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狼、吠えろ

牙狼GARO> ~RED REQUIEM~』感想

◆『牙狼GARO>~RED REQUIEM~』◆ (監督:雨宮慶太 脚本:江良至/雨宮慶太
 2010年に公開された劇場版。日本初の全編フルデジタル3D劇場作品との事で、随所に、3D映画的な画面構成や演出あり。以前に『仮面ライダーW AtoZ/運命のガイアメモリ』を見た時も思いましたが、3D作品は劇場版ならではの売りや楽しさにはなる一方、後にディスクなど見ると演出面の違和感が出るのは難しいところだなと(勿論、映画として作ってる以上、劇場の公開形態こそが本義ではありますが)。
 「闇を切り裂く希望の光、彼らの戦いは終わる事はない。そして、今夜――」
 ガルザのナレーションによる『牙狼』基本説明の後、ゴスロリパーティーの会場に現れた怪しげな男女がカバンの中から巨大な鏡を取りだし……場面は一転、ベビーカーを押す女と、それを追う怪しげな風体の男のシーンに切り替わり、例によって例の如く、女の方がホラー。
 それにグラサンの魔戒法師2人組が立ち向かい、若い方がいまいちへっぴり腰でカラクリ魔戒ドッグに振り回されていたり、中年の構える筆がやたら巨大だったりで、ちょっと『ゴーストバスターズ』ノリ(笑)
 二人がピンチに陥っところに露出度の激しい新たな女魔戒法師が現れ、連携から筆の攻撃でホラーを撃破。だが……
 「その赤ん坊をこっちに渡してもらおうか。そいつのお守りはおまえらには無理だ」
 そこに白いロングコートの男が姿を現し、相変わらす言い方がアレですが、実は女の連れていた赤ん坊とベビーカーこそが、より強大なホラーへと変貌。
 「どうだ、鋼牙!?」
 「見切った!」
 5年経ってちょっと声の渋くなった魔戒騎士・冴島鋼牙は、鎧召喚して黄金騎士ガロへと変身するとベビーカーホラーを撃破し、仕事を終えると特になんの説明もなくスタスタ去って行くのが、5年経ってもとっても鋼牙。
 ただ、相手に呼び止められて丁寧に名乗られると足を止めて会釈は返すので、単なる、人見知り説も浮上します(笑)
 「ホラーを追ってこの街に来た」
 鏡に憑依して人間を喰らう魔鏡ホラー・カルマ調伏の任を受けた鋼牙だが、女法師・烈花も同じくカルマに執着。
 「俺は女に生まれた。だから騎士になれなかった、ただそれだけの事だ。騎士だろうが法師だろうが関係ない。俺はホラーを封印する力を持っている。その力でカルマを倒すだけだ」
 元々ホラーと戦っていたのは魔戒法師、その後、魔戒騎士という戦士クラスが生まれる、魔戒騎士になれるのは男だけ、といった背景事情が盛り込まれ、お約束的に入るトレーニングシーン。
 おまえ攻撃スキルに片寄りすぎ、と鋼牙は烈花に指導を付け、再び夜――街に入ってからザルバの鼻が利かなくなっていたのは敵の根城に強力な結界が張られていた為とわかり、中年の魔戒法師・アカザの裏切りが判明。
 服装だけなら、ただれたナイトスポットに似合っている二人は店内を探索し、敢えて敵の手中に飛び込んだ烈花が鏡の中に見たのは、カルマに殺された父の幻影。飛び込んできた鋼牙が鏡を砕くもそれは即座に修復され、鋼牙VSカルマ下僕男による、ダンスステージでの生身バトルは面白い趣向。
 カルマの策謀により、鋼牙はガロの鎧を魔鏡の中に吸い込まれてしまう未だかつてない窮地に陥り、法師の筆から凄いレーザーが出た(笑)
 ここが映画としての折り返し地点となり、負傷してうなされる鋼牙は、少年時代に出会った一人の魔戒騎士を思い出す……
 「坊主、おまえなぜ、ホラーを倒したい?」
 「悪い奴だからだ!」
 「……それじゃあ、駄目だ。なぜ魔戒騎士が命がけでホラーを倒すのか。そして何故、その戦いに俺がおまえを連れていかないのか。その答はおまえが一人前の魔戒騎士になった時にわかる。焦るな、坊主。おまえの時代は、まだずっと先だ」
 男の吹く笛の音と現在の笛の音が重なって、回想の魔戒騎士=烈花の父親である事が示唆されるのですが、どうもここは、鋼牙と烈花の繋がりを強める為にやや強引に過去の出来事を作ってしまった印象。
 大河の死後に完全な独学ではなく一時的に他の魔戒騎士に師事していたのか、大河が任務中に一時的に預けられていたのか、はハッキリしないのですが、どちらにしても、父-子の狭い世界を意識的に描いていたTV本編のイメージからは少しズレますし、前者と後者では「鋼牙の師」としての意味合いが変わってくるのですが、大河への言及が無い為にそこが曖昧になっており、せめて大河の死後なのかどうかは、明確にしても良かったかなと。
 少年鋼牙の大きさで大体わかるのではという気もしますが正直覚えておらず……大河の死後かどうかによって少年鋼牙の「悪い奴だからだ!」の意味も変わるので、個人的には、映画的追加要素としてもスッキリしない回想になってしまいました。
 「俺が救ったのは、おまえの命だけじゃない。一つの命の先には、家族があり、友があり、そして愛する者がある。俺はその命を守る為に戦っている」
 復讐に逸った暴走を悔やむ烈花を鋼牙は叱咤し、「白夜の魔獣」で完成した『牙狼』のテーマのど真ん中を鋼牙が他者に伝える事により、既に鋼牙の中でそれが確固たる言語化をされている、魔戒騎士としての現在地が描かれたのは綺麗にはまりました。
 「焦るな烈花。おまえの時代はまだこれからだ」
 図らずも烈花父の言葉を伝える鋼牙であったが……それはそれとして、大事な鎧を失って、アイデンティティにちょっと揺らぎが(笑)
 そんな鋼牙はそれとなく指輪に励まされ、ガロ――その名は旧魔界語で「希望」を意味する事が明らかに。
 亡き妻と娘の幻影を餌に、カルマの術に囚われていたアカザは捨て身で責任を取ろうとするも鋼牙に諭されて「継承」の要素も盛り込まれ、魔鏡の結界破りの短剣を手に、カルマの潜む廃棄ビルへと向かう鋼牙&法師3人は、三手に分かれてホラーとバトル。
 烈花が魔戒金魚爆弾で下僕女を撃破すると、鋼牙に人生何度目かのビルダイブを決めさせた下僕男は、愛する女を失って狂気に駆られた画家と判明し、両者の激闘は魔鏡内部へ突入。
 「貴様等にはわかるまい……愛する者を、大切な者を失う悲しみを」
 「わかっていないのは貴様だ!」
 「なに?」
 「本当に大切で掛け替えのない人を、ホラーなどにできるものか! 貴様の愛も、永遠の命もカルマの作ったまやかしだ!」
 「黙れぃ!」
 「――ガロぉ!!」
 ばしっと決めた鋼牙は大事な鎧を取り戻して黄金騎士になると、直球で悪魔的なデザインの画家ホラーを一蹴し、真の姿を見せた巨大カルマと異界で激突。
 カルマ下僕の本当の姿が画家で中尾彬峰岸徹さんと同じく、昭和成金変態中年役の巧者)だったり、ボスキャラが半裸の巨大女性だったりというのは、TVシリーズのセルフオマージュ(第1話とクライマックスを彷彿とさせる)といったところでありましょうか。
 満を持してゴウテンを召喚するも苦戦を強いられるガロだが、鏡の外からその戦いを目にしたアカザが、文字通り自らの命を賭して鏡の中へ飛び込むと烈花に笛を手渡し、烈花が父から教えられた英霊たちへのレクイエムによりカルマに喰われた数多の英霊たちが目を覚まし、この笛のメロディが今作の白眉。
 希望の光――黄金騎士ガロは英霊たちの力を受け止める器となると天高く舞い上がり、遂に、尻尾が生えた。
 命を守り、命を繋ぐ一方で、霊魂になっても修羅の世界に在り続け、後に続く者はそれを引き継いでいかなければならないというのは今作におけるヒーロー――魔戒騎士のシビアな一面でありますが、英霊たちの想いを背負い翼としたガロは、遂にカルマを撃破。
 烈花と共に帰還を果たすが、二人を救ったアカザの命は既に尽きており……マジックアイテム無しで鏡の異界へ入る手段の伏線、裏切りの精算、そして通しのテーマが繋がって、まとまりの良い着地になりました。
 「法師が守ったのは、沢山の人たちの未来だ。俺たちはそれを託されたんだ」
 任務を終え、去りゆく鋼牙の背中からスタッフロールに入り、カルマの声:カオル役の肘井美佳さん(特別出演)、だったという凄いオチ(笑)
 そしてザルバが、烈花から預けられた伝令用の魔戒金魚に「カオル」と名付けようとするも鋼牙に拒否されて、終幕。
 単純に、TVシリーズを踏まえた映画サイズの作品、としては「白夜の魔獣」の方が面白かったですが、勿論、TVシリーズの延長線上のスペシャルと、5年後の劇場版では全く意味づけが違ってくるので、リアルタイムと後から見るのとでは、だいぶ感触の変わるタイプの作品ではあるのかなと。
 その感動や興奮は当然、リアルタイムで追いかけていたファンの特権であろう、と思うわけでありますが、今回、公式の配信という形で視聴できて有り難かったです。
 物語としては、実質的に烈花が主人公で、鋼牙は先輩ヒーロー……ソルブレイバーに対するナイトファイヤー? みたいなポジションであり、その辺りのちょっとした物足りなさみたいなものはありましたが、より成熟した魔戒騎士として希望の象徴たらんとする鋼牙の姿には納得であり(同時に、その重みの裏側の掘り下げを期待させるのが鋼牙中心に見た場合は映画としての食い足りなさになっているのですが、この時点で第二シーズンを見据えていたのならば、ブリッジ的な作品の面もあったのでしょうか)、その上で中盤に相棒ポイントを稼ぐザルバがおいしい役回りでありました。