東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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「すき」なことをしんじるちから

 一ヶ月ほど空いてしまったので……

-これまでの『あばたろう』-

 むかしむかしあるところでおじいさんがジョギングをしていると、次元の亀裂から大きな桃がどんぶらこーどんぶらこーとながれてきました。
 しめしめこれでひとやまあててやるぞ。
 おじいさんが桃に手を伸ばすと、なんと桃の中には玉のような赤ん坊が入っているではありませんか。
 この子を育てれば、きっと本当の親からばくだいなしゃれいがもらえるにちがいない。
 おじいさんは赤ん坊を「タロウ」と名付けて育てることにしましたが、みせいねんしゃりゃくしゅのようぎでつかまってしまいます。
 そしてときはながれ……
 ムショ暮らしにもすっかりなれたおじいさんのもとを、ごしきだ◆$%となのる青年が訪れます。青年は、おじいさんのけいきをたんしゅくする代わりに、かたりべとしてゲームに手を貸さないか、と取引を持ちかけます。
 タロウに会いたい……。
 里心のついたおじいさんはいちもにもなくこれをうけいれ、呪いのサングラスを手に入れたあわれな子羊たちに、あることないこと出鱈目を吹き込むしごとを独房のなかで始めます。ついでに、桃井タロウに出会ったらひざまづいてちゅうせいをちかえ、とてきとうな事をつけくわえる事にしました。
 いまのうちからこねくしょんをひろげて、出所したらたろうと会社を興すぞ!
 ゆめはでっかくひろがります。
 はたして、おじいさんの野望は叶うのか?! そして、サングラスの呪いに巻き込まれたはるかたちの運命は?! 謎のヒーロー軍団・脳人、そしてマスタードンブラの真の目的とは何か。踊って笑って戦う先に、目指すはドンとハッピーエンド。老いも若きも誰も彼もが集まって、合い言葉は一つ――イエス・ドンブラ!

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第8話

◆ドン8話「ろんげのとりこ」◆ (監督:加藤弘之 脚本:井上敏樹
 桃井タロウさんは変身すると暴れん坊になってお伴のレベル不足が許せないんだ! と、微妙に未確認な事項を登場人物のモノローグで事実認定してくる富野メソッドで始まり、今日も小さな人助けにアバターチェンジを使うむっきむきー。
 今回、普段ちょっと出番少なめな犬のターンという事で、バトル以外で猿原の出番は冒頭だけなのですが、木の枝に引っかかった風船を取ってあげるが子供は実は風船を空へと飛ばしたかった、というのは定石を少し外しつつ猿原の親切心が決して無駄にならない上で物語性に広がりがあって、無性に染みる良い場面でした。
 猿原が青空に飛んでいく風船を見つめて一句詠んでいた頃、愛を探すソノニは新たなナンパ男に愛の言葉を語らせるも、判定は不合格。
 しつこいナンパ男がソノニに追いすがると、通りすがりのハードボイルド気取りが割って入り、逃亡者ゲージの高まっている時の犬塚にはどうも、某風都の方の探偵と同じ匂いを感じます(笑)
 「ドライブなら俺が付き合ってやってもいいぜ?」
 洒落た会話の応酬! から、実力行使! で男を追い払った犬塚はポケットに両手を突っ込みながら無言で離れてハードボイルド3段認定を決め、たぶん今、心の中で口笛を吹いています!
 戦いを終えた男には、(指名手配中だけど)瀟洒なカフェが似合う、とオープンカフェで一休みしていると、後をついてきたソノニが愛の言葉を要求し、その様子を、契約を取れずにへこたれていた雉野が見ていた。
 その頃、タロウは車上荒らしに絡まれており、3秒後に惨劇の予感……!
 「――何故、この世の平穏を乱すのか。何故自らの静けさを求めぬのか」
 だが、世紀末桃太郎伝説開幕寸前、正義のヒーローがその場に現れ……多分これは、視聴期間に間が空いたのがプラスに働いたのだと思うのですが、それっぽい事を言いながら真っ青なズボンが画面に入ってくるだけで面白い(笑)
 「出た出たかっこつけ正義の味方!」
 ソノイは身の程知らずのチンピラ達を、デコピンで軽く制圧。
 「あんた、腕が立つな」
 「どうやら余計な事をしてしまったようだ。あなたが本気になれば、あんな奴ら相手ではないでしょう」
 意外や、初対面の人とまともに会話をしようとする時は、丁寧語でした。
 「……俺は人は殴らない」
 だけど豆はぶつける!
 タロウは、某、人は殺さない代わりに口を割るまで骨を折っていく闇の騎士のように、色々と言い抜ける手段を開発していそうでワクワクもとい不安です。
 「素晴らしい。……宅配のお仕事ですか?」
 「ああ。だが、俺が運ぶのは荷物だけでない。幸せを運ぶ」
 「またいずれ。不思議ですね。あなたとはまた会える気がする」
 なんだか能力を認め合った二人はそこはかとなく微笑を浮かべつつ、完全には噛み合っていないやり取りをかわし、主役ヒーローとライバル候補の、良い感じの邂逅でした。
 悠然と歩み去って行くソノイ、カラーコンタクトを用いた色彩の統一徹底や光彩の強調(これはエフェクト乗せているのか?)が異質な雰囲気の上乗せに効果を発揮しており、役者さんもはまって実にいい悪役に育ってきていますが、どんなに格好つけても、膝丈のズボンと首回りのひらひらが目について愛嬌になるのが、実に絶妙なデザイン(笑)
 膝丈ズボンに、こんな戦闘力があったとは。
 一方、ソノニからのアプローチをあっさり袖にした犬塚のハードボイルドな俺ロールプレイ、じゃなかった、大切な人を想う気持ちを本物だと見た雉野は、無実の主張を今度こそ信じる事にした、と犬塚を呼び止めて謝罪し、ひたすらいい人路線。
 「犬塚さんには、本当に大切な人が居る。だから……」
 「それがあんたの人を見る判断基準か」
 ソノイとちんぴらのやりとりもですが、作品のテーゼに関わる要素をさりげない台詞で散りばめてくるのがアクセントになって、場面転換と会話を続けながらも緊張感を生み出すのが、上手い作り。
 「……という事は?」
 「はい。僕にも居るんです。大切な人が」
 はにかむ雉野の姿に、逃亡犯である犬塚が一つの街から離れないのは、恋人ナツミと出会った思い出の街だから、と婚約指輪まで渡す関係であった事が回想で明らかにされ、雉野もまた、みほと出会ったのはこの街、と回想が続くと、振り返る方向が逆に始まり、パーソナルカラーが黒と白、回想の季節が夏と冬、とナツミ/みほ、の対比を徹底。
 「どういう人なんだ? みほさんって」
 「明るくて、優しくて、頑張り屋さんで……」
 「ナツミと同じだ。ナツミの笑顔は最高だった」
 「みほちゃんもそうです!」
 立てこもり回で浮かび上がった、雉野妻と犬塚恋人が瓜二つ? の不穏な要素が早めに確認されたのはスッキリして有り難く、視聴者には胃の縮む思いをさせながら、かぶせ気味にのろけだす二人(笑)
 ハードボイルド逃亡犯プレイはどこへやら、久方ぶりに心置きなくのろけられる機会と相手に素の出る犬塚に対し、妻自慢の加速する雉野は、匿うのは無理だが、貴様にみほちゃんの手料理を食べさせてやるぜ! と犬塚を夕食にさそい、視聴者には物凄く不穏な要素を媒介に、何も知らずに雉と犬がほのぼの仲良くなっていくのは、非常に秀逸。
 「写真とか見ちゃいますぅ? 僕とみほちゃんのー、ラブラブのやつ」
 「…………やめとこう。折角これから本人に会えるんだ」
 写真立てで顔を見るニアミスの処理も鮮やかに決まり、近づく運命の修羅場(まあひとまず常識の範囲では「驚くほどそっくりさん」という認識になる筈ですが)。
 ところが、帰りの遅いみほは、理想のモデルを求める執着の末に鬼と成ったロン毛の画家により、キラキラ輝く為に僕らは巡り会ったと思うからと不気味なアトリエに連れ込まれており、今作の初縛られは、まさかのセミレギュラー一般人枠となって、どこかの邪心にまみれた少女漫画家と違う、これがホントのヒロイン力ってやつさぁ!!
 なお、どこかの邪心にまみれた少女漫画家は、今作の初水落ち担当でした。
 あと多分、初吊られがまだの筈。
 雉野みほが急速に真ヒロインとして台頭してきた頃、ビル火災に行き合ったタロウとソノイは取り残された市民を救う為に火災現場へと突入し、「諦めるな! 貴様は戦士、俺も戦士だっ」。
 つい『鳥人戦隊ジェットマン』の某エピソードを思い出してニヤニヤしてしまいましたが、二手に分かれると、ソノイも普通に変身した(笑)
 意外と生身は脆いのでしょうか、脳人。
 一方、スケッチブックを滑り始めた線が常軌を遙かにはみ出してしまったロン毛の画家に拘束されていたみほだが、言葉巧みに散髪させるように仕向けると、切っ先アンストッパブル
 ばっさりハサミを入れた画家自身のロン毛で逆に画家を後ろ手に縛り上げて雉と犬の救援を待つ事なく自ら窮地を脱し、ヒロインはヒロインでも洋画アクションジャンルでした!!
 如何にも雉と犬が手を組んで助けに来そうな展開から(それを見たくさせる誘導が巧い)予想の覆し方が鮮やかでしたが、切り落とした髪で画家の手を縛り上げる早業もさる事ながら、身動きの出来ない画家を突き倒した後、一瞥する際の表情が明らかにこれまでとキャラが違っていて……今回で一気にみほがヒロイン力を上昇させつつ存在感を高めてきたのはお見事。
 のろけ熱が冷め、ハードボイルドゲージを再び高めて雉野家を辞した犬塚はアトリエから逃走してきたみほとすれ違い、みほを心配して捜し回っていた雉野はみほと無事に出会うが、直後にみほを追った画家が姿を現す。
 「俺のモデルを返せぇ……!」
 「アバターチェンジ!!」
 気を失ったみほを優しく地面に横たえてから怒りのアバターチェンジは格好良く決まり、《戦隊》的な揃い踏みは意図的に外している今作ですが、要所要所でしっかりヒーローらしい格好良さを描いてくれるのは、手堅く嬉しい。
 「許せない……許せない許せない許せない許せない! 許せない!!」
 キジブラザーが邪メンタルに目覚めかけていた頃、タロウとソノイは、お互いの救命活動に賛辞を送り合っていた。
 「私は、人間の命は何よりも尊いと思っています。だが、条件がある。……私は人間の過剰な欲望を憎みます。それはきっと――世界を滅ぼす」
 「……かもしれないな」
 躊躇無く火事場に飛び込む姿(典型的ヒーロー行動)で、ソノイはソノイの理屈で人命と(脳人の)世界の平穏を願っている事を強調し、作品としてかなり際どい要素に切り込む姿勢を見せつけてきましたが、無数の地雷網を抜けて走り抜けられるのか、この先どう転がしていくのか楽しみです。
 負傷者を収容した救急車が画面手前を通り過ぎると、共にその場から消えているのは定番ながら格好良く決まり、憤怒のキジはイカっぽい鬼(魔進鬼なのですが、『キラメイ』にイカ要素が思い浮かばず……これが「ヒラメ」なら納得はいったのですが)と戦闘中。
 そこに青黄黒が召喚到着し、後は真打ち……て、先にソノイが来たーーー!(笑)
 そしてきっちり、バイクの後輪でオニシスターを跳ね飛ばして、ヒーローのイニシエーションも達成。
 ソノイが変身すると、直後に神輿に乗ったドンモモが現れてバロム仮面へと斬りかかり、両者の因縁の強調もテンポ良く進行。ドンモモは動物・烈車・警察・怪盗への連続変身から、リュウソウギア×こももロボでこももアミーゴにとチェンジの釣瓶打ちでソノイと激しく衝突し、必ずしも巨大戦を入れない事による作劇の幅も巧く機能。
 「この力……倒すのは惜しい」
 一方で、両者の激突が始まった途端に怪人が蚊帳の外のデメリットは発生してしまい、なかなか両取りしきれない問題はありますが、その怪人に向けて赤が狂乱怒濤ブラストパーティを放とうとすると、桃が邪魔に入って必殺の光弾は目標を外れ、俺の獲物を横取りするな! みたいなやつ……? と困惑していると、その一瞬の隙を突いて、バロム仮面様の剣がイカ鬼に一閃。
 「欲深き人間よ消去する」
 ……ぉ、おお!
 イカ鬼は消滅し、マスターの元にはキラメイギアが出現し、どうして桃がバロム仮面に「あの人は!」と反応しているのかと思ったら、バロム仮面に憎き鬼を消し去らせる事を思いついて実行したのは強烈な一撃で、『あばたろう』嘘あらすじとか書いている場合では無かった!
 戦闘が終わると強制ログアウトされる為に問題の追及ができないドンブラシステムも巧く機能し、ハイ解散。
 そして上述のように、タロウとバロム仮面の因縁強化とバトルは良かった一方、それまで焦点の当たっていたキジvs怪人が空気になってしまう問題があったのですが、フレームの外に弾き出されていたキジがそのソノイを利用して真の目的を果たす逆転が鮮やかで、だからこそ、多少強引にビル火災に突っ込んででも、タロウとソノイの邂逅と対話はこのエピソードでなくてはいけなかったし、その両者に注目が逸れたからこそ、キジの悪意が隠れた刃となって深々と突き刺さるのが、見事な組み立ててでした。
 (あの男はみほちゃんを襲った。そんな奴は……この世にいちゃ、いけないんだ)
 一人の人間を意図的に抹消しながら妻と笑顔で朝食を囲む雉野が大変怖いのですが、
 (みほちゃんは僕が守る。絶対に。――たとえ相手が誰でも。何をしても)
 窓から入ってきた風にカーテンが広がると、その作り出す暗がりの中に雉野の冷たく鋭い表情が浮かび上がってトドメを刺し、この戦隊のいい人枠かと思わせておいて、ただのいい人では無かった!
 凡人であるがゆえに、手札が揃ってしまった時にそれを止める強さを持っていないかもしれない雉野の行動と、その背を押す「愛」の存在が善悪を超えて浮かび上がるのは実に井上敏樹らしく、ここまでの積み重ねが綺麗に活かされて、ソノニのピースも余すところなくはまり込んで、お見事。
 恐らく今作、「逆転」という要素を意図的に組み込んで作られていると思うのですが、ソノーズも参戦しての登場人物の錯綜に井上脚本の十八番が唸り、加藤監督の演出もキャラクターそれぞれの表情を引き出して光り、風船に始まり雉野に終わる大小幾つもの「逆転」が巧みに組み合わされて1エピソードを成し、実に面白かったです。
 犬たてこもり回レベルの出来が次にいつ来るか、が期待と不安と半々だったのですが、早くも来てくれて大変嬉しく、また前回ちょっと相性微妙な危惧の芽生えた加藤監督が今回は見事にまとめてくれたのも、今後に向けて明るい材料。
 次回――ロボがタロウでタロウがボロで。