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湿度湿度の読書メモ

 湿気ダメージで色々滞っておりまする……。

良いブックガイドでありました

◆『本格ミステリ・フラッシュバック 1957-1987』(千街晶之 他)
 松本清張が『点と線』『目の壁』の雑誌連載を始め、“社会派”の大きな波が発生した1957年から、綾辻行人がデビューして“新本格”発足の年とされる1987年までの約30年間、「“社会派”全盛期における“新本格”以前の“本格”ミステリ」に焦点を絞った2008年刊行のブックガイド。
 ガイド系の本は出来不出来がかなりありますが、7名からなる執筆者の文章も粒が揃っており、充実した内容で、非常に良いブックガイドでした。
 出色なのは、最低1ページ(二段組みの上一段)の割かれた著者紹介で、作家デビューまでの略歴から文学賞の受賞歴、そして“本格ミステリ”以外の作品も含めての作風や作家としての歩みについてが解説され、作家リストとしても充分に役に立つレベル。
 どの作家も1ページに詰め込むのではなく、ミステリ史におけるその作家の位置づけに応じて最大4ページを用いる事で、一般的な“大家”の評価がわかりやすいですし、例えば文芸畑からミステリを書き始めた作家も居れば、逆に後年は文芸路線に向かった作家、徐々にサスペンス寄りになった作家などなど……ミステリの分野に限らない流れが見えるのも、嬉しいところ。
 また、項目が作者名50音順で、ある意味では機械的に並べられている事により、紹介ページ数の多い大家が適度にばらけているのが、上手く読み物としての起伏になっています。
 収録作品については、紹介文がやや無理筋に感じるものもあって、選ぶ方も読む方も何をもって“本格”とするのか、を問われるところもあるのでしょうが、とりあえず、やたらめったら時刻表への憎しみは伝わってきます(笑)
 執筆メンバーが憎んでいるというか、「現代の本格ファンは、時刻表は嫌いに違いない」という前提で書いているというか…………まあ、私も好きか嫌いかで問われれば、あまり魅力的には感じませんが時刻表(笑)
 2008年の本として有り難いのは、紹介作品の年代を考慮して、“犯人の動機に当時の倫理観が絡んでいるので今読むと納得しにくい”や“当時としての意図はわかるが、今読むと当時の若者言葉の乱舞が大変辛い”など、現在の読者にとって読みやすいかどうか、に一定の言及がある事。
 実際、謎の核心に関わらなくても、60年代~70年代の、人間の描写がきつい、というのは少し古い本を読むとままあるわけですが……色々と、目配りの利いたブックガイドでありました。
 難を言えば、紹介文の中に、ミステリ部分の核心には当然触れない上で、「前半のプロットが逆転」とか「苦い真相」とか「冒頭になにげなくも重要な伏線」とか、具体的内容ではないがどんな構成かについては触れている部分が相当数あるので、紹介文をあまり丁寧に記憶すると、面白みが削がれるところはあるかもしれません……まあ、紹介作品数が膨大なので、読み終える頃には、どれがどれだかは大体忘れていたりはするのですが(笑)
 本の紹介とは難しい、と思いつつ、このクオリティとボリュームで1987年以後ひとまず30年の本格ミステリガイド……を読んでみたくなる一冊でしたが、内容紹介にしろ著者紹介にしろ、〔1957-1987〕に限定した事によって、ある程度固まった世評をベースに出来たというのは、書きやすい部分があったのかもしれません。
 そんなわけでしばらく、名前は知っているけど手を付けていなかった昭和中期の作家に流れてみたい予定。
 なお、ミステリブックガイドとして、ラスト1ページには衝撃の結末が用意されており、執筆者の一人が「乾くるみ名義で小説も発表しており」……って乾くるみだったの?! その筋では有名な話だったのかもですが、これがビックリでした(笑)