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誰もが諦めそうな何かに……

仮面ライダーアギト』感想・第41-42話

(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第41話「僕たちは殴り合ってきた」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 劇場版やTVスペシャルを担当していた田崎監督が第23話以来となるTV本編に復帰し、翔一くんと氷川くんは、ひたすらソフトクリームを舐めていた。
 「俺、アギトの会とか作るのが夢なんです」
 翔一と氷川は、涼を経由して真島くんから木野の過去について知ると、しっかりと話し合いがしたい、と病院へ。
 「おまえにはわかるまい。俺にとって全ての患者は雅人なんだ。俺は……雅人を助けなければならない」
 木野さんも大概、情念先行でわけのわかりにくい人でしたが、これまでの積み重ねをバネのたわみに、台詞一発でその情念をくっきりと形にして飛躍させてみせるのが、さすがの切れ味。
 「奴は過去を償おうとしているんだ。過去を償う為には、自分の手で人々を救わなければならない。俺たちは邪魔者ってわけだ……」
 取り付く島も無い木野だが、翔一くんはめげずにアタック。
 「みんなで力を合わせて、アンノウンと戦って、週に一度、俺の手料理を食べるんです。……ダメですか?」
 「相変わらずの性格だな。記憶喪失になっても」
 翔一が木野を冬山から解き放とうとする一方、真面目で不器用な性格のあまり、「人々を助ける為の力が欲しい」を、
 「……僕も……アギトになりたいのかもしれません」
 と出力してしまった氷川くんは、涼からの好感度ゲージが大激減でまたも殴り飛ばされ、ヒーローの“孤独”と“悲哀”を背負う役回りの涼ですが、この青臭さに、翔一くんとは違った形の“等身大”が込められているといえそうでしょうか。
 謎の青年の中から復活した水のエルが翔一と木野を襲撃し、そこに飛び込んできた涼がバイクで轢……こうとして失敗した!
 今作恒例のビークル攻撃を回避する強者ぶりを見せつける水のエルに対し、ギルス! アギト! 木野アギト! の連続変身は大変格好良く、別に心が通じ合ったわけでは無いのですが、挿入歌に合わせて翔一アギトと木野アギトが斜めに並ぶのは、非常に映える画となりました。
 3ライダーは水のエルの範囲攻撃を受けて派手に吹き飛び、遅れて駆け付けたG3-Xの放ったグレネードは、念動力で逸らされて、ギルスに直撃(笑)
 木野アギトのキックも亜空間回避によって翔一アギトに炸裂してしまい、変身が解けて地面に転がった翔一は、薄れる意識の中で目にしたはためく布をきっかけに、船上の光景を思い出していく――。
 「乗らなくちゃ、あの船に……」

◆第42話「あかつき号連続殺人事件――高松行13時00分発フェリーに秘められた黒い殺意 隠された手紙に引き裂かれる恋人たちのアリバイとうどん 赤い服の女は全て見ていた――」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 ギルス、G3-X、木野アギトが水のエルと攻防を繰り広げる中、気を失った翔一の記憶は過去を彷徨い……「津上翔一」に“出されなかった”雪菜の手紙を発見した翔一は、宛先に書かれた香川県を目指して東瀬戸フェリーのあかつき号に乗り込んでいた。
 やんちゃしていた息子について語る葦原父、元カメラマンを名乗る相良、退職・独立を友人に相談する佐恵子など、非業の死を遂げていった“あかつき号の仲間たち”の人生の断片がさりげなく描かれ、肉付けの仕方が、えぐい。
 そして、亜紀さんはこの当時から意味も無く怪しげだった(笑)
 現在では北條の元を訪れた真魚が謎の手紙をリーディングして、不思議な文字により自動筆記された手紙が、遙かな過去にあった光と闇の戦いを記している事を読み取り、あかつき号事件の真相の合間に、VS水のエルと、謎の青年の真実を挟み込んで、起伏をつける構成。
 「いつか…………遙か未来……、ニンゲンたちの中に……私の力が覚醒する。その時……ヒトは……、おまえのものでは、無くなるだろう」
 闇の存在に敗れた光の存在(謎の青年二役)の派手な嫌がらせによりアギトの種子がヒトの中にばらまかれた事が明らかになり、神vs人、の構図は石ノ森章太郎への意識が見えますが、同時に、割と急に光と闇の壮大なサーガが盛り込まれるのは、凄く宮下隼一チック(笑)
 実際どうだったのかはわかりませんが、やはり『アギト』にはそこはかとなく、90年代《メタルヒーロー》への目線を感じます(少なくとも白倉Pは、初期《平成ライダー》において《メタルヒーロー》枠の後継作品である事を意識していたそうですし)。
 あかつき号の船内では、どこからともなく現れた白い服の青年の死体が発見され、騒然(迷惑)。
 「人は、後悔しないように生きるべきだ。自分の思い通りに。自分の人生を狭くするのは自分じゃない。本当は、自分自身なんだよ」
 その“死”をきっかけに、メガネ木野さん! がやさぐれ真島くんを諭す言葉が、それぞれの人生模様と、その後の彼らに接続されるのが、実に華麗。
 翔一は手紙について木野に相談するが、突如としてフェリーが天変地異に襲われ(この際、便せんは木野に、封筒は翔一に)、船室にぼんやりとした姿で現れた白い青年が、最後の力で翔一の中のアギトの種子を開花させた直後、水のエルがあかつき号を襲撃。
 「ヒトでないものは滅ばねばならぬ」
 以前に描かれた記憶の断片に接続され、水のエルに襲われた翔一は、そのまま槍で刺し殺され……たわけではなく、アギトに変身し、叩きつける嵐の中で、わけもわからずアギトに“変わってしまった”おぼつかない姿が、今作の描いてきたヒーローの姿として象徴的(記憶を失った影響もあるのでしょうが、恐らく初期アギトは、白い青年の力の影響により、オートプログラム的に動いていたよな……と)。
 なぜ翔一だけが早々とアギトだったのか? は、白い青年の助力によるものであり、覚醒が近かったのはアギト1号(雪菜)の肉親であるアギト2号だったから、と理由付けがされて、“名付けない”事にかなり意識的な作品でありますが、主人公ライダーさえ固有名詞で無かったどころか、物語の中で二番目の存在だった、というのは徹底しています。
 「そうだ。俺は……俺は、あかつき号の中で、あいつに」
 抵抗を見せる翔一アギトだったが、水のエルの攻撃を受けて海中に転落。アギトになった事で、ヒーロースキル《水に落ちても死なない》を自動獲得していた翔一は海岸に流れ着き……水のエルは残された者たちを見下ろす。
 「おまえ達もまた、悪しき光を浴びた。あの男同様、やがてヒトでは無くなる。だが、それまでは生きられるだろう。覚醒の前兆が訪れるまでは。ただし、この事は誰にも言ってはならない、決して。忘れるな。おまえ達の時間は長くはない。おまえ達に未来は無いのだ」
 第4クールにして、あかつき号事件の全貌が明らかになり、事件関係者が何故すぐに殺されなかったかといえば、ヒトである内は殺さない、黒い青年の意向であり、畳みかける超常的かつ衝撃的な状況の中で有無を言わさず約束を飲み込まされていた、と幾つかの不自然な諸々への辻褄合わせはかなり綺麗に着地。
 その上で、不条理ともいえる運命の激震により絶望に突き落とされるそれぞれの姿を克明に描く事で、過去の真実が明らかになったその時、ただそれだけではなく、アギトとは何か――それは、誰かの未来を閉ざそうとするものと戦う存在である、とヒーローのアップデートが行われているのが、お見事。
 「待て!!」
 強化ギルスが善戦するも水のエルの猛威の前に追い詰められたその時、立ち上がったのは今度こそ全ての記憶を取り戻した(?)、津上翔一。
 「……誰も……誰もヒトの未来を奪う事はできない! ――変身!!」
 燃え盛るバーニングが突撃して、つづく。
 長らく謎の中核にあった、あかつき号事件の全貌が明らかになり、本編では感じの悪い人が多かった事件関係者の、実はこういう人達でした、を示す断片の切り出し方が実に上手く、彼らの“生”が色鮮やかに甦るほどに既に訪れてしまった“死”の意味が重みを増し、それにより「アギトとは如何なるヒーローなのか」が改めて導き出される、ヒロイックな飛翔が実に劇的。
 その飛翔を背負った翔一くんが会心の変身でクライマックスをバッチリと締め、今作のテーマの一つが結実――究極的には、“敵”を倒して終わるのではなく、“可能性を示す”事がゴールの物語なので、ある意味一つの最終回ともいえる内容であり、これだけの数のキャストを集められた事も含めて名作回でした。