『海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第41話
◆第41話「なくしたくないもの」◆ (監督:竹本昇 脚本:荒川稔久)
――「ゴズマに屈しない俺達の姿を、全宇宙に示すんだ!」
「ダマラス様、その後、皇帝陛下からのご指示は?」
「一切無い」
ワルズ・ギルを失った侵略艦隊旗艦のブリッジに仁王立ちし、地球を見つめるダマラスの姿が重々しくも哀しく、2話のインターバルをおいて、宇宙帝国ザンギャックが再登場。
「我々は一体、どうすれば良いのでしょう?」
地球侵略の指針を失う侵略艦隊であったが、そこに新たな艦隊がワープで合流し、ブリッジに姿を現したのは……
「宇宙帝国ザンギャック皇帝、アクドス・ギル様、ご来臨」
皇帝自らが地球侵略の最前線に降り立って、小川真司・江原正士・東地宏樹の名前がキャストクレジットに並び、これに大塚芳忠さん辺りが加われば、洋画劇場が始まりそうな勢い(笑)
漆黒のボディに炯々と光る片目が威圧感抜群の皇帝は、側近の二人に命じて、ダマラスを拘束。
「恐れながら、ダマラス様は、ワルズ・ギル様に出撃を禁じられて!」
殿下不在の際は互いの能力を適切に評価している関係とはいえ、親衛隊に逆らってまでインサーンがダマラスを弁護したのは少々意外でしたが(ダマラスに責任を押しつける方が立ち回りとしては有利そうですし)、小ずるい面のあるインサーンでさえ敬意を払う人物、と素直に受け止めておけば良いでしょうか。
「愛する我が息子、ワルズ・ギルの弔いである。海賊どもの首を、ただちに捧げよ」
皇帝来臨、ダマラス更迭、により、いよいよ終章の幕が開き、皇帝の言葉と共に殿下の巨大な遺影が壁に飾られ……あの……いきなり……雰囲気が……。
リタイア後に思わぬ破壊力を見せつけてきた殿下ですが、これで皇帝からも「使えないクズ息子」の扱いだとあまりにも悲惨だったので、皇帝に息子への愛情があったのは、なんだかちょっぴりホッとしました(身内への盲目的な愛情から組織の崩壊を招くビッグボス、というのは一つの定型といえますが)。
一方地球では、アイム・ジョー・鎧が買い出し中。
「でも良いことです。自分の星を愛せるということは」
鎧の地球自慢へのアイムの言葉にやや重い空気になったその時、紫色の艦隊が上空に来襲し、それが皇帝直属親衛隊のものだと気付いたジョーは目を瞠る。そして降り立つ、黄金のペストマスクを思わせる顔の怪人(因果は逆ですが、「ザンギャックという悪疫をもたらす者」のイメージでしょうか)。
「俺は皇帝親衛隊のザツリグ。数百の星を滅ぼし、惑星の破壊神と呼ばれた男だ。ワルズ・ギル様の仇を討ち、このような辺境の星に――」
その姿にまなじりを吊り上げたアイムは、口上途中に一人で斬り掛かる掟破りの行動に出てジョーと鎧を唖然とさせ、慌てて変身した二人の制止にも耳を貸さず遮二無二剣を振るうが、ザツリグに軽々と受け止められてしまう。
「夜が来る……夜は酒を飲む為の時間だ。次は6人で来い」
ザツリグの胸の魔眼が開くと、手も足も出ないまま3人は大ダメージで変身解除に陥り、紅蓮の炎に包まれる街を背に圧倒的余裕と実力を見せつけ、ザツリグは帰宅。アイムはアスファルトの地面に拳を叩きつける激情を見せ、一旦身を隠すのも手かもと提案するハカセと、それに賛同する鳥。
独り見張り台に登ったアイムが思い返すのは、ザツリグによるファミーユ星の制圧、そして抵抗を試みるも焼き尽くされた父と母の姿……。
(ご覧になっていって下さい。今度こそ、わたくしのこの手で……仇を取って見せます)
故郷を蹂躙した仇敵との再会に思い詰めるアイムは、海賊戦隊での思い出を振り切って船を下りようとするが……その前に立つマーベラスと仲間たち。
「一人であいつを倒せるわけないだろ」
「あいつとやれば、確実におまえは死ぬ。それが現実だぞ」
「でも、わたくしは……」
俯き、涙を流すアイムに歩み寄ったマベが……頭に手を置いたーーーーーー。
正式なロマンスに発展しない範囲で、どれだけ視聴者をジタバタさせる事が出来るのかの、マベアイ派とジョーアイ派の激しい内部抗争の気配を感じます(笑)
「――泣くな。おまえ、俺と初めて会った時、なんつった?」
それはまだ、海賊戦隊が4人だった頃――ゴーミン部隊を蹴散らしたマーベラスたちを引き留めたのは、賞金首の手配書を持ち、丁寧に名乗りをあげるファミーユ星の王女、アイム。
「あの…………わたくしを仲間にして下さい。海賊になりたいんです!」
アイムの懇願に対して、ジョーが失笑をもらし、ルカがあからさまに嘲るのが、過去の表現として関係性がわかりやすく秀逸な描写。
「ばっかじゃない? お姫様なんかに出来るわけないよ」
「出来ます! 一生懸命頑張りますから」
「どうしてそんなに海賊になりたいの?」
そして一応、この頃から話を聞いてくれるハカセ(ただし発言権は低い)。
「……わたくしの故郷はもうありません。けれど、他の星へ逃げ延びた方はいらっしゃいます。その方達が、ファミーユ星の誇りを持ち続けられるよう、わたくしは象徴として生き続けたいのです!」
「……だったら海賊なんかじゃ駄目だろ」
「いいえ。海賊だから良いのです。だって、この手配書に顔が載れば、わたくしが生きて、ザンギャックと戦っているのを見せられますから」
アイムの海賊入りの経緯が明かされ、これが大変痺れる理由付け。
お姫様と海賊、という今作の大きなミスマッチの始まりに十分な説得力を持たせると共に、星の滅亡時に母親から「なりませんアイム。あなたは生きるのです!」と告げられたアイムが、「ただ生きている」のではなく「自分が生きる理由」を見出しているのが素晴らしく、だからこそ、マーベラス(たち)がそこにアイムの“強さ”を感じて海賊団に迎え入れるのも納得。
そしてまた、この物語が“ザンギャックに指定された”「海賊」戦隊である事の意味も鮮やかに繋げられ、宇宙の海に掲げられた勇気の旗とは何か、アイムの始まりのエピソードにして、海賊戦隊そのものの在り方を描くエピソードになっているのが、お見事。
「星空の向こうに、おまえを支えにしてる奴らが沢山居るんだろ。そいつらの為にも、一人で死にに行くわけにはいかねぇだろう」
「……でも……!」
「アイム。顔を上げて前を見ろ。……俺たちが居るだろ」
5人は次々と頷きかけてアイムは仲間の存在を感じ取り、第37話において「船長」として独りよがりの行動を取って失敗したものの、改めて自らの大切な宝を見出したマーベラスが、“夢を掴む為に集まった、掛け替えのない仲間たちとの絆”を守っているのも、綺麗に繋がりました。
「…………みなさん! わたくしに力を貸してください。ザツリグを倒す為に」
「その言葉を待ってたぜ」
「ああ。皇帝親衛隊なんて、知った事か」
共に夢を掴む仲間の為に、やりたい事をやってやれ。
泣き笑いの表情を浮かべるアイムを囲み、翌日――ザツリグと対峙した6人はゴーカイチェンジ。
「派手に参ります!」
バリアを張り、高速移動し、重力さえ操るなんでもありの魔眼により、思い切り吹き飛ばされた6人は変身解除級の大ダメージを受けるが、ザツリグの能力が胸の魔眼にある事を見切ると、5人が囮となって桃が魔眼を狙う作戦を立てて再び立ち上がる。
「みなさんの気力、凄すぎです」
「――なくしたくないもんがあるからな」
「そうだね」
「……え? え?」
アイムを後ろに残して5人はザツリグへ突撃しながらゴーカイチェンジし、てっきりアイム主観だと思っていたサブタイトル「なくしたくないもの」が、マーベラスたち主観だった、と明らかになるのが実に鮮やか。
「正直、最初は何もできないお姫様だった」
「え?」
そして「事情を呑み込みきれない凱に説明する」という形で海賊の一員となったアイムの歩みがメンバーの攻撃に合わせて回想シーンで描かれ、さすがにこの切迫した戦闘中に大声で思い出を語り合っているとは捉えにくいので、マーベラスたちの記憶が凱の頭の中に流れ込んでいる、みたいな事になっていますが、きっと、“大いなる力”の作用です。
「銃を撃たせりゃ……反動でひっくり返る」
「剣を持たせりゃ、重さに振り回される」
「およそ戦いには、向いてなかった」
「家事をさせてもさ、もう滅茶苦茶だったし」
「なーんかマイペースすぎて、タイミングが合わないしね」
水と油かと思われた海賊たちとアイム、だが……
「……だがアイムには、俺たちに無いものがあった! ……4人の頃は、喧嘩になる事も多かった。だがアイムが来てからは、なんでだか……いい感じになった」
思えば第29話において、
というやり取りがあったのですが、凱の想像とは120度ぐらい違うものの、結局、「なんか、いい感じ」に着地したよマベちゃん?!(笑)
「どういうところが良かったんですか? やっぱりあの、守ってあげたくなっちゃうような、可憐な雰囲気ですか?」
「おまえはまだまだわかってねぇなぁ。アイムの事を」
「わかります! なんか、わかります!」
説明不能の《ほだし系》は最強無敵のパッシブスキル! と銀も熱烈に頷き、アイムが“今の海賊戦隊”を成り立たせる為の必要不可欠なピースである事が示され、後方でじっと耐え、ザツリグの攻撃を見定めていた桃の合図で、赤青黄緑がファイナルウェーブ。
それを弾き飛ばしたザツリグの攻撃を、銀が防御全振りゴールドアーマーで受け止めると、背後から跳び上がった桃がザツリグの胸を貫き、零距離ファイナルウェーブより、遂にその魔眼を潰す事に成功。
「ド派手に参りましょう!」
挿入歌をバックに桃と5人が〔ゴーオン金銀→ゴウライジャー→ゴセイ桃黄→デカ夫婦→ダブルシンケンレッド〕とコンビ的なゴーカイチェンジを決めていき、桃の扱いの良さにちょっと戦慄します(笑)
ゴーカイジャーそれぞれの絆を示すと共に、連続ゴーカイチェンジによってこれまでの海賊戦隊の道のりが凝縮されているのも格好良く――そこに共通するのは「出会い」であり――夢のダブル烈火大斬刀で百花繚乱の大サービス。
(お父様、お母様、今こそ無念を晴らします)
ゴーカイピンクキーを差し込んでの6人ガレオンバスターが放たれ、ザツリグの撃破後に手に肩を置いた黄が桃に顔を向けているのがまたおいしい。
なんとBパート丸々戦闘シーンなのですが、暴走した1人を含む3人では完敗した強敵を、心を一つにした6人で打ち破るチームヒーローの王道をいく様式を軸にしつつ、それに説得力を持たせるメンバーの繋がりを戦闘の中に巧みに盛り込み、アクションとドラマ、どちらも十二分の見応えを成立させる、『ゴーカイ』作劇の精髄といえる出来。
殿下退場編を含む重要回を下山さんと香村さんに任せ、第34話以来となった荒川さんが、戻ってきて早々に渾身の一本。
「これが海賊か」
また、初戦で親衛隊の凄腕を倒すことにより皇帝が海賊の力を認識するのも構成として綺麗にはまり、巨大ザツリグはそんなに時間もないので、敢然ドリルからパンチで瞬殺。
「宇宙に散った、命の為に、わたくしは強く生き続けます」
戦い終わり、思い思いに川原に寝っ転がる海賊達。
「良かったな……仇が取れて」
「はい!」
「……俺たちも目的達成だ」
礼を述べるアイムにそれぞれがサムズアップなどで応え、満足げに体を伸ばすマーベラスの表情を見て、運動能力を無駄に駆使して思い切り跳ね起きる伊狩鎧。
「やっぱり! マーベラスさんの、なくしたくないものって、アイムさんのえがぼがぼほ」
「言うな馬鹿!」
空気読まずに大声で叫びかけた鎧にマーベラスがプロレスを仕掛け……中学生男子。
「なんですか?」
「いいのいいの」
首を傾げるアイムにルカが寄り添い、マベアイとかジョーアイとかやかましいけど、戦隊男子なんて8割方ダメンズなんだし(※個人の感想です)、今なら圧倒的にルカアイでしょ、と派閥争いがますます激化して、つづく。
終章開幕を告げるにふさわしい、見事な傑作回でした。