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演出も脚本も大アバレ

地球戦隊ファイブマン』感想・第39話

◆第39話「愛を下さい」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹
 井上敏樹でした!!(何かに勝利した満足感)
 「はははははは、貴様のままごと拳法、果たしてこの俺に通用するかな」
 素手の相手に剣を振り回せば勝てるのでは、とトレーニング中のレミに襲いかかるビリオンだが、突如その戦いに割って入ったのは、ビリオンを探して宇宙からやってきた女戦士ソーラ(演:水野美紀さんは今作が女優デビューとの事ですが、つまり、夫の唐橋充さんともども、ご夫婦で揃ってTVドラマデビュー作が井上敏樹脚本という奇縁)。
 「会いたかった、会いたかったぞビリオン」
 「……おまえは」
 ソーラはかつて、銀河ゴロツキ集団(ゾーン?)に襲われていたところをビリオンに助けられた事があり、当時はまだ一匹狼だったりしたのか、ゴロツキを切り倒すだけ切り倒したビリオンは、野辺の花を切り裂くと、ソーラの両親の死体に手向ける完璧な残念ムーヴを決めて無言で立ち去り、乙女の胸に鮮烈な印象を刻み込んでしまったのであった。
 「ありがとうビリオン。ビリオンの正義の剣が私を守ってくれた」
 すっかり勘違いしているソーラのキラキラした眼差しに無言できびすを返すビリオンだが、ソーラは……バルガイヤーまでついてきてしまい、色々、大丈夫なのかバルガイヤー(笑)
 ただでさえ立場が無いも同然なのに、何を格好つけながら部外者を連れてきているのか、と同僚から冷たい視線を受けたビリオンは、この星を守る為、と偽ってソーラをファイブマンにけしかけ、乙女の瞳にはシュバリェもドルドラもドンゴロスも正義の仲間達に見えます、というよりも、視界に入りません!
 ソーラは得意の棒術を用いて、打倒ソーラの特訓中だったレミへと襲いかかり、この両者の絡みはここまでなのに、冒頭から生アクションが強調されてマッチアップが用意されたのは、水野さんもアクション志向があった関係でしょうか。
 「私は負けない。ビリオンの為に、平和の為に!」
 「平和の為?!」
 容赦なく顔面に蹴りを叩き込まれたソーラは、何やら薬剤を取り出すと、ドーピングにより異形の怪物――ダークソーラへと変貌。様子を窺っていたビリオンは、打倒ファイブマンの駒として思ったより役に立ちそうだと、薬の効果が切れたソーラを回収。
 「……見られたくなかった。おまえだけには。私の醜い姿を」
 「何を言う。……戦うおまえは美しい。もう一度変身するのだ。俺の為に……いや、地球の平和の為に」
 ビリオンはソーラを後ろから抱きしめながら耳元に囁き、圧倒的敏樹感(笑)
 第32話と今回は、いよいよ『ジェットマン』前夜からの飛翔を感じさせる井上濃度です。
 「やってくれるな。おまえなら出来る。ファイブマンを倒すのだ」
 残る薬は、飲んだが最後、死の瞬間まで元の姿に戻る事はできない一錠のみ……徹底的に悪い男のビリオンに、ソーラは一日いちゃいちゃタイムを望み、口づけをかわした二人は地球人の姿となるとしばらくデートタイムとなって、衣装が4パターンぐらい用意されているのですが、ゲストの美人度が高くて、長石監督が大変楽しそうです(笑)
 「……時間だ、ソーラ」
 地球での儚い恋の時間は終わりを告げ、零時の鐘と共にビリオンが胸ポケットに入れた白い花を捨てると、二人は元の姿に。
 「ファイブマンを倒すのだソーラ。おまえがどのような姿になっても、俺はずっと、おまえの側に居る」
 翌日、ソーラが騙されて利用されているのでは、と行方を追っていた学は襲撃を受け、ビリオンの介入により説得にも失敗。
 「騙されるなソーラ。悪い奴ほど口が巧い」
 意を決したソーラは愛する男の為に薬を飲み込むと再び怪物と化し、合流した星川兄妹は、その圧倒的パワーを前にファイブマンへの変身を余儀なくされる。
 「ふははははは! いいぞソーラ! おまえこそ我が愛を受けるにふさわしい女だ! トドメを刺せ!」
 ビリオンは、ダークソーラが羽交い締めにした赤に襲いかかり必殺の一撃を放つが、赤がかろうじて身をかわした結果、その刃は背後のダークソーラを刺し貫く!
 「ドジな奴め!」
 ……君がな。
 どこまでも残念な銀河剣士は、もはやソーラは役立たず、とゾーンの一員としての本性をさらけ出し、赤に抱き起こされた闇ソーラは、その真実を目の当たりにする。
 「貴様、私を騙したのか?!」
 「違うな。おまえが勝手に俺を正義の戦士だと思い込んだだけの事」
 「ならば、何故あの時私を助けた」
 「助けた? ふん、自惚れるな! 俺は血に飢えていたのだ。今と同じようにな」
 過去にソーラを(結果的に)助けたのは、ただの辻斬り行為、ないし、発作的な俺格好いいムーヴだった事が明らかになり、命がけの愛をそのまま憎悪へと変えたダークソーラはビリオンに飛びかかると爪を閃かせるが、振り下ろす事ができない。
 「出来ない……ビリオン……おまえが悪の手先でも……私を利用したのだとしても……それでも私は……私はおまえの事が――」
 ソーラは愛に殉じる道を選ぶとファイブマンへとその牙を向け、理性を失って怪物として死ぬのでもなく、正気を取り戻して切り捨てられるのでもなく、個人的な「愛」が善も悪も超越してしまう、凶悪な展開(勿論そこには、「愛」そのものが「狂気」である、と含意されているわけですが)
 「ソーラぁ!」
 故にファイブマンは、銀河に死をもたらすゾーンの“悪”以外のものと対峙する事を余儀なくされ、それがヒーローが“正義の剣”を振るう対象ではないとわかっていながら、やむなく反撃せざるを得ない、のがまた凶悪で、かなり意識的に、ヒーロー作品の基本的構図そのものを破壊しにいっています。
 脚本のみならず、監督他のスタッフもかなり思い切って一線を踏み越えてきた印象(恐らくは、既に次作を見据えてのプレ『ジェットマン』的な意図はあったのかと思われます)。
 赤の斬撃を受けた闇ソーラはビリオンの足下に転がると、ビリオンの剣を自らの手に掴む。
 「ビリオン……せめて……せめてトドメはおまえの手で」
 瀕死の闇ソーラは、ビリオンの剣の切っ先を自らの喉元に当て、あまりにも激烈なその行為にビリオンが狼狽すると、体を押し込むようにして剣を喉に突き刺して自害を遂げ……ファイブマンにトドメを刺させる事を避け、心中失敗や返り討ちなどの定番も避けた上で、その情念を昇華させる、とんでもない着地。
 命尽き果てた闇ソーラの姿は光の粒子に包まれるとソーラの姿に戻り、根っからの悪人ではないが異形の姿で悪に与して戦う敵を、最期の瞬間に綺麗にするかどうか、というのは慎重さを問われる部分ですが、今回は事前に、命尽きる時に元に戻る、と言わせているのが地味に秀逸。
 闇ソーラの峻烈な死に様に後ずさったビリオンは姿を消し、学に抱き起こされたソーラは薄れゆく意識の中で学をビリオンだと思い込み、徹底してヒーローの言葉が届かないのが凄まじい(導入ではレミにスポットが当たっていたのに、途中からそれが学兄貴に移るのはどうしてかと思っていたら、この仕掛けの為で納得)。
 学はソーラの為にビリオンを演じ、ソーラは、愛する男の優しい言葉を胸に、絶命。
 その光景を離れた場所から複雑な面持ちで見つめていたビリオンは、手にした白い花をソーラに手向けるかのように海に投げ落とし、漂う花びらに気付く学。
 ナレーション「愛ゆえに、死んでいった一輪の花」
 だが、顔を上げると既に、ビリオンの姿は無く……渋い…………!!
 シュバリェ登場後、すっかり存在感を失っていたビリオンにスポットが当たったのは嬉しく、勢いでこのまま心中リタイアでも打ち上げ花火としてはOKでしたが、ソーラの最期はそれよりも更に強烈なものとなり、印象深いエピソードとなりました。
 「愛」という言葉(行為)の中にあるエゴをあぶり出し、その美しさと醜さが、ソーラ/ダークソーラの姿に象徴されたのも秀逸。
 次回――この勢いでビリオン最後の決戦か?! むしろ、その方が良いのではと思うので、銀河剣士の晴れ舞台に期待。