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『アギト』ウィーク

仮面ライダーアギト』感想・番外編

スペシャル「新たなる変身」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 「アギトというと、例の……よくわらないアレか?」
 ハイ、よくわからないアレです。
 本編第35話と第36話の間に、およそ2話分の尺(約45分)で放映された、特別編。
 当時見た際の印象が、京本政樹が好き放題だったのですが……改めて見てもやはり、京本政樹が好き放題でした。
 というか、ゲストである心理学者・国枝を演じる京本政樹(熱烈な『仮面ライダー』ファン)の活躍の余地を作る為に本編の主題をねじ曲げてしまっている感があり、見るからに暴走しそうだけど実際はしないバーニングフォームが何故か暴走し、それをきっかけに、アギトの力に飲み込まれそうだと翔一くんが苦悩する、本編に限りなく存在しない要素(恐らく、『クウガ』との差別化の為に意図的に排除した要素)が物語の軸にされて、とても困惑。
 国枝と翔一の会話からアギトの正体を知る北條さんの言行などから、こちらはこちらでパラレル世界扱いなのかとは思われますが、そもそも、自らも辛い過去を乗り越えた立派な大人が導き手として主人公に道を示す……って、井上敏樹の作風からだいぶ離れているので、どうにも色々強引な作り。
 『アギト』本編でいえば、序盤に美杉教授が翔一くんに生き方のヒントを与える場面こそありましたが、以降は基本的にそういう作劇は存在しておらず……一見そういうポジションに居る人(例:沢木)が立派でもない、のがむしろ井上敏樹の持ち味なわけで。
 TVスペシャル制作における諸事情もあったのかと思われますが、美杉教授よりも格上の扱いを受け、翔一くんを「翔一」「翔一」と呼ぶ国枝先生が、本編で積み重ねられてきた『アギト』世界からは明らかに浮いていて、結果としては、ひたすら京本政樹アワー。
 多数投入されるテロップなど、説明を圧縮した上で初見の視聴者を意識したと思われる作りも影響したのでしょうが、自分が自分で無くなっていく恐怖、というわかりやすく普遍的な「変身」テーゼが、本編において既にバーニングした翔一を見た後では主題としてあまりにも噛み合わず、幾らパラレルとしてもノリにくい内容になってしまいました。
 これはもしかしたら、中盤で雪菜の死について触れられた先で有り得たかもしれない『アギト』ではあったのかもしれませんが、本編が進まなかった方向を、10話ほど意識を巻き戻してスペシャルに結合して飲み込む、というのはさすがに難しかったのが正直。
 ……ただ、
 「おまえか。一度おまえを殴りたいと思ってたんだ」
 とうとう北條さんを正面から殴る涼、は面白かったです(笑)
 なお、劇場版では河野さんと一緒に1シーンだけの登場だった北條さん(あまり出すとややこしくなるので英断だったと思います)は、冒頭から小沢さんと舌戦を繰り広げるなど、大暴れ。
 人間を灰化し、アギトの処刑キックが通用せず、バーニングさえいなすカブトムシアンノウンは、モチーフの強敵感に加えてモーニングスター&盾の装備も格好良く、G3-Xが追い詰められた場に駆け付けた翔一と涼が揃って変身。
 殴り飛ばされたアギトは日光を浴びるとシャイニングし、国枝先生の言葉を受けて改めて自身の中の“アギトの力”と向き合った翔一くんが、「青空」をきっかけにアギトの力を自分のものとした姿、という解釈がシャイニング誕生に施され、本編における「はい。ある日目が覚めると、とても天気が良かったです」が取り込まれたのは良かったのですが、そこに至るバネのたわみとなる翔一くんの苦悩のしどころが、本編の時間を強引に巻き戻したようになってしまい、盛り上がりきれず仕舞いでした。
 また、どだいスペシャル版では表現し辛いのですが、『アギト』の魅力は、めまぐるしく変化していく人間関係の中で、共有されていく情報、生まれる誤解、点と点の思わぬ接続、などにあるので、人間関係の現在地点がわからないと、並んで変身してもそれが面白さになりにくいな、と。
 この企画そのものの難しさを脇に置くとしても、バーニングに焦点を当てればシャイニングがおまけになり、シャイニングに焦点を当てればバーニングの扱いが雑になりと、『アギト』におけるバーニング-シャイニングの位置づけは厄介なのですが、TV本編における、三十数話の集約としてのバーニング誕生回が凄く好きなので、シャイニングに対して辛いところはあります(笑)
 カブトムシはシャイニングに切り裂かれ、G3マイルドは劇場版の宣伝要素でした! で終幕。
 当時の単純な放映時系列としては、
 〔第33話(あかつき号事件の種明かし)→ 劇場版 → 第34話(バーニング誕生) → 第35話(木野アギト登場) → TVスペシャル → 第36話 → 第37話(シャイニング誕生)〕
 と本編の内容も作品の展開も怒濤の様相となっており、『クウガ』から始まった《平成ライダー》の大きな波は、『アギト』クライマックスを経て、3年目へと突入していくのでありました。