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しつこいおまわりさん

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第5話

◆ドン5話「たてこもったイヌ」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹
 前回ラストの死に戻りシーンが改めて描かれ、思ったより力強く、攻撃されていた(笑)
 (またしても私たちを攻撃したドンモモタロウ。いったい何故?)
 ……後ろから思い切り蹴りを入れようとしたからでは。
 憤懣やるかたないはるかが、今日こそは話をつけてやる、と桃井タロウとの直談判に臨もうとする一方、スピード違反ぐらいの軽犯罪はした事があるが、断じて指名手配されるような罪は犯していない、と警官から逃げ回る逃亡犯・犬塚翼が、超次元脱出経路を探そうとするも果たせず慌てて呪いのサングラスを落としたところでOPに入るのが、上手いアバン。
 桜満開の4月3日――はるかの訪れたシロクマ宅配便は未だ営業を再開しておらず、宛てを失ったはるかだが、警官に追われる犬塚に巻き込まれ、休業中の事務所に潜り込む事に。
 「運命……一目惚れってやつだ」
 場を切り抜ける為にはるかを口説き始める、犬塚の斜め上の誤魔化し方に大爆笑。
 そっちか……! そっちに行くのか……!
 「君を一目見た瞬間から、息が苦しい。胸が熱い……!」
 元・売れない劇団員か何かだったのだろうか、と思わせる過度に芝居がかった犬塚からのアプローチに対してはるかは……マンガのネタ、ゲットだぜーーー! ぐぇっへっへっへ!
 私生活はマンガの肥やし、To LOVEる is my business、と積極的に乗っかっていき、動揺する犬塚(笑)
 今回もう、ここまでで1エピソード分ぐらいの満足感。
 (※余談ですが、「とらぶる」で変換したら、カナよりも上の変換候補にマンガのタイトルが来て驚いたのですが、これはこれで天の配剤かもしれないと採用した結果、ハードボイルドが消えました)
 「付き合うって、一体どんな風に?」
 「そうだな……まあ、一緒に映画を見たり、お茶を飲んだり」
 人質に利用しようと思った相手のペースに翻弄される犬塚に対し、はるかは無人の事務所で勝手にお茶を入れ始め、鬼じゃ、マンガの鬼じゃ。
 「あるんですね。運命の出会いって」
 (なんでマジんなってんだこの女? どうするよ俺?)
 差し向かいでお茶を飲む二人を照らすデスクライトが大変いい味を出し、100%ハードボイルドな俺プレイかと思いきや、意外と脆い安物のメッキ疑惑の浮上した犬塚、根は割合に常識人なのかもしれません。
 視聴者視点でも事実関係不明な指名手配犯・犬塚の印象が二転三転するのが上手い一方、その代償としてはるかがドンドン無法ヒロイン化していきますが、そもそも盗作疑惑返上の為ならスライディング跪いて忠誠を誓うを何度でも辞さないマンガの鬼であり、メンバーそれぞれ、一度はヒトツ鬼化するぐらいの展開はあるのかも(雉野→鳥人鬼、犬塚→特捜鬼、辺りは割とはまりそうですが、猿原は……激走鬼か?)。
 このままでは人の皮を被ったこの鬼に骨までむさぼり食われかねない……と官憲とは別の脅威にさらされる指名手配犯の窮地を救ったのは、事務所の入り口を激しく叩く音。
 扉を開けるや制止も聞かず緊急事態とトイレに駆け込んだのは雉野で、前回の一件で桃井タロウに礼を言いに来たとそのまま机についてしまい、ますます困った犬塚は、黒いサングラスがポケットに入っていない事に気付く。
 他のメンバーにとっては呪いのアイテムが、犬塚にとっては窮地を脱する魔法のアイテムになっている姿勢の違いも巧妙で(そもそも指名手配された原因がサングラスの可能性は大いにありますが、少なくとも現状、手放せないものになっている)、サングラスを探して段ボール箱をひっくり返し始める犬塚だが、記憶力には自信のある雉野が、その顔にロックオン。
 「……君は、彼とは、どんな関係なの?」
 「付き合ってます!」
 (こんな可愛い子が、犯罪者と?)
 探りを入れた雉野に対して即答するはるかと、回答に驚愕する雉野の間合いも面白く、鍋の中で具材と具材が繋がっていくにつれ、雉野さんの溢れる凡人感から大変よい出汁が取れています。
 犬塚の気が逸れている間に、犬塚=指名手配犯の情報が共有されるが、常時マンガの鬼が憑依しているはるかは、こんなおいしいネタを逃さない、と警察に通報しようとする雉野を妨害。
 (させないわよ……人質なんて滅多にできない経験だもの)
 この異界文書『セッちゃん-FILE』に則れば……ヒロイン度だって爆上がりする筈!
 別の何かが爆上がりしている事に気付かないはるかはニヤニヤしながら茶をすすり、アバターチェンジで事態を解決するべきか悩む雉野は、はるかを怖がらせてしまうのではないか、と考える。
 (なにより、僕が怖い。モンスターより人間の方が、生々しくて怖い……)
 ヒーローの怪人性への自覚に続き、いっそ得体の知れないモンスターとの方が戦いやすいという呟きは、今作の怪人ポジションが人間から生み出される事を考えても思わせぶりで油断も隙もなく突っ込んできますが、なぜヒーローが社会犯罪と戦わないのかといえば、「怪物となって怪物と戦う」事と「怪物となって人間と向き合う」事は別ではないか、という正義感/恐怖を凡人代表としての雉野に触れさせるのは作劇上のアンサーとメタ視点のヒーローテーゼを兼ねて鮮やか。
 裏を返せば、“通りすがりの人助け”はそれに抵触しない――他者と“向き合わない”行為である、と規定されているのは、他者と縁を結ぼうとする事でかえって異分子となっている桃井タロウの存在を考えた時に皮肉ですが、そんなタロウに“通りすがり”性(訪れて去る客人性)を与えているのが、「宅配業者」の仮面というのは、面白い設定です。
 そう見ると、前回のおにぎりコンサルタントは、その仮面を失ってしまった事で“関わりすぎた”のだな、と囚人の親馬鹿トークとも納得の接続。
 そうこうしている内に犬塚が荷物の中から食パンを取り出し、小さな照明に照らされた食パンを、机を囲んだ3人が手で千切る侘しい絵がなんとも笑いを誘い、今回の殊勲賞はデスクライト。
 もぐもぐタイム中、隙を突いて外に飛び出そうとした雉野を取り押さえた犬塚は無罪を弁明すると、焦りのあまり人質を取ろうとした己の行動を反省し、二人を解放しようとする、が、それを許さぬマンガの鬼。
 「困ります! そんな……意志が弱いんじゃないんですか! 最後まで私を人質にしてやり通してください!」
 (この子ちょっと変だーーー!)
 心中絶叫した雉野がはるかの正体に気付くと、今度は、はるかが無罪を主張。
 「……そうか、君も、無実か。……同情するぜ」
 「お互い辛いですね。頑張りましょう」
 相哀れむ二人の絆ゲージがぎゅーーーんと急上昇していると、今度は外からガチャリとロックが外される音に3人揃って身をすくめ、限定空間でそれぞれの思惑と情報が錯綜する井上敏樹の得意シチュエーションから、逆監禁→変な共感→更なる闖入者 とテンポが良くて、いや素晴らしい。
 ここまで、田崎→中澤→渡辺、と過去に井上敏樹と組んだ経験のある監督を並べてきましたが、渡辺監督の演出も冴えています。
 不法侵入者たちに頓着せずに営業所の再開準備を進めるタロウは荒らされた荷物に気付き、悪びれるところのない犬塚の態度に怒りのメガモモタロウ。
 道理はともかく指図してくるその態度が気に入らない、と暴力に訴える犬塚だが、人の体は未知の力を秘め鍛えれば鍛えるほど無限の力を発揮する神秘の泉。肉は光、光は絆、タロウのアンブレイカブル・ボディの前にあっさりと拳を受け止められると、逆に耳を掴まれて車に放り込まれて本来の受け取り主に謝罪を強制され……た、立てこもりが(笑)
 タロウが現れた途端に立てこもり状況そのものが崩壊する予想外すぎる展開ですが、常人の超えられない壁を打ち砕き、世界の枠組みを破壊する者、と考えれば、これもまたヒーローの機能の一つであるのかもしれません。
 犬塚に謝罪と強制労働をさせてシロクマ宅配便に戻ったタロウは、俺の気が済まないと荷物の仕分けを要求し、個人の正義感が行きすぎて私刑に走り始め、なにやら雲行きの怪しい事に。
 前門に桃井タロウ、後門にマンガの鬼。
 再び追い詰められた犬塚を救ったのは、事務所に犬塚が連れ込まれるのを目撃した刑事たちによる投降の呼びかけ。疑似立てこもり → 立てこもり崩壊 → 事件性のある立てこもり、と盤面を連続してひっくり返すジグザグ運動も巧みで、散歩中、ひったくりを過剰に追い詰める警察鬼を見つけてアバターチェンジするも逃げられてしまった教授は、この光景を目にすると勝手にネゴシエイターを気取って拡声器を奪い取り、ここで一句。
 「自首の朝 蕗のみそ汁 母の味」
 「くだらない話はやめて! 逃走用の車を用意しなさい! なるべくスピードの出るやつ! さもないと人質の命が無いから!」
 これに対し、人質トラブルを堪能したいはるかは勝手に犯人の要求を突きつけ、大暴走(笑)
 何故か勢いで教授も事務所の中に入り込むと俳句の解説を始め、雉野は……妻とのいちゃいちゃ妄想に逃げていた。
 くしくもドンブラザーズの5名がそれと知らずに事務所に集まったところでようやく、そもそも犬塚はどんな罪を犯した事になっているのか、と教授が問うが、犬塚は口をつぐむ。
 「……言えないんだ。約束でな。秘密を守り1年間逃げ通せば返してもらえる」
 「返す……って何を?」
 「……ナツミ。俺が愛した女をだ」
 雉野が妻を思い浮かべるカットと、犬塚が恋人を思い描くカットがそっくりなのですが……あれ、女優さんも……一緒?(OPクレジットを確認してみたものの、イメージカットのみの登場だからという事なのかそこに何か仕掛けがあるのか、どちらも表記無しでしたが、やはり同じキャストの模様)
 犬塚の抱える秘密が興味を引くフックになると同時に、『ドンブラ』世界そのものへの疑わしさも再浮上し、もともと、雉野妻をわざわざキャスティングするのは東映特撮にしては豪気だな……と思っていたのですが、意図を感じる白黒の衣装といい思わぬ不穏なキーパーソンになる可能性が出てきたのは、面白い。
 犬塚はパン泥棒だが送り状を捨てずに持っていたのは弁済の意志があったからに違いない、とフォローを入れるタロウだが、
 「それから……あんたの説得はなってない。自分の言葉に酔っているだけだ。それはここに居る全員に言える。みんな自分の事ばかり考えている」
 直後に返す刀で教授を筆頭に大上段にぶった切り、
 「……そういう君はどうなんだ」
 「俺は……幸せというものがわからない。……だから人を幸せにして、幸せを学ぶ」
 そこからタロウの行動原理まで飛び出す、機関銃掃射のような展開。
 「……幸せか。……俺も、忘れてたよ。今思い出したが、今日は、俺の、誕生日だった。以前はナツミが、俺の為に祝ってくれたが……」
 犬塚の呟きに、少年時代の誰も来なかった誕生会を思い出したタロウが思わず「Happy Birthday……」と口ずさむと、雉野がお礼に持ってきたショートケーキの存在を思い出してその場で即席の犬塚翼くん誕生日おめでとうパーティが始まり、なんだこれ、凄いな!!!
 キャラクターのぶっ飛んだ言行と、それに伍するぶっ飛んだ展開がノーガードで殴り合って均衡を保つ事により目眩スレスレの物語世界を成立させており、凡百の書き手だと、どちらかがスタミナ切れを起こしてズレと破綻が生じるのですが、それを許さず作り手にも受け手にも正気に戻る暇を与えない激走ぶりで(作風は違いますが、近い手法のプロフェッショナルが浦沢先生であり)、いやお見事。
 少々、1エピソードとしての美しさよりも、作品としてのテーゼを押し出し傾向なところは引っかかりもありますが、雉野の手土産が布石になっているのも巧妙で、井上脚本に往年のキレを感じられるのは、大変嬉しい。
 タロウ、雉野、はるかに教授、Happy Birthdayの輪は繋がっていき、皆から提供されて皿の上に並んだ5つのイチゴを見て感涙にむせび泣く犬塚だが、事態の推移に戸惑っていた刑事が突入してきて、怒りの実力行使。
 「貴様らぁーー!! いい加減にしろぉ! 逮捕だぁ! 全員、逮捕だぁ!!」
 定年退職を控え、犯人逮捕に執着するベテラン刑事が絶叫すると警察鬼へと変貌し、タロウと刑事(鬼)が共に過度の私刑に走る姿を通して「正義の暴走」が描かれるのが、アグレッシブ。
 ベテラン刑事が鬼と化した要因の一つが出世欲と描かれ、ヒトとオニを分かつ要素があるとすれば、それは「利己」か「利他」かではないか、と一つ指標が示されましたが、果たしてそこをストレートに掘り進んでいくか途中でツイストが入るのか。
 犬塚は警察鬼を引きつけながら逃走し、身を挺して4人を守ろうとしたその姿に、「犬塚は私が育てた」と満足げにほくそ笑むはるか(笑) 警察鬼にはね除けられて気絶した雉野を教授が介抱している間に桃井タロウは姿を消しており、追い詰められた犬塚はジャッジメント寸前、呪いのサングラスが転送されて(まあ、そんな事だとは思いましたよ呪い……)緊急回避に成功する。
 「ん? 消えた?!」
 「そう簡単にやられてたまるか」
 動揺する警察鬼の側面に扉を開いて現れるのがヒーロー的に格好良く決まり、イヌブラザーにアバターチェンジ。黄青桃も参戦し、先輩チェンジでリュウソウ青黒桃している所に祭が始まると、神輿キャンセルジャンプ大斬りで乱入した赤がリュウソウギアを武器にコピーしてケッポーン剣を放ち、警察鬼をさくっとデストロイ。
 今回は巨大戦に突入して、頭部がニューナンブな巨大警察鬼がなかなか格好良く、初めて敵を「強い」と評したドンモモは、地形効果を用いた不意打ちからドン全開クラッシュで、桃人類に誉れなど不要!!
 (人を幸せにして、幸せを学ぶ……か。なんか少し、桃井タロウがわかったような気がする)
 マスタードンブラはパトレンギアを手に入れ、はるかは桃井タロウに関する好感度を多少上げるが、最後にちょっといい感じにしただけで、途中まで割と傍若無人だったと思うのですが!(笑)
 憑依されていたベテラン刑事が、まさしく憑き物が落ちたかのような和やかな表情でドンブラのコーヒーを口にしている姿で一件落着が描かれる一方、今回は介入の無かったソノーズはいずことも知れない空間に集っていた。
 壁に複数の名画がかかった謎の空間でソノイがなにやら機械を操作すると「モナリザ」の絵が砕けてその向こう側から現れるのは?! と、初めてソノーズが組織めいた動きを見せたところで、つづく。
 予告から期待していたのですが、大変好みの内容で、面白かったです!
 多少の強引さは展開の面白さで上書きしていく両手にウォーハンマースタイルなので、乗れる乗れないが出やすかったり、いざ空振りした時のリスクが大きい作りではありますが、このクオリティのものが出てくるなら、今後も期待大。
 今回は実にいいもの見させていただきました。
 欲を言えば怪人が薄味傾向なのが残念ですが、そこはソノーズとメタ要素でカバーする意図なのかとは思われ、特に近2作が怪人重視の作風だった分、今回は薄味で、が有りになるのはシリーズ作品の強みではあり。
 また今作に関しては、その分をどこで補うか、がハッキリとしており、第1話は「変化」を優先するあまりに“従来の魅力”に代わる面白さをどこで出そうとしているのか不明瞭な部分があったのですが、第2話以降、ここで楽しんでほしい! がハッキリ押し出された作りになっているのは、好印象。
 次回――キジも鳴かずば斬られまい。ケーーーン!