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仮面ライダーアギト』感想・第33-34話

(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第33話「水底より来たるもの」◆ (監督:金田治 脚本:井上敏樹
 格闘戦なら任せとけ! と長期休養明けで絶好調のギルスの猛攻を受けたシャチアンノウンは逃走し、ギルスはそれをバイクで追跡。
 関谷の背後に浮かんだ何者かを観た真島は恐怖のあまり逃げ出し、真魚を守って戦うアギトもまた、嵐に揉まれるフェリーの船上でその何者かに槍を突き立てられた記憶に脅え、恐慌状態で逃走する。
 シャチと交戦したG3ーXは、かつて自分を殴り飛ばしたヒョウ柄男が警察的には謎の生命体――ギルスに変身していた事を知るが、そのまま走り去った涼は、沢木と接触
 「なんだあんた?!」
 「おまえを……甦らせた者だ」
 翔一くんの記憶、ギルスの正体を知る氷川主任、沢木と涼、とこれまでニアミスの連続だった点と点が怒濤の勢いで繋がっていく急展開で、翔一は何かから逃げるように翔一がオセロに没頭し、沢木・涼・真島は、マンションの一室に集う。
 「まさか……まさかあいつが現れるなんて……」
 「あいつ?」
 「真澄さんの体から出てきた奴だよ! ……あいつが……あいつがあかつき号を襲ったんだ。それで俺たちを……」
 あかつき号事件を引き起こしたものがいよいよその姿を見せ、沢木は涼に、風谷真魚の力により蘇生を行った事を説明。
 「おまえはまだ、死んではならない。ある存在と、戦わなければならないのだ」
 「ある存在?」
 「彼らは、おまえのような人間が増えるのを恐れている。おまえのように、変身能力を持つ可能性のある人間たちを、抹殺しているのだ」
 「ちょっと待ってよ! アギトになるのはあかつき号のメンバーだけじゃないって事?!」
 「そうだ。現に彼は、不完全ながら、アギトと同じ存在として、覚醒している」
 「俺が? アギトと同じ? ……でも何故。なぜ俺が?!」
 「それは……おまえが自分で、答を見つけなければならない事だ」
 アンノウンの目的、あかつき号事件の謎、怒濤の種明かしから、肝心の所はスキップ(笑)
 まあ、“私”は何者で、どこから来て、どこへ行くのか、は自分で見出すしかないのは極めて普遍的なテーゼでありますが、『アギト』の物語としては、諸々の謎の辻褄合わせを、沢木にみんな喋らせる作劇になってしまったのは残念。
 特に沢木の場合、神秘の側に体半分以上突っ込んでいて、いつでもどこでも現れては好き放題に情報量を調節できる完全なワイルドカードなので、絡み合った糸をほぐすももつれさせるも自由自在、なのはズルいキャラになってしまいました。
 一方で、あかつき号事件関係者と縁の深い涼が、謎解きの聞き役になる事で第3の主観としての機能を遅まきながら発揮すると同時に、翔一くんが物語の中心から外れようともがくのは、面白い展開。
 その頃、北條はアンノウン事件の被害者を徹底的に洗い直す事で、風谷伸幸殺害事件から一本に繋がる新たな線が見つかるのではないか、とG3組とは別の視点から一連の怪事件を見つめ、謎の青年は、関谷の中に潜んでいた何者かを、完全覚醒させる。
 「この世のアギトは、全て滅び、ヒトは、私が愛することの出来る、者だけになる」
 前回死亡したあかつき号関係者を殺害したのは、自らの中に隠れていた存在だと知った関谷も絶望の中で命を落とし、恐怖から必死に目を逸らそうとする翔一くんは、死んだ魚のような瞳で菜園のトマトを見つめていた。
 「俺……あいつと前にあったような気がするんだ」
 「……あいつって?」
 「……俺はきっとあいつには勝てない。戦ったら俺は……そう思ったら、なんか色々考えちゃってさ。なんで俺がアギトなんだろうって。あいつはきっとまた俺を狙ってくる。俺がアギトだから。……なんで俺アギトなのかな。アギトを辞めることって、出来ないのかな」
 「……翔一くん、怖いんだ」
 真魚ちゃんは真島くん経由で涼に翔一のボディガードを依頼するが、それを拒否した翔一は、周囲の人達に迷惑をかけたくないとバイクで走り去るもシャチの強襲を受け、涼の前でアギトへと変身。
 「なに? 奴が? アギト?」
 ……そういえば:まだ亜紀さん殺害の嫌疑が晴れていない。
 前回は殴り合いに完敗したアギトだが、今回はフランベルジェを操るシャチを殴り倒すと処刑キックを叩き込んで完勝し……武器、装備しない方が良かったのではないか、シャチ。
 しかし勝利も束の間、因縁の水の王様アンノウン(クレジットは「水のエル」)が現れ、とにかく、ここまで来ると逆にこだわりを感じるレベルで劇中で呼称を出さない作品なのですが、明らかに格上の幹部クラスぐらいは、謎の青年からコメントしてくれても良かったような(笑)
 前作『クウガ』が「呼称」というものをリアリティ及びミステリーの要素として扱っていたのと比べると、今作では主要3ライダーを除き、ほぼ徹底的なその排除が行われているのですが、商業展開とも絡み合いつつ、この後、ベルト(及びガジェット)が喋る方向性が定着していく以前の形が見て取れたのは、個人的な収穫。
 『クウガ』以上に“名乗らない”し“名付けない”のは、20年ぶりの視聴と後続作品との比較で今回気付いた『アギト』の特性ですが、今作単位でいえば正体というか位置づけの見えてきた謎の青年が謎の青年なので、そこから統一感を持たせる狙いなどもあったりしたのでしょうか。
 00年代の白倉P作品という範囲でも、『電王』になると「名付け」に重要な意味が与えられたり、『ファイズ』はその特性上ベルトこそが「名前」を司っていたりと変化がありますが、興味分野として「名付け」と「名乗り」で観る《平成ライダー》なんてのはまとめてみると面白そうかもとは思っていたり(玩具の性能的進化の問題が当然絡むのでしょうが、その辺りはひとまず別枠として)。
 「アギト……おまえは一度死んだ筈だ。この私の手で」
 アギトは水エルの衝撃波一発で変身解除に追い込まれ、加速していく点と点の繋がりの中で涼もギルスに変身して、つづく。

◆第34話「君のままで変わればいい」◆ (監督:金田治 脚本:井上敏樹
 ギルスも水のエルに軽々とあしらわれ、涼と翔一はすたこら逃走。
 アギト=翔一、と知った涼は、翔一の言葉を信じて亜紀殺害の誤解は解けるが、突然の激しい頭痛に襲われた翔一は、涼の部屋に運び込まれる事に。
 顔面パンチで人と人を繋いできた『アギト』ですが、ここで「看病」と「変身」繋がりによる珍しく微笑ましい交流が生じ、真島を襲うカマキリアンノウンの気配に、翔一に続いて涼もきゅぴーん!
 死んで甦ったら謎のレベルアップが発生していますが、翔一に変わって戦いに向かったギルスは、カマキリ(昆虫の複眼の下部に人間の目があって、虫の顔にも人の顔にも見えるデザインが秀逸)を追い払うも水のエルの攻撃を受け、逃走。
 「おまえもアギトと同じもの。存在してはならないものだ」
 ……シャチが逃げる・真島が逃げる・真魚が逃げる・翔一が逃げる・翔一がまた逃げる・翔一と涼が逃げる・真島が逃げる・カマキリが逃げる・涼が逃げる……で、この2話における主要キャラの「にげる」コマンドの使用率が凄い(笑)
 一方、涼の部屋には真魚ちゃんの頼みを聞いた氷川くんまでが護衛として顔を出し、気がつけば、真魚ちゃんが3人の男の中心に居て、それぞれにお願いを聞いて貰える立場になっているミラクル。
 「僕は警察官です。人の命を守るのが仕事です」
 希少なあかつき号事件関係者の生き残りとしてヒロイン力を発揮し始めた真島はまたもカマキリに追われ(物語自体が大きく動いている事もあり、これまでの思わせぶりでひたすら暗い面々とは一線を画したキャラクターが、スパイスとして結構好きだったり)、氷川くんは翔一を置いて出動……していいのか。
 負傷して帰宅した涼とは絶妙に擦れ違い、出動したG3-Xはカマキリを追い払うが、そこに姿を見せた水エルにはガトリングが全く通用せず、前回今回で、3ライダーを完膚なきまでに叩きのめす圧倒的格上ぶり。
 「おまえはアギトでない。アギトになるべき人間でもない」
 「……なに? どういう事だ……?」
 (不器用だから?! 不器用だからなのか?!)
 踏みつけのち放置されたG3-Xの中で氷川くんの慟哭が木霊していた頃、運命の荒波に揉まれ続けてきた二人の男は、理不尽な殺意の前で岐路に立たされていた。
 「葦原さん……俺たち、これからどうやって生きていけばいいんでしょう。俺、今までずっとアンノウンと戦ってきたけど、なんか自信なくしちゃって……だいたいアンノウンって、いったい奴ら、なんなんですか?」
 「……おまえの気持ちはわかる。俺も普通の人間で居たかった。でも俺は自分を哀れんだりはしたくない。俺が今の俺である意味を見つけたい。いや! ――俺が俺である意味を、必ず見つけなければならないんだ」
 おおなんか、涼が格好いい。
 翌日、美杉家を訪れた涼が、翔一の友達として応対してくれる一家の姿に向ける憧憬の眼差しも良く、ようやく、涼というピースが作品にはまってきた感。
 「こんなに暖かい場所がある。心配してくれる人が居る」
 その帰路、涼はカマキリの襲撃を受け、アンノウン出現の報にG3-Xも出撃。真魚は翔一の元を訪れて自作の弁当を渡し、アンノウン反応にきゅぴーんするも躊躇う翔一の背中を叩く。
 「翔一くん、人の居場所を守る為に戦ってきたのに、なんで自分の為には戦えないの?!」
 「自分の為……?」
 「そうだよ。人の為にはあんなに勇敢だったじゃない。なら、自分の為にも勇気を出しなよ! 最初から怖がってちゃ、勝てるものも勝てないって! 自分の為にも戦いなよ、翔一くん! よくわからないけど、それが人を守る事にもなるんじゃない?」
 前回が怒濤の謎解き編だったとすると、今回は怒濤のヒーロー再起編となり、極めて利他的なヒーローであった翔一が死の恐怖からヒーローである事の限界に達したその時、“無私の否定”をもって己を捨てないヒーローの再構築が行われる事に。
 前作『クウガ』は“英雄の大義”の背景に“個の信念”を置く事でヒーローの立脚点を組み立て直していたのですが、今作では“利他の英雄”の中から“利己の魂”を抽出するという、ある意味では全く逆のアプローチで「ヒーロー」の中から「人間」を引きずり出しており、個人的には、『鳥人戦隊ジェットマン』-『超光戦士シャンゼリオン』-『仮面ライダーアギト』(くしくも5年おき)は、井上作品の中でテーマ的に3部作の印象。
 この後、諸作で様々な角度から描かれる事になるテーマなので今見るとインパクトはそこまで強くないのですが、今作としては、完璧すぎる神の擬きゆえに無我の境地に至った人間でも無ければ満足に扱えないG3-Xのグレードダウンが導線になっており、無私の否定による利己の発生が「人間」津上翔一の守りたい居場所を世界に作った時、「ヒーロー」たるアギトが新たな力を得るのは、一種の来訪神的存在であった翔一の、聖→俗への転換を描いてきた今作における、大きな節目に。
 ――俺は自分を哀れんだりはしたくない。
 ――俺が俺である意味を見つけたい。
 真魚の言葉、そして涼の言葉に勇気を得た翔一は、挿入歌のイントロに乗せて、真魚ちゃんの手作り弁当を、かきこむ、かきこむ、かきこむ!
 ギルスはG3-Xと共にカマキリアンノウンを追い詰めるも、またも現れた水のエルの攻撃を受けて両者揃って倒れるが、そこにバイクで駆け付けたのは、津上翔一。
 「……変身!!」
 すると、いきなり灼熱する深紅のマッスル体型となり、新たな姿となったアギトは、燃える鉄拳のカウンター一発でカマキリアンノウンを粉砕し、つづく。
 人の体には、未知の力が秘められている。鍛えれば鍛えるほど、それは無限の力を発揮する新フォーム、当時から物凄く好きなのですが、雑な新形態の多い今作らしからぬ綺麗な盛り上がりに加え、基本フォームを経由しないで、段取りをすっ飛ばしていきなりの登場が極めて格好良く、デザインの素晴らしさに加えて演出も見事だった会心のデビュー戦。
 で、余談として第33話の話と繋がるのですが、これが近年になるとベルトや追加装備が「バーーーニング!!」と叫んだり、ガジェットの使用を見せる都合で、こういった不意打ち気味の変身はしにくいので、これはこの時期ならではの格好良さだな、と。
 勿論それは良い悪いとは別の話で、現在の主流が「追加ガジェットの使用をどう魅力的に(格好良く)見せるか」により要点が置かれているという種類の違いの話でありますが、好きなフォームだけに、20年の変化を印象深く感じたところです。
 ちなみに、色々喋る系のベルトでは『オーズ』のベルトは割と好きで、読み取り用アイテムの格好良さ・メダルを読み込む時の音の綺麗さ・そこからのシャウト! と、あれはメダルが大ヒットした事に大変納得。
 この辺りは当然、実際の玩具を触るとまた違った感想も出てくるでしょうけれども。
 一皮剥けた主人公が新たな力を得、ストーリー面でもテーマ面でも大きな節目に到達した『アギト』ですが、次回――更なる格好いい存在が!!