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誰もが自分が求める未来を目指せ

仮面ライダー鎧武』感想・第45話

◆第45話「運命の二人 最終バトル!」◆ (監督:金田治 脚本:虚淵玄
 「古いもの、弱いものは消え、強くて新しいものだけが生き残る。力だけを信じ、弱者を踏みにじってきた人間たちのルールだ。だから奴らも滅び去る。より強いものが現れた事で、自らのルールで裁かれて消える」
 「それが貴方の望み?」
 戒斗の言う「弱者は滅びればいい」とは、「そういうルールを作ってきた偽りの強者たちは、弱者となったならばそのルールに則って滅びるべき」だと噛み砕かれ、戒斗が抱く、世界の在り方への憎悪を強調。
 結局、“変わらなかった”事をして、戒斗を真のヒーローのネガと置くのですが、2クール目~4クール目半ばまでは、戒斗にもヒーロー性を与えてきていたところから、やはり戒斗は“変わりませんでした”とされるのはあまり気持ちが良いものではなく(少なくとも意図的に、受け手に“変わる”事を期待させた上で裏切っているので)、これなら徹底して紘汰の宿敵であった方が、面白く見られたというのが正直。
 物語の流れに沿って主人公を巡る世界が拡大していく構造上、紘汰の“敵”が次々と変わっていくのは狙い通りではあるのでしょうが、結果的に「戒斗の順番が来た」という作りになってしまい、1年間のTVシリーズとしては、“敵の数が多すぎた”(キャラ数ではなく、テーゼの問題)かなと。
 恐らくこれも、虚淵さんの持っている文法と、東映特撮スタッフの文法との摺り合わせがしきれなかった部分ではないかと思うのですが、「この作品における“悪”とは何か」を一つか二つ程度にまとめて芯を通すやり方と、主人公の道行きに合わせて目に見える敵が変わっていくやり方とが、噛み合わなかったのではないか、と思います。
 敢えて紘汰にとっての統一された“敵”を示すならば、「世界に対する絶望」が近いかなと思いますが、戒斗の抱えるそれを丹念に掘り下げて視聴者に納得させるよりも「紘汰自身の抱える絶望」「貴虎の絶望」「ロシュオの絶望」「ミッチの絶望」そして「戒斗の絶望」と色々な形の絶望――“敵”を順々にお出ししていく構成(合間に、レッドキャップやシドやプロフェッサーが混ざる)にした事で、
 「……舞、おまえが欲しい。黄金の果実を俺に渡せ」
 「……私と果実、本当に欲しいのはどっち?」
 「選ばないし、区別もしない。俺は果実を掴んだ最強の男として、おまえを手に入れる」
 口説き文句としては格好いいのですが、過程が半クールぐらいすっ飛んでいる感じになっているのは、一つの作品として欲張りすぎた、というか、設計段階で計算を間違えていたのではないかな、と。
 「本当に身勝手ね。戒斗らしい」
 白舞は戒斗に向けて微笑み、対戒斗単独時の舞は悪くないのですが、紘汰と一緒に居ると途端に全肯定マシーンになってヒロインとしての魅力が失われてしまうのが、つくづく残念でありました。
 「俺の未来で待っていろ。そう長くはかからない」
 一方、戒斗を止めようとするザックは、ペコを介してピエールに高性能小型爆弾の作戦を依頼すると、いきなり爆殺を図る物凄い飛躍が発生し、「最後にもう一度話し合いを試みる」とか「戒斗の暗殺を実行する事への葛藤」とか、まとめてベランダから投げ捨てられてしまって唖然。
 ザックから戒斗への二人称も「あんた」になっていて、互いに違う道を選んだ事の自覚ゆえでもあるのでしょうが、ザックには戒斗の“友人”として、最後の説得チャレンジを期待していたので、個人的には大きな肩すかし。
 そして、ザックの爆破テロ工作に気付いた耀子が、起爆寸前にマリカに変身すると身を挺して戒斗を爆発から守るもビルの屋上から落下していき…………えええええ。
 今の世界を守る事を選んだナックルはバロンに敗れ去るが、打ち所の悪かったらしい耀子は戒斗の手の中で(過去の例から断定しきれない部分はありますが、少なくとも描写上は)死亡し、いや、さすがにこれは酷すぎませんか……?
 退場の成り行きも酷いし、実行犯がザックも酷いし、何故か死に様がプロフェッサーと被っているのも酷いし、これなら最後のデューク戦で退場させた方がまだマシだったと思うのですが、そうするとロードバロン誕生後にキング戒斗を讃えてくれる人が居なくなってしまうので、残った役割を果たしたら、最終決戦を前に余ってしまったので手早く片付けました、といった具合であまりにも酷い。
 ザックからの連絡を待っていたピエールらの元には自衛隊の救出部隊が現れ、市外へ避難させた人々の言葉によりビートライダーズの名誉が回復されるのは、物語の誠意として良かったところ。
 心配する姉の前で自らヘルヘイム果実に食らい付いた紘汰は、救出部隊のヘリに姉を向かわせると、一人、最後の決戦へ――。
 「迎えに行くよ舞。そう長くは待たせない」
 ここが戒斗の台詞と対応しているのは格好良く、互いに呼び出したインベス軍団を従え、運命の二人は対峙する。
 「やはり最後まで俺の邪魔をするのはおまえだったか。……葛葉紘汰」
 「戒斗……おまえはいったい何がしたいんだ」
 事ここに至って正面から問いかけるのですが……通して不倶戴天の敵であったわけでもなければ、悲劇的な運命の錯綜で話し合いの時間が全く無かったわけでもなく、とにかく“話し合う”とか“わかり合う努力をする”とか欠落し続けた末の、あ、今ここでそれ聞くんだ感が激しく募ります。
 「今の人間では決して実現できない世界を、俺が……この手で作り上げる」
 「なんだよそれは」
 「弱者が踏みにじられない世界だ。誰かを虐げる為だけの力を求めない、そんな新しい命で、この星を満たす」
 「今の世界で、それは無理だっていうのか」
 「それが俺の生きてきた時代だ」
 ……うーん……私自身が富野由悠季ファンとしてバイアスが掛かりがちなので、うっすら感じるもこれまで触れずにいたのですが、この辺りのやり取りの印象からは改めて、今作(というか虚淵さん)、『機動戦士Zガンダムをやりたかったのでしょうか。
 虚淵さんが『Z』に思い入れがあるのか知りませんし、どこがどうと言語化できるほどではなく、『Z』好きが感じる『Z』の匂いめいたものでしかないのですが……仮にそういう意識があったとして、あのテンションは余人が狙って出来るものではないので上手くは行っていないのですが、流れ弾で貰い事故みたいにさっくり死亡する耀子さんは、富野っぽい事をやろうとして失敗した、と捉えると凄く腑に落ちたり。
 「誰もが強くなるほど、優しさを忘れていった」
 「強くて優しい奴だって大勢いた。みんなこの世界を守ろうとして必死だった」
 ……っけ?
 「そんな奴から先に死んでいった! 優しさが仇になって、本当の強さに至れなかった」
 この世界に数多居たそんな者達の象徴、という解釈でいいのかもしれませんが、劇中の描写からすると、ほぼ兄さんオンリーですよね……。
 「貴様もそうだ、葛葉紘汰」
 「いいや。俺はおまえだけには負けない。おまえを倒し、証明してみせる。ただの力だけじゃない。本当の強さを!」
 「それでいい。貴様こそ俺の運命を決めるにふさわしい」
 戒斗が変身、紘汰の絶叫に合わせて挿入歌が流れ出すのは格好良く、鎧武とバロンは真っ向激突。背後のインベス軍団も大乱闘に突入し、バイクや魔法の箒、巨大インベスに各フォームなどこれまでの様々な要素を見せていく趣向で、並べていくとマンゴーバロンは割と好きでした。
 せめぎ合う両雄の死闘はEscalationしていき、
 「葛葉ぁ!」
 「戒斗ぉ!」
 で、つづく。