止めるのかに巧く焦点を合わせられなかったのが残念。
 少年の手の中のメダルが消滅し、死神タクシー(どう考えても関東守護獣会の下部組織)に運ばれるブライは死の世界の入り口から耕太少年が消えた事を確認すると、笑顔で永遠の世界へと旅立つのであった……。
 「……兄さん」
 ゲキは打ち寄せる波へ向けて獣奏剣を吹き鳴らし、痛切な咆哮を響かせるドラゴンシーザーで、つづく。
 ブライ退場、そして神々の神々な振る舞いが印象強いエピソードとなりましたが、一方で、大獣神の助力が無ければ地球はバンドーラに征服されていた事はほぼ確実であり、その点で穿った見方をすれば今作は、〔英雄=生け贄〕構造に関して自覚的ではあったのかもしれません。
 元々ゲキたちはバンドーラ復活に備えて億千万年の眠りについた一種の“犠牲者”(供物)であり、その根本設定と誠実に向き合った結果でもあるのかな、とは。
 ……とはいえ、どうせバンドーラ様は(その知識からしても)大獣神に使えていた巫女か何かで、そこに人の意志は存在していただろうとはいえ、神々の不条理な振る舞いが現在に至る因果を生んでいるに違いないと、個人的には思っていますが!(笑)
 次回――まさかのドラゴンシーザー回で、ブライ退場して終了、ではなく、その波紋を描いてくれそうであり……上述した、「ブライを巡る「命」のテーゼについて、ゲキがどう捉え受け止めるのか」が描かれる事にもうワンチャンスありそうで、期待。