『仮面ライダーエグゼイド』感想・第28話
◆第28話「identityを超えて」◆ (監督:諸田敏 脚本:高橋悠也)
グラファイトさん、衝撃の告白。
「俺たちバグスターは、人間の体を乗っ取る事で、宿主のデータを受け継ぐ。……俺にも、ブレイブの恋人の記憶があるからな」
……あ、やっぱりあるんだ、乙女の魂。
グラファイト、飛彩よりも大我に絡むのは、飛彩と出会うと「……飛彩、糖分を取れ」と某デパ地下1日100個限定シュークリームとか無意識に差し入れしてしまうからではないか疑惑が浮上する中、救急通報を受けて出動した永夢と飛彩は、パラドクスに叩きのめされるライドボーズを発見。
露骨に今回の話の都合により、久々に登場したDJブレイブ(多分ポッピー回合わせなのですが、別になんの活躍もしないので、本当にただ合わせただけという……)がボーズを救助しようとするも運営ポッピーからペナルティを受けて一撃で変身解除に追い込まれる一方、パラドクスはMAXエグゼイドに手も足も出ず……ちょっと、可哀想な奴になってきていた。
たまに会う度に怪獣ごっこをしたくてしょうがない親戚の幼稚園児を相手にするような感じでパラドクスをあしらうMAXエグゼイドが、かくなる上はとリプログラミング光線を浴びせると、ポピ子さんは変身を解除して戦闘行動を中止。
バグスターは人類の敵やねん、と強硬に主張するパラドに対して、そもそもポッピーはゲーム内でも敵キャラじゃありませんー、と永夢は仲間として手を伸ばし……う、うーん……サブタイトルは「identityを超えて」なのですが、バグスター=人類の敵である事をこれまでの繋がりで乗り越える! わけでもなんでもなく、ゲーム内の本義はこうの筈、と別のidentityに従う事を求めているので、まんま後の『ゼロワン』におけるヒューマノイドの“自我”問題の火種になっていて、大森P×高橋脚本の鬼門をまざまざと見ます。
そもそも、エグゼイドがリプログラミングで「悪の遺伝子」(とは何か……)を消した、と明言しているので、やっていることは逆洗脳以外のなにものでもないのですが、精神を弄られた仲間を取り戻す手段が精神を弄り返す、なの、オペ、といえば、これもオペ、なのか……。
ポプ子さんはどちらの仲間なのか、は痴話喧嘩に発展した末にパラドがポプ子を連れてアジトへ戻り、『仮面ライダークロニクル』で人類滅亡を口にするパラドが永夢に対して「おまえと遊べなきゃ意味がない」と執拗かつどこか矛盾したこだわりを見せる事に引っかかる飛彩。
サバゲーマニアの面倒くさい患者をCRに運び込む永夢だが、患者の処置に気もそぞろでポピ子救出に執心して飛彩の叱咤を受け……
「忘れたのか。あいつも人の体を犠牲にして生まれたバグスターなんだぞ」
一緒に忘れていた当人が深刻な顔で口にするので、もう何を言っているのかわからないのですが、お医者様ー、近くにお医者様はいらっしゃいませんか?!
パラドは、バグスターは人間に憎まれる存在でしかない、と宿主の記憶の断片を思い出して怯えるポピ子の罪の意識を煽り、待望の『仮面ライダークロニクル』起動からほんの3話ほどで薄っぺらい道化師みたいになってきましたが、色々、大丈夫なのか。
一方、大我とニコはゲーム攻略の為にバグスター狩りを続け、そこにもたらされるポピ子の目撃情報。
ドクター達はバグスターと人類の間で揺れるポピ子の元へと走り、「これまでCRで人命救助の為に奔走していたポピ子」をバグスターとして倒すべきなのか、を主要メンバーそれぞれに突きつけつつ、ポピ子のアイデンティティ(個人の行動原理のみならず、物語における立ち位置)の再確立が企図されてはいるのですが、肝心の「これまで……」が、少なくとも1クールに渡り、物語世界の基本事項に抵触するにも拘わらず、主要人物の誰もそこに触れないまま何事もないように進んでいく虚無の世界の住人だったので、その虚無に“物語としての血肉”を与えないままポピ子の自己確立を描こうとされても、どうにもノれません。
本来なら、その時間こそがポピ子と周辺他者との関係性を構築してきたものであり、その他者との関わりを自己確立に繋げてこそ劇的な面白さが生じると思うのですが、自己確立に繋がる他者との関わりが不可解な状況設定による虚無の世界の出来事であるままなので、ゼロには何をかけてもゼロにしかならない虚しさだけが募ります。
またそこに、バグスターはバグスターでも「そもそもナビゲートキャラだから性質が悪ではない」を代入してしまうと、「これまで……」の意味が著しく薄れてしまうわけで、どちらに転んでも地獄絵図。
永夢先生がするべきは、リセットにリセットを繰り返してポピ子さんのCRでの活動を虚無の海に押し流す事ではなく、全身血まみれになってでもポピ子さんのCRでの活動を虚無の世界から拾い上げてみせる事だったのではないかと思うのですが……ポッピー問題自体が、致命傷を負ったまま放置されていた死体みたいなものだとしても、周辺人物の反応から構築し直さずに、ポピ子の存在だけ構築し直すのはどだい無理があり、ただただ、乾いた血の海ばかりが広がっていくのでありました。
「みんなやめろ! ポッピーは敵じゃない!」
ボーズの襲撃を受け、自衛の為に変身したポッピーに提督スナイプとライドニコが襲いかかり、更にDJブレイブも参戦。一切の反撃をしないまま変身の解けたポピ子は地面に転がり、怯えるポピ子に迫る3人のライダーという大変悪辣な絵面になったところで、エグゼイドは顔型ボディから大排出。
なお突っかかってお邪魔キャラしていたパラドクスは顔型アーマーに羽交い締めにされており……扱いの雑さに涙を禁じ得ません。
ゲーム病治療の為にエグゼイドとブレイブ達は対立し、「バグスターは人類の敵だから!」と差し伸べた手を拒絶するポピ子を前に、エグゼイドは変身解除。
「だったら……俺と戦え。人間を攻略したいんだろ? この世界を支配したいんだろ!」
生身の永夢は自らにバグバイザーで攻撃しろと強要し、人類の敵としてのアイデンティティを問うが、そもそも、敵性要素を人格改造で取り除いた後だと思うと、だいぶ酷いですね……。
「誰も悲しませたくない! 誰も傷つけたくない! みんなで仲良く、『ドレミファビート』がしたいよ……!」
「…………やろうぜ。……みんなで」
ポッピーは自らの意思でバグバイザーを投げ捨て、その横に立ち、低い声で川面に向けて呟く永夢先生の謎の彼氏面は超面白かったですが、基本は『ときめきクライシス』という事だったのか、ポピ子さんルートを攻略して、ゲームクリアが成立。
「てかさー、なんでゲームクリアしたの?」
「ポッピーピポパポを笑顔にしたからだろ」
クリア条件が違った! ないし、新たなクリア条件を生み出した! は良い意味で『エグゼイド』らしくはありましたが、もともと致命傷すぎた&これまでの積み重ねを活かすわけでもない(活かしようがない)ポッピーのアイデンティティ問題が面白くなりようがなかった、と既に出血多量。
「研修医にしては上出来だ。すまなかったな」
そして何故か、全て計算通りみたいな空気を出す飛彩先生?! 飛彩先生?!
1クール目→2クール目と似た飛彩へのフォローが、話の性質上、超高速で入ったといった感じですが、案の定、ポッピーが人類への敵対を拒否した途端に、「あいつも人の体を犠牲にして生まれたバグスター」問題が全員のメモリから消去されて清々しいほど大団円の雰囲気に突入して、見ているこちらのメモリも漂白されそうです。
まあこの分だと、ポッピーの宿主はそもそも不治の病だったとかいった辺りが落としどころになりそうですが……帰り道エンドを発動して丸く収めようとした5人の前に、今回ずっと、シュラウド視点の左翔太郎みたいな扱いだったパラドが、執念のお邪魔虫。
「なんでだよエム?! ポッピーにはゲームしようって言うくせに、なんで俺とは戦わないんだよ!?」
「ポッピーはおまえとは違う。おまえは自分の意思で、人の命を奪った!」
「俺たちだって仲間だろ?」
「誰が仲間だって?」
「意味わかんないし」
「俺たちは戦う運命なんだよ。エム、おまえは――俺だ」
「研修医、逃げろ!」
何かに気付いた飛彩だが僅かに遅く、両瞳の紅く輝いたパラドが、永夢と融合。
「やってやろうじゃないか……最高に――スリリングなゲームをな」