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集中力が行方不明

冬の読書メモ1

●『或るエジプト十字架の謎』(柄刀一
 作者のシリーズ探偵である南美希風が、過去に受けた心臓手術で縁のあるアメリカの法医学者エリザベス・キッドリッジと共に、4つの事件に関わる短編集。
 表題作を始め、各タイトルはエラリー・クイーンの《国名》シリーズを踏まえており、作中にもそれぞれ、「帽子」「白粉」「靴」「十字架」が謎の中心として登場するのが共通項。オマージュというよりは、巨匠への敬意を前提として、お題縛り、といった感じでしょうか。
 個人的に柄刀一は、「文章」はそれほど好きではないが、「物語への意識」は割と好きで、「作品の当たり外れ」は半々、ぐらいの感触なのですが、今作はなかなか面白かったです。特に「或るフランス白粉の謎」は、犯人の謎めいた行動の理由付けが、鮮やかでした。
 残念だったのは、収録4作中の前半2作に関連要素があったので、連作短編的な作りなのかなと期待していたら、後半2作ではそれが全く消えてしまい、探偵・南と来日中の異邦人であるエリザベスが関わった事件、とだけになってしまう事。
 初出一覧によると、劇中の時系列においては一番後になる巻末の作品から発表されているので、むしろ遡ったところに要素を付け加えた形になっているようですが、それがもっと大がかりな仕掛けを意識しているのか、ちょっとしたアクセントなのか、今作だけではわからないのが、肩すかし感も含めて、一抹の物足りなさを生んでしまいました。
 以前に読んだ『密室の神話』も、一応決着はついているが、劇中にさも重要そうに散りばめられた幾つかのフレーズが宙ぶらりんのまま終わってしまい、三部作の第1部だけ読んだような据わりの悪さがあったので、作者の傾向的なものかもしれませんが……長編と短編集で事情も変わりますが、今作に関しては同傾向(《国名》シリーズタイトル)の長編も出ているようなので、そちらも続けて読みたい予定。

●『連城三紀彦 レジェンド』(連城三紀彦
 先日読んだ『論理仕掛けの奇談』(有栖川有栖)で紹介されていた事で興味を持って、今更ながらの初・連城三紀彦
 綾辻行人伊坂幸太郎小野不由美米澤穂信という錚々たる顔ぶれによる選集で、収録6作中、「桔梗の宿」「親愛なるエス君へ」が特に面白かったです。
 文章も構成も上手いのですが、“信じさせる力”が抜群で、ジャンルがミステリですので、どこかに仕掛けがあるのだろうと思って読むわけですが、その上でなお、書いてある事をその通りに――作者だったり主観人物だったりの読ませたいように――読ませる筆致の巧みさが、実に鮮やか。今更ながらに読んで、ミステリ作家からの評価が高い事に非常に納得です(また、直木賞作家でもあり)。
 難点としては、恋愛小説の分野で名を馳せた作家という事もあってか、作品の主題が「情愛」である事が多く、好みの範囲からは少しズレてしまう&続けて読むには内容が重いのですが、適度に間を空けてちょくちょく他の作品も読んでみたいなと思います。

●『ホッグ連続殺人』(ウィリアム・L・デアンドリア)
 猛烈な寒波に襲われ、雪に閉ざされたニューヨーク州スパータの街を脅かす、殺人鬼HOG。犠牲者も手段も選ばず、巧妙な手口で次々と5人の男女を手に掛けた殺人者は、それを巧妙に事故や自殺に見せかけた上で、声明文を送りつける。果たして、HOGとは何者なのか? その狙いとは何か? 恐るべき連続殺人事件を解決する為に、天才犯罪研究家ベネデッティ教授が、捜査へと乗り出す――。
 こちらも『論理仕掛けの奇談』の文中に名前が出ていて興味を持ち、その筋ではかなり評価の高い一作という事ですが…………うーん……私、基本的には真剣に謎解きを行わず、この辺りは引っかかるなぁ……ぐらいな曖昧な状態で読み進めて、面白く騙されたい、的な読み方をするのですが、今作に関しては、これはあれかなーと思ったのがどんぴしゃりすぎた上に、それだったら微妙だな……という真相で、いまいち。
 道中はそれなり面白かったですし、物語としての大オチは悪くなかったのですが、事件の謎解きそのものに関しては少々物足りない内容でした。