『仮面ライダーアギト』感想・第17-18話
(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第17話「巡る因果は右ストレート」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹)
長石監督が3話持ちとなり、こちらも初の3話持ちとなったジャッカルアンノウンは、ギルスのアームブレードと火花を散らした末に逃走。
亜紀に追いすがる涼は適当に話をはぐらかされ、しつこく問い詰めているところを、結局これといって何もないまま現場に辿り着いた翔一くんに目撃される。
「あ! 俺を殴った人!」
「……何故おまえが」
「俺たち実は、付き合ってたらしいんです」
それを笑顔で平然と言えるのが、君はホント凄いな!(笑)
「あ! まさか今度は亜紀さんを殴るんじゃないでしょうね。俺だって怒りますよ。女性に暴力はいけません」
自分が一発殴られたのはまあ良し、という事になっているようなのが、また凄い(笑)
2人を追いかけようとした涼は激しい頭痛に苛まれて膝をついたまま放置され、本日も美杉家に堂々と乗り込む亜紀、嫌な女ぶりがノリノリ。
ダメな男2人を挟み、切っ先を突きつけ合う真魚と亜紀ですが、真魚ちゃんが居る事で亜紀の胡散臭さが増し、亜紀が出てきた事で真魚ちゃんの可愛げが増し、お互いの存在感を引き立て合っているのは、鮮やかな配置。
またこの辺りから、少し髪型や化粧を変えたのか、カメラ慣れしてきたのか、4ヶ月経って少し面立ちがシャープになってきたのか、真魚ちゃんの美人度が上がってきた印象。
警察では、落とした財布から亜紀の素性を掴んでおり……身許がわかって生存も確認したなら、会議に証拠品として持ち出していないで、早く落とし主に返してあげて下さい(笑)
アンノウンの標的がわかっているなら、貼り付いていればアギトも姿を見せる筈、と捕獲作戦のチャンスに盛り上がる北條に対して、「アギトよりもまず、アンノウンの捕獲を優先するべきではないでしょうか」と正論をぶつける氷川だが、そもそもアギトもアンノウンも同じようなものでしょ、とこちらも正論で切り返されてしまう事に。
会議後、憤懣やるかたない小沢と氷川にツカツカと歩み寄った北條が笑顔で話しかけ……なんかもう、廊下や階段で北條さんがわざとらしく話しかけてくるのが、「よっ! 待ってました!」と歌舞伎の花道みたいになっていて、物凄い(笑)
「小沢さん。今日は嬉しかったですよ。あなたの人間らしい一面が垣間見えて」
気持ち悪い! 気持ち悪いよ北條さん!!(笑)
目を剥く小沢に対して北條は、アギト捕獲が成功して対アンノウンに活用できたら、G3の必要性が薄くなるかもしれないから反対してるんでしょ? と挑発。
「まあそうムキにならないで下さい。G3システムにもまだ使い道ありますよ。交通整理ぐらいなら出来るでしょ。ね? 氷川さん?」
ひ、氷川くんは……不器用だから……出来ないかもしれません……。
「……小沢さん。今初めて思いましたよ。北條さん、やっぱり嫌な人かもしれないって」
「今更なに言ってんのよ!でも最近、ますますグレードアップしてるみたいだけど」
氷川くんが、思い切り殴ってからですかね!
一方、アパートに戻った亜紀を待っていたのは、もはや完全なストーカーと化した葦原涼。
「しつこいわね、あなたも」
「そこがいいところですよ、俺の」
こちらもこちらで、ちょっと気持ち悪くなっていた(笑)
翔一くんにおける美杉家、氷川君における警察、といった、周囲の人間と継続的に関わっていく「場」を持たない為、出番控え目&掘り下げ少なめになっている涼、自己PRの突然何を言い出すのか感が凄いですが、亜紀さんもあまりに対応に困ったのか、涼を部屋へと招き入れる。
「多分、奴らは怖いのよ、人間が。あなたのような人間が増える事を、恐れているのよ」
「俺のような人間が、増える……?」
だが再び老化現象を起こした涼は倒れ……ギルスへの変身により全てを失い、何をしていいのかわからなくなった心情を亜紀へと吐露し、悪の組織が不在の世界の変身ヒーローとしての立ち位置が浮き彫りに。
その頃、冗談めかして亜紀に同居を誘われた翔一くんは、すっかりその気になっていた。
「ほら、いつか先生言ってたじゃない。俺が記憶喪失になったせいで、悲しい思いをしている人がいるかもって。俺が昔の俺に戻っても、みんなとの縁が切れるわけじゃないって。だからさ、やっぱり思い出してみようかなって」
「翔一くん、亜紀さんの事、好きなの?」
「……うん」
「……そうなんだ」
「俺、みんなが好きなんだよ。亜紀さんも、真魚ちゃんも、先生も太一も。そういうのって、駄目なのかな?」
窓から入ってくる明るい日差しを背負って笑顔を浮かべ、翔一くんのこういうところは、素直にいいなぁと思います。
ヒーローとしてはちょっと機械的なところもあって、行動原理はかなり超越者のものなのですが、そんな翔一くんへの愛嬌の与え方が絶妙であり、記憶を失った事で…………って、ああそうか!!
20年前に思い至っていたのかは覚えておらず、少なくとも今回は、今更になって気がついたのですが、そもそも翔一くん、浜辺に漂着したものなので、来訪神の性質を持っているのか! (思えば、物語冒頭のオーパーツも、漂着物であり)
加えて、記憶喪失である=中身が空っぽである事で、神の乗り物としての性質も持ち合わせているわけですが、中空ゆえに聖性を宿した、擬似的な神としての翔一くんが人間に近付いていく道程を通して、ヒーローを神の座(聖なるもの)から人間の中(俗なるもの)に降ろす事こそが、今作の物語構造であるのかもしれません。
ちなみに後の『ファイズ』では、“ベルトの内側”そのものを「中空」と見立ててそこに聖性が見出されるのですが、この辺りの民俗学からアプローチできる要素は、個人的にしっくり来やすい部分です。
……正直ここまで、20年ぶりに見る作品の感想における距離感がなかなか難しかったのですが、今『アギト』を見るなら何を見ていくのか、の手がかりにようやく指がかかった感じ(とか言っておいて数話後には、あれ……ちょっと違った……? と思うかもですが(笑))
「もしかしたら……生きていけるかもしれない、一緒に」
亜紀は、一度は見捨てようとした涼に手を伸ばすと、自分もあかつき号事件以来、どう生きればいいのかを見失っていた事を語り、ここまで徹底して嫌な女だった亜紀の背後に抱えた悲しみがキャラクターにつける陰影が巧み。涼に仲間を紹介すると告げる亜紀だがジャッカルアンノウンが姿を見せ、涼はギルスへと変身。
亜紀の身辺を警戒していた北條は、新たな怪物の出現に困惑するも捕獲対象を切り替え、標的からアギトからギルスにスライドするのは、実に今作らしい交錯。
ガス弾の連射を受け、倒れたギルスを目にした亜紀はその場を走り去るが、ギルスは機動隊に囲まれると死んだフリ作戦から反撃に転じ、北條さんの胸ぐら掴んで至近距離から渾身のパンチで北條さんの顔がゴア表現に……なりかけた寸前、横からそれを止めたのはG3!
「おまえは?!」
のところで処刑ソングがスタートし、滅茶苦茶格好良く現れたのに、またも迫り来る殉職の危機(笑)
ジャッカルの前に立ちはだかり、溜めの効いた変身を見せたアギトは剣を抜き、大胆なロングの映像を交えながらの陸橋の上での戦いは格好良く、最後はカウンターで真っ向両断。
一方、処刑目前かと思われたG3は飛び道具で有利に戦いを進め、逃走したギルスは変身解除。
前回予告が、バタバタ倒れる涼3連発で酷かったのですが、本編でも実際、バタバタ倒れて、つづく(笑)
15-16話は、ひたすら嫌な感じの亜紀に、引きの要素も多くて今ひとつの出来でしたが、諸々の要素が一点で交錯する気持ちよさがあって、今回は面白かったです。特に、これまでのツケをギルスパンチでまとめて受けそうになる北條さんと、それを止めるG3、は良かった。3ライダー全員が登場したのも、今回が初だったでしょうか……?
次回――目指せ独立、そして、好き勝手やってきた小沢さんに迫る左遷の危機。
◆第18話「殺意の迷宮」◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹)
学会から帰ってきた美杉教授は不在の間に起きた闖入者の説明を受け、これ……私……事件に巻き込まれている? という顔になり、明らかに翔一くんの素性と教授の出張スケジュールを把握した上での行動なので、取り急ぎ、盗聴器のチェックが求められます。
姿を消した亜紀から届いた部屋の鍵を、物凄く前向きに受け止めた翔一は、美杉家を出て亜紀の部屋で暮らす事を宣言。
作劇としても非常に便利で、貴重な安らぎの場であった美杉家から翔一くんが出て行く衝撃の展開ですが、前回に続き、美杉教授の言葉が大きなきっかけとなって、翔一くんに明確な「変化」が訪れている――そしてそれが、翔一君の「戦う理由」とシンクロしているのが、巧妙。
一方、アギト捕獲作戦の失敗にざまぁみろを1ミクロンも隠さず、うけけ、今度こそあいつ沖ノ鳥島送りに違いないわ、とほくそ笑む小沢だが、会議で待っていたのは、G3ユニットの運用再考であった。
そして送り込まれる監査官・司龍二。……何故か妙に記憶に残っているキャラクターだったのですが、演じているのは、貴公子・高岡こと、寺杣昌紀!
ニヤニヤ笑う北條は旧知の先輩である司の補佐につく事になり、沢木さんは今日も、汗だくだった。
「君は、もっと学ばなければならない。多くの人の心の中を訪ねなさい。そして、全ての人間は、同じだという事を知りなさい」
「……どこにいる? ……奴は? 奴は……。…………殺してやる。……殺してやる」
沢木が謎の青年から、殺意を秘めた男の心を注ぎ込まれる中、クラゲアンノウンによる不可能殺人が発生。被害者が手にしていたと思われるパン屋の紙袋を辿る氷川くんは、偶然にもそのパン屋で働き出した翔一くんとバッタリ出会い、北條は名物のピクルスサンドに何故か表情を強張らせ、店長は司の顔を見るや態度を変えて奥に引っ込み、入り乱れるサスペンス。
その夜、店長はアンノウンの仕業に見せかけて何者かに殺害され、深夜の公園で絞殺された男が灯油をかけて燃やされる、完全に刑事ドラマな展開。明確に、ちょっと大人のドラマが意識された内容で、この当時の、ドラマとして、どこへ向けて橋を架けようとしていたかの方向性が窺えますが、これは00年代初頭、“ヒーロー物がつづく”よりも“ヒーロー物を見終えた後”への意識が強い時代であったのかもしれません。
未知の怪物の跳梁跋扈と人間の憎悪が捜査を混乱させる中、クラゲアンノウン(幽霊みたいで怖い)の被害者がまたも発生。
現場へ急行したG3は、クラゲの不可思議な動きと落雷攻撃(相性悪い)に苦戦し、翔一くんがアギトに変身するが、謎の青年と呼応するかのように「人が人を殺してはならない」とクラゲが不気味に呟いて、つづく。
次回――無骨…………て、それで怪人がクラゲだったの?!