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「策ならある。――力尽くだ」

『機界戦隊ゼンカイジャー』感想・第36話

◆第36カイ!「ビックリどっきり大ユーカイ!」◆ (監督:加藤弘之 脚本:香村純子)
 「気付けなかったぁ……! 不覚~!」
 ガオーン、介人への愛の深さで痛恨の敗北……!
 介人たちはゾックスにハカイザーの正体が五色田功であったと事情を説明。身柄の確保に協力を取り付けているとトジテンドが出現し、商店街に駆け付けたゼンカイジャーが目にしたものは……
 「あー、ビックリした」
 あらゆるものをビックリ箱に変えてしまうビックリバコワルドの能力と、あっさりとそれを受け入れてしまった人々の姿だった。
 アース-45人の順応力の高さに完敗した悲しいワルド怪人は、せめてゼンカイジャーを倒す、と不意打ちでビックリビームを放つと、ビックリ箱と化したギアトリンガーの蓋が閉まらなくなってしまい、その隙にクダックをけしかけて逃走。
 何やらひらめキングして別行動を取っていた金がその退路を塞ぐとゴセイナイト先輩にレボリューションするが、何故か断罪ナイトダイナミックせずに、ライオンヘッド状態でびっくり箱を拉致して姿を消してしまう……。
 一方トジテンドでは、ハカイザーの正体判明によりイジルデの論文盗用がボッコワウス様の知るところとなり、部下に嘘をつかれていた事に苛立つ壁王様による、かつてなく激しいトントン相撲が行われていたが、まあ別に、誰が特許権を持っていようが、トジテンド的にはどうでも良かったので、寄り切りでイジルデの勝ち。
 ラボでは充電&再洗脳中のハカイザーをステイシーが見つめ……
 ――「組むも何も、俺たち最初っからチームじゃないか!」
 やはり完全に、あの言葉が致命的な一撃となって、心の隙間にちゃぶ台と湯飲みとマンガ本を並べられていた。
 だがその一方で、介人の父親=息子、を探すヤツデの言葉も胸に去来し……どうして君はそんなに辛い立場なんだ!
 介人も介人でだいぶ辛い境遇の筈なのですが、いちいちリアクションが深刻な為、どうしてもステイシーの方が突き刺さってきます(笑)
 カラフルに戻った介人たちはゾックスの行動に首をひねっていたが、人質に取ってハカイザーを捕獲しようとしているのでは、とブルーンがひらめキング。
 「「「「「ええ?!」」」」」
 「でも、やりそう……あの人は、ハチャメチャやりそう!」
 基本アウトローな界賊一座は勿論その期待に応えて縛り上げたビックリ箱を天井から吊るしており……「ヒーローと人質」といえば、敵組織の幹部二人を人質に取り、もう一人の幹部を相手に「動けば仲間の命はない!!」と言い放つ仮面ライダー1号(『仮面ライダーストロンガー』)が、忘れられないインパクトです。
 「介人、こういうの、嫌がりそうだけどな」
 「だからこっちで勝手にやってんだ」
 泥をかぶるのは俺の仕事、あいつは綺麗なままでいい……とゾックスは本日も後方彼氏全開で、あまりにも適切すぎて他の表現が思いつかなくて悔しいです(笑)
 なお五色田介人さんは、知り合ったばかりのキカイノイドに銃を渡して、「友達の証明としてあいつら撃ってよ?」と同族殺しを要求した過去があるので、ゾックスには、そんな介人も見てほしかった。
 「駄目だよそんなの!」
 それはそれとして、卑怯、駄目、絶対。戸隠流に知られたら消されちゃう、と介人はゾックスの人質作戦(推定)に断固反対。
 「とはいえ、相手はトジテンドだ。別に地下3000mの秘密施設に監禁して鉄板の上で正座させながら質問に口を噤む度にサラダ油と卵で溶いた小麦粉を頭から注いでも構わねぇだろ」
 ……じゃなかった、
 「今はまだビックリするだけで済んでるが、ぶっちゃけこの先どうなるか……」
 と、介人の線引きとは別の角度から、かつて牛乳で文明を滅ぼそうとしたワルド怪人には油断大敵、と動く理由付けを補強してくるのが鮮やか。
 かくしてゾックスを止めるべく介人たちがカラフルを飛び出した頃、囚われのビックリ箱の元に現れたのは、ハカイザー……ではなく、バラシタラ。
 「ハカイザーを狙うのは、ゼンカイザーだと思ったが、貴様等が引っかかるとはな」
 バラシタラの一声でビックリ箱がフェイスチェンジして闇の道化師に豹変すると、監禁場所にしていた倉庫内部がトラップハウスに様変わりし、わざと弱腰のワルド怪人を送り出す事で罠を仕掛けるバラシタラ、相変わらず、戦場では意外と策士。
 ……何故その洞察力が、日常生活では働かないのか。
 倉庫からの脱出中に珍しく直接打撃を受けたフリント(弟たちを助けようとしての結果なのが細かく巧い)が、バラシタラミサイルで崩れた瓦礫の下敷きになる危機に陥り、ゾックスもビックリ光線によりギア舵輪の「蓋がしまんねぇ」事で変身不能の大ピンチ。
 罠を仕掛けたつもりが逆に罠にはまり、卑怯な手段は、より卑怯な手段によって覆されるしっぺ返しに見舞われるのが、実に手堅い話運びです。
 ビックリ箱ワルドの覚醒と共に、市街地も凶悪化したビックリトラップにより大混乱に陥っており、人命救助に時間を取られていた介人たちの元へリッキーが応援を求め、5人は苦戦するゾックスの元へ。
 「チェンジは出来ないビックリバコ」
 「出来るよ。――仲間が居ればね」
 前回のダイヤと同じ路線といえますが、使い方次第で地味に有効だった強制ビックリ箱の効果に勝ち誇るワルド怪人に対し、円陣を組んだ介人たちは、変身者がギアをグルグル回している間、左隣に立った者が蓋を抑える力技で次々とチェンジ全開し、見たかこれが(指先の)筋肉の力だ!
 思わず目が点になる身も蓋もない解決法でしたが、変身アイテムのギミックを活用しながら仲間の存在の大きさを描き、一人で戦おうとするゾックスには思いつかない解決手段としてゼンカイとツーカイの間に未だあった溝さえも浮き上がらせる、驚天動地のアクロバット
 発想としては実に馬鹿馬鹿しい部類なのですが、その馬鹿馬鹿しさが劇中ギミックと連動しながら物語の中で大切な意味を与えられているのが、大変素晴らしいシーンでした。
 今回はやらかしたと思っているようで(フリントを心配しているのもあるでしょうが)、やや気まずげなゾックスも白に蓋を押さえられながらグルグル回すと意地でも踊り、改めての揃い踏みから戦闘開始。
 毎度のことながら一連のあれこれをじっと見ているバラシタラ、多分に話の都合ではありますが、割とこう、当たり前の戦いに飽きてしまったような部分が見え隠れして、意外とジニス様系かもしれないなと(笑)
 「ふん! 全く面白い奴らである!」
 キカイノイド4人はゴーゴーファイブ先輩を憑依させるとフリント救出に向かい、正攻法の使い方で絶対そこに辿り着く!
 一方、充電と再洗脳の完了したハカイザーは、
 「は?! この気配は!」
 と、イジルデの話そっちのけでラボを飛び出すと、部署間の対立を無視してビックリ箱ワルドを守る為にアース-45に降り立ち、参戦して乱戦。
 「誰の配下とか関係ない。俺はワルドを、守るんだーーー! とーう!」
 行動原理の第一は「味方を守る」ながら、武器を打ち合わせながら「ははは、楽しいな」、不意打ちをガードする格好いい動きから「みんな居るねー」とにこやかに手を振るなど、快楽的な戦闘強の一面を持つハカイザーですが、基本的な行動原理はイジルデの洗脳プログラムだと思うと、快楽主義(の余り、明らかに任務を忘れている事もある)には功博士の影響が出ている気がしてなりません(笑)
 決して無機質一辺倒ではなく、どこか歯車のズレた空虚な感情を振り回す姿に、介人父がこうなってしまう恐ろしさと同時に、プログラムと功人格の混合による揺らぎも見えて、正体が明確になった事により、むしろ「ハカイザー」というキャラクターとしては面白くなってきた感触。
 乱戦は、ビックリ箱vs赤黄桃青・バラシタラvs金・ハカイザーvs白、のマッチアップとなり、セッちゃんのアドバイスで充電切れを狙うゼンカイザー。
 「父ちゃん、目ぇ覚ましてよ!」
 「俺の名は父ちゃんじゃない。ハカイザーだ!」
 そういえば今頃気付きましたが、「とぅ!」には、超有名ヒーローのオマージュと共に、「父(とう)」もかかっていたのですね……鬼だ!
 「あいつは……ようやく手に入れた僕の仲間だ……。…………すまない、ヤツデ」
 戦いを物陰から見つめていたステイシーは、大事に持っていたカラフルおやつ券を握り潰す事を「選択」し、いったい誰のアイデアだったのか、おかし券の裏側に「いつでも来てね!!」と書く事を思いついた人に、現時点での今作における人の心が無いで賞を贈呈したいと思います。
 (役者さんの発案だった場合、まさかの榊原郁恵さんが鬼という事に! ……いやその場合は、嬉々としてそれを活用する演出陣がきっと悪い)
 「――暗黒チェンジ」
 ステイシーザーが飛び出したところから流れ出すBGMが、雰囲気にマッチして大変秀逸。
 「ステイシー!」
 「ハカイザーは渡さない!」
 「悪いけど、譲れない!」
 火花を散らす両者に取り残され、いつの間にかヒロインと化すハカイザー。
 「いやいや、あ、うん…………渡せとか譲れとかやめてくれぇっ。俺の仲間は……俺が、自分で決めるーー! とぅ!」
 そして、プログラムと功人格の揺らぎの中に「ハカイザー」人格が形成されつつあるのではないか、と新たな鉱脈に期待を持たせ、どう生きるかを決めるのは、自分自身だ!(毎度お馴染みJPさん)
 「……自分で決めるなら、やっぱり、本当の父ちゃんに戻ってからだ!」
 「黙れ! おまえばかりなんでも手に入れさせてたまるか!」
 ハカイザーの手助けを受けた紫が放った流星ミサイルを受けながらも、雄々しく立ち上がるスーパーゼンカイザーの姿には介人の強い意思が窺えて格好良かったですが、ここでさらっと「功の選択」なら、それがどんなものでも尊重する意思を見せるのが、介人の介人らしいところ(その上で許せないなら、対決する覚悟もあるのかはまださておき)。
 一方のステイシーは大きく道を踏み外し始めましたが、ステイシー視点では、「母親は介人のところに戻っている筈」なので、これぐらいいじゃないか(良くはないのですが)といった気持ちがやさぐれ具合に拍車をかけているのが想像され、案の定、マジーヌ偽装問題も、爆発に向けて地下で着々と成長していきます。
 その間に全力全開キャノンでビックリ箱は爆殺され、射撃を任されたブルーンの上半身が、反動で吹っ飛んだ(笑)
 それを見た紫とハカイザーは撤退し、なんとしてもハカイザーに余計な戦いをさせまいとする紫の姿が完全に、欠落した愛情を求める子供のそれになっていますが、今回ステイシーは、己の欲望の為に誰かのものを奪おうとする事で明確な「悪」の道に踏み込んでおり(イジルデの盗用判明と重ねたのも、意図を感じます)、先行きに黄信号。
 まあ基本的に悪役ポジションとしては、ここからどう転んでもおいしいルートが山ほど広がっていますが。
 金を叩きのめしていたバラシタラも帰還すると巨大ビックリ箱にはゼンカイジュウオーが立ち向かい、恐らくコピーワルド回の映像を流用して省エネを図りつつ、乱入したマジブルが寝起きドッキリマジックで隙を作り出し、前回とは打って変わって、今回はサブタイトルを拾い尽くしました(笑)
 介人とゾックスは作戦方針の違いで揉めるが、最終的にはゾックスが折れ……
 「……わかったよ。手遅れになっても知らねぇからな」
 「手遅れにはしない! 絶対助ける。――今日みたいに」
 ここで単純に介人のヒーロー的主張が押し通されるのではなく、フリントを助けた事が効くのが鮮やかで、介人の力強い笑顔に、ゾックスは一定の納得をしてカラフルを辞する事に。
 「バレちゃったらしゃあねぇな」
 「この件は介人のやり方に付き合うしかないか」
 「……ま、でも介人のそういうとこが面白いんだけどな」
 「仲間が出来るってのは……面倒くせぇな」
 呟くゾックスの口の端には笑みが浮かび、自己の価値観を捨ててしまうわけではないが、他人の価値観と向き合い、時に受け入れ時に歩み寄る姿を「変化」として描くのは、非常に香村さんらしい組み立て。
 物語としては、界賊一座がSDトピアを開放したらさらば~~いというわけには行かないので、「仲間」認識の強化に加え、フリントを傷付けたバラシタラとツーカイザーのマッチアップなど、諸々の因縁強化を図った感じ。アバンタイトルでSDトジルギアの名前を出しておくのも手堅いのに加え、今回、“フリントを直接助けたのがキカイノイド組”なのは、ゾックスに対して有効なカードになったと思われ、ステイシーが冥府魔道へ向けて小さくない一歩を踏み出す一方で、ゼンカイ組と界賊一座の関係を強化再構築する目配りの利いたエピソードでした。
 予告の内容からてっきり、一山越えた後のお笑い回かと思っていたらそんな事はなく、バラエティ豊かな崩しを入れつつエピソードのツボを的確に押さえ、香村脚本と加藤演出の相性の良さが光ります。
 次回――侵略する大根おろしは、今作では間違いなく油断ならない予感。そして、やりそうでここまでやっていなかったマジーヌ×フリント回で、突然の荒川さんの可能性に一応身構えておきたいと思います(笑)