『仮面ライダー鎧武』感想・最終話
◆最終話「変身! そして未来へ」◆ (監督:石田秀範 脚本:鋼屋ジン 監修:虚淵玄)
人々を襲うインベス軍団を蹴散らす仮面ライダー鎧武――葛葉紘汰。
それは、ミッチと紘汰の懐かしき日々……なのですが、ここで紘汰とじゃれ合うミッチが口にする、
「僕はただ、紘汰さん達が幸せなら、それで満足です!」
は多分、チーム鎧武時代におけるミッチ最大の嘘で、紘汰に憧れたのが先だったのか、舞に憧れたのが先だったのかわかりませんが、「舞さんには紘汰さんこそふさわしい」と言い聞かせ、理想の2人を見守る自分が幸せ、と言い聞かせて自分に嘘をついた時に、ミッチの歯車は既に狂い始めていたのだろうな、と今になっては思います。
終盤、シャドー貴虎がミッチに向けて「何者にもなれなかった」と繰り返すのですが、シャドー貴虎の言葉がミッチの無意識の本音(認めたくない自分自身)であるならば、最初に舞を諦める事を選び、“何者にもなろうしていなかった”のがミッチの本質であった、といえましょうか。
求めていたものを全て失い、そもそも何を求めていたのかさえわからなくなったミッチは抜け殻のような日々を過ごし、地球からヘルヘイムが消滅してより7ヶ月後――呉島邸。
諸々の後始末に奔走する貴虎はミッチとぎこちなく会話をかわし、ミッチは今日もビートライダーズのダンスを遠くから見つめていた。
かつての仲間たちから声をかけられるもミッチはその場を離れていき、玄武ロードに半殺しにされた経験のあるペコが、簡単には割り切れないと口にして、メンバーの感情を一緒くたにしてしまわなかったのは、良かったところ。
一方、アメリカ出発を3日後に控える兄さんは、晶に人生相談していた(笑)
兄さんが一時復帰した頃、紘汰に対して「君を育てたなら素敵な人に違いない」みたいな事を(紘汰持ち上げの文脈ですが)口にしていたので納得の絡みではあり、むしろこういうのはもっと早めにやって下さいよ! とか思うわけですが、最終話のサービスとしては嬉しいシーン。
メロンの君の正体を知ったらしいピエールが必要以上に迫ってこなかったのも抑制が効き、新作ケーキを誉められると何故か城乃内がふんぞり返って(言及されませんが城乃内作?)ピエールにはたかれる一幕の後、突然、街中に現れるイナゴ怪人…………つまり、サッカーやろうぜ?!
「ふふふふふふふ、久しぶりだな」
イナゴに憑依されたダンスメンバー女が奇妙な声音で喋ると、ドライバーとロックシードを用い、邪悪な火焔型土器みたいな新たなアーマードライダーへと変身。
「私の事を、忘れたか」
どうやら劇場版の敵と思われますが、ここに来て全く知らない人が(厳密には映画への引きでちょっぴり登場しましたが)、「ここまで力を取り戻すのに苦労したぞ!」とか「耐えがたい屈辱」とか、一方的に盛り上がっていて、大変ぽかーん(笑)
劇場版の出来事は夢だった事になっているらしいミッチも、一方的に首を絞められながら、ぽかーん。
「簡単には楽にしてやらんぞ。守ろうとしていたものが壊されるさまを、その目に焼き付けろ。フェムシンムのように滅びるがいい。猿どもめ」
仮面ライダー2014年FIFAワールドカップはドイツが優勝しました!は、生身でイナゴ怪人に叩きのめされていた貴虎・ピエール・城乃内・ザックの前にも姿を見せつけると、今のファウルでしょ! と明らかなオフサイドを誤審だと言いつのって再試合を要求し、誰も面識が無いのに独りで盛り上がっている道化ぶりには、劇場版を見ていない視聴者と劇中人物の気持ちをシンクロさせる意図もあるのかもしれませんが、認識されていない復讐は酷く虚しい。
量産型ドライバーは既に廃棄済みであり、この脅威に立ち向かう手段はない……と告げる貴虎だったが、その様子を窺う城乃内は、隠していたドライバーを手にした貴虎を待ち構え、最終話にして、やたらいい役回りに。
「ほーらビンゴ」
「どうしてわかった?」
「策士ですから。ま、用心深いあんたの事だ。必ず予備があると思ってたよ。それ……貸してよ。俺があいつと戦う」
「もう、君達を巻き込むわけにはいかない。これは、私の罪滅ぼしでもあるんだ」
一言一言に絞り出すような間がある城乃内に対し、通信回線のタイムラグがほぼ皆無の貴虎が印象的な対比となり(冒頭でミッチ相手には探り探りになっているのとも、差異が明確に)、貴虎の回復が完全ではない(左腕を極力動かさない演技あり)事を指摘した城乃内は、ドライバーとロックシードの入ったトランクをかっさらう。
「……あの………………初瀬ちゃんて……」
「……ああ。初瀬亮二はインベスになって、ユグドラシルに処分された」
「…………初瀬ちゃんがああなったの…………きっと俺のせいだよ。だからこれは…………俺の罪滅ぼしでもあるんだ」
なぁなぁにされるかと思った初瀬問題を取り上げて城乃内が踏み出した確かな一歩を描くと共に(今作の構造的には、紘汰がオーバーロードとしての責任を取ったように、城乃内もまた、社会の成員になった責任を取ったといえますが……まあ今作のこの、“責任を取る事でしか解放されない”という描き方には、思うところはあるものの)、残されたドライバーが量産型(黒影仕様)である事に意味が出るのは、鮮やか。
「好き勝手やってんじゃねぇ! ――変身!!」
初瀬への想いも込めて、城乃内は量産型黒影へと変身。イナゴ怪人に猛攻を仕掛けるが槍を奪われてしまい、更に仮面ライダー2014年は長いから毒リンゴが加勢して2対1で袋だたきにされ、変身解除。
最後の希望が潰えたのかと思われたその時、そこにあらわれたのは、黒いジャンパーにモデルチェンジしたミッチ。
「ふふははは、葛葉紘汰ならともかく、おまえごときではどうすることもできん」
「確かにあの人はヒーローだった」
……ん? ……う、うん……まあ、ミッチ視点ならそれもありはありですが、劇中ねじれにねじれまくった要素が抜け落ちて、突然、1クール目以前のミッチに戻っているのですが、先程殴られた時に、打ち所が悪かったのでしょうか。
「でも、もう紘汰さんは居ない。だから僕たちが! ヒーローにならなきゃいけないんだ!」
……言いたいテーゼはわかるのですが、今作で描かれていた“ヒーロー”ってあくまで“社会の異物”であり、大衆と呼応して次代のヒーローを生み出す存在ではなかった思うのですが(少なくとも積極的にそれをやっていた頃の紘汰は、延々と“ヒーロー未満”として描かれていたわけで)、最終回にして突然、今作の積み重ねと別のヒーローテーゼが接合されて困惑。
(見ていて下さい、紘汰さん……)「今度こそ、みんなを守ってみせます!」
紘汰に純粋に憧れていた頃の気持ちを取り戻したミッチが、紘汰不在の世界で、かつて出来なかった事をやろうと立ち上がる姿そのものは雄壮なのですが、そこに至る過程がすぽっと抜け落ちているので、見ていて目が白黒。
兄さんも蘇生してから4ヶ月経ったし、時間が解決してくれたといえばリアルはリアルですが、それではヒーローフィクションとして劇的にはならないわけで、どうしてそこで、段取りと仕掛けを放棄してしまうのか。
もしかしたら冒頭の「僕はただ、紘汰さん達が幸せなら、それで満足です!」がミッチの真実というニュアンスだったのかもしれませんが(私はそれはだいぶ嫌ですが)、ミッチがそんな利他的な自分で紘汰からヒーローを受け継ごうとしているならば、それはもう、立派な“呪い”――しかも凄く、救いのない“呪い”なのでは(まあ、虚淵さんを受けて『まどか☆マギカ』流とはいえるかもですが……)。
奮戦する龍玄は回転射撃で形勢逆転すると毒リンゴに銃口を向けるが、憑依している少女を人質に取られ、やむなく変身解除。無抵抗のミッチはげしげしと踏みつけられ、何者にもなれずじまいの自らに歯噛みしたその時、ゴールデンアップル紘汰が飛んでくるとミッチを助け、ゴッドパワーで少女の体から毒リンゴを叩き出す!
まあ、最終話だし主人公が出てこないわけにもな……といった感じの紘汰登場により鎧武と龍玄がダブルライダーで、嘘に嘘を重ねてきたミッチが今、本当の意味で紘汰と共に戦う、といったイメージかと思うのですが、上述したように、ミッチがそこに至る段取りが思い切りすっ飛ばされているので、最終回なのでやりたい事だけ放り込みました! となってしまったのが残念。
「ここからは――」
「俺たちのステージだ」
主題歌をBGMに龍玄&極鎧武と毒リンゴの激突がスタートするも、基本的に空回り・イナゴ怪人をけしかけて2対1が基本・三流のチンピラレベルの人質戦術、と毒リンゴの小物ぶりが凄すぎて、その毒リンゴを相手に2対1で戦う状況が、どうにも盛り上がらず(映像的に見せ場を、という判断だったのでしょうが、物語的には、極鎧武は直接手出しせず、背後霊のような形に徹した方が美しくはあったかなと)。
歌の切れ目に合わせて毒リンゴが倒れたところで間奏部分のスキャットが入り、やったか?! ……から2番(3番?)の出だしに合わせて急に立ち上がるとか、面白いといえば面白かったですが、衝撃というよりは笑劇になってしまい、もはや仮面ライダー01ハカイダーは薙刀を拾うと大量の毒リンゴを召喚。
「なぜ黄金の果実である私が……貴様ごときに!」
「前にも言ったぞ。おまえなんかただの金メッキだって」
一応、毒リンゴの正体が仄めかされ、暗黒毒リンゴボンバーを貫くダブルライダーキックで龍玄&鎧武は大勝利。
「俺たち、いつまでも仲間だぜ、ミッチ……」
姉への伝言とミッチへのエールを残してゴールデン紘汰の姿は消え……うーん…………Aパートは割と好きだったのですが、ミッチの再起にスポットを当てているのに、再起への過程が高速スキップされるトンデモ作劇で、どうにも乗れず。
ゴールデン紘汰(極鎧武)がミッチの横に並ぶのではなく、後ろに寄り添うように立つ見せ方などは良かったのですが、城乃内を取るかミッチを取るかで、城乃内に尺を割いてくれたのは個人的には嬉しかったものの、物語としては、優先順位に従ってやりたい事を放り込みつつレギュラーメンバーの出番を作ったら、完成度は宇宙の彼方に放り捨てられました、という最終話。
あくまでもボーナストラックとしてファンサービスを優先するのか、残された要素と作品のテーマをまとめるのか、どちらもやろうと欲張って中途半端になってしまった印象で、テーマを集約するなら集約するで、サブタイトルが「変身! そして未来へ」なのだから、もう少し、ミッチから世界へと「変身」が広がり「未来」へ繋がっていく事を今作なりに想像させてくれる内容を見たかったところです。
ユグドラシルタワーが撤去された空き地には、あの御神木が突如として出現し、その前でステップを踏む、紘汰・戒斗・舞を思わせる風貌の、少年少女。
その光景を見つめる戒斗亡霊の後ろに舞が現れたところでスタッフロールが流れ始め、人間はきっとまた間違えると呟く戒斗に対して、間違えてもやり直して、少しずつ歩いていける筈だと舞が告げ、最後の最後でまたも、やりたいテーマを物語に合わせてダウンサイジングするのではなく、やりたいテーマに合わせて戒斗の異世界転生者スイッチが発動してしまい、とことんここの間尺を調整できなかった作品だな、と。
後、その象徴をミッチで示したかったのでしょうが、ミッチが「変わる」過程がスキップされている上に、ミッチと戒斗の間も断線したままなのでエピローグへとスムーズに繋がらず、そこを有機的に連動させてこその物語であると思うわけなのです。
「……やはりおまえは強いな」
「さよなら、戒斗」
「じゃあな……駆紋・戒斗」
笑顔を浮かべて戒斗は成仏し、それを見送った紘汰と舞は、新たなる創世へ……で、おわり。
要素の多い作品でだいぶ頭が煮えてきたので、ひとまずここまで。ちょっと落ち着いたら、簡単な総括を書ければな、と思います。