『恐竜戦隊ジュウレンジャー』感想・第15話
◆第15話「破れ!暗黒超剣」◆ (監督:坂本太郎 脚本:杉村升)
気弱ないじめられっ子の弟・茂を、「舐めた真似されたら殺せ」と室町仕草でどやしつける姉・律子の姿に、かつて同じように両親を早く亡くし、気丈な姉・オトメに育てられた自らの少年時代を思い返すゴウシ。
ドスは両手でしっかりと握って、脇の下から斜め上に向けてえぐり込むように刺すべし刺すべし! 刺したら一度ひねってすぐ抜くべし!
だが姉は、バンドーラとの戦いの中でゴウシにナイトの生き様を伝えると炎の中に消え……作風は明るめながら、超古代の戦乱を体験しているメンバーそれぞれの過去は重量級。
「姉は俺の代わりに死んでいったんだ! だから俺は、今でもそれを思うと……!」
このやりとりを月からちゃっかり盗み聞きしていたバンドーラ様は、ジュウレンジャーのリーダーはゲキだが、チームを支えているのは「一番年上だし、頭もちょっとキレる」ゴウシであると標的を定め、ゴウシが見た目強面の割に一歩引いた立ち位置だったのは、最年長者として皆を支える役目を自認していたから、とこれまでのキャラクター性と接続。
また過去の回想を見るに、ゴウシは見た目強面の割に恐竜ヤクザとしては穏健派だったようで、“気は優しくて力持ち”の実写落とし込みパターンといえますが、後の『ギンガマン』のゴウキに繋がる源流といった雰囲気も感じます(ゴウシから、ハヤテとゴウキに枝分かれしているというか)。
そしてバンドーラ様に狙われているとは知らない茂くんの誕生日当日――クラッカーを鳴らして庭から乗り込んでくるジュウレンジャーの皆さん(笑)
そこに不吉な記憶を呼び起こすチャイムが鳴ると、サプライズプレゼントとして配達員(体型と芝居からしてトットバットとブックバックのスーツアクターさんでしょうか)に扮したバンドーラ一味から戦闘員が届けられ、ジュウレンジャーを呼び込んでしまった為に、誕生日は大パニック!
混乱の中、ブックバックとトットバットによりさらわれた茂は、魔界最高の剣デュランドルを鍛える為に利用され、冒頭から過去の戦死事例が描かれたとのは一転、剣を打つバンドーラ一味が物凄く楽しそう(笑)
バンドーラ一味が「楽しい悪事」ではなく「悪事を心の底から愉しんでいる人たち」として描写が一貫しているのは今作の長所であり、客観的には「悪」そのものながら、バンドーラ様主観では「楽しくて仕方がない行為」である事に充分な説得力と愛嬌を与える曽我町子さんの存在が本当に光ります。
脅されて鋼の鍛錬に加わった茂少年の鎚捌きも段々とノリが良くなっていき、満月の光を浴びて輝きを放つ刀身にバンドーラ様が悪霊のパワーを放つと、魔剣デュランドルが遂に完成。
そしてそれを手にするのは、漆黒の騎士・ドーラナイト!
助けを求める茂の声が律子を呼び、その後を追ったゴウシはバンドーラ一味の罠にはまってしまい、デュランドルを手にしたドーラナイトがゴウシの命を狙って姿を現す。両者の戦いは一味によってジュウレンジャーに向けて実況中継され、テンション上がるバンドーラ様の可愛げが、今回も全力全開。
仲間たちがTV画面に釘付けになる中、ゴウシとドーラナイトは激しく激突するが……
「あぁ?! 伝説の武器が!」
こ、壊れた……(笑)
序盤の見せ場としてはむしろ大獣神よりも輝いていた伝説の武器の扱いが急速に冷えていって、永遠の相棒の誓いが遠く霞んで見えなくなっていきますが、ダイノバックラーにより辛うじて踏みとどまるマンモスレンジャー。
「どうしたらいいんだ、どうしたら……」
圧倒的な対光属性を持った魔剣デュランドルの前に手も足も出ない黒だが、人質とされている律子・茂の叫びに、亡き姉より伝えられた、人のため世の中のために働くナイトの魂を思い返すと、敵の攻撃を利用して姉弟を最優先で救出。
自らの身を挺して世界を守る事を最優先事項とするナイトの在り方を通して、人質を無視して動いたら人質が白骨化したり、苦戦している芝居で人質に自助努力を要求したりしない、ジュウレンジャーのヒーロー性が描かれる事に。
その一方で、仕えるべき王家も国も(恐らく)既にない、と考える時「「ナイト」というアイデンティティ」は、もはや「前世に囚われている」ともいえる一種の呪いと化しているのですが、思えば続く『ダイレン』『カクレン』も、形は変われど「血の宿業」にまつわる物語の要素を持っており、「ヒーロー」をどう位置づけるのか、の時代のアプローチが見て取れる部分であるのかも。
乱入したグリフォーザの攻撃を受けて黒が斜面を転がり落ちると、それをTVで見ていたゲキの脳裏に、《転落の匠》(剣○竜先輩)から神託下る。
「TVに突っ込むんだ!!」
え、えぇ?!(笑)
ゲキたち4人がブラウン管の中に飛び込むと、ブックバックが構えた撮影用カメラから飛び出して戦場へと辿り着き…………ま、まあ、そもそもゲキ達の居る茶の間のTVに実況中継が映ること事態が不可思議現象ではあったので、なんらかの魔法的なパスを逆に辿っていったのかと思われますが、ホント、異空間ブレイカー(笑)
4人がダイノバックラーして助っ人に入った事で一騎打ち要素が消滅したのは、だいぶ遅くなったゴウシのターンだけにちょっと残念でしたが、この後、クライマックスにもう一つ見せ場が用意されているので、不満は解消。
だが、対光属性を持った魔剣デュランドルの前に赤青黄桃の伝説の武器もボロボロに崩れてしまい、
「伝説の武器たちよ! 今日からおまえ達は、我々の心強い友だ。バンドーラを滅ぼすまで、共に戦わん!」
が、私の中でエコーを引きずりながらフェードアウトしていきます。
ハウリングキャノンも使用不能の危機に陥ったジュウレンジャーは、古代妖精族を通して高速先輩に伝えられた事でも知られる恐竜人類奥義デストロイ組体操を放つもはじき返されてしまい、トドメとばかりにバンドーラ様が 余計な干渉で ドーラナイトを巨大化させると、守護獣召喚で対抗。
しかし、魔剣デュランドルの対光属性は恐竜剣ゴッドホーンさえ朽ち果てた枯れ枝のように変えてしまい、危機また危機。
「ドーラナイト、トドメをさせ! 木偶の坊をズタズタに切り裂いておやり!」
ところがその時、なんだか聞き覚えのあるBGM(過去作品の何かで割と流れていたような……)と共に、戦いの趨勢を見つめていた茂少年が物陰から飛び出すと、巨大ドーラナイトの前にその身をさらす。
勿論、少年の説得など使い切ったシールの台紙ほどの価値も見出さないドーラナイトだったが、何故か魔剣デュランドルを少年に振り下ろす事が出来ず、魔剣はその作成者を攻撃できない弱点が判明。
絶体絶命から逆転の一手が“少年の愛連打、じゃなかった勇気が生んだとされるあやふやな奇跡”などではなく(物語上の意味としては“奇跡”といえますが)、“あまりにも強力な魔剣にかけられた納得可能なセキュリティ”だったのは良かった点で、これに気付いたゴウシは
「ゲキ、茂くんを大獣神に乗せてくれ」
凄い事を言い出した!
「なに?!」
「デュランドルを破るには、それしかない!」
「そんな! 子供をここに乗せるなんて危険よ!」
子供を利用したリアル人間の盾を提唱する電○戦隊ばりの戦術に、反対意見が出て心底良かったです(笑)
「俺の命にかえても、茂くんは守る!」
そこから、ゴウシの抱く「ナイトの魂」、
「茂くん! 勇気を出して、俺たちと一緒に戦ってくれ!」
そして、茂少年が昨日までの自分を乗り越えていく「変化」に繋げたのは、非常に鮮やかな流れでした。
「やるよ、僕!」
ただ守られるばかりでなく、ヒーローと子供が共に立ち向かう時に巨悪を打ち破る構図も美しく決まり、魔剣のセキュリティホールにより対光属性を無効化、復活したゴッドホーンによる下手雷光斬りの一閃により、デュランドルは砕け、ドーラナイトは真っ二つになるのであった!
大獣神の巨大な足先、という珍しいカットから地上に降りた茂は姉と再会し、ゴウシの過去と姉弟にまつわる布石が綺麗に繋がり、端々に飛び出すヒーローの狂気も物語の枠内に収まり、逆境を跳ね返す勝利の構図も納得がいって、ここまででは一番面白かったです。