東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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「……ちょっと道を教えて差し上げたんです」

『機界戦隊ゼンカイジャー』感想・第15話

◆第15カイ!「ガチョーン!レトロに急旋回!」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)
 ステイシーーーーーーーーーーーーーーー、ヤツデと出会って0.5秒で防御力が紙になったステイシーーーーーーーーーー!!
 …………すみません、ちょっと平静さを失いました。
 気を取り直しまして、今回のトジテンドの嫌がらせもとい侵略活動は、アース45レトロ化大作戦!
 「レトロ……それは古き良き昔。レトロ……それは素晴らしき日々! ひふふふ、レトロトピアの力にひれ伏せレトロ!」
 レトロワルドの放ったレトロ電波により、携帯電話が黒電話に、レジスターが算盤に、トラックがオート三輪に……と次々と姿を変えていき、こういった展開は映像で説得力を持たせてこそなので、小物→小物と来て車1台、から街並みそのものを丸ごと変えてしまったのが素晴らしい。
 ……それはそれとして、レトロトピアにおける「レトロ」とは何か、は考えてしまいますが(笑)
 世界のレトロ化にほくそ笑むレトロワルドを金が頭上からよほほいし、ゼンカイジャーも合流。袋だたきにされそうになったレトロワルドがレトロ電波を放つとゼンカイジャーと界賊の衣装や装備がレトロになってしまい……
 「俺たちもレトロにされちゃったんだ」
 「だからどうした。全然戦える――チェンジツーカイ!」
 満面の笑みでギアダリンガーをグルグル回すゾックスだが、それは木製になっており、音は出ないけど、とりあえず気にせずいつも通りに踊り狂うゾックスの姿に大笑い。
 もちろん変身は出来ず、木製ダリンガーに気付いてショックを受けるゾックスだが、頭上では界賊船がレトロ電波の影響でただの帆船になって墜落していき……いやそれ、死なない? と思ったら、ゾックスが必死の形相で走っていくのが、非常に鮮やか。
 客観的には、シリアス → ギャグ → シリアスと転調しているのですが、ゾックス本人は常に真剣だからこそ、墜落時のリアクションがスムーズになるし、実質タンバリンを手に踊り狂う姿も気持ち良く笑えるのが、好きな空気の作り方です(中澤監督の絶妙に巧いところであり)。
 その騒ぎの間にレトロワルドは姿を隠してしまい、久々の拳骨相撲が炸裂するトジテンドでは、今回のワルド怪人を放ったのはゲゲと判明。
 一方、人々は早くもレトロな世界に順応しており……
 「あっちゅうまに馴染んじゃって~」
 相変わらずのアース-45人でありました。
 そんな中、三日前に引っ越してきたばかりで、カラフルを覗き込むも店に入らず帰ってしまった少年が道ばたに座り込んでいるのに気付いたヤツデは、介人たちと合流。
 「もうやだ……帰りたい……。……僕、元のうちに帰りたい」
 「待ってて! 俺たちが絶対、元の世界に戻すから」
 「じゃなくて! その子……引っ越してきたくなかったんだと思う」
 冒頭で、新しい場所に思い切って飛び込めずにいる少年の姿に「昔の自分見てるみたいで、つら……」と口にしたマジーヌが、少年の抱えている鬱屈にいち早く気付くのが、大変秀逸。
 「ねえ諒ちゃん、ヤっちゃんと一緒に、探検しにいこうか?」
 「探検って……ヤツデ、こんな時に?」
 「どんな時もだよー。今とこれからを、笑って過ごせる方がいいだろ?」
 ヤツデはそんな少年の手を取り、引っ越してきたばかりなので迷子、実は心理的にも迷子、そこから普遍的なテーゼで導くヤツデ、への流れがとにかく巧い。
 「すげぇなヤツデ。さすがは介人のばあちゃん、って感じだ」
 「うん。はちゃめちゃポジティブなとこそっくり!」
 「父ちゃんたちが居なくなってから、俺のこと育ててくれたのが、ヤっちゃんだからね」
 介人は消えた両親に打ちひしがれていた少年時代を思い出し……
 「きっとあの子たちはね、今頃、どっかの世界でバリバリ研究続けてるよー!」
 「そっかなぁ……」
 「そうだよ! 悔しいからさ、あたし達も目一杯楽しく過ごして、二人が戻ってきたら、羨ましがらせちゃおう。ね!」
 ただ暢気なのでも楽天的なのでもなく、息子夫婦が失踪した後、残された孫を励ます為に強がっているのがしっかりと伝わってくる素晴らしい言い回しで、メタ的には明るいイメージの強い榊原郁恵さんの起用によりヤツデの陰影が増しているのも効果的で、改めて好キャスティング。
 また、“消えた科学者の両親”という、ステレオタイプな設定を根幹に持ち込みつつ、「息子夫婦が行方不明となった母親」と「両親が居なくなった少年」の二つの視点を描き積み重ねる事で、物語に奥行きが出ているのも、お見事。
 予告からお笑いインターミッション的なエピソードかと思っていたら、香村さん15連投となりましたが、中澤監督も合わせてパイロット版の座組でこその内容を持ってきて、設計の巧さと筆の冴えが光ります。
 ヤツデは諒を連れて街の探検に、介人らは手分けしてレトロワルドを探しに向かい、以前のゴミワルド回などもですが、物凄く派手ではない状況設定でも、世界を示す凝った絵作りをしているのは今作の優れたところ。いみじくも前回ラストで介人が口にしたように、アース-45に居ながら、“異世界漫遊記”の趣きがありますが、白倉P的には『電王』劇場版や『ディケイド』の延長線上の手法、という面もありそうでしょうか。
 そんなレトロな街並みに、物凄く違和感のある服装で壁にもたれて黄昏れている男が一人。
 (くっ……せっかくイジルデの誘いに乗ったというのに、何もかもが巧くいかない)
 諒の手を引くヤツデの姿に母を思い出す……のはちょっと謎な部分もありますが(シチュエーションはともかく、年齢的にはあまり彷彿とさせそうにないですし)、ともかく予想以上の瞬殺でしたね!!
 「違う! 母上はもう……」
 追憶を振り切るかのようにステイシーが路地へと姿を消した後、空振りに終わって一回りした介人たちが合流し、すっかり笑顔を取り戻した諒の姿に目を細めるが、直後、身を潜めていたレトロワルドがその真価を発揮。レトロパワーの出力を上げると画面がセピア調かつ4:3になり、人々は突然、精気を失った表情でその場に座り込んでしまう。
 「あーあ……あの頃は良かった……」
 「ずっと仲良しだった、友達がいた……」 「父ちゃんも母ちゃんも一緒に居た頃……」 「息子達が行方不明のまんま、あたしは年を取っていくのか……」
 「「あの頃は、良かったなぁ……」」 「カッタナーもリッキーも、人間の格好でさぁ……」 「4人で、いろーんな世界巡って、痛快だったなぁ……」
 なんとか無事だった界賊たちも空を見上げて惚けたような笑顔を浮かべており、欲しいものを奪い取る事を諦めたその姿がなかなかにショッキング(なおフリントはこの1シーンの為に衣装チェンジ)。
 「昔の良かった思い出に浸り続ける事で、人々の思考は停滞し、彼らの世界は死んでゆく」
 若干、ゴミワルド回と被っているのが惜しまれますが、初のワルド投入で、ゲゲの作戦が、エ・グ・い。……そして多分、今頃ステイシーは路地裏で壁を見ながら完全に戦闘不能に陥っています。
 周囲の人々と同様に、座り込むジュラン達だが……
 「あの頃……」
 ガオーンが思い出すのは、キカイノイドに馴染めなかった自分……
 「あの頃……」
 マジーヌが思い出すのは、勇気を出して飛び込めなかった自分……
 「あの事……」
 ブルーンが思い出すのは、名無しの掃除係だった自分……
 「あの頃は――」
 ジュランが思い出すのは、裏通りで落ちぶれていた自分……
 「あの頃……あの頃……どの頃?」
 「「「「無い!!!!」」」」
 雰囲気に飲まれ掛けていた4人が一斉に立ち上がるとセピア色のフィルターが解除され、正気に戻るジュランたち。
 「ちげぇわちげぇわ良かったあの頃なんて無かったわ俺たち!」
 話のテンポの良さと笑いに紛れて、先程からヘビー級のパンチが後頭部にがっつんがっつん叩きつけられてくるのが、大変、香村×中澤といった感。
 「僕は今が、パラダーーーイス!!」
 「自分も、あの頃の自分には戻りたくない!
 「私も、これからもっともっと沢山の事を知るのが楽しみなんです!」
 直後にガオーンが、こいつはどうにかした方が良いのでは……と思わせて、空気を重苦しくしすぎないようにするのも、巧み。
 「変な能力で介人とヤツデのいいとこ曇らせやがって! レトロワルドの野郎、マジ許さねぇ!」
 喪失に囚われて立ち止まるばかりでなく、今とこれからを、笑って過ごすにはどうするか……ジュランは介人のそんな所に引きつけられているのかもしれない、と思わせ、ヤツデのみならず、ジュランにも良い台詞が多かったのは、今回の嬉しかったポイント。
 セッちゃんからレトロワルドを発見したと電話連絡が入り、怒りに燃える4人はチェンジ全開。
 「みんながみんな、昔が幸せだったと思うなよ!!」
 だから、一つ一つのジャブが重いよ!!
 「ちょっとレアだけど……4人合わせて」
 「「「「機界戦隊! ゼンカイジャー!!」」」」
 派手な立ち回りで戦闘員を蹴散らすも、レトロワルドの「時を戻そう」能力に苦戦……するかと思われたが、こんな事もあろうかと拝借していた24バーン、未来戦隊タイムレンジャーの力で時間の乱れを修正して、回復をキャンセル。
 「俺らは今を生きる未来人なんでよろしこ!」
 『タイムレンジャー』主題歌の歌詞と掛けつつ今回のテーマになっていて素晴らしく、フィニッシュバスターで大全壊。
 ゾックス編が一段落し、視聴者のもやもやが溜まっているのを見透かすかのようなキカイノイドへのスポットが大変鮮やかで、世界が元に戻ると介人が戦線復帰。
 ダイレトロワルドが誕生して再び世界がセピア色に染まるが、ゼンカイオー赤黄、そして今回ここまでいいとこなしだった金の操る侍ツーカイオーが出撃。口から出た言葉が全て昭和の男に変換されてしまうワンダープリンスの呪いをかけられてしまうが、気にせず物理で、ブリキにタヌキにビクトリー!
 上述したように、箸休め的なエピソードかと油断していたら、冗談みたいな怪人の能力から話を広げて主要キャラクターを満遍なく掘り下げ、普遍的なテーゼを用いて一人の少年の「変化」を描きつつ、ゼンカイジャーの目指す矢印の方向を改めて示し、端々に技量の冴え渡る、至れり尽くせりの秀逸回でした。
 次回――サトシ。