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年始の読書メモ

年始の読書メモ

◆『言霊と他界』(川村湊
 本居宣長上田秋成の論争に始まり、言語、そして「言霊信仰」とは何か、そこに隣接する「他界」の観念、についての一冊。
 一章ごとに一人か二人の人物(主に作家や学者)を中心に取り上げ、それがテーマや人間関係などで緩やかに次の章に繋がって、全体で一つの流れを作っている構成が読みやすく、なかなか面白かったです。
 ……章で取り上げている人物・内容によって、何を言っているかほとんどわからない! ところもありましたが。
 江戸の国学から戦後の民俗学までを歴史的背景を含めて視野に収めつつ、歴史単位というよりは人物単位なので、取り上げられた人物の作品への手引き書としての機能も持っているのが良く、特に、筆者の思い入れを感じる小泉八雲に関しては興味の沸く一冊でした。

◆「魔」の世界 (那谷敏郎)
 古今東西、世界各地の「魔」について、その生まれた風土や社会背景などについても触れながら比較文化的な手法で取り上げた本で、例えば「吸血鬼」なら、ドラキュラのモデルに始まり、吸血鬼伝説が有名になる流れ、そして不死者の伝承から古代バビロニアの吸血鬼まで、縦横無尽に繋がり広がっていく書き方が、基本知識からその源流までをカバーして、読み出があって面白かったです。

◆『論理仕掛けの奇談』(有栖川有栖
 ミステリ作家・有栖川有栖が文庫などに寄せた解説集。
 作品に直接くっついているので、その作品をセールスしたい意図が明確であり、一作ごとにそれなりのページ数がある利もありますが、そんじょそこらのブックガイドよりは、よほどブックガイドとして“本を読みたくなる”内容。
 基本的に、有栖川さんの文章が肌に合うのはありますが、小説の形を離れる事により、筆者の詩情的な部分が引き出されており、読み物としてもなかなか面白かったです。

◆『キッド・ピストルズの最低の帰還』『キッド・ピストルズの醜態』(山口雅也
 昨年、非常に面白く読んだシリーズだったのですが、うーん……『最低の帰還』で前作から13年ぶりのシリーズ作品という事で、年月の経過にともなって、作者の興味関心の変化・文体の変化・シリーズの位置づけの変化、など色々起こりうるわけですが、2冊ともがっかりな出来。
 及第点といっていいのは、『最低の帰還』所収の「教祖と七人の女房と七袋の中の猫」ぐらい。
 個人的な今作の魅力は、「パラレル英国」のエキゾチックな面白さを軽妙に綴る文体、そこに登場する少し奇妙な登場人物たちと突飛な事件、それらにまつわる時に饒舌な語りの巧みさと、物語世界の全体を覆うユーモアと洒落っ気にあったのですが、特に『醜態』の方はそのほぼ全てが欠落していて、残念でした。
 『醜態』は収録された中編いずれもがサイコスリラー風の仕掛けが好みでなかったというのもありますが、典型的な“伏線があればいいというものではない”というか、どんでん返しの真相に関して、ほらここに伏線が、ここでも伏線が、と解説をしていくも、そもそも真相そのものが面白く感じられず。
 メタミステリを意図した作品世界ではあるのですが、シリーズを重ねるごとに、メタ度合いの調節も個人的には面白くない方へと行ってしまい、物足りない内容でした。