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深い深い水の底にて

仮面ライダーアギト』感想・劇場版

◆『仮面ライダーアギト PROJECT G4』◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 この映画で忘れてはいけない事:最大の戦犯は尾室。
 なにやら物々しい施設の中に集められた少年少女が超能力の訓練に励んでいると、大量に出現した蟻のような怪人に襲撃を受け……平成ライダー》初の劇場公開作品で、本編とストーリー的には直結しておらず、TV本編の設定に基づいたパラレル世界の物語、といった作り。
 最初の襲撃は警備部隊のドンパチを交えつつパニックホラー調で描かれ、蟻酸を浴びて溺死する教師の姿が、えぐい。
 累々と屍が折り重なった施設に到着するG3-X、ガトリングの先端にサーチライト付いているのが雰囲気出してなかなか格好いいのですが、そもそもガトリング装備で突入するな感はあります(笑)
 G3-Xは辛うじて勝利を収め、少年少女2名が生き延びて現場を逃げ出し……施設に関わっていた自衛隊から、G3ユニットに派遣されてきた研修生・深海が、尾室を籠絡して小沢のコンピューターからデータを抜き取ると速攻で研修を取りやめ、2ヶ月後――(色々マッハ)
 施設に居た少女・紗綾香と少年・レイは、当ても無い貧苦の生活の中でトラブルから離ればなれになってしまうが、紗綾香の方は予知能力で太一を助けた事をきっかけに美杉家に拾われ、美杉家の居間に突然のピアノが!が何かと思ったら少女の過去に繋がるのは、井上敏樹的といった感。
 同時にこのピアノがパラレル世界のアイコンの一つとなっており、真魚ちゃんと翔一くんの連弾シーンで、ピアノの音色に合わせて平穏な日常の象徴として美杉家の団欒と家庭菜園が映し出されるのが、『アギト』らしい見せ方です。
 一方、すっかりやさぐれて念動力を悪用していた少年レイは、蟻に襲われたところを涼に助けられ(涼っぽい……)、鞭攻撃からの踵落としで蟻を倒したギルスは毎度お馴染み体調異変に倒れ…………涼っぽい。
 昭和の金持ち属性である美杉教授により3番目の居候となる紗綾香だが、超能力の存在を隠すために打ち解けられないでいる内に真魚と一緒に蟻に襲われ、一番最後にアギトが変身。
 わらわら出てきた蟻に囲まれるアギトだが、そこにやたら格好良くG3-Xが登場し、赤フォームを発動したアギトが、蟻の群れを狭い空間に誘い込んで次々と切り払うのが、格好いいアクション。
 一方、赤いボディのシャア蟻に苦戦していたG3-Xだが、そこに飛んできた謎のヘリコプターから、黒いG3――いや、G4が地上に降り立つ!
 「そんな……まさか……」
 おまえがガトリングなら、俺はロケットランチャーだと、G4は蟻をまとめて吹き飛ばし……激しく吹き荒れる《レスキューポリス》感!(笑)
 MAY DAY! MAY DAY! SOS!
 ……すみません、いつもの発作です。
 小沢さんでさえ封印したG4システムを実用化した自衛隊の深海は、冒頭に壊滅した施設は、超能力兵士を育成する為に孤児を集めていた秘密プロジェクトであった事を仄めかし、火力! 物量! 禁断のシステム! 国家的陰謀! 非道な人体実験! 崇高な理念を掲げて他者の命に豆粒ほどの価値も見出さない狂気! と、本編とはひと味違った映画的なスケール感がぐぐっと乗せられていき、氷川はG4の装着員・水城から、G4システムの装着中に死亡した隊員が沈む凍り付いた水槽の列を見せられる。
 「今の俺は、死を背負って戦っている」
 冒頭の襲撃を生き延びるも、余りにも多くの死を目にして死に囚われた水城と、あかつき号事件において“向こう側”から帰還する事で英雄となった氷川誠が対比され、美杉家の家庭菜園の映像も含めて、『アギト』本編の主題の一つである「生と死」が強調。
 今作のファーストカットは、川(水面)と船、であり、流れゆく紙の船は魂を想起させるのですが、沈み、浮かぶ、“死と再生”はTV本編で執拗に繰り返されるモチーフであり、なれば水槽に沈む死者の列は、映像的なハッタリもさる事ながら本編における死のモチーフとの接続で、水城の中では世界は、既に沈んだ者と、まだ沈んでいない者とで構成されているに過ぎず、水城自身の肉体はまだ沈んでいないが、魂は既に水底に沈んだままなのかもしれません。
 そして、「仮面を被る」行為によって「聖性を発揮する」G3の発展系であるG3-Xが本編で示していた“神の模造品”としての性質が押し進められたG4は、装着員を依り代として現世に顕現し、最終的には生け贄として人の器を喰らい尽くすものとして描かれ、人を使うのではなく、人が使う技術として再調整されたG3-Xと対比される事に。
 「力を貸して欲しいんだ。先生も、友達も、みんなあいつらに殺された。仇を取ってやりたいんだよ」
 目を覚ました涼と、涼を助けた少年の交流の一幕の後、再会を果たす紗綾香とレイだが、深海に身柄を抑えられてしまう。ところが、紗綾香を探していた真魚が、紗綾香の外した超能力検知ベルトをはめていた事から(何故はめる)目をつけられ、二人の代わりにさらわれてしまう事に。
 人間には処刑キックを放てない翔一くん(こういう場合は、涼の方が強そう)は警察に相談をもちかけるが小沢コネクションも空振りに終わり、もしかすると美杉教授コネクションの方が、とんでもない大物を動かせたりするのでは……? と思ったところに通りがかる、本郷猛によく似た警視総監(笑)
 藤岡弘、特別出演が大変不意打ちでビックリしましたが、どうしても劇中人物に見えないのが良し悪し(笑)
 「久しぶりだな。どうだ、調子は?」
 「ええ、絶好調です。……と言いたいところですが、思うようにならない事もあります」
 「ほう、君らしくないな。だったら思うようにしたらいい。目の前の障害をものともしないのが君のいいところだ。しかし、そんな行動を見過ごす、目の悪いところが俺のいいところだ」
 なんか、滅茶苦茶言い出した。
 「そうそう、行く時はやっぱ行かなくちゃ! ですよね?」
 「……それでいい。今の俺の出来ない事を君達がやってくれ」
 翔一くんと総監が笑顔で通じ合い、かつてのヒーローから、新世代へのヒーロー達へのエールは、明らかにメタながらも劇中の台詞としても通用する形に収まっていて良かったです。
 一方、囚われの真魚ちゃんはゴテゴテした機械に繋がれ、本編以上に王道の超能力ヒロインをしており、基本設定とキャラクターをTVシリーズに依拠しつつ、『仮面ライダー』を素材に、やれるところまでSFアクションやってしまおう感。
 小沢さんが深海と交渉を試みる間、氷川くんから水城について相談を受けた翔一は、「死を背負う」なんて嘘くさいと一刀両断。
 「生きるってことは、美味しいってことじゃないですか」
 「……おいしい?」
 「はい。キャベツを食べても、大根を食べても美味しいんです。もしかしたら、何も食べなくても美味しいんです。死を背負ったりしたら、まずくなります」
 小沢の交渉は不首尾に終わり、真魚奪還の為、少年少女と共に自衛隊施設への潜入を試みる翔一だが、さすがに失敗……失われた過去は、敏腕スパイではなかった!
 同じく夜襲を考えていたG3ユニットは、3人がG4に排除されそうになっているのを発見してG3-Xを出動させ、翔一もアギトに変身して参戦。だが、真魚のESP能力を戦闘システムと接続したG4は、行動予測を超えた行動予知により両ライダーを圧倒。完敗したG3-Xは身柄を拘束され、深海が徹底的に壊れている一方で、水城が死に囚われながらもどこか人間味を残しているのは、劇中の悪役サイドの描写として、良いアクセントになっています。
 「彼女も死に近付く事で、偉大な力を発揮している」
 「……違う! 違いますよ水城さん! こんな事が許される筈がない! あなたは、死に近付きすぎて、生きる事の意味を忘れてるんだ!」
 「……甘ちゃんの戯言だな」
 「ええ。確かに僕は甘いかもしれない。僕の知り合いに、無条件に人生は素晴らしいという者がいます。…………僕は彼のようにはなれないし、あなたのようにもなれない。中途半端です。でも! これだけは言えます。……僕は生きる為に戦う。生きる事を……素晴らしいと思いたい」
 TV本編においては“超人になれない”事を運命づけられている氷川くんが、どちらにも割り切れない自分を中途半端と表現した上で受け止め、決して丸ごと美しいとは思えない世界の中で藻掻きながら、それでも、より良く生きていきたいのだと告げるのは、あかつき号事件以来、“英雄”である事を求められ、不器用にそれに応えようとしてきた氷川くんの“人間”宣言――氷川くんの居場所――として、大変良かったです。 
 これは後に『555』でも深く掘り下げられる主題となりますが、“生きる”とは何か? そしてそれに付随する「生の謳歌」と「人間賛歌」は、井上敏樹の作家的テーマなのだろうな、と思われます。
 そしてそれは『ジェットマン』『シャンゼリオン』と00年代の諸作を結ぶ一本の太い幹であり、私が、井上敏樹の描く最終回、が好きな理由でもあり。
 「はは、あははは! 脆弱な人間の精神を語ってどんな意味があるというの? 人間はただG4の力に感謝すればそれでいい」
 氷川の言葉に苦い表情を浮かべる水城だが、直後に深海が乱入して台無しに切り刻んでいくのが、両者の差異を鮮やかにして、絶妙なタイミング。
 真魚の力を得たG4は、時間を超越する存在になった――すなわち、イミテーションを越えて“神”の領域に入った――と嬉々として語る深海だが、アンノウンが施設を襲撃。
 気絶していた翔一くんは蟻の出現にきゅぴーんして目を覚まし、真魚ちゃん救出の為に再び立ち上がる。
 「俺、真魚ちゃんを助けなきゃ。真魚ちゃんは今、真魚ちゃんの居るべき場所に居ないからさ」
 G4は先読みミサイルで蟻の軍団を吹き飛ばし、混乱の中で施設に突入したアギトは、マシントルネイダー横倒しにより蟻をまとめてなぎ倒し、『アギト』恒例ビークルアタックも、いつもよりスペシャルに轢いております!(笑)
 更にレイに助けを求められた涼もやってきてギルスに変身し、生身涼の出番は、ここでおしまい。
 多分にTV本編の撮影スケジュールとの兼ね合いが影響しますが、通りすがりに少年を助ける → 寝込む → 少年との交流(マッハ) → しばらく完全に出番が無くなる → クライマックスで復帰……は、色々な意味でとても涼っぽい(笑)
 G4システムに繋がれながらも翔一の未来を幻視した真魚はシステムの拘束を脱するも、G4が動きを止めた間に蟻が本部に突入。間一髪のところをG3-Xに助けられ、なんだか今作は、G3-Xのヒーロー度が高い!
 蟻の軍団と4ライダーが入り乱れる集団戦が展開し、大規模戦闘を安っぽく見せない為に工夫はしているのですが、倉庫に詰めて照明チカチカで誤魔化さざるを得ないのは、色々な点の限界は感じます。ここで、金かけた! という戦闘をもう一つ盛れると映画としてまた一つ変われるところではありますが、この辺りはなかなかな難しいなと。
 激闘が繰り広げられる中、なんか蓋があるな……と思ったら、地下に落とされるギルス(笑)
 現れた女王蟻に立ち向かったギルスは、いきなり右腕を吹っ飛ばされて敗北し、G3-Xは水城を止める為にG4に立ち向かい、施設内部に発生した長石階段で近衛蟻と戦っていたアギトは、いきなりバーニング!(青はまだともかく、劇場版でも出ずじまいに終わってしまった三色……)
 近衛と女王に囲まれるアギトだったが、その間に立ち直ったギルスが気合で右腕を生やすと、ついで(本当についで)に体から色々生えてきてアギトを援護し、近衛蟻を担当。
 それでも女王にアギトが追い詰められたその時、紗綾香に肩を借りて脱出中だった真魚の声がアギトの脳裏に響き……おもむろに廊下の照明を浴びたアギト、孵化(笑)
 こう見ると成る程、卵の殻が割れるイメージだったのか? と納得しましたが、劇場版でも割と唐突なシャイニング、一応、翔一を想う真魚の心と、真魚を守ろうとする翔一の心が同調して、更なる進化の力を与えた……! ような描写にはなっていましたが(とすればそもそも、バーニングとは更なる進化を控えたサナギの状態であったのか)、劇場版先行登場だと、そこに本編の主題を持ってくるわけにもいかない難しさを感じます。
 逆に、主題とがっちり噛み合って誕生したのが本編のバーニングとなるわけですが、当時の劇場公開初日は第34話(バーニング誕生回)の前日で、先に映画を見ると、バーニングこそなんだこれ? になっていたのかと思われ……とすると、TVでバーニング → 映画 → TVでシャイニング、が一番盛り上がれそうな順番でしょうか。
 それはそれとして、シャイニング誕生と共に満を持して主題歌が流れ出すのは大変格好良く、こちらも先行お披露目であった強化ギルスは、触手で拘束してふわふわ浮かせた相手に踵落としを叩き込む完全な悪役ムーヴで、近衛蟻を撃破。
 シャイニングは、目の前に出した紋章に向けて横っ飛びで蹴りを放つ閃光処刑キックで女王蟻を葬り去り、Get's on!!
 そして……深い深い水の底から水城を引きずり上げようとする氷川と(あかつき号事件のリフレインでもある)、G4の依り代(生け贄)として同胞の屍と共に人ならぬものに引きずり込まれていく水城の死闘は続き、激しくアーマーの破損するG3-Xに届いたのは、仲間の、生ある世界からの、小沢の声。
 「G3-XとしてG4と戦っては勝ち目はないわ。――氷川誠として戦いなさい!」
 自ら仮面を外す事により、神のやつしである事を捨てた氷川誠が、限りなく神の現し身として純化していくG4と戦う姿により、本編を背景とした〔人vs神〕の構図が出現するのを、謎の青年のテーマ的な荘厳なBGMが裏打ちし、激しい攻防の末にシステムに飲み込まれた水城の死亡後、水城の言葉通りに動き出したG4――神になり損ねた神の器――を氷川が射殺する事である種の“神殺し”を果たし、大変やるせない決着。
 「……G4システム、活動を停止しました」
 深海はもののついでに蟻に殺されて始末が付けられ、沈黙する小沢の表情は映されず…………とりあえず、この世界の尾室は数日後に行方不明になって、数ヶ月後に東京湾に身許不明の(以下略)。
 まあ、G3トレーラーのコンピューターの中にG4のデータ入れておく小沢さんも大概ではあるのですが。
 真魚をお姫様抱っこしたアギトが帰還し、無事に再会を果たした紗綾香とレイは、後日、里親も決まり……謎の青年に土手っ腹を貫かれて倒れるアギトとそれに駆け寄る沢木、という本編の布石めいた幻視が差し挟まれた後、真魚と翔一のピアノ連弾で、終幕。
 翔一パートが非常にヒロイックに決着する一方、氷川パートは水城を救えなかった虚無感を漂わせて幕を閉じ、劇場版仕様で本編から少し離れたところから始まった今作、最終的に本編を補完する要素が強まるのですが、変な言い方ですが氷川誠版『アギト』といった印象。
 G4はG3-Xの、水城は氷川の、深海は小沢の、それぞれ、有り得たかもしれない可能性存在と見て良いかと思うのですが、『アギト』という物語の中で、氷川くんが戦うべきものとは何かといえばそれは、「人を越えようとする欲望」で、アギト否定とは別の形で、「人が人のまま、生きる事を素晴らしいと思えるように」が、氷川くんの持つ主題なのかな、と。
 同時にそれは、作られた神の依り代、システムと一体化して“生”を失ってしまった水城の否定でもあり、そこには、人間の自由を尊重するシリーズの本歌取りも仕込まれているのかと思われます。
 本編では真島くんと木野さんの対比に示されてもいますが、『アギト』は、人を「越えてしまった」事は否定しない一方で、「越えようとする執着」に対してはネガティブなところがあって、それはきっとアギトかヒトかを問わずに“より良く生きようとする”事に相反してしまうからであり、だから、アギトである者、ギルスである者、どちらにもなれない者、それぞれが、より良く生きていく姿を描くのが、一つのゴールとして見えてきたのかな、と。
 本編だと現在進行形で氷川くんに、その部分への惑いが生じているようなので、どのような道が描かれるのか、注目したいと思います。
 映画単体としては、真魚ちゃんがさらわれて以降、紗綾香とレイの存在感が大きく減じ、この二人が“立ち上がる”要素が薄くなってしまったのが惜しまれますが(そこは意識したのか、中盤までにそれなりに描かれてはいるのですが)、では真魚ちゃんを脇に回してゲスト少年少女を最後までフォーカスしていたらどうだったのか、というと、それはそれで物足りなかった気もして悩ましいところです(笑)
 20年越しに見る事が出来て良かった、『PROJECT G4』でした!