『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第14話
◆ドン14話「みがわりジロウ」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹)
「信じられないな。彼が負けるとしたら、自分の強さにだけだと思っていたが……」
タロウ消滅についてマスターに相談するも解決手段は見つけられず、囚人の元へ向かった猿鬼雉が告げられたのは、桃井タロウの死。
「打つ手は無い。タロウには二度と会えないだろう」
「……なんで? なんでそんな平気な顔でいられるの?! タロウが死んだんだよ?!」
「……俺はタロウの育ての親だ。あの子を拾い上げて以来、長い間この手でずっと育ててきた」
以前に少年時代のタロウ自慢はありましたが、拾って育てた事――タロウとの関係性――をメンバーに明言したのは、初の筈。
「だったら尚更……!」
「だからだ。タロウが戻るなら、俺はなんでもするだろう。だが、何をしても無駄だ……悲しむ事も」
一人称が「俺」に切り替わる事で、タロウへの気持ちは囚人の本当の心である事を示し、アンチおじいさん派の私としても、ここは信じてもいいだろうか、という気になります(笑)
「私の情報が正しければ、タロウが消えた時、タロウに代わる者が出現する」
直後に滅茶苦茶うさんくさい事を言い出して、生まれかけの信頼が水面の泡沫のように弾けて消えましたが、さる信頼ある伝説筋、みたいな事を言い出したおじいさんの情報源どこなの?!
「タロウに……代わる者?」
そして、中身が替わるのは雉野ではなくてタロウだった?! と、立て続けのショッキングな展開で、サブタイトルも随分とえげつないのですが、時は遡り――21年前。
「僕は生まれながらのヒーローだ! 人類を救う為、天が僕をこの世に送った」
もう一つの桃と赤ん坊が、とある山奥の村・華果に流れ着いていた。
村の駐在に拾われ、施設で育てられた赤ん坊はすくすくと成長すると、内なる声に命じられるままにひたすら体を鍛え続け…………それでは皆さんご一緒にお願いします。
人の体には、未知の力が秘められている。
鍛えれば鍛えるほど、それは無限の力を発揮する!
「そして今――」
内なる声に導かれるまま、勤め先の新聞販売店を退職した青年・桃谷ジロウは、ヒーローとして世に出ようとしていた。
「内なる声が僕に教えてくれました。行けっ、戦えって!」
……青年は、内なる声さんに、ばっちり呪われていた。
タロウもソノーズとの戦いについて「本能がそう命じる」と言っていましたが、やはり今作が最終的に立ち向かう存在は、「運命(天命」)なのではないか、という気がします。
「遂にここまで来ましたか……奴の思い込みも」
「ああ、悪い奴じゃないんだが……困ったもんだ」
ジロウは元同僚らから旅立ちを生暖かく見守られ……1クールかけて描かれてきたキャラ(タロウ)に取って代わる存在として彗星のごとく登場、という第一印象の不利な立ち位置ながら、そこはかとなく哀れみを誘うのが、絶妙に嫌いになりにくいキャラ付け(笑)
周囲の生暖かい視線など全く気付かないジロウは、「僕の人生は、悪と戦う為に捧げなくちゃいけないから」と村の少女に別れを告げると、羽毛よりも軽い調子で送り出され……タロウ退場にともない、使命と正義感に燃える超正統派テンプレートヒーロー登場! みたいな予告から、キャラクターそのものがメタ要素の強い露悪的なパロディになる事を少々危惧していたのですが、あまりにも真っ直ぐすぎる上に人生の被害者感が凄まじい為に、戯画的ではあるが露悪要素は押さえ込まれている実に絶妙なさじ加減で、「ばーか! ここまで洗脳されてるなんて可哀想だろ!」と私の中の谷千明が涙をこらえています。
「君のことは忘れないよっ。……さよなら、ルミちゃん!」
(……バカ。……いつまでも子供なんだから)
同郷の青年団に見送られ、金斗バスに乗ったジロウが故郷を離れた頃……ソノイはバスガイドに憑依したネコの獣人と戦うも、不可殺の獣人を仕留める事は出来ず、生身の抜刀の格好良さと、ドン・モモタロウを倒すも晴れないソノイの心情を同時に見せる、良いシーン。
「しかし見事だったな! ドン・モモタロウを倒すとは!」
「……言うな」
「なにを苛立っている、ソノイ?」
「こんな事は始めてだ。私は……私が、気に入らない」
常に完全である筈のソノイが、己の完全さの中に疵を見出し、自問に囚われていた頃、将棋の棋士が対局中に鬼と化し、タロウの喪失に落ち込む猿鬼雉は、強制出撃。
「俺は走る! 誰にも負けない! 将棋ロードをぉ……!」
ポーズを取り、直立ピラミッドと爆発を決め、いつもより原典パロディ度高めの高速鬼は、車のカウル部分と五角形の将棋の駒を重ねた頭部デザインでターボレンジャー要素を表現しているのですが、ターボレンジャーの実態は妖精パワーで妖怪退治する戦隊なので、車……だっけ? という気にはなります(笑)
いや、1号ロボと個人メカ(装備)のモチーフは車なので、どこかズレているのは『ターボレンジャー』そのもののコンセプトの方なのですが! 演出も微妙に、炎神戦隊が混ざっているような気もしないでもなく(笑)
「わからないです、桃井さんが居ないと……どう戦えば……」
リーダー……というか真っ先に切り込んで標的になってくれる人が不在のドンブラザーズは、まがりなりにも培ってきたコンビネーションを失い、立ち往生。そこへ現れたコンドール仮面が棒立ちのオニシスターに斬りかかるが、何故かそれをバロム仮面が阻止し、混乱状況はますます拡大。
スター仮面も参戦してドンブラザーズを襲ったその時――響き渡る声。
「お伴たち!」
物陰から姿を現したのは混沌を切り裂き光に導く桃井タロウ――ではなく、ど派手な衣装に着替えた、桃谷ジロウ。
「スーパーヒーロー! ファイヤードラゴン……参上!」
ジロウは日夜練習を重ねてきた大仰な決めポーズと共にヒーローネームを名乗り、内なる声さんに、ばっちり教育されていました。
……これ多分、あれですかね、あれ、熱田充瑠の脳を宇宙的叡知で浸食して地球侵略を行おうとしていた白いキラメイストーン……まさかの2年越しの伏線回収なのでは。
「待たせたなお伴たち。君たちは、僕が守る!」
「何あれ……」
一同愕然とする中、ファイヤードラゴンが用いた技……それは、地球人なら誰もが持つ攻撃スキルでお馴染み、そう、《投石》。
どうやら鞄の中に詰めてきたらしい石がソノーズめがけて次々と投げつけられ、注目は、さりげなくバロム仮面の後ろに回るコンドール仮面(笑)
俺たちの高校野球は終わった! と某剣センパイの血と汗と魂のこもった魔球「ドラゴン……ボンバー!」がスター仮面の頭部に直撃すると、ダメージは無さそうだがプライドをいたく傷つけられたとおぼしきスター仮面が槍を一閃し、一般市民の危機に慌てて我に返ったドンブラザーズは、倒れたジロウを連れて一時撤収。
……あまりそういう方向に突き進んで欲しくはないのですが、ジロウのキャラクター性に合わせてか今回はシリーズ過去作のパロディ要素が強めで、《スーパー戦隊》における殺エイリアン魔球といえば「ドラゴンボール」であり、レッドターボの変身者は「炎・力」であるのですが、これはこれで、拾い上げるのにエネルギーを使います(笑)
まあ前回の獣電鬼も思い切り原典通りではというBGMで踊っていたので、ヒトツ鬼の薄さを鑑みて、登場時のオマージュ演出強めに路線変更するのかもですが。実際、今後80年前半戦隊鬼を出すようなら近年ほど戦隊自体のモチーフが明確ではない難しさが出てくるでしょうし……そういう点では、70~80年代はなんらかの形でまとめて片付けて、後半から敵のモチーフが変わる可能性もあるかも、と思ってはいたり。
離脱した犬塚は、狭山刑事から逃走中に、ニアミスを続けてきた雉野みほと遂に接触。犬塚の記憶の無いみほからは完全に不審者として扱われ、混乱しながら慌てて狭山から逃走するが、みほは直後に倒れてしまう……。
「どういうつもりだソノイ?! なぜ敵をかばった!」
一方、ソノイはソノニから戦闘中の行動を咎められており各地で荒れる人間関係。
「私はドン・モモタロウに勝っていない……負けたのだ。私は彼の愚かなまでの正直さを知っていた。そこにつけ込み、彼自身の弱点を聞き出したのだ。誇る事のできない、卑怯な真似だ」
プライベートの交流を活かし、弱点を聞き出す手段を執った時点で、戦う前から負けていた、とソノイは己の美学に反する行動を恥じ、期待に応える、独自の美学(笑)
それでも、仇敵排除の為には心を鬼にして、己の美学にさえ背いてみせたのが歴代へたれ悪役たちとは一線を画すところでありますが、後になって反省するのも大変おいしく、ソノイにはこの調子で存在感を出していってほしいものです。
迷いを振り切り、敵を利する行為は二度としない、とソノイが宣言した頃、自称天命のヒーロー・桃谷ジロウ(21)は感じの悪いセンパイ達に詰められていたが、全く気にせずスクラム(団結の象徴!)を組もうとしていた。
いっけん純朴な好青年ですが、内なる声さんの導きにより、初対面の相手を平然と「お伴」呼ばわりするぐらいには出来上がっているので、このぐらいは朝飯前です。
タロウとは違った意味で迸る狂気の気配に嫌悪感を示す面々だが、雉野は病院から連絡を受けてその場を駆け出し、はるかと猿原はキビポイントでタロウを復活させられないかとマスターに頼み込み……
「出来るよ……と言いたいとこだが。さて、どうなるか……」
みほがバイクとぶつかりかけて怪我した事を知った雉野は内心深くに怒りを宿し、都立武蔵野学園高等学校(これも『ターボレンジャー』ネタ)に出現した高速鬼は周囲の学生たちを将棋の駒に変え、駆けつけた猿原とはるかがアバターチェンジ。
高速鬼の銀は千鳥に桂馬の高飛び歩の無い将棋は負け将棋な機動に銃撃を回避されて苦戦する青と黄は、この機会にドンブラザーズ殲滅を目論むソノーズの大人げない一斉攻撃を受け、大ピンチ。いよいよ青と黄に消滅の危機が迫り、「最悪だ、絶望だ、神も仏もないのか!」とタロウに助けを求めるオニシスターの叫びが響き渡ったその時――風を切るJPカード!
……じゃなかった、鳴り響く祭り囃子と笑い声。
「やぁやぁやぁ! 祭だ祭だぁ! 踊れ! 歌え! 袖振り合うも多生の縁、躓く石も縁の端くれ、共に踊れば繋がる縁! この世は楽園! 待たせたな、お伴たち!」
ここでドンモモが、救いを求める声に応えて現れる神仏の化身的ヒーローとして描かれて、第1話の暴虐ぶりがある種の上書きを施されるのは興味深いところなのですが、それはそれとしてあまりのざっくりぶりに、心身ともに追い詰められた青と黄が見た幻覚なのでは……? という疑念も浮かびます(笑)
「タロウ、来たぁ!」
「桃井、タロウ……!」
「あれが、桃井、タロウさん……」
どんぶらでのやり取りを盗み聞きしたジロウも木の陰から見つめる中、赤は早速ロボタロウすると、アバター光刃で高速鬼を瞬・殺。あまりにも王手にターボ! ミラクルターボ! 過ぎて投了する暇もない高速鬼の最期でしたが、ドンモモに実体がある事がハッキリとして、巨大化した鬼に対して、だいがったい! だいがったい!
……が、すっかり耳について大変困っています。
頭にVターボバズーカ?を乗せた巨大高速鬼に、オニタイジンは総員ハイテンションで連係攻撃を決め、巨大ロボの万能感は、かくも人を狂わせ虜にするものなのです。
高速鬼はドンブラパラダイスされ、鬼の祓われた学生棋士の呟きが、人生ゲームオーバーみたいな暗さでちょっと気になったのですが、敗北を認められる成長を得た、という解釈でしょうか……。
かくして、一件落着万々歳、と思われたのが、タロウはキューブ状の光となって再消滅。
「……やっぱり終わったんだ、 イチロー兄さん タロウさんの時代は。僕の、時代がくる……!」
一連の出来事を見つめていたジロウは拳を握り、果たしてジロウは本当に天に選ばれたヒーローなのか?! それとも、スーパー妄想非公認男なのか?!
……それにしても、モモタロウから桃井タロウ、タロウの控えだからジロウ、まではストレートすぎるほどストレートなネーミングなのに、気がつくと、石ノ森ヒーローの代表的存在と極めて近い名前に辿り着いているのがイリュージョン。
一方、病院に戻った雉野は眠れるみほを見つめながら、みほを傷つけた相手(偶発的ながらこれが犬塚なのが実に鮮やか)に対し、憎悪の炎を燃やす。
(許せない、許せない……絶対に……!)
その愛情は強すぎる執着――欲望となって雉野は鬼へと本能覚醒し、本当にメンバーから鬼が出たところで、つづく。
……シルエットからすると鳥人鬼では無さそうですが、なんとなくサイレンダーっぽさ。
次回――おかえりタロウ、サヨナラつよし?! 君は命の輝きを見る。
ジロウの正体というか変身は予告でばっちり明かされ、山間の映像から始まったので、てっきりクマブラザーを連れたキンタロウ(酒呑童子伝説と接続?)辺りかと思っていたら、まさかの孫悟空(桃との繋がりは、かつて天界で仙桃の番をあてがわれていた辺りでしょうか)。
そう明らかになってみると、金斗バス(きんとうん)・華果村(花果山)・中華風衣装、と布石は散りばめられていたのですが、予想もしない『西遊記』参入によりむしろお伴なのではというか猿が被り、これまでどちらかといえば安全圏に居ると思われていた猿原に、リタイアの危機迫る。
(タロウ猿鬼犬雉-猿雉)=3+(ジロウ兼猿+豚沙馬)=4、と考えると、7人パーティは過去に複数の実績はあり、本邦の著名な翻案にあやかり真ヒロインたるみほちゃんが三蔵法師ポジションに昇格でしょうか。
その場合、都合良く上半分だったサルとキジに代わってロボゴクウが両腕&肩となり、ブタブラザー・サゴブラザー・ウマシスターが下駄とバックパックにくっついて、完成・ドンテンジクン! でガンダーラガンダーラ。