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複製人間第1号

ウルトラマンコスモス』感想・第54話

◆第54話「人間転送機」◆ (監督:石井てるよし 脚本:大西信介 特技監督:佐川和夫)
 12年前、まだSRCが発足されていなかった頃――市街地に出現するも特に暴れ回るわけでもなく、防衛軍の攻撃を受けながら、逃げ遅れた少女をかばうような動きを見せた事から世間の感心を強く集めたピンクのカバのような怪獣、タブリス
 この事件をきっかけに、怪獣をただ退治するのではなく、「捕獲」や「保護」の道もあるのではないか、との世論が高まり、それはSRCの設立とチームアイズの活動に繋がっていく……と、チームアイズ誕生の経緯がかなり明確に。
 ところが、現在は鏑矢諸島の一隅で保護されている筈のタブリスが、遠く放れた東京近郊の市街地に突如として出現。
 「暴れるつもりはなさそうですが、被害は出てます」
 別個体とあたりをつけて捕獲を試みるアイズだが、何故か怪獣の体はワイヤーを透過してしまい……なんとそれは、鏑矢諸島に居ながら複製を送り出したタブリスの特殊能力なのだった!
 タブリスの探るような動きから、12年前に助けた少女を探しているのではないか? と推測したムサシたちは、その少女・佳奈が成長した女性の居場所を探しあてるが、12年前、マスコミによって繰り返し演出される「怪獣に助けられた少女」の立場に疲れ果てた佳奈は、今の平穏な生活を守りたい一心で、タブリスとの再会を拒否。
 個人の心よりもTVに向いた格好の題材に群がるマスコミの姿を風刺する今作では珍しい踏み込みの一方、そのマスコミが一翼を担った「世論」の空気がSRC及びチームアイズの誕生に繋がっているのが皮肉ですが、それ以上突っ込まないのは、いつもの『コスモス』。
 タブリスに対しては好意的だったが、周囲からの特別視にも耐えられなくなった少女時代の佳奈は「10年経ったらまた来るから」と約束して逃げるようにタブリスの元を去り……チームアイズとごくごく普通のメンタルの市民との接触も、今作では珍しい状況設定。
 まあチームアイズはチームアイズなので、怪獣の気持ちは尊重するけど佳奈の心情には1ミリぐらいしか寄り添わないのですが。
 タブリスは10年前の約束を覚えていたに違いないと告げられるも、10年前のトラウマから関わり合いを避けたがる佳奈に対し、直接行かないで複製の虚像を送るならどうだと斜め上の説得が試みられるが、その実行前に、再びタブリス複製が街に出現。
 街の被害の可能性に、渋っていた佳奈も複製の作成を承諾し、複製佳奈の姿が島へと送られるが一目で偽物と見破ったタブリスが目を吊り上げて怒りだし……いや、まあ、なんというか、とりあえず普通にTV電話を試せば良かったのでは……?
 タブリス複製を“生き霊”と捉えると今作定例の怪異譚であり(能とか、江戸の怪談とかに近い)、そこに「人間を救った怪獣と、10年前の約束」を絡めた『コスモス』ど真ん中を志向したエピソードの一方……サブタイトルにもされている「人間転送機」というアイデアありきだったのか、タブリスの心情を表現する為の生き霊を『コスモス』世界に落とし込もうとして怪獣のトンデモ能力が生まれ、それに対応する形でドイガキがトンデモ発明をする事になったのか、どちらにせよ組み合わされたアイデアとその強引な使用が突飛すぎて首をひねります。
 チームアイズが為すべきは「怪獣を誤魔化すアイデアの提案」ではなく「マスコミの玩具にさせない事を佳奈に保証する」だったのではと思いますし、ムサシはムサシで「本当はこんな事したくないけど我が儘言うから」と声を荒げるのではなく、「たとえ相手が怪獣でも、約束は約束だと真摯に説得する」ならまた印象は変わったのですが、色々と話の筋を歪めてしまった感。
 ムサシはコスモスに変身すると「まあまあまずは落ち着け」と手を広げるが怪獣の体をすり抜けてしまい、久方ぶりの落ち着け光線も無効。複製体が物質に干渉するかどうかはタブリスの気の持ちよう、とナレーションによる説明が入り、サンドバッグ状態のコスモスはカラータイマーが点滅を始める大ピンチ。
 タブリスの暴れように心を痛めた佳奈がそこに駆け付けるとイクリプスによって島へと転送され、本物の佳奈と再会を果たしたタブリスはあっさり沈静化。自分の事しか考えていなかった、と謝罪した佳奈がタブリスと旧交を温めて大団円……となるのですが、ええとまあこれはつまり、荒ぶる神霊に人身御供を捧げる話ですよね……。
 上で「『コスモス』ど真ん中を志向したエピソード」と書きましたが、ラストに至ってタブリスが、両義的性質を持った神霊、という極めて古典的な怪獣モチーフになった結果、巫女と祭祀をもって神霊を鎮撫する構造が、怪獣を「動物」として扱う『コスモス』の共生思想から外れてしまう事になり、ストライクゾーンに直球を投げ込んだつもりが、投げたボールが物質転送されて三塁側ベンチに飛び込んでいる、不思議なエピソードとなりました。
 今作の大西脚本としては珍しい形の失投だったかなと(出来や個人的な納得度はともかく、『コスモス』で何をやりたいのか、に関しては概ね頷ける範囲のエピソードが多かったので)。
 ……逆に、タブリスは悪意が無いからこそ、街を守る為に人身御供となった佳奈の人身御供性を作りだしているのはマスコミ及び世間の人々である(そしてアイズも、タブリスを殺さない為に佳奈を積極的に捧げている)、ところまでを意図していたとすれば、物凄くどす黒いエピソードになりますが。
 次回――なんかまた、銀河共和同盟(『ウルトラマン80』に登場する、各惑星の生物の存在価値を調査し、不必要とされた場合は強制的に消滅させる権利を持っている、と主張する宇宙的組織)っぽい気配。