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ゆがんだこうつうあんぜん

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第15話

◆ドン15話「おかえりタロウ」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹
 「既に君たちの残高はゼロだ。それどころかマイナスだ」
 「マイナス?!」
 なるんだ、マイナス。
 「タロウを戻したい気持ちもわかるが、自分の心配をした方がいい。……近い将来、必ず良くない事が起きる」
 猿と鬼は、キビポイントを用いて因果律に干渉したしっぺ返しによる不幸の揺り戻しを宣告され……マイナス、マイナスはさすがに聞いてませんよマスター?!
 一方、天命の子・桃谷ジロウは公園で腕立て伏せに励み、故郷の人たちの適当な励ましの裏表を全く読めない事が念押しされつつ、世界の平和を守る心意気だけは、溢れていた。
 ソノーズはタロウの一時的復活に困惑し、帰ってきたドン・モモタロウを見た時に感じた喜びを否定しようとするソノイ、ひたすらおいしいな、ソノイ。
 雉野家を訪れて夏美と出会った事を報告する犬塚はみほの入院を知らされ、この二人の接触を描くのが、また、えげつない……。
 だが夏美の反応がどうもおかしい、と犬塚に相談された雉野は、夏美探しに協力すると約束してスマホに保存されていた写真を見せられ……衝撃の真実?! を、やたらギャグっぽく演出するなと思ったら、加工されすぎて全く顔の識別がつかなかった、というオチ。
 犬塚が去った後、愛ゆえに怒りに囚われた雉野は鬼と化すと街へと繰り出し、激走しながら早口で何か連呼しているな……と思ったら、ああそうか、「交通安全」……!(気付いた瞬間に大爆笑)
 不注意バイク野郎(某指名手配犯)のせいでみほちゃんが怪我したから、交通ルールを守らない奴が許せない! と激走鬼になるのは、ストレートすぎて盲点になっていましたが、大変納得(笑)
 また、『カーレン』のテーマの一つは「アイ・ラブ・ユー」であり(あり?)、「一般市民」と「ヒーロー」の関係を描いた作品でもあったので、鳥人鬼を今後のお楽しみとするならば、雉野に重ねる鬼としては同調率の高いチョイス。
 具現化するとほぼRVロボでしたが、愛と憎しみに“酔っている”という事なのか、頭の横にネクタイ巻いているのが素晴らしい(笑)
 「こーーーーつぅあんぜぇん!!」
 微妙なところを伸ばしながら回転する雉野もとい激走鬼のフラッシュを浴びた車が消滅していき、みほをはねかけたバイクが許せない → 戦う交通安全! → そもそも道路を走る車両が存在しなければいつまでも交通安全! の発想は、ちょっと杉村脚本(笑)
 青と黄が呼び出されるが、どうやら雉野としての意識は完全に失っている(肥大した我執のみで動いている)激走鬼によりRV激走切り! を受け、尺が短い時代ゆえの割り切った見せ方でしたが、「激走合体!」と口にしてから実際にロボットが立ち上がるまで、約5分20秒かかる『激走戦隊カーレンジャー』第5話「この先激走合体」(脚本:浦沢義雄)は、約25年前の渡辺監督演出回でありました(合体関係は、佛田監督でしょうけれども)。
 「待たせたなお供たち!」
 リーダー不在で今回も全滅の危機に陥るドンブラザーズだが、そこに現れる救世主――ファイヤードラゴン@巨大な岩石をカートに添えて。
 ジロウの投じたスーパードラゴンボンバーは、激走鬼に回避されると(回避系エネミーが続きます)青に直撃して気絶ダメージを与え、猿原、大激怒。
 「いい加減にしろ!!」
 「ヒーローごっこは迷惑だから!」
 「ごっこではありません。僕は、真のヒーローなんです!」
 「そんなわけないじゃん! だいたい、変身もできない癖して」
 「それは、もうちょっと待って下さい。必ずその時が来ますから。内なる声が、そう言っています」
 「私の内なる声は君が偽物だと言ってる!」
 は、今回の好きな台詞(笑)
 叩いても叩いても、折れも曲がりもしないオリハルコンメンタル(ヒーロースキル)を持つジロウは、あくまで新リーダーを主張し続けると、高校生の頃にタロウと出会った過去を語る。
 「その時僕は確信したんです! 桃井タロウさんこそ、真のヒーローだ。そして、僕は彼の後を継ぐ者だって」
 不良に囲まれながら「俺は人を殴らない」と無抵抗で殴られ続けた末に、殴っていた不良たちの方が疲れ果てて地面に倒れてしまった光景に感銘を受け、タロウの後継者を自称するジロウの狂信者と舎弟感が一気に増す中、突然、足に力が入らずに倒れるはるか。
 それは鬼と猿に生じた運命の反動であり、「実はもう起きている……かもしれないが」とマスターに告げられた猿原は、俳句を詠めなくなっている事に気付く。
 「私は…………魂を失った……」
 はるかにしろ猿原にしろ、反動で不幸に襲われるというよりも、タブーを犯した事による超自然的な神罰めいているのが少し気になりますが、「足が萎える」「しゃべれなくなる」といった神罰を受ける出典があったりするのかどうか(日本武尊の東征の時に何かあったような……と思ったのですが、軽く調べた限りでは一致するものはなく)。
 投石の直撃が脳にダメージを与えている可能性もなくはない猿原は池に映った己の顔を呆然と見つめ……翌日、怒りに囚われた雉野はまたも鬼となって、激走アイ・ラブ・ユー!
 それと出くわしてアバターチェンジする犬塚だが、サルが現れると「俺は忙しい」からと、さっさと退場してしまい、車椅子に乗ったまま出動してくるオニシスターがヒーローの描写として鮮烈。
 「なにぼーっとしてるの! 猿原真一! 追って!」
 激走鬼を追う青(全力疾走に向かない)と黄(まだ扱いに慣れない)は、地下駐車場で雉野の姿を発見。
 「見なかったか? こっちに、ヒトツ鬼が来た……」
 「……見たよ。こーつうあんぜぇん!!」
 「き、雉野?!」
 二人の目前で雉野は鬼と成り(車椅子に過剰反応したのか……?)、正気を失った激走鬼は青と黄に襲いかかるが、そこにまたも現れるファイヤードラゴン。
 「はっ! 来る……内なる声が、教えてくれる! もうすぐ、僕の真の力が覚醒する!」
 チベットから届く小包ぐらいの勢いで虚空に突如スロットが浮かぶと「目」のリールが揃い、呪いのサングラス・ギア・青竜刀モチーフの武具、の三点セットが出現し、ジロウにドラ・ドラ・ドラゴーン!
 「アバターーーーチェンジ!!」
 この日のために肺活量も鍛えてきたジロウが武具をスイッチONすると滞りなくチェンジが行われ、内なる声詐欺では、無かった。
 「覚醒――ドンドラゴクウ!!」
 金地に黒アーマー(胸甲は黄金の鱗風)を身につけ、兜と胸には大きく赤で龍のシンボルが刻まれた新戦士が誕生し、本人がそう主張しているだけで孫悟空要素はこれといって見当たらず、因果律干渉の揺り戻しにより、猿が被って席が無くなるわけでは……なかった?
 中華系追加戦士といえばキバレンジャーが思い浮かぶところですが、棒術系ファイターのドンドラに軽くいなされ、激走鬼は逃走。
 第一印象としては、カラーリングと、腰当て周りがあまり格好良く見えないドンドラ、直後に入ったCMによると(普段なるべくCMは飛ばすのですが、飛ばす隙が無かった(笑))龍と虎のWフォームのようで、もう一つの姿ドントラボルトに至っては、どこをどう切り取っても「ジョン・トラボルタ(俳優)」のもじりであり、土曜の夜は戦闘力が3倍になる仕様なのでしょうか。
 「僕考えたんですけど……皆さんを、処刑しようかなって」
 アバターチェンジを見せ、リーダーの資格を証明したジロウは、反抗的な態度を崩さないお供たちへ向けて、「気持ちで勝てるなら、スペシャルポリスなんていらないですよね」……じゃなかった、大将も守れないお供なんて、このサステナブル社会の中で無駄に二酸化炭素を排出するだけの存在ですよね、と爽やかな笑顔のまま抹殺を宣告。
 事あるごとに、ヒーローが私刑に走ろうとして油断ができません!
 俳句が詠めず、風流を失った、と己自信の存在意義を見いだせなくなった猿原は素直に首を差し出すが、はるかは自分はどうなっても構わないからタロウ復活の為にキビポイントを使いたいと願い、その姿に真のお供の心意気を見たジロウは、反省して土下座。
 予告を見るに次回以降の布石の要素もあるかのかもですが、ジロウの翻心は、あっさりすぎてだいぶ拍子抜け(処刑宣言も唐突だったので、基本的にそういう、どの方向にも熱しやすい人格なのでしょうが)。
 加えて、前回辺りからの不安点ではあったのですが、はるかが文字通りに「身を捨てて」でもタロウ復活に執心するのは(まさに生け贄)、はるかの心情としてやや飛躍がすぎる感触で、今回通して飲み込みづらかった部分(なので、ジロウのリアクションも飲み込みにくい事に)。
 勿論、身近な親しい人物の喪失に悲しみ、出来れば取り戻したいと考える事そのものはわかりますし、「失って初めてわかる」的なニュアンスがあったのかもですが、タロウの事そこまで好きだったっけ……? と首をひねるような言動の数々や、自己犠牲を厭わない姿勢には、過剰すぎて違和感が先に立ってしまいました。
 ……思えば、海賊鬼回でマンガ家辞める宣言をした後、マンガに繋がる発言が消滅しており、個人としてのバランスを崩しているはるかが、ヒーローとしてタロウに依存していると見ると腑に落ちるのですが、正直、前回-今回のはるかよりも、人質イベントきたーーー! のはるかの方がキャラとして魅力的に思い、あれ? はるか、ヒーロー活動に熱心なのはいいけど、パーソナルな夢とか目標を失っていない……? は、気にかかる要素。
 これはヒーローにおける「公」と「私」の命題に繋がりますし、同じ回で、猿原が俳句を詠めず「魂を失った」と自分の命に価値を見いだせなくなる姿が描かれているのは、ならば今はるかの魂はどこにあるのか? と、今作らしい対比の盛り込みにも見えて(夏美探しの為に戦闘をスキップするイヌも同様か)、今後へ向けた意図的な仕込みであると面白いですが、さて。
 タロウとジロウの間で前にも後ろにも進めないドンブラザーズだが、そこにソノイから「一度だけ、チャンスをやろう」と通信が入り……胸に愛を抱いて涙なんかぶっちぎっていた激走鬼をバロム仮面が一刀両断!
 直後、倒れた雉野の元に飛び込んだドンドラは共に異空間へと転送。ソノーズ被害者はキューブの中に閉じ込められて異空間に隔離されている事が明らかになり、描写から一ひねりの余地はありそうかと思っていましたが、マイルド方面に一歩寄せると共に、脳人との融和路線の可能性も若干増す事に。
 金ドラが戟ブースターでタロウのキューブを目指すと、目覚めた雉野がキジウイングで方向調整を行い、さっそく活躍の場があったのは良かったところで(イヌは何もしませんでしたが……)、キューブ同士が衝突する事で3人は揃って異空間から解放され、タロウ・復活。
 直後、異空間への道を開く為の峰打ちだったらしい雉野が再び激走鬼となり、ソノイからの通信以後の展開はかなり強引でしたが、
 「雉野――今度はおまえが帰ってくる番だ!」
 は格好いい台詞でした。
 タロウとジロウは並んでアバターチェンジし、挿入歌をバックにダブルドンが激走鬼と戦うのは格好良く、タロウ復活のご祝儀も込みで、追加戦士の実質デビュー戦としては及第点の盛り上がり。
 「はっはっは、褒めてやる!」
 「ありがとうございます!」
 「行くぞ祭だぁ!!」
 「ハイ!」
 懸念していた両者の関係ですが、タロウに取って代わって真のヒーローとして君臨したいというよりは、タロウに憧れるあまりその後継者になりたかったジロウの後輩犬体質により軋轢も卑屈な意識も生じず、むしろ、加速するボーゾックもとい暴走族感。
 限りなく「集会」に近い「祭」により、ダブル必殺技で激走鬼を成敗し、カーレンギアを回収。
 「これでまた戦えるな……今度こそ、正々堂々と」
 結局、《己の美学:LV8》を発動してドンブラザーズの利になる行動を取ったソノイ、後でソノニにバレたらお仕置き待った無しですが、果たして、M属性は持っているのか。ヒーロー属性を持っているという事はすなわち、持っている可能性が高いという事ですが?!
 と、ソノイ真の覚醒への道はさておき、どんな手段を使ってでも求められる役割を達成するのと、己のあるべき美意識を貫くのと、どちらが“より完全”であるのかは、なかなか難しい問題であります。
 「ここで一句――亡き友が そこに佇む 花筏
 車椅子のはるかを押して合流した猿原は、タロウの姿に思わず一句詠んで魂を取り戻し、足の動かないはるかはタロウの激励を受け……諦めるな、と敢えて車椅子から距離を取って立つタロウ。
 「俺を見ろ! 歩いてこい! 信じるんだ。おまえなら出来る。ただ信じろ!」
 車椅子の女性メンバーと、それを叱咤するリーダーの図といえば『鳥人戦隊ジェットマン』第5話「俺に惚れろ」(監督:東條昭平 脚本:井上敏樹)の「おまえが本当の戦士なら、歩ける筈だ!」が思い返されるところではありますが、個人的にそれ以上に感じたのは、ラスボスもとい主人公ヒーローが人間愛への狂信から、事あるごとに一般市民ゲストに対して「俺に人間の持つ愛の力を見せてみろ!」と迫る、激しいジャンパーソンイズム(笑)
 1993年に東映が送り込んだ本邦ヒーロー物の極北的傑作『特捜ロボ ジャンパーソン』は、ロボットであるヒーローが人間から“愛の力”を与えられて立ち上がるのではなく、人間は“愛の力”で立ち上がり眼前の苦難を乗り越えられる筈だと心の底から信じて行動する(為にゲストの持つ愛の力を試す)のが大変ねじれているのですが、幸福とは何かを探す超絶ヒーロー・ドンモモタロウと、正義とは何かを探す超絶ラスボス・ジャンパーソンが同調するのは、必然ではあったのかもしれません。
 ドンブラザーズ・フォー・ジャスティス!
 「……なに……えらそうに……」
 車椅子のはるかは体に力を込め……上述したように、はるかの心情に関する積み上げが足りずに中盤以降にノりきれないエピソードであったのですが……ここで

 どんぶらこ どんぶらこ ドンドンゆらり揺れて 目指すはどんなハッピーエンド? 

 と流れ出すとEDブーストで八割方許せる程度には、洗脳されています(笑)
 「……言ってるのよ……!」
 立ち上がりダッシュしたはるかは満点のコケ芸から会心のヒロインムーヴをキメてタロウと共に地面に倒れ込み、打ち解けりゃ鬼も笑うハッピーエンド!
 「おかえり……タロウ」
 「ああ。ただいま。心配かけたな」
 皆様のお手を拝借してタロウは帰還。
 はるかが人としてのバランスを欠き始めているのではないか、という疑念は、今後焦点を合わせていってほしい要素なのですが、ラストの作りから今回の背景に意識的に『ジェットマン』第5話が重ねられている可能性を考えてみると、そこに刻み込まれているのは、「おめでとう香。どうやら君も、本当の戦士になれたようだな」であり、『ジェットマン』初期において天堂竜が語る「戦士」=「世界を守る為に個人的な感情は捨てて戦う純粋狂気の存在」なので、その一本道の先に待ち受けるものは、果たして何か。
 ……まあ、あまり過去作を重ねてメタ視点に囚われて見すぎるのもよろしくはないとは思いつつ、以前ちょっと書いたように、今作は恐らく意識的に「本歌取り」の手法を持ち込み、縁語的なネットワークで結びつける事によりシリーズ過去作を『ドンブラザーズ』総体の背景とする事で、《スーパー戦隊》の歴史そのもの文化的資産として機能させようとする狙いがあるのではないか、とは考えています。
 前回、急展開のあった犬と雉に関してはまだまだ引っ張りそうで、しばらくは、結局なにもわかっていないジロウの秘密に迫る事になりそうでしょうか。今回はちょっとラフさが目立ってしまったので、大きな宅配便の荷物を片付けたところで、次のステージへと上手く転がしていってほしいですが……予告のあおりの、
 「おや、ジロウの様子が……?」
 がえらくツボに入って、EDブーストと合わせて、だいたいいいか! という気持ちになりました。
 ……というかジロウを導く内なる声さんってもしかして、
 (完全破壊しろ。部品一個この世に存在させるな。 その為に俺は生まれたんだろ)
 なの?!
 最後に全くの余談ですが、今回の雉野の処遇次第ではと、先週から日記タイトルに「あいがあればほしになる」を準備していたものの、幸い無駄になった事をご報告します。 (※最近、ソノイのせいで『イデオン』ネタが旬らしい)