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天秤に何を乗せるのか

ウルトラマンコスモス』感想・第33話

◆第33話「怪獣狙撃手(ハンター)」◆ (監督/特技監督八木毅 脚本:梶研吾林壮太郎
 傷つき弱った怪獣を保護しようとするアイズだが、レーザーネットで動きを止めた怪獣に突き刺さる、一発のミサイル。その狙撃者は、西条の右腕と言われる男、ナガレ・ジュンヤ。
 「防衛軍も、平和を願っているのは、私たちと同じなんだけど、武力行使で、攻撃的な面が際立っているのよね」
 いつもなら、脳まで大胸筋の防衛軍のF○○○野郎が人のシマで何さらしとるんかてめぇら戦争じゃぁぁ!!となりそうなのに、なんか、急に、強引なフォローが!
 シノブとフブキとは防衛軍時代の旧知らしいナガレはアイズのオペレーションルームへと乗り込み、前回の上官と行動が全く被ってしまったのは、狙ったのか、はたまた純然たる事故だったのか(笑)
 「チームアイズのやり方は甘すぎる。怪獣保護も結構。だがそのために人や街にどれほど甚大な被害が出ているか、知らないでは済まされない筈だ。怪獣は発見次第速やかに、そして徹底的に駆除するべきだ。そうすれば被害は最小限に食い止められる」
 やや過激にすぎるもののナガレはアイズの問題点を叩きつけ、ここで過去の爆発映像が挟まるのは、秀逸。
 「ハッキリ言っておく。チームアイズの怪獣保護に対する精神は変わらん。俺も、五人の隊員たちも、その精神の実現に、命を懸けている」
 ……チームアイズが精神の実現に命を懸けるのは結構なのですが、ここでナガレが問うているのは「人や街に被害が出ている事への責任」であって、アイズの理念や命とかどうでもいい話なので、キャップの返答が凄く明後日。
 あくまでレトリックとは捉えられますが、君らの命がけに他人の生命財産を巻き込むな、という点について現場指揮官が積極的にボタンのかけ違いを無視する傾向があるのは、大変困ったところ。
 「俺の目は現実を見てる。あんた達は優しさを語り合う弱い集団だ。優しさじゃあ平和は得られない。力だ。力でこそ平和を手にする事ができるんだ」
 ナガレはナガレで極端な考え方かつ、他の軍事組織の作戦行動中に警告無しで横からミサイルぶち込んでくる狂人なのですが、基本的にチームアイズの天秤がぶっ壊れているので、アイズのネガとして防衛軍を描こうとすると、防衛軍の天秤も壊さざるを得ず、結果として、極と極のぶつかり合いしか発生しない悪循環。
 「あなたは間違ってる! 力だけじゃ平和は手にできない。優しさこそが平和に繋がってるんだ!」
 「優しさが平和に繋がるだと……?」
 「怪獣だって人間と同じ、この地球に生きている命なんだ! 彼らの事を何一つ理解しようとしないで、力でねじふせて、ただ殺すだけだったら人殺しと変わらない!」
 「口先だけで偉そうな事を言うな!! おまえの心の奥に傷はあるのか? 胸の奥の奥に刻み込まれた、深い傷はあるのか?! どうなんだ!!」
 個人的には、1クール目から散りばめて作品世界の土台を固めていってほしかった要素がようやく入ってきたのですが、イクリプス編と同じく、もっと早く俎上に上げても良かったのに今の今まで黙殺していた部分が、急にアンロックされたような感じ。
 その為、1階・2階・3階……と積み上げる事なく、ほぼ更地だった場所に突然10階まで建てたような濃縮具合になっており、初対面の青年にいきなり個人的感傷をぶつけるナガレなど無理も出て、もう少し、じっくり仕込んできて欲しかった部分です。
 最初に理屈っぽくなりすぎるのを避けた可能性はありそうですが、理屈っぽくなるのを避けるあまりに情緒的になりすぎていたのが今作であり、デリケートなメインテーマを考えたら段取りに手間と目配りはかけてほしかったところで、今作のコンセプトから危惧していた部分が、思い切り引っかかってしまう事になりました。
 これは多分に好みの問題でありますし、今作はこういう作劇と受け止めるところなのでしょうが、出来ればもっと早くから、お互いの主張にそれぞれの分と問題点があって、それを擦り合わせて落としどころを探りながら“より良い世界”を目指していく、という形で描いてほしかったな……と。
 なお、実はムサシは、怪獣を相手にはそれをやろうとしているので、防衛軍にはそれが出来ないのが悪目立ちするところもあり。
 「人と怪獣は、一緒に生きていける」
 「そんな事は望んでいない! 俺が望むのはあいつらの排除だ! 俺はあいつらを絶対に許さない! 必ずこの手で、殺す!」
 妹を怪獣災害で喪ったナガレは復讐者として描かれ、瀕死の怪獣を治療しようとするアイズとは逆に、トドメのロケットランチャーを撃ち込もうとするが、ムサシがそれを妨害している内に怪獣に取り憑いてしまうカオスヘッダー。
 「僕やアイズのみんなも、人の命や街を守りたいという心はあなたと同じだ。だから、僕はあなたも守りたい!」
 ムサシとナガレはカオス怪獣の攻撃からお互いを助け、今まで無視していた部分を、急に全部台詞にするので、物凄いとってつけた感。
 そして、“それは当然の前提”として、その上で“怪獣保護の線引きをどこに置くのか”をこそ描かないといけないと思うわけですが……相変わらずそこが欠落している上で、結局は人間の力では無理なのでコスモスの力を発動するわけなので「僕たちはいつもこうやってきたんだ」と力強く言われても、このままだと(コスモスが居ないと)守れないよね、街……となってしまいます。
 勿論、その「諦めない心」があるからこそコスモスが力を貸してくれているわけですが、「力ではなく優しさを訴えるムサシが手にしているのは防衛軍を遙かに超える超越的な力」なので、どうにもこうにも根本的なところで、アイズのネガに置くには防衛軍は相性が悪いと思うわけなのです。
 「怪獣の殲滅を最優先するという考えは変わらない。……だが、チームアイズの存在も否定はしない。人命と街を守りたいという願いは同じだって事が……俺にもわかったからな」
 コスモスの活躍で怪獣が救われた後、改めて基地を訪れたナガレとアイズの面々は敬礼をかわし、え?! 今そこからなの?!
 本気で怪獣保護カルトだと思われてたの?!
 ……まあ、あくまでナガレ個人の視点ではありますが(とはいえ、防衛軍の一部を象徴するキャラクターとして描かれているわけですが……)、同じ活動領域で戦闘機ぶんぶん飛ばしている武装集団に、そのレベルの共通理解さえ存在していなかったの、本当に怖すぎるのですが……一体この両組織の間には、過去に何があったのでしょうか。
 防衛軍を雑な悪玉としてのみ描かない一歩としては意味があったと思いたいエピソードですが(とはいえ、テックブースター編とかで作戦協力しているわけですが)、これまでの負債が大きすぎて双方のフォローに終始した末に、え!? 現在地そこなの?! と目が点になる着地点で、次また防衛軍が出てくるまで、まったく油断ができません。
 次回――「プレシャスを悪から守り抜く。それがボウケンジャーだ!」。