東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

正と負の熱量

『魔進戦隊キラメイジャー』感想・第40話

◆エピソード40「痛む人」◆ (監督:葉山康一郎 脚本:徳永富彦)
 ヨドンヘイムでは、叶えまストーンの力を研究したクランチュラさんにより人間邪面獣化実験が発動し、クランチュラさん、超有能。そして、埴輪みたいな顔とは裏腹にやたら格好良く姿を現すハリガネ邪面……ヨドンナとガルザの間を悠然と歩いてくるので、一瞬、ヨドン皇帝の新たな人格かと思いました(笑)
 「人間の心が闇で満たされた瞬間、私がその人間にこの石のパワーを注げば、邪面獣に変わります」
 声もえらく格好いい針金邪面(黒塗りの頭部を這う針金が装飾的な紋様を描きつつ人面を模しているというのが素晴らしいデザイン)には自由に姿を変える能力があり、どんな形にもなれるモチーフ=針金、も見事なアイデアで、この終盤にまた秀逸怪人を送り込んできてくれて、生きててありがとうクランチュラさん!
 「親しい人間に化けて側に居れば、闇に満たされた瞬間を逃さずに、狙えることでしょう」
 かくして針金邪面が地球に送り込まれ、ヨドン反応に出撃するキラメイジャーだが、その変身能力に翻弄されて逃げられてしまい、邪面師に踊らされると、よく確認もせず身内に裏拳を叩き込む緑と、ドリルで放り投げる銀、思い切りが良すぎて酷い(笑)
 尊い犠牲になった時雨は鼻血を出して地面に転がり、今作ではキラトーク回、過去には『ルパパト』の新春隠し芸回などを演出している葉山監督、冒頭のRitzのステルスマーケティングシーンもですが、やたらな顔のアップを多用するのはちょっと好みから外れるところ(『ルパパト』の時に気になった、人物の過剰なCG加工は、今回は無かったですが)。
 その頃、イラスト投稿サイトで見つけた絵に感激して感想を送った充瑠は、その投稿者・カロリーくんに絵を教えてもらう事になり待ち合わせ。現れたカロリーくんが少年であった事に驚くが、少年もまた別の人物から絵を習っており、その人物――引きこもりの青年・八太三郎の家を共に訪れる。
 室内に溢れるゲームやアニメグッズやマンガに紛れてバンダイナムコが色々とステマされる中(そういえば、この世界には『鉄拳』と『ゴッドイーター』は確実に存在するのでありましたが……コミックスとかゲームのパッケージとか、大量の小道具作成は大変そう……まあこういうのは、東映内部で諸作に使われているのかもですが)、充瑠は持ち前の他者の煌めきを尊重するスタイルでぐいぐいと八太を持ち上げ、如何にもな風貌で描かれた八太と並ぶと際立ちますが、もうすっかり、陽の側のキャラクターです!(笑)
 「君も、すぐ描けるようになるよ。僕の言う通りにすれば」
 誉められると嬉しい、アナログ派の八太から付けペンをプレゼントされた充瑠は一緒にゲームなどを楽しむが、自在に姿を変えられる針金邪面出現の報告を受け、ここからミステリー調の演出に。
 「はははははははは! 人間を邪面獣に変える計画は、順調だぁ!」
 「純粋であればあるほど無防備だ、無防備であればあるほど、傷ついた時、闇に堕ちやすい」
 いつになく悪い感じのヨドンヘイムが挟まれる一方、ココナッツベースでは、既に偽物が紛れ込んでいるのでは、と完全に余計な発言をした小夜が疑心暗鬼に薪をくべて連続殺人方面に火を付けて偽物探しが行われており、シーンとしては幕間の賑やかしなのですが、明らかな悪手の火の元が小夜だけに、しかめっ面の為朝が凄くツッコみにくそう(笑)
 合流した充瑠は博多南と連れ立っており、博多南が二人?! から、実は代役ンに仕事を任せてサボっていた事が明らかになり、偽物騒動から作品序盤のギミックを拾ったのは面白かったですが(この後のロボ戦でも建機軍団が次々と登場するので、この辺りは演出ベースでしょうか)。
 その頃、カロリーくんの勧めで新人マンガ賞に投稿していた八太は、作品が落選した上に酷評を受けた事で失意のどん底に落ち込み、SNSによる繋がりなどの現代的要素と、そこに存在する悪意の取り込みは刑事ドラマテイストといえますが、もともと東映特撮と刑事物は親和性が高いので(例えば脚本家の高久進杉村升は刑事ドラマ畑)、今回、塚田Pが『相棒』などで活躍中の脚本家を口説き落として参加してもらったというのは、その辺りの風味を求めて、というのもありそうでしょうか。
 「なんでいっつもこうなんだ……僕ばっかり! 全部、無茶苦茶壊してやりたい気分だ……!」
 「この世界は君には残酷すぎる。――行こう、僕と一緒に。もっと純粋なまま生きられる世界に」
 黄昏の中で打ちひしがれる八太に向けて、闇ファイヤにして闇ジュールであったカロリーくんが手を伸ばし、純白の少年の背中に針金(模造)の翼が生じるとそれが八太を覆う闇の殻となっていく映像は特殊効果が素晴らしく、その閉じた世界(模造の子宮)に向けて邪面師が石をかざすと、強化された幻想は巨大化して邪面獣を誕生させる!
 そして、頭の上に乗っている針金邪面!
 の流れは、好演出でした。
 八太の指に巻いていた絆創膏はペンだこの為、という視聴者向けのミスディレクションはあまり効果的ではありませんでしたが、これをやるなら、充瑠が席を離れた後で気付くよりも、最初にペンを渡すシーンで印象づけた方が良かったかな、と。
 肥大した自我を示すかのように、脳モチーフめいた頭部がグロテスクな八太怪獣は咆哮し、その憎しみを世界へと向ける。
 「今まで君を傷付けた世の中に、存分に仕返しするんだ!」
 キラメイジンとドリラーが出撃し、思い切り殴り飛ばされた怪獣が地面を転がっても、頭部に仁王立ちしている針金邪面、凄い(笑)
 足下から針金を生やして表皮に突き刺しているとでも解釈したいところでありますが、怪獣の頭部に違和感を覚えた赤がザビューンにサーチを頼み、怪獣内部に八太が居る事を確認。ならばと頭上の邪面師にダイレクトアタックをしようとするキラメイジンだが、邪面師をカロリーくんだと認識する怪獣は、身を挺してそれをかばう。
 「カロリーくんとの、あの時間だけが、生きてて楽しかった事の全部なんだ! 本当に楽しかった……だから、何があっても守る!」
 「ふははははは! 愚かな奴だ。だがこいつはいい」
 他者の心を弄ぶ完全な外道路線の針金ですが、真っ当に格好いい声と芝居が巧くはまっています。
 「どうしてこんな事を!? 俺は、八太さんの絵を見て、本っ当に感動したんだ! 純粋で、キラキラしてて、宝石みたいな才能だって! もっと……ずっと描いててほしかったのに!」
 赤は必死に八太へ呼びかけ、充瑠にこれを言わせておかないと、なんか場の勢いで無責任に誉めてないか……? となりかねなかったので、ここを抑えてくれたのは良かったです。
 「俺がやるしかねぇ!」
 引きこもりには鉄拳制裁だ!と飛び出した昭和の男が怪獣にドリルを突き刺しボディに穴を空け、「充瑠今だ!」と呼びかけるので穴の中に充瑠が飛び込むの……? と思ったら、ダストンで強引に吸い出そうとし始めて、凄く、駄目な対処法になってきていませんか……?!
 昭和的解決法によって閉じこもる檻が砕け散り、闇の中へと落下していく八太が目にした白い光は、彼の世界にある、彼の好きなもの。そこへ姿を見せたカロリーくんの幻影に手を伸ばし、停滞した幸福な世界の継続を願う八太であったが、物理でグーパンからの強制追い出しを受け、スカイメイジがそれをキャッチ。
 コアを失った邪面獣は、ランドメイジのはしご車からザビューンストライクを叩き込まれて木っ葉微塵に砕け散り、逃げる針金を追った赤は、アロー召喚から不死鳥モードを発動。
 「人の純粋な心を利用して……許さない!」
 そこに現れたヨドンナは赤を牽制すると、さすがに石だけ回収して姿を消し、残った針金邪面は怒りのアロー乱舞でチェックメイト
 充瑠は膝を抱えて泣きじゃくる八太(この世への新生の隠喩は入っていそう)に駆け寄ると、時雨と小夜に寄り添われて光ダメージで死にそうだった八太に、貰ったペンのお礼にと愛用のマーカーを渡して握らせ、ここは充瑠の、精一杯の気持ちを伝えたい心情が出ていて、良かったです。
 後日……画材を買い込んだ充瑠は為朝と瀬奈を伴って八太の家を訪れるが(ちなみに、為朝とゲームやったら八太は死ぬし、瀬奈が部屋に入ってきても八太は死ぬ)、そこは空き地。困惑する充瑠は、近くの本屋の店頭で、ポスターに大きく載せられた新連載のマンガが八太の絵だと大はしゃぎ。
 「……確かに変わらなくていいのかもな。どんなものであれ、自分の中の純粋な煌めきを大事にし続ければ」
 「いつか、誰かにとっての煌めきになる」
 道中の充瑠の「別に、変わらなくたっていいじゃん!」を受ける形で為朝と瀬奈は言葉を交わし、意気込む充瑠の「よーーし! 俺もやるぞーーー!!」で、つづく。
 ラスト、敢えて充瑠に「変化」を否定させたのは、「自分が変化できたからといって他者に変化を押しつけない」といったニュアンスなのかなと取れますが、敢えて圧縮した「変化」を劇的に描ける事こそが、寓話としてのヒーローフィクションの強みだと思っているので、その機能性を放棄してしまったのはスッキリしませんでした。
 例えば充瑠の場合、「絵に対する想い」は“変わっていない”のですが、「教室の片隅で一人で絵を描いている自分」に対するネガティブな意識は“変わっている”わけで、物語の中心として描かれてきた「変わった」部分と「変わらなくていい」部分のテーゼから外れた上で、「変わらなくていい」と「諦めない」を不用意に混ぜ合わせて有耶無耶にしてしまったような印象。
 また、カロリーくんとは何者だったのか、を含めて、八太(「八手三郎」という“存在しない人間”を名前のモチーフにしているわけですが……)の家が影も形も無い事でふわっとしたファンタジーめいた空気を出しているのですが、仮に八太が実在した場合、いくら内心を「変わらなくていい」と言っても、引っ越しという名の外的環境の避けがたい「変化」が発生しているわけで、あくまで充瑠主観であり為朝からは否定も入りますが八太が漫画家デビューを果たしたというならそれも極めて大きな「変化」であり(時間軸がほやかしてあるものの、あの直後にデビューにこぎつけたとなると、意図的にかこれも不自然ではありますが)、「変わらないものが誰かの煌めきになった」というよりも、「内外の明確な変化が発生している」ので、充瑠の言葉の置き所が噛み合っていなくて、物語として目指したところと、完成した映像作品の着地点が、東京とトロントぐらいズレてしまった感じ。
 そもそもキラメイジャー、緊急事態とはいえ、八太の内的世界を粉々に打ち砕いた上で強引にそこから引きずり出しているわけなのですが、「自分の中の純粋な煌めき」が「世界に対する怪獣」になってしまったのが今回の事件だったわけで、そこをそのまま肯定してしまうような言い方は首をひねり、結末で焦点を合わせるべきは、その一件を経て「自分の中の純粋な煌めき」が、「(怪獣ではなく)誰かにとっての煌めき」となったネガからポジへの紛れもない「変化」の方だったのではないかな、と。
 あくまで本人の意識に変わりがないとしたいのならば、それを受け止める「周辺世界の変化」として描く事も出来たと思いますし。
 その辺り、脚本と演出の意図が噛み合わなかったのか、或いは、脚本が本来やりたかった事にNGが出たのか……そんな邪推もしてしまいますが、少なくとも最後のハッピーエンドめいた何かは、本来の設計図とは違う要素を、急にとってつけたような印象。
 そういった邪推は脇に置くと、話の構造的にはバンドやろうぜ回に近いのですが(対象の心に善意から近寄るか悪意から近寄るかでアプローチは真逆ですが)、個人的には、閉ざされた心の中から自らの足で一歩踏み出した少年を、残酷であるかもしれないが美しくもある世界で迎え入れ受け止めるヒーロー! の方がスッキリと好きです。
 勿論、時代に合わせたアップデートは必要でありますし、今作はそういった意識が随所に見受けられますですが、それでも、「よく戻ってきた! ワンダーグレートだ!」はヒーローフィクションとして大事にしてほしい部分ではあり(個人的に、ここまでで最高に銀が格好良かったシーン)、敢えてそこをひねるのならば、ひねるのを貫いて欲しかったかな、と。
 ギャグシーンに代役ンに続き、終盤の集大成としてロボット戦で次々とサブウェポンを投入するなど積極にギミックを活用してくれたのは嬉しく、現代的な要素をヒーローフィクションの1エピソードに掛け合わせる切り口などは面白く見ただけに、どうも消化不良な着地になってしまったのは、残念でした。
 塚田さんが今作というか恐らく《スーパー戦隊》にスパイスを入れたかった意図は見えるものの、『キラメイジャー』としては傑作DJ回で物語の真芯が描かれた後なので、スパイスを入れるタイミングが遅かった感もありますが。
 次回――猫耳。……て、もう残り5話の筈ですけど?!