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狂犬たちのワームホール

ウルトラマンコスモス』感想・第32話

◆第32話「悪夢の実験」◆ (監督/特技監督:村石宏實 脚本:山本優
 《タイムボカン》シリーズや《J9》シリーズなど、1970年代から活躍しているベテラン・山本優が初登板。
 鏑矢諸島を訪れるムサシが受けていた任務は、実際の怪獣を対象とした、新型の強力麻酔弾の実験。
 薬品の副作用を恐れて実験に反対するムサシだが、保護管理センターのイケヤマの説得役も兼ねて担当を引き受けざるを得なくなり……え、何故、説得を丸投げ?!
 「僕には選べない……いったいどの怪獣に実験しろというんだ!」
 え……その選択も丸投げなの?!
 そもそも麻酔弾って、対象に合わせて薬品の量を調節するものだと思うのですが(未来テクノロジーでそうではないのかもですが)、ムサシの主体性を描こうとするあまりに、余計な穴を空けている印象。
 実験に来た事をイケヤマに言い出せない内に市街地付近に怪獣が出現し、問題を先送りしたムサシはそちらへ出撃。ゴルメデ(第2話に登場)の強力な亜種である怪獣はレーザーネットのエネルギーを吸収してしまい、ムサシは、治験も完了していない麻酔弾など使わずに怪獣を捕獲してみせる、と息巻くが、そこに防衛軍の戦闘機も飛来。
 アイズのオペーレーションルームには、手に鞭を持った防衛軍関係者・西条(キャップの知己の模様)が大股開きで現れると、我が物顔で椅子にふんぞり返って机の上に足を乗せ……うー、うーん……な、何これ。
 もしかすると、2002年に見たらそこまで違和感が無かったかもしれませんが、2021年現在に、ここまで(創作世界のイメージにおける)ナチスっぽいの丸出しのアナクロな悪役を見せつけられると、さすがに目眩がしてきます。これが東映特撮の悪の組織とかだったら別種の面白さが出たりもあったかもですが、この人が所属しているの悪の組織ではなく、この世界における自衛隊とか国連軍のポジションの筈ですからね……。
 「おまえをこうまで暴れさせているのはなんだ?!」
 怪獣の行動に理由を見出そうとするムサシだが、防衛軍の介入を前にやむなく新型麻酔弾を使用……する事が出来ず、代わりに西条が防衛軍の戦闘機に攻撃命令を下すとヒウラは西条に掴みかかり…………いや、まあ、他組織の基地に押しかけてきて西条が一貫して無礼なのは確かですが、何か因縁がありそうとはいえキャップも最初から喧嘩腰ですし、いい年した偉い人同士がいきなり暴力に訴える姿が完全に狂犬で、どちらにも、怪獣の保護や地球の防衛を任せていてはいけないのでは。
 西条(防衛軍)の目に余る言行に遂にキャップが爆発! と描きたかったのかもしれませんが、ただでさえムサシに必要以上の重荷を背負わせて株価が下落しているところに、我慢に我慢を重ねた末にやむなくといった形に全く見えず、カタルシスの代わりに特大の疑問符が発生してしまいました。
 「見ろ! 怪獣はしょせん怪獣でしかない!」
 それはそれとして西条はひたすら安っぽい悪役として描かれ、次回予告で感じた不安をジェットドリルで突き抜けてきます。
 作品にとっての善玉・悪玉が存在するのは当然の事ではありますが、「怪獣保護」を目的とするチームアイズも状況によっては怪獣を攻撃するのに、僕らの攻撃は頑張って努力した末の“良い攻撃”だけど、「国民・国家の生命財産の保護」を目的とする防衛軍の攻撃は“悪い攻撃”といった、お互いの行動理念の違いを無視したアイズの一方的視点と、それに基づく粗雑な描写はどうにも呑み込みづらい部分。
 怪獣暴走の原因は、防衛軍の開発工場から流出した産業廃棄物だと判明し、確かに防衛軍に問題はあるのですが、相手の失点はこちらの得点、とばかりに皆揃って鬼の首を獲ったように西条を責め、“悪”として糾弾するチームアイズの姿勢は、防衛軍とは別の形の傲慢さがにじみ出て好きにはなれず、そこは戯画的な表現として受け止めて、『コスモス』に求める要素ではないのかもしれませんが……アイズの対立項としての防衛軍の描写は、つくづく鬼門。
 過去にそれどころではない事件があったのかもしれませんが、お互いに尊重の全くない武力集団が主導権争いをしている様相は率直に恐ろしく、理念の対立から折り合いが悪いぐらいならまだしも、アイズ側はアイズ側で皆揃って「防衛軍は腐ったウジ虫より最低の連中だ!」みたいな態度なのはいかがなものかと思いますし、それこそ、自分たちの持つ「拳」の意味を他者との比較で考えないのは、『コスモス』全体のテーマとも矛盾しているように思えて仕方ありません。
 防衛軍機のミサイル攻撃のエネルギーさえ吸収した怪獣に撃墜されたムサシは、コスモスに変身すると、怪獣のエネルギー切れを狙って持久戦に持ち込み、コロナとなって打点の高い飛び蹴り!
  猛烈なジャイアントスイングで投げ飛ばすと、ルナに戻って癒やしの波動を放ち、怪獣の沈静化に成功。チームアイズの捕獲活動も成功し、無事に怪獣は鏑矢諸島へと運ばれるのであった……。
 結局、強力麻酔弾には問題があってムサシが一番正しかった、とされるのですが、せめて防衛軍の工場から流出した汚染物質とはその麻酔弾に由来し、西条は一連の問題を揉み消す為に怪獣への攻撃を強行しようとしていたのだった……みたいに要素を繋げて一士官の“暴走”として処理されるようなこともなく(あまりにも西条の行動が無茶苦茶なので、裏を用意していたのが尺の都合でカットされた可能性はありますが)、防衛軍を雑に悪玉として描く事で、それと同レベルで争うアイズの株まで一緒に奈落の底へ落ちていく大惨事。
 保護された怪獣たちの生活、を改めて見せてくれたのは良かったのですが……次回――予告でナレーションさんが防衛軍関係者について「平和を願う思いは同じだが」と言及してくれましたが、出来るのか、リカバリー?!