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きいてわらえおどろけ

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第13話

◆ドン13話「さよならタロウ」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹
 君たちと一緒にされるのはなんか嫌だ、とヒーロー仲間として追求されるのを避けるマスターが徹底して話題を逸らす中、どんぶらに集められた4人のドンブラザーズが顔合わせしながら状況を整理していると店内で迷惑おばさんが露骨なクレームで騒ぎ出すが、漆黒のホストムーヴでマスターが場を収め、喫茶どんぶらには、ドンペリが、あった。
 さすがにこれだけ明確に顔を突き合わせると、雉野にロン毛回の事を追求しなくて良いのか、という気にはなりますが、本人があまりに朗らかなので、怖くて誰もツッコめないのか。
 ソノーズを排除しようとする明確な意志がある事が確認されたタロウは、共に戦うお伴たちに向けてリーダーとして一言を求められ、「集中力の欠如」(鬼)「自信の欠如」(雉)「うぬぼれが強く自己陶酔的」(猿)と、それぞれの欠点を力強く指摘。
 傲岸不遜で他者の心情を推し量れないタロウだが、褒めて伸びる、と言われるとなにやら考え込み、“今の自分”を変えていきたい意識は見せるのが上手い愛嬌の付け方で、ネガティブ要素を持った主人公の好感度コントールとしては、お手本のような作りであると共に、“変化”への期待を持たせます。
 「……褒めれば、伸びるのか?」
 「伸びる伸びる」
 「…………あんた達は…………」
 意を決して仲間を褒めようとしたタロウだが、言葉を詰まらせるとバタリと倒れ、褒めるところが無かった。
 雉野が手を挙げてから脈を取りにいくのが絶妙に面白く、診断結果は――
 「脈が無い。死んでます」
 かくして、桃井タロウが本編2回目の心停止を起こしていた頃、ソノイはスケッチブックを広げて富士山に向かっていたが、その手は震えるばかりで動かない。
 (……駄目だ。描けない。やはり芸術とは、人類独自のもの。人間の欠陥を塗りつぶそうとする虚飾。完全なる脳人には、縁が無い、か)
 完全なるもの(自然の姿)を不完全に書き写そうとする、或いは、不完全なもの(人間)を完全であるかのようにねじ曲げる行為としてソノイは「絵画」を捉え、どうやらアジトの壁にかけられていた名画の数々はソノイコレクションだったようですが、人類独自の不完全なる文化として「絵画」を否定的に捉えながらも、その不完全さをこそ求めようとしているソノイの矛盾は面白く、この先ソノイが、完全なる静穏の美だけを許容するのか、それとも不完全なる人間を受け入れられる日が来るのか……「完璧超人」としてのヒーローが「欠落」を手にしていく要素も重なって、上手く広がっていってほしいところ。
 そんなソノイ、ナンパ男に速効で裏拳を叩き込むソノニ、馬鹿笑いをしては気味悪がられるソノザのそれぞれに、元老院からの伝令が接触
 「元老院から、謎の敵に関する解答あり。敵の正体は、滅亡した王家、ドン家の末裔、ドン・モモタロウ。現在、ドンブラザーズのリーダー」
 ドン家(笑)
 「ドン家は滅亡する前に、モモタロウを人間界に、送り込んだ」
 21年前――時空の裂け目から桃型カプセルに入って人間界へとやってきた赤ん坊は異界の王家の生き残りと明らかになり、しめしめ、この子を育てれば、きっと本当の親からばくだいなしゃれいがもらえるにちがいない。
 ……ではなくて、タロウの素性は、貴種流離譚とかなりストレートに接続。
 ところで第1話の感想で、


 名前にドン・服が赤い・サイケ空間における扉を開くと別の場所へ飛ぶギミック・『宇宙刑事ギャバン』誕生40周年……つまり、ドン・モモタロウは、暴虐なる宇宙刑事の手を逃れる為に桃型スペースカプセルに乗せられて別の時空へと脱出させられたドン・ホラーの忘れ形見

 と書いたのですが、あまり間違っていませんでしたね!!
 「まさか、あの赤の戦士が、ドン王家の者だったとは」
 「全員処刑されたと、聞いていたが」
 「ドン家の者は脳人が住む世界、イデオンを壊滅させようとした。人間界での脳人と人間の共存を唱えて」
 当然、イデアプラトンの言う「どんな物にも存在する永遠不変の真の姿」)から来ているのでしょうが、固有名詞をそうされると、伝説の巨神の力が銀河を切り裂きそうでドキドキします!
 ちなみに、「イデア」とは、「見られたもの」「見られた真の姿」という意味であり、個物にとっての目標、範型、基準――理想の姿を示し、「イデア界」=現象の原型が存在する完全で永遠不滅の世界/「現象界(現実世界)」=感覚によってとらえられ、絶えず変化する不完全な世界、と置かれるので、今作における脳人世界と人間世界の関係は、かなりそのままプラトンの思想をベースにしている模様。
 プラトンの思想においては、例えば、真なる姿としての「円のイデア」が存在するからこそ、現実世界における歪んだ円でも人はそれを円と認識できる、という理屈なのですが、それを踏まえると今作世界では、人間が過剰な欲望に囚われて精神が歪むと、その影響により、完全であるべき脳人世界のイデア(或いは脳人がイデアだと思っているもの)に歪みが生じてしまう、といった力関係なのでありましょうか。
 ……今作を見ていてなんとなく、「影法師」という単語がちらついていたのですが、二つの世界の関係性としてすると共に、完全なる世界はすなわち停滞した世界である、といったテーゼも入ってきそう。
 それからもう一つ、先日のキビポイント事件のように、舞台上の役者が、その影と入れ替わる、といったイメージも影に関連して付きまとっているのですが、さて、劇中でどんな理屈がつきますか。
 「その罪の重さは計り知れない。生き残りが居るなら……必ず倒す!」
 貴種流離譚の基本的構造は、「高貴な血統の者が、ある罪を犯した事で追放され、苦難の旅を強いられる事になる」といったものですが、追放した脳人側からの「罪」モチーフが明言される事により、桃井タロウはモモタロウであると共にスサノオ(やそれに連なる存在)でもあると、その神霊としての性質がハッキリする事に。
 とすれば、戦闘中のドンモモタロウはやはり、神霊の荒ぶる一面が出ているのであり、そう考えると、お伴=お供(え)であり、一種の人身御供としての意味もあるのやもしれません。
 そして、「逆転/反転」が今作のキーギミックである事を考えると、祀り上げを怠り扱いを間違えたその時、ドンモモタロウは棄てられた神となって、世界に祟りをなす怨霊(鬼)と化すのかも。……ドン・モモタロウの人間界への脱出を「流罪」と捉えると、怨霊になる条件は揃いすぎるほど揃っていますし。
 3Gだった元老院との通信タイムラグにより、8話越しに桃井タロウの素性が明らかになっていた頃、美容院で散髪中の犬塚は某天堂センパイの得意技だったいちゃいちゃ回想にふけっており、夏美が元美容師志望(腱鞘炎で断念)と判明して、隙あらば視聴者の内蔵をえぐってくるスタイル。
 隣でパーマをあてていた迷惑おばさんに絡まれるも、触らぬ神にたたり無し、と犬塚は無視を決め込み、桃井タロウの神霊的性質が裏付けられるエピソードで、こういった台詞を選ぶ事でちょっとした引っかかりを作ってくるのが、相変わらず上手い。
 ハードボイルドセンサーにより危険を回避した犬塚は、同じくハードボイルドセンサーによりヘルプで出勤してきたみほと鮮やかなニアミスを起こし、みほちゃんに絡んでキュッとしめられる事の無かった迷惑おばさんは、今度は洋服売り場で一悶着を起こすと、シュプレヒコールを受けて退散。
 家族は既になく、社会との縁を失って、わざと迷惑行為をしてまで他人に関わってもらおうとする寂しさを激白した迷惑おばさん(実際こういうタイプの人は居るので、凄く嫌なリアリティ)の姿に鬼が重なり……後で獣電鬼とハッキリするのですが、恐竜の頭蓋骨を模した肩アーマーに、ドレッドヘア風の頭飾りに電池の意匠が組み込まれているのが、面白い落とし込みのデザイン。
 「なぜ汚物のような欲望にまみれる。心を浄めろ。命を落とさぬ内に」
 通りすがりにひったくりを鉄拳制裁していたソノイは配達中のタロウに出会い……てへっ、見られちゃいましたね、みたいな微笑を浮かべるソノイーーー!
 こんな方向性で面白くなるなんてソノイーーー!
 「あんたもよくやる」
 「……言ったでしょう。私は人間の過剰な欲望を憎む、と」
 「そうだったな」
 二人の友情ゲージは連続エンカウントによりメキメキ上昇していき、ビルの屋上でイベント発生。
 「……どうかしましたか? 少々元気がないようだが。また嘘をつけないせいで問題が?」
 喫茶どんぶらで心停止に陥るも蘇生後、苛立つ猿原から、お供の有り難みを知れ、と戦闘のボイコットを宣言されていたタロウは、嘘をつかねば円滑に成立しない、浮き世の人間関係にちょっとしょんぼり。
 「……以前、あんた言ったな。美しい嘘もあると。だが、なかなか難しい」
 「あなたはそれでいいんですよ。あなたは、私の希望です」
 「妙な事をいう」
 「本当のことです。あなたのような人が増えれば、私の心は安まります」
 穏やかな表情と声音でタロウに語りかけるソノイの役者さんが大変いい味を出しており、当初は希望職種クール系で独自の美学に生きる変態美形路線だとばかり思っていたのですが、まさか、こんな出汁が取れるとはっ!!
 「……ところで、変な事を聞くようですが、あなたには倒したい相手がいますか?」
 「…………居る。本能がそう命じる相手が」
 タロウの脳裏に思い浮かぶのは――バロム仮面。
 「私にも……居ます」
 ソノイの脳裏に思い浮かぶのは――高笑いする赤の戦士。
 「……もし、俺たちがその相手を倒せたら、なにか美味いものでも食うか」
 「美味いもの?」
 「そうだなぁ……おでん、とか。夏のおでんもいい」
 「おでん、とは?」
 「あんた、おでんも知らないのか。変わってるな。いいだろう。俺が教えてやる!」
 「それは、楽しみです」
 他人に「変わってるな」と言えるのがちょっと楽しそうなタロウはソノイとおでんの約束を交わし、訣別を間近に感じさせるからこそ儚く美しい約束、互いを宿命の敵と知らぬままの邂逅は、これが男と女だったら典型的なメロドラマであるように決して目新しい構成というわけではないのですが、片や鬼と成った人を消し、片や人の成った鬼を祓い、人間を挟んで二極に立つ超人同士だからこそ“繋がってしまう”、今作を貫くと見える反転と接続のモチーフに基づいている事で情感をたっぷりと含み、世界に馴染みきれない超人の孤高さを強く浮き上がらせる事に。
 井上敏樹はかつて、父・伊上勝の描いてきたヒーロー像について触れた文章(詳しくはこちらの過去記事で触れています→■〔『伊上勝評伝』読了〕)の末尾で、


 その後、ヒーローたちはおずおずと理想の座から降り始める。気持ちはわかる。きっと尽くすだけの立場が馬鹿馬鹿しくなったのだ。ヒーローたちは我々に交流という報酬を求めるようになる。だが、これはまた別の話だ。

 と書いており、今作これからも、その段階を描いていく事になりそうですが、ソノイらとの関係も含めて、2022年の井上敏樹のヒーロー論がどう展開していくのか(この文章は2011年頃のもの)、楽しみです。
 なお、『伊上勝評伝』はなかなか面白く、特に井上敏樹による「回想 伊上勝」は実に名文なので、お薦め。
 「じゃ、俺は仕事に戻る」
 「また、お会いしましょう。検討を祈ります」
 ソノイと分かれた直後、ドンブラスターに撃たれてタロウは転送。
 「もっと構えぇ!」
 そこでは迷惑おばさんの変じた獣電鬼がサンバのリズムで暴れながら放電しており、荒れるぜ! 止めてみな!!
 「俺が来たぜぇっ!!」
 突撃してきたドンモモが、斬撃そして頭突きを浴びせていた頃、ボイコットメンバーは、まさかのチェンジ拒否(笑)
 いきなり目の前にドンブラスターが出てきて撃たれるのもだいぶ悪質ではありましたが、そうか、撃たれる前に、手に取って回避できたのか……!
 ドンドン呪い慣れしていくお伴たちに代わり、戦いの場に現れたのは、バロム仮面。
 「ドン家の者! おまえは存在してはならない裏切り者! ――必ず倒す」
 「貴様は、人の命を軽んずる者。存在してはならないのは、おまえの方だぁ!」
 本日は大変気合いの入っているバロム仮面と、改めて戦う理由を口にしてヒーロー宣言を行ったドンモモタロウは激しく切り結び、相打ちとなると変身の解けた姿で先程のビルの屋上に転がって、お互いを愕然と見つめ合う。
 「……まさか……あんた」
 「そういう事でしたか」
 この世界で、“通じ合った”理由を、知ってしまう二人。
 「……あるんだな、こんな事が」
 「こうなった以上、おでんの約束は……」
 「ああ。あり得ないな」
 いや、あってもいいよ!?
 「…………あんた、名は?」
 「――ソノイ」
 「……残念だよ、ソノイ」
 「ええ。私も……残念です。とてもね。…………ところで、最後に一つ、聞きたい事があるのですが――」
 ところで、の重ねが印象的になった会話の途中で場面が切り替わり、引き続き荒れている獣電鬼に力強く斬りかかるドンモモタロウ。そこへ黒が召喚されて状況に困惑していると、コンドール仮面とスター仮面がドンモモを狙って参戦。
 さすがのドンモモも、ソノーズとの2対1では苦戦を強いられ、様子を見に来たお伴が3人。
 「あの、やっぱりまずいんじゃ?」
 「耐えろ。桃井の為だ。これでヤツも、謙虚さを学ぶ」
 ボイコットを続ける猿鬼雉だが、巻き込まれて放電攻撃を集中されるイヌは、大変迷惑そうだった(笑)
 「もう我慢できない! アバターチェンジ!!」
 追い詰められるドンモモの姿に、なんだかんだで一番最初にボイコットを終了するのが猿原なのは良いところで、鬼と雉も続けて笑顔で変身すると、援護攻撃。
 「待たせたようだな!」
 「跳び箱かと思ったぜぇ!!」
 少しずつ“戦隊”である事の意味が積み上げられていくも直後に物扱いから、零距離快桃乱麻の直撃により、コンドール仮面とスター仮面は撤収。
 「いいですね! やっぱりこれ、いいですね」
 「どうだ。少しは反省したか?」
 「はーっはっは! 俺の足を引っ張るなよ。おバカ達ぃ!」
 ランクが、下がっていた。
 好感度を上げるには、エンカウントはともかくプレゼント攻勢が足りていないのではないか、と5人揃ったドンブラは早速ロボタロウし、必殺奥義でドン・ドン・ドンブラザーズ! から雄叫びが電光石火の一撃を呼ぶ大合体。
 「おバカども、足となれ!」
 あーんど
 「おバカども、腕となれ!」
 最後に腹筋ついてドンオニタイジンとなり、よっ、銀河一!
 「行くぞ、おバカたち」
 戦うか戦えるか、内心だいぶ根に持っているのかもしれないタロウを主体に、オニタイジンは獣電鬼に斬りかかるも三倍のスピードで動くサンバ回避に攻撃が当たらないが、口から飛び出すキジミサイルで雉野がまたも暗黒面を覗かせると、オニキックでよろけたところに必殺の技が撃つのは我が身なのかとドンブラパラダイスを叩き込んで、鬼退治、完了(ところでパラダイスの際に剣に突き刺さる桃が“6つ”なのは、ちょっと気になるところ)。
 迷惑おばさんの鬼は祓われ、一件落着……と思われたその時、不意にふらついたドンモモを、頭上高くから襲いかかったバロム仮面が、一桃両断!
 「馬鹿正直が徒になったな。ドン・モモタロウ」
 互いの正体を知っての別れ際、完全に敵対モードに入ったソノイは「おまえの弱点はなんだ」とタロウから聞き出しており、ここ数話、好感度を稼ぎまくっていたソノイが、ヒーローの弱みを躊躇なく利用して不意打ちを仕掛けるパーフェクトな悪役ムーヴを決める、これもまた、逆転。
 「おまえは私の絶望だ。消え失せろ」
 「貴様……」
 不完全なる者の中に見出された希望は、同類の裏切り者でしかなかった絶望へと反転し、訣別の一撃でタロウを切り裂いたソノイが背を向けて去って行くと、オニタイジン使用後の数秒間パワーを失う弱点を突かれ、変身が解けガックリと膝をついた桃井タロウ、消滅……!
 なんだかんだと皆で直接集まる程度にはチームらしくなってきた矢先に、そうは問屋が卸さないとまさかのリーダー脱落で、次回――なんか凄いの来た。
 とにかく一筋縄ではいかない『ドンブラザーズ』、脳人大勝利でドンモモタロウ退場、の強烈な一撃が振り下ろされましたが、出来れば次回ソノイには、赤提灯のおでん屋に一人で立ち寄って、「なるほど。これがおでんですか……人間の作るものは、やはり不完全ですよ。……桃井タロウ、もしあなたがここに居たら、違ったかもしれませんが」とかやってほしいですね!!