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Who is 仮面ライダー?

仮面ライダーエグゼイド』感想・第20話

◆第20話「逆風からの take off!」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:高橋悠也
 割と今作、中澤監督がコメディ担当というか、パイロット版の永夢のコケ芸に始まりコミカルな要素を強めに入れてくるのですが、しばらく、お化け屋敷で周章狼狽し、ニコに致命的な弱みを握られる花家先生をご堪能下さい。
 一方CRでは、永夢の体内に存在するであろうバグスターを引っ張り出そうと飛彩がゲームフィールドを展開するが反応は無く……強い心さえあればバグスターになど支配されない! 以上! で終わったらどうしようかと思っていたので、引き続き、永夢はこれまでにない症状のゲーム病である、と対応が検討されて心底ホッとしました。
 「やっぱり、バグスター出てこないね」
 「……何故だ」
 ……もしかすると、ここで、情報調査担当の九条が脱落している事でドクター達は遠回りせざるを得なくなる、といった組み立ての狙いがあったのかもですが、九条の得意技うんぬん以上に1クール目は皆の頭が動いてなさ過ぎた為、もう一つメリハリになっていなくて惜しい。
 「忙しいのにすみません。僕の為に」
 「……誤解するな。ゲーム病のおまえにもしもの事があれば、俺の名前に疵がつくと思っただけだ」
 「……ゲームやる時に、僕の性格が代わる癖って――」
 あ、永夢が、飛彩の弁明をスルーした(笑)
 「僕の中に居るバグスターの影響なんでしょうか?」
 永夢もしっかり、状況の変化を踏まえた上で物事を考えると、自分の中に別の何者かが存在する事に恐怖を覚え、ここで主人公ヒーローが己の内の「怪物性」を認識する事により、世界に対する視線が変わり、物語が一つ先のステージへと進行。
 そして、大量にバグスターウィルスが散布され、人々が潜在的にゲーム病患者である今作世界においては、人は誰もが「ヒーロー」になりうると同時に、誰もが「怪物」を抱えている事も、主人公を象徴として暗示され、物語の枠組みも見えて参りました。
 前者は定番のテーゼですが、後者を一般市民レベルにまで広げて主題にするのは、(社会派的な「大衆の善意と悪意」を描く場合を除けば)シリーズ過去作でもあまり無い印象であり、何故バグスターが、人の内部より誕生して、抑圧されていた自我を破壊衝動に転換する怪人だったのか? という理由も見えてくる事に。
 またこれまで、「悪の作り出したシステム(悪と共通するパワー)で戦う正義のヒーローすなわち“仮面ライダー”」という、物語の外部に存在するメタ情報への前提意識が強すぎて、「そのシステム(パワー)で戦う事そのものは自明の理である、何故ならそれが“仮面ライダー”だから」と作り手サイドで一種の自己完結をしてしまっていた部分が、永夢が内なる“怪物”の存在を認識し怯えを抱く事によって物語の内部に落とし込まれたのは好材料で、ここまで時間をかけすぎた印象はありますが、ようやく諸々の歯車が噛み合ってきた感があります。
 「……大丈夫。絶対治るから、心配しないで」
 ポピ子さんが久々にお母さんモードを起動したところで緊急通報が入る一方、社長の下には家出していたパラドが帰宅。
 「よくここに来れたものだな」
 「俺のエムに手を出した、おまえが悪いんだろう」
 ひたすら厄介なファン道を突き進むパラドは、軽く殺し合ったけど、どうせおまえ、俺と関係なくゲーム作るでしょ? と黎斗と悪い笑みを浮かべ合い、精神の抑圧とかは無縁であった。
 その頃、現在ただの無免許デイトレーダーである花家先生からの通報により、遊園地で倒れた男子学生を診察した永夢らはゲーム病を確認するが、一同の目前で滅亡バグスターネットに接続した男子学生が、戦闘機バグスターへと変貌。
 術式LV50にデュアルアップした魔王ブレイブは、本日も戦闘員を召喚する豪華仕様の一方、己自身への恐怖から永夢が変身を躊躇してる内に、粘着行為を再開したパラドが、対戦しよーぜと今日も乱入。
 「感染予防だ、パラド。おまえも切除する」
 戦闘機バグスターをあっさり一時撤収させた魔王ブレイブが青パラドクスと激突して、劇中初のLV50同士の戦いとなると優位に戦いを進めるが、徐々に心身の限界に対して動きが鈍り、古式に則り、魔王アーマーを3分以上身につけていると木っ端微塵に爆発するのだ! ズバァッ!! ……とはならなかったものの、赤パラのラッシュを受け、変身解除。
 余裕を見せるパラドは「また遊ぼうぜ」と帰って行き、戦いを見つめていた大我は、気絶した飛彩からパラドが放置していったドロップアイテムを入手する……。
 一方、CRに運び込まれた男子学生のストレスの原因は、絶叫マシン。意中の女子に遊園地に誘われ、格好悪いところを見せられないと絶叫マシンを克服するべく事前のレベル上げに挑んだものも、あえなく玉砕。
 そんな少年に、ポケットに両手を突っ込んだまま話を聞いていた永夢先生(色恋沙汰への興味が超薄い)が「苦手を無理に克服しなくていいのでは……」とフォローを入れたところ、初期から色恋沙汰に盛り上がる傾向のあったポピ子が、野生大解放。
 「彼女をモノにしたいなら、男になりな!」
 かくしてポピ子に引きずられた永夢と少年は再び遊園地に乗り込む事となり、絶叫マシンと青白く燃え尽きた永夢&少年が交互に描かれる、多分、富士急ハイランド協賛回。
 そんな地獄絵図が展開しているとはつゆ知らず、気を失った飛彩は身ぐるみはがされて路上に放置……される事はなく、大我の治療を受けて病室らしきベッドに寝かされており、後で、凄い額の請求書が届きそうです。
 「らしくねぇな。リスクは回避するのがお坊ちゃんのやり方じゃなかったのかよ」
  カード類 デュアルガシャットはしっかりいただいた大我は飛彩を煽り、飛彩が場所を問うのと、冒頭で大我がニコの罠にはめられた場所が廃病院モデルお化け屋敷だった事を考え合わせると、「実はお化け屋敷の中でしたー!」というオチを付ける予定があったのかもですが、尺の都合で最終的にカットされたのか、さすがに無理がありすぎるとなったのか、特にそれ以上の広がりは無し。
 「俺が水に流したとでも思っているのか……? ……俺の怪我を治して、恩を着せれば、認めると思ったか? 俺の大切な小姫を死なせたおまえを!」
 グラファイトを倒して以降、永夢の分裂騒動で忙しくて埋没していた小姫に関わる因縁がしっかりと再浮上し、両者の間に一触即発の気配が漂っていた頃、絶叫パワーレベリング中の少年は観覧車にも耐えられずにがっくりを膝を付き……これはもう、「絶叫マシンが苦手」なのではなく「高所恐怖症」なのでは。
 「彼女を爆撃し、完全体になるのだぁ」
 失意に打ちひしがれる姿を通りすがりの女性客に笑われた事でストレスゲージが高まった少年は再び滅亡バグスターネットに接続し、カップルはつくづく、滅びるべき生き物だな!
 アレルギーは食べて克服だレベルで言い訳の余地なくポピ子さんの責任問題というか、お笑いの陰に紛れてポピ子が第1話の永夢(患者をゲームイベントに連れ出す)と同じ失態を犯しているのが実に『エグゼイド』ですが、己を失う恐怖の為に変身できずに立ちすくむ永夢の前に、ゲームフィールドを展開した黎斗が仁王立ちで登場。
 「いいのか? そいつを使っても。もしまた発症したら、二度と元には戻れないかもな?」
 トラウマをえぐる黎斗がZゲンムとなると永夢めがけてギリギリアローを構えた時、そこに現れたのは、デュアルガシャットを手にした花家大我。
 「君にLVフィフティーが扱えるのか? また5年前のように、失敗しても知らないぞ」
 「あの時俺はプロトガシャットの副作用を味わった。しかし……だからこそ今の俺がある。扱えるさ――今の俺なら」
 病室における飛彩との、
 「たった一度の失敗が、取り返しのつかない事だってある。それがドクターだ」
 「……失敗知らずのお坊ちゃん。おまえこそそんな体でオペを続けて、俺みたいになってもいいのかよ? ……俺には失うものはなにもない。だから言ってんだ。仮面ライダーは俺一人で充分だってな」
 といったやり取りが挟み込まれ、これまでの言動や部分白髪でほのめかされてはいましたが、5年前、花家大我は、連勤に次ぐ連勤、超過勤務に次ぐ超過勤務、うずたかく積み上げられたエナジードリンク、心の支えはソシャゲの課金、僅かな光さえあっという間に吸い込んでしまうブラックホールな職場環境で身も心もボロボロになった挙げ句グラファイトに敗れ、全ての不始末の責任を押しつけられて隠蔽工作の末に医療免許を剥奪されていた可能性が強まり、つまり飛彩の真の敵は、道化を装った実の父親ではないのか。
 物語としては、かつてクロゼイドが使っていたプロトガシャットの副作用、ライダーシステムの不備(喜んでつけた)によるもののようですが、あのデスマーチを体験した俺に出来ない事は何もない! と大我は『バンバンシミュレーション』を起動して変身し…………空母を、かぶった。
 自転車以降、基本はアーマー路線の強化だった今作ですが(思えば玩具的に<装着変身>の系譜という事でしょうか)、とうとう、もはや被り物の世界に突入して美少女化したスナイプは、海軍モチーフな帽子を被りつつ片目仕様が海賊のアイパッチめいてアウトロー要素を残しているのが、面白い組み合わせ。
 史上最大の火力を手に入れた提督スナイプは、艦砲射撃でバグスターを吹き飛ばし、ついでに巻き込まれたZゲンムが屍体の盆踊り。
 「エグゼイド。びびってんならガシャットを置いてここから立ち去れ」
 スナイプは地面に倒れたままの永夢に告げ、ドクターとして、ライダーとして、リスクを前に、「変身」の資格と意思を改めて問われる事になる永夢。
 ――「患者の体を治して、患者の笑顔を取り戻す。それがおまえだろ!」
 飛彩の叱咤が信念を後押しし……
 「一生自分の身だけ守って、一人で笑ってろ」
 大我の嘲笑が理想を甦らせる。
 「……そんなの嫌です」
 なんの為に立ち、なんの為に戦い、なんの為に変わるのか――
 「……僕は…………ドクターですから!」
 XXガシャットを掴んだ永夢は立ち上がると、音楽の盛り上がりに合わせて走り出して力強く変身し、今ようやく、「ドクター」と「ヒーロー」が綺麗に重なって、個人的にしっくりと来ました。
 つまるところ私は、ヒーローに“なる”瞬間が好きであり、その為に“走り出す”瞬間に痺れるのですが、己自身、そして己の内側にある「怪物」と向き合う事を余儀なくされた永夢が、“それでも”立ち上がる理由は何か――それを自分は持っているのか? を見出し、再び掴み取る姿を恐怖からの再起の形で描き、普遍的なヒーローテーゼ(なぜ誰かの為に戦うのか)を取りこみつつ、永夢の繰り返してきた「笑顔」をキーワードに「ドクターである事」に集約したのは美しく、今作ここまでで抜けて好きなシーンとなりました!
 またここで、飛彩と大我が共に“先輩医師”として機能しているのも目配りが利いており、これを機会に永夢先生には、恭太郎先生以外の先輩たちにも、もう少し敬意を持って接するようになってほしい(笑)
 ちなみに、上記の“走り出す”はあくまでレトリックなので、動作として実際に走らなくても良いのですが、ここ数年で見た、まさにその瞬間に“走り出す”のが痺れたのは映画『スパイダーマン:ホームカミング』と『アントマン』で……『アントマン』が既に6年前で、まだ『ノー・ウェイ・ホーム』を見ていない事に気付き、ここしばらく映画視聴履歴が全く更新していない……と反省したのは、余談です。
 そして今回、ここで「掴む」「立ち上がる」「走り出す」そして「変わる」を繋げてくれたのは中澤監督の演出が鮮やかに決まって盛り上がり……直後に登場するのが悪夢的XXなのが、とても『エグゼイド』ですが(笑)
 XXブラザーズがZゲンムを相手取っている間に、提督スナイプは戦闘機バグスターをさっくりクリティカルファイア。
 とかく主人公突出になりがちなシリーズですが、ここで気がついてみると主人公と当面の宿敵(Zゲンム)のLVが一番低くなっているのは面白い作劇で、最初はどうなる事かと思ったパラドクスによるLVインフレが、予想外の効果を生み出す事に。
 またガシャットに関しては、1クール目にそれぞれのキャラクターとメインガシャット(のイメージ)を紐付けした上で、ハード(ドライバー)が共通なので、ソフトの使い回しが可能というのは、成る程上手い仕掛けと感心。
 絶好調のXXエグゼイドの放った、ブラザーパワーフィニッシュが直撃したZゲンムは、私は残業はしない主義だ! とバグスターのデータを回収して退社。
 ゲーム病の治った少年はなんとなく前向きになり……提督スナイプ誕生と永夢の再起を1エピソードにまとめるだけでもかなり上手くやってみせたので、患者の扱いが雑なのはやむを得ない部分はありますが、前回といい今回といいゲーム病については、患者当人は特に何も克服していないけどバグスターを倒したらこんなに元気になりました、と霊験あらたかな壺を買って解決レベルの扱い。
 ここをもう一歩二歩詰められればぐっと物語の完成度が上がるのですが、こればかりは1話で描ける物量の限界は感じるので、どこを重視するのかの取捨選択といったところでしょうか(1話に収めるか2話完結形式を取るかから含めて)。
 「ったく、俺のアドバイス無視しやがって」
 「僕……ドクターとして、これからも向き合い続けていきます。……患者とも、自分自身とも!」
 「……勝手にしろ」
 患者に体当たり気味にぶつかっていくだけではなく、自分自身とも向き合う事を選んだ永夢は絶叫マシンへと引きずられていき、コンティニュー連打しすぎた体を引きずるように帰宅した黎斗は、出迎えたパラドから、最初のダンジョンのボスキャラは大人しくゲームだけ作ってればいいのに扱いを受けると、不敵な笑みを浮かべる。
 「君は何も知らない。自らの死のデータを手に入れてまで……『デンジャラスゾンビ』を、私の力に選んだ意味を。このガシャットは、レベル10であると同時に、レベルXでもある」
 「レベルX?」
 「つまり――未知数という事さ」
 主要キャラの中でZゲンムのLVが一番低くなる逆転現象が明確になったところで、すかさずその問題に切り込んでくるのは鮮やかな流れで、ようやくちょっと面白くなってきた『エグゼイド』、この勢いでツボに刺さってきてくれる事を期待したいです。
 次回――久方ぶりの檀父、登場。