『海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第37-38話
◆第37話「最強の決戦機」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:下山健人)
――「いかにも四本尻尾の王子、いや、もはや尻尾などないメギドである!」
「この俺の人生、どんな事でもこの俺の意のままになってきたというのに!」
海賊戦隊という障害により遅々として進まない地球侵略に苛立つ殿下の元に、皇帝親衛隊が本国から運んできた支援物資……それは、ザンギャック最強の決戦機・グレートワルズ(巨大ロボ)!
……て、最強ロボに息子の名前を付ける父上、割と、親バカ?
まあ、殿下本人の名前というよりも、中世ヨーロッパにおける「主導名」(一族内で受け継がれる名前)みたいなもので、過去にもっと立派なワルズさんが皇帝一族に居た可能性もありそうですが。
一方ゴーカイガレオンでは、ザンギャックの大部隊を蹴散らした海賊達が一休み中。
「地球を守るのも苦労するね、マーベラス」
「……別に。降りかかる火の粉を払ってるだけだ」
「また~。口ではなんだかんだ言って、結局いつも守ってくれてるじゃないですか」
にこやかな鎧のオレンジアメーバ柄のシャツが、今回も積極的に演出を殺しに来ます。
「どう思おうがおまえの勝手だがな。守ってねぇし、守れてもいねぇ……」
「ちゃんと守ってますよ。もう、素直じゃないなんだから」
「鎧、おまえが言う、ザンギャックから地球を守るってのは、こういう事だったのか?」
どこか浮かない様子のマーベラスに対し、逆に鎧は問いかける。
「マーベラスさんの「守る」って、どういう事なんですか?」
仲間達がそれぞれマーベラスに注目の視線を向けるのが印象的に描かれ、黙り込んだマーベラスは赤き海賊団壊滅時、自分を守って炎に消えたアカレッドの事を思い出す……。
「…………さぁな」
その頃、ザンギャック艦隊旗艦では、殿下が自らグレートワルズに乗り込んで出撃すると宣言。
「司令官自らが出撃など、常軌を逸しております」
「常軌でもなんでも逸してやるさ! 俺を舐めるなよダマラス。おまえは俺を無能な馬鹿息子だと思っているのだろう」
「滅相も無い!」
「見え透いた嘘を。俺がなにも知らないとでも思っているのか?」
第二次地球侵略艦隊の司令官を決める際、ダマラスが「殿下には荷が重いのでは」と進言していたのを殿下が耳にしていた過去が明かされると共に、これまで存在の示唆にとどまっていた皇帝陛下がシルエットで登場し、CV:小川真司……!
小川さんというと、洋画畑のラスボス声優の印象が強く、スーパー戦隊35周年記念作品において全宇宙の覇権を握らんとする巨大な悪の帝国の総元締め、という凄まじくハードルの高いキャラクターに位負けしない、極めて納得のキャスティング。
殿下とダマラスの関係は悪化の一途を辿り、ひとりグレートワルズを見上げる殿下の横に立つバリゾーグ。
「俺は子供の頃からずっと、父上の重臣たちに囲まれていた。しかし、誰もが父に似ぬ馬鹿息子と思っていただろう。……俺は独りだった。おまえが居なければな」
「……ボス」
「俺はダマラスや父上の重臣どもの鼻を明かしたい。おまえは俺についてきてくれるな」
我が儘で自己顕示欲だけが強い殿下の抱えてきた孤独や劣等感が明示され、つくづく、名家の御曹司の悪いところだけが濃縮されています(笑)
……どこまで遡れば殿下の破滅ENDを回避できるかちょっと考えてみたのですが、後に忠実な腹心となる同世代の乳兄弟(性格はギンガレッド・リョウマ)を設定、ぐらいまで遡ればワンチャンスありそうでしょうか。
ガレオンでは見張り台で考え込む鎧にジョーが気遣いを見せ、これといって描写するタイミングは無かったけど途中参加の鎧も皆の過去の事情はだいたい把握しています、というのを会話のトーンでねじ込んできたのは、細かく巧かったポイント。
「船長のアカレッドは、マーベラスを守る為にザンギャックと戦って命を失った」
「……はい」
「だから、簡単に守るなんて言えないんだろう」
マーベラスの過去にして一つの原点と繋げながら、ヒーローにとっては定番ともいえる「守る」とは何かを、個人の問題に落とし込みながら改めて問いかけるのは、今作らしい目の付け所。
「ルカや、ハカセや、アイムの星も同じだ。今までザンギャックと戦って、勝った奴は誰も居ない。だから……ザンギャックから地球を守るっていうのは、“宇宙最大のお宝”を見つけるのと同じぐらい、難しいかもしれない」
「それでも……だとしても! 俺は守ってみせます。絶対に」
そして、「守る」事に一種の戸惑いを抱いているマーベラスに対して、スーパー戦隊の薫陶を受け続けてきた鎧は、どんな強大な敵を相手にしても「守る」事を諦めない姿を鮮明に打ち出し、鎧の持つテーマ性が綺麗に接続。
「おまえらしいな」
その言葉にニヤリと笑うジョーだが、そこへ殿下の命令によりバリゾーグ率いるゴーミン部隊が強襲を仕掛け、ゴーカイジャーは応戦。ゴーカイブルーとバリゾーグは、激しくその剣を打ち合わせる。
「シド先輩、俺はあなたの記憶を取り戻そうと考えていた。だがそれが不可能ならば! 俺はあなたに語る言葉を持たない。この刃こそが、俺の、言葉だ!」
「剣などで誰と語るつもりだ。あいにく私の刃に言葉などない。あるのは、ワルズ・ギル様への忠義のみ」
残りメンバーは銀が参加したガレオンバスターでゴーミン部隊を蹴散らすが、皇帝親衛隊の赤いドゴーミンが姿を現し、底知れぬ戦力を見せつけてくるザンギャック。語尾は「ドゴ」だが行動隊長レベルの戦闘力を持つ親衛隊に対し、ゴーカイジャーは番外戦士にゴーカイチェンジし、ズンズン!(萌え枠)
「腕を上げたなゴーカイブルー。しかし、ワルズ・ギル様のためにも、ここで負けるわけにはいかない」
なんとか親衛隊を退けるゴーカイジャーだが、青vsバリゾーグの激戦は続き、この言葉と共に、かつてシドが用いた必殺剣の構えに入るのが実に痛切。
これ以上、“シドの剣”をザンギャックに利用させない為に青もまた同じ必殺剣を放ち、両者は相殺。そこに駆け付けた仲間達を押しとどめる青だが、バリゾーグの背後には殿下が姿を見せ、虎の子・グレートワルズが発進。
「決戦機だかなんだか知らねぇが、ぶちかますだけだ!」
今回、端々でザンギャックの強大さ、局地戦では連戦連勝してもやがてはその暴威に呑み込まれた赤き海賊団の最期、それでも地球を「守れる」と言えるのか? の問いが繰り返されるのですが、数々の星の敗北を体験しその目にしてきた海賊達も、ザンギャック上層部にとっては公然であるグレートワルズの存在を知らない――すなわち、ほとんどの星はグレートワルズを出すまでもなく征服されてきたこの宇宙の現実が突きつけられるのが、重ねて凶悪。
グレートワルズは呼ばれて飛び出てきたマッハルコンを瞬殺し、豪獣バロムクロスも手も足も出ず、さすがザンギャックの決戦機、殿下が乗っても、強い!
「はっはっはは! 素晴らしいぞ。これぞ俺の求めていた力だぁ!」
豪獣ゴーカイオーは、必殺光線ワルズギルティを浴び、かつてない大ピンチ。追い詰められたコックピットの中で、自分を守って炎に消えたアカレッドの最期を思い浮かべたゴーカイレッドが選んだのは……
「ちっ……ここまでか。俺が残る。おまえ達は脱出しろ!」
船長命令を告げた赤は、渋る仲間達を強制脱出させ、船外に射出。直後、有罪判決を受けたゴーカイオーは赤を乗せたまま吹き飛び、轟沈するゴーカイガレオン。果たしてマーベラスは無事なのか、そして、地球の運命は?! かなり急ピッチで、つづく。
◆第38話「夢を掴む力」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:下山健人)
――五つの命は 夢のため 命の爆発は 明日のため
恨み重なる海賊どもを自らの手で葬り去ったと有頂天の殿下は旗艦に戻って祝賀会に酔い痴れ、バリゾーグ率いる部隊は海賊達の死を確認する為、山狩りを開始。
「あれが、マーベラスさんにとっての、「守る」って意味だったんでしょうか」
鎧は、ルカ・ハカセ・アイムに率直な気持ちを語り、ジョーは再びバリゾーグと激突し、マーベラスは三途の川を渡りかけてアカレッドと出会い、前回に引き続き、盛り沢山。
「俺は……マーベラスさん一人に、背負ってほしくなかったです。……仲間なら、俺たちを守るんじゃなくて、最後まで一緒に、戦いたかったです」
あっちもこっちも重量級のやり取りが釣瓶打ちの中で最も印象深かったのは……
「良かった、死んでなかったー、マーベラスー」
「死ぬか」
「おいらを置いて死んだら、承知しないからなぁ」
「鳥……」
目を覚ましたマーベラスの胸に顔を埋め、正ヒロインの貫禄を見せつける、鳥(笑)
このシチュエーションから言える事は一つ、 マベちゃんにとって、一緒に死んでもいい仲間は、鳥なんですよ鳥!(力説)
「それより鳥、今ザンギャックが襲ってきたらどうする?」
「決まってるだろ。二人で、戦うよー。なーんてね。おいらだけ飛んで、逃げちゃうかな」
「おまえな」
鳥が勢いよく回した操舵輪をマベが掴む事で、海賊再起の瞬間が劇的さを増す好演出で、マーベラスはキーを差し込みガレオンを再起動。
「どこへ行くんだよ?」
「ふっ! 決まってんだろ!」
時間は少し遡り……青vsバリゾーグは、前回に続いて白熱。
「俺は絶対にここで、倒れるわけにはいかない! 仲間のために命を張った大馬鹿野郎に、借りを返す為にもな!」
バリゾーグの連続必殺剣を全て弾き飛ばした青は、至近距離からの一撃に変身が解けながらもそれを跳ね返し、怒濤の連続攻撃で遂にバリゾーグを撃破。
この前後編で殿下&バリゾーグを退場させるという事で、かなり忙しなくあれこれと詰め込んでいるのですが、その中で青との一騎打ちに尺を割いてくれたのは嬉しかったですし、ジョーにとってのシド先輩、マーベラスにとってのアカレッド、を重ね、海賊戦隊のリーダーとサブリーダーが、共に過去を乗り越えて今の仲間と共に夢を掴む為に歩き出すのは、巧いアイデアでした。
「シド先輩…………俺、あなたの魂だけでも、救えましたか?」
「……強くなったな、ジョー。でも、その強さはおまえ一人のものじゃない。おまえと仲間のものだ」
「俺と、仲間の」
「いい仲間を見つけたな。その手で掴め。おまえ達みんなの夢を」
ジョーは放っておくとストイックすぎて剣鬼に振れがちなので、脳内シド先輩が世界との繋がりを示してくれたのは、個人的に良かったポイント。そしてマーベラスは脳内アカレッド先輩と出会い……
「俺はあの時のあんたみたいに、あいつらを守ったんだ」
マーベラスにとっての「守る」が、先達の模倣であったのは痛々しさを伴うのですが、今回は、序盤から割と完成された強さを持っていたマーベラスの、弱さ・脆さ・壁の内側を積極的に描いており、マーベラスはアカレッドから、マーベラス自身の「守る」と向き合うように諭される。
「おまえは私はではないし……ゴーカイジャーは、赤き海賊団ではないだろう。おまえが選んだ仲間達は、本当におまえに守って欲しかったのか? おまえが本当に守るべきものは、夢を掴む為に集まった、掛け替えのない仲間たちとの絆じゃないのか」
「……俺とあいつらの、絆」
「マーベラス、それが海賊ってものじゃなかったのか」
「……そうだな。それが海賊ってもんだ」
失われた海賊団の旗を独り背負い、「キャプテン」を演じていた青年は、今――たった一つ自分だけの宝物を手に入れて、本当の、キャプテン・マーベラスになる。
「鎧、俺が間違ってたみたいだ。……おまえらや、おまえらの夢は、俺に守られるほどやわじゃねぇもんな」
「……はい。ないっス!」
「わかってんじゃん」
「それでいいと思います」
「(無言で頷く)」
「じゃあ文句は言わないであげるか。で、どうすんの? マーベラス」
「決まってんだろ。派手に行くぜ!」
「「「「「「ゴーカイチェンジ!!」」」」」」
6人揃って主題歌バトルで、緑の人がなんか凄く転がっております。アクションの中で各自が名乗り、海賊戦隊・ゴーカイジャー! で爆発が派手に決まり、ドゴーミンはガレオンバスターとレジェンドリームでさくっと撃破。
「俺は戦うぞ! バリゾーグの弔いだぁ!」
だがそこに、バリゾーグ死亡の報告を受け、ダマラスの制止を振り切って出撃した殿下の操るグレートワルズが怒りの襲来。
「今度こそあの七り光野郎を倒す!」
二大ロボで立ち向かうも、ザンギャックの誇る決戦機の前に、ドリルもドラゴンも忍法も炎神も通用せず、再び追い詰められるゴーカイジャー。
「夢をこの手で掴むまで、俺たちは突き進むだけだ!」
しかしその時、キャプテン・マーベラスの元に一つになった海賊団の心に応えるかのように6つのレンジャーキーが眩い輝きを放ち、秘められていたゴーカイジャーの“大いなる力”が発動すると、びっくり箱から飛び出す完全ソウル。それをマッハルコンにセットする事で、ゴーカイオーをベースに、両腕が豪獣神、分離したマッハルコンが脚部・胸部・左手・頭部に接続された新たな巨神・カンゼンゴーカイオーが誕生し、吹き鳴らされる宙明節?!
下半身合体がガオライオンと被っているマッハルコンの本命は、たぶん割れた本人が一番ビックリしている完全ゴーカイオーのパーツだった衝撃の完全合体(ゴーカイジャーの“大いなる力”というのは、納得度高し)だったのですが、ここでいきなりの渡辺宙明!(確認したら、挿入歌インストでした)の方がインパクトが強くて、初見時はここから先の戦闘が全く頭に入ってきませんでした(笑)
「なんだと?! これはいったい!」
「ド派手に突っ走るぜ!」
……どの時点で完全合体の概要が固まって挿入歌が発注されたのかはわかりませんが、思えばこれもまた『vsギャバン』への前振りだったのか、胸の炎神に火を点けて突き進む完全ゴーカイオー。
「俺は越える、ダマラスも父上も! 見ていろバリゾーグ」
必死に抗うグレートワルズだが、完全ゴーカイオーにはあらゆる兵器が通用せず、指からミサイル、右手のドリル、そして放たれるロケットパンチが、その装甲を無情に貫く……!
「俺は……俺はこのまま終わってしまうのか?! くっ、ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……終わってしまった。
グレートワルズは大爆散し、殿下、地球に散る。
「これで俺たちも、本格的にスーパー戦隊、って事ですかね」
「さぁな。しかし、俺たちは本当のゴーカイジャーになったって事だ」
椅子にふんぞり返るマベは鳥に茶化されてブリッジで大騒ぎし、赤き海賊団の生き残りとして「船長」の殻を纏ってきたマーベラスが、その内側に巣くっていた脆さに呑み込まれかけるも立ち上がり、ゴーカイジャーの「船長」として自然な笑顔を浮かべ、つづく……前に、大破したグレートワルズが俯瞰で映り、殿下ワンチャンある? と思いきや、機体の中から出てきたのは殿下の亡骸を抱えたダマラス、というかなりショッキングなカット。
「殿下、私がついていながら…………海賊め」
怒りを燃やすダマラスの瞳に映るゴーカイガレオン、でつづく。
上述したようにかなり要素を詰め込んだ前後編で、一つ一つ、もっと掘り下げても面白そうなのに話数の関係で無理、なのが惜しく感じる部分はあるものの(殿下の内面とか、ジョーvsバリゾーグとか、マーベラスをもう二段階ぐらい追い詰めても面白かったようなとか)、今作ここまでの積み重ねを過不足無く取り上げて、山場を任された下山さんが責任を果たす仕事。
特に、マーベラスの“弱さ”の部分――ジョーが丈との出会いで一足先に乗り越えていた部分ともいえましょうか――に焦点を当ててくれたのは良かった点。
次回――焼き肉メガ盛り?