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風に呼ばれたその男

海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第27-28話

◆第27話「いつもより豪快なチェンジ」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)

 ――「なんだか……今日の小津くん、今までで一番格好いいかも」

 買い物中のルカとハカセが銃声を耳にし、ザンギャックを迎撃しようとする地球人SPの発砲、というなかなか珍しいシーン。ルカとハカセのゴーカイチェンジに続いて残り4人も参戦し、狙われた人物を銀が逃がしている内に、フラッシュマンにゴーカイチェンジ。
 プリズム装備が特徴付けやすいのか、80年代戦隊の中ではちょくちょく出てくるイメージのフラッシュマン、個人装備で戦闘員を蹴散らし、元に戻ってぐねぐね隊長を追い詰める黄緑だが、謎の光線を食らってしまい……
 「全然効いてないよーーんだ」
 「一気にトドメ行くよ!」
 二丁拳銃をぶっ放しているつもりのハカセの手の中には二刀があり、二刀流で斬り掛かっているつもりのルカの手の中には二丁拳銃があり……入れ替わりによる混乱を武器交換で示すのが、物凄く巧い。
 精神入れ替わりは定番アイデアの一つといえますが、今作の特徴的な要素を鮮やかに用いて、非常に秀逸な掴みとなりました。
 ……それにしても、弾丸の出ない剣を構えながら「うらららら、だだだだだだ」と口にしているハカセ(黄)、ヒーローとしてギリギリのレベルで間抜け(笑)
 「大丈夫ですか、ルカさん?」
 「あたしは平気。ハカセは?」
 困惑する二人を殴り飛ばしてぐねぐね隊長は逃走し、倒れるルカに駆け寄るアイムだが、それに答えたのは、いち早く立ち上がったハカセ
 「え?」「は?」「あぁん?」
 「……いや、ハカセはおまえだろ」
 ハカセ(ルカ)はルカの姿を目に留め、ルカ(ハカセ)はハカセの姿を目にし、お互いの心と体が入れ替わっている事に、うっすらと自覚を持ち始める二人。
 ハカセ「あたしはルカ、あたしはルカ……あんたは?」
 ルカ「ハカセだよぉ」
 「二人とも、本気で変だぞ」
 ハカセ「変に決まってんでしょ!」
 ルカ「どうしよう……僕たち」
 「「入れ替わっちゃった!!」」
 うんうんと頷きつつ、なに言ってるんだろうこいつら、という顔をしているジョー、こういう時の破壊力が高い(笑)
 ガレオンに戻って二人の陥った状況が整理され、ハカセに「変なとこ触ったら罰金」を厳命しつつ「せっかく男になったんだもん、楽しまなきゃ」と街に繰り出したルカ入りハカセ(以下:Lハカセ)は、髪型を変えてイメチェンすると服を買いあさり、体が変わっても荷物持ちをする事になるハカセ入りルカ(以下:Hルカ)。
 Hルカが自分の体の扱いに気が気でない中、Lハカセは無理なナンパをしているチンピラを叩きのめし、女子高生にモテていた。
 (おっと……なんか悪い気しないかも)
 一方、Hルカは見るからに反社会的な容姿の男性に絡まれ……一目散に逃走。肉体がルカである事を気にして思い切れないハカセは男達に追いつかれてしまうが、二人の正体は別に反社会的な組織の構成員ではなく、ルカの鑑定眼にべた惚れの、宝石店のスカウト。
 二人は追いついてきたLハカセによってお引き取り願われ、「新堀宝石店」と名乗りましたが、体格のいい方、どこかで見た顔だと思ったら横山一敏さん。
 「なーんだ、てっきりルカがヤバい事に手を出して追われているのかと思って……僕、良かったぁ」
 「ていうかさ、あのくらいの距離、飛んで逃げればいいでしょ」
 「……だって」
 「まさかびびったの?」
 「そりゃあびびるよ。着地でも失敗したら大変じゃないか……ルカが」
 「……え?」
 預かり物としてルカの体を気遣っていたハカセの優しさに気付いたルカは、珍しい体験を楽しもうとはしゃいでた事をちょっと反省し、マジレン」編と似た状況を敢えて設定する事により、自身の体だったら「飛べる」ハカセが、「飛ばない」選択をする理由に説得力を持たせてルカの心情に繋げたのは、実に鮮やか。
 悪ふざけ寄りのアイデアに始まって、ちょっといい話に転換するのもセオリーといえますが、セオリーに則っているからこそ、ターニングポイントの設置場所・キャラクターの掴み方・物語全体への見通しの良さ・積み重ねを活かした跳ね方・丁寧な人間関係の描写、と香村さんの筆の冴えが目を引き、アイム誘拐回に続いて、いわゆる単発回なればこそ技量の高さを見せてくるエピソード。
 「ありがと。……ごめんね」
 Lハカセに頭を撫でられ、しばらくした後に得心したHルカは微笑を浮かべるが、そこに冒頭で狙われた人物が何者か鎧が思い出した事によりザンギャックの狙いが判明し、一同は、世界首脳入れ替え作戦を阻止するべく、国際会議場へと突入。
 「ハカセ、あたしの体だからって、遠慮しなくていいよ」
 「りょーかい!」
 倒せば元に戻る、とぐねぐね隊長から自己申告があり、Lゴーカイグリーンが「イエロー」と名乗り間違えるお約束を挟んで戦闘に突入。
 「「いつもより派手に行くよ!!」」
 ぐねぐね隊長を相手に武器交換した黄緑は、緑が二刀流、黄が二丁拳銃、の今回限りのスペシャルアクションを見せ、控え目なようでいて不意打ち上等、他人の影に隠れながら割とハッピートリガー(臆病なればこそ、確実に殺すまで撃ち続けずにはいられないタイプ)なハカセの戦法、見慣れない色で見ると、ホント酷い(笑)
 ノリにノリまくる黄緑は、そのまま二人ファイナルウェーブでぐねぐね隊長を葬り去り、戦いは勢い。
 「ざまぁみなさい」
 「おしりぺんぺーんだ」
 「「戻ったーーー!!」」
 両者の入れ替わりは無事に解消し、巨大ぐねぐね隊長は風雷千本ノックで成敗バイ。
 そして改めて女子高生とカフェでお茶するハカセだが……
 「だっさ……」「もじゃもじゃ」「チェック」「ありえない」
 「「へーーーん」」
 ……見事に逃げられるのであった。
 「やっぱ駄目かぁ。あたしとハカセじゃ全然違うもんねぇ」
 「だったらなんで僕に行ってこいなんて言ったんだよ」
 「だって、ハカセにはハカセの格好いいとこがあるじゃない?」
 「え?」
 「……かえろ。なんか美味しいもん作ってよ」
 格好いいとこについて聞き出そうとしつこく体を揺さぶってくるハカセに対し、ラスト約3分で3回目となる切れ味鋭い高速スライダーならぬ肘打ちが炸裂し、ルカがルカである象徴とは、伝家の宝刀・肘打ちにある事が再確認されて、つづく。
 一山越えたところで軽妙な一編でしたが、後に幾つもの印象的なエピソードを生み出す香村×中澤の名コンビにより、コメディとキャラの掘り下げがバランス良くミックスされ、予告のアイデアから想定していたハードルを鮮やかに越えてくる面白さでした。
 特に、鎧の参入により三下属性&成長株ポジションを奪われかけていたハカセの、芯に持つ強さと優しさに、第3話を甦らせる事でこれまでの積み重ねと繋げながら光を当ててくれたのは良かったです。それをルカが、「ハカセにはハカセの格好いいとこ」と評するのも秀逸。
 その上で今回何が凄いって、中身ルカのハカセは、言ってしまえば「普通のイケメン」なのに対して、中身ハカセのルカは、中身ハカセなのに可愛いというかむしろ、明らかに意図していつもより可愛いという、後の声優M・A・Oさんへと繋がる、強烈なポテンシャル。
 勿論、常日頃のルカとハカセの魅力あっての事ですが、ルカにはルカの可愛さがある、とは別の領域で、ルカが可愛らしく装っている、のではなく、ちゃんとハカセなのに可愛く見える、というのが、お見事でした。
 次回――翼よ、再び。

◆第28話「翼は永遠に」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:井上敏樹

 ――「へっ。まあそうマジになりなさんな……俺が死んでも、空は青い。地球は回る」

 瀟洒なバーで、カードに興じる男と女。女の手役は、フルハウス。男の手役は――ストレートフラッシュ。
 「この勝負に勝ったらなんでも言う事を聞く。そういう約束だったな」
 「何をしてほしいのかしら?」
 「……ここの酒はまずい。もっと美味い酒が飲みたいもんだ」
 女の伸ばした指先ではなく、ロックグラスに手を伸ばした男は琥珀色の液体を喉に流し込み……まさかの井上敏樹参戦で、最初から、フルスロットルだ!!
 地球では冒頭にスゴーミン相手にざっくり巨大戦が繰り広げられ、久々にガオーで撫で切りから、手裏剣千本ノックで片付けて、今作では割と使われるパターンでありますが、迸る、巨大戦ノルマは消化したので後は好きにやってください感(笑)
 「いやぁー、こう何度も何度も負けると、なんかいっそ、清々しい」
 「それは何よりですこと」
 「殿下、どうかお気を確かに。戦いはまだ終わってはおりません」
 戦いを終えた海賊たちの前に立ちはだかったのは、ちょっと某帝国軍に居そうな真紅のバトルスーツに身を固めた、宇宙一の賞金稼ぎ・キアイドー。
 「おまえは……」
 それは、若き日のマーベラスが一敗地にまみれた事がある、恐るべき使い手であった――
 「知っているか? 退屈というのは嫌な病気だ。薬は二つ。金か、戦いか」
 某暗黒騎士のセルフオマージュのような呟きと共に現れた回想の気合道は、恐らくまだ、キャプテンとなる前のマーベラスを子供扱いする戦闘力の持ち主にして、敢えてマーベラスにトドメを刺さなかった上で、その場の思いつきで自らの胸を自らの剣で刺し貫き、自らに弱点を作る、凄く濃い変態だった。
 「ここを狙えば……勝てるかもしれんぞ? 面白い! 久々に愉しくなってきたぞ! さあ、戦え!!」
 そのあまりの変態ぶりに若き日のマベは恐怖を覚えて逃走し、今また、恐怖の再来を前に無意識に後ずさるマベに、気がつくジョー。あの頃とは違う、と仲間と共に気合道に挑むマーベラスだが、無数の銃弾を手で全て受け止めてみせる気合道の技量の前に、過去の恐怖がフラッシュバック。
 「弱い……弱すぎる。もっと愉しませてくれ!」
 青さえも軽々と切り伏せるその圧倒的強さに対し、バイオマンで一斉キックも通じず、空中で反転してのバイオ粒子アタックも無効。マスクマンで放ったオーラパワーも弾き返され、仲間達が倒れる中、死中に活ありゴッドハンドを気合道の弱点へ叩き込もうとする赤だが、刻み込まれた恐怖が身をすくませたのか、反射的に目を逸らして放ったその拳は、あっさりと受け止められてしまう。
 「んー……甘い」
 どうしてこんな強敵の名前が「気合道」なのかもうひとつ首をひねる気合道ですが、CV:杉田智和(『キバ』の縁?)が甘い響きを効かせまくった演技が変態さを上乗せし、手も足も出ないまま気合道に見逃された海賊たちは、すごすごとガレオンに撤収する羽目に。
 「貴様! なぜ海賊どもを逃がした?」
 「この俺から逃げたという噂が立てば、ますます賞金が上がるだろう。豚は太らせてから食えだ」
 謎の格言めいたものを交えながら喋るのが、大変、井上ワールドの住人らしい濃さ(その点、あくまで「行動隊長」ではなく、外部から招聘した「賞金稼ぎ」扱いにしたのも良かったなと)。
 「ふん、所詮は金か。薄汚い賞金稼ぎの考えそうな事だ」
 「俺の虚しさを埋めてくれるのは、金と戦い。それとも、この中の誰かが、退屈をまぎらわせてくれるのか?」
 気合道はブリッジの中を睥睨し、殿下の前に立つバリゾーグだが、最終的にその視界に収めたのは、無言のままゆったりと動いたダマラス、というのは影の実力者の格好いい見せ方でした。
 一方、海賊達が完敗に打ちひしがれるガレオンでは偶発的に鳥占いが発動し、海賊たちは打倒・気合道のヒントを求めて鳥人戦隊ジェットマンを探す事になるが、その途中、ルカをナンパしてくるバイクの男。
 「ナンパ? あんたにあたしを誘う資格があるのかしら?」
 「あるさ。女は全て、俺のものだ」
 「はぁ~?」
 「おまえ、おかしいんじゃないのか?」
 ジョーは基本的に遊び球が無いので(ある意味、後の風切大和を彷彿とさせる真人間ツッコミに近い)、時々凄い豪速球を頭部にぶつけに行きますね!
 「……触るんじゃねぇ。俺は納豆と男が大嫌いなんだ」
 男はいきなりジョーの顔面にパンチを叩き込むと、ルカの攻撃を軽々とかわし、ジョーの落としたモバイレーツを奪って走り去ってしまう。その連絡を二手に分かれていたマベが受けると、バイクの音もしないのに、いつの間にやらアイムの後ろにその男。
 挑発を受けて男に殴りかかるマベだが、その拳にはどこか腰が入っておらず、キョロキョロしていた鎧が振り向いて目にしたのは、“何もない虚空”へ向けて必死で拳を振るうマーベラスの姿。
 「あの~、マーベラスさん、何やってるんですか?」
 「何って!」
 鎧の目には映らないが、男は確かにそこに“存在”しており、マーベラスの拳を正面から受け止める。
 「今のレッドはこんなものか。墜ちたもんだな! 俺の知ってるレッドはもっとパンチに魂がこもってたぜ!?」
 その人に篭もってたのは、狂気では……。
 ……と書いて気がついたのですが、今作、メンバーそれぞれが近しい人との死や別離を経験し、無法の海賊として大宇宙を支配する強大な帝国に歯向かっているという構図ながら、狂気の成分が非常に薄いのは、かなり慎重に、「狂気」や「復讐」の要素を排除して、例えば代わりに「夢」を持ち込むなどして、そちらへ流れる事を避けていたのだな、と(いずれこの観点で、全体を分解してみたいかもしれません……時間かかりそうなので出来るかは別に、メモ)。
 井上敏樹もそこを汲んでくれたのか、原典『ジェットマン』の大きな要素である「狂気」も「復讐」も持ち込まず、結果として今回、井上濃度は高いが、原典は前提にしつつもテーマ的な『ジェットマン』濃度はそこまででもない仕上がりになっている面があったり。
 メンバーの中で、一番「狂気」と親和性が高いのは(鎧を除くと)恐らくジョーですが、今回、マベを気遣うジョーに端々でスポットが当たっており、もし、“レッドの横に居る(た)男”の面に焦点を合わせてジョー×凱回として構成していたら、より『ジェットマン』濃度が高くなっていたかも、なんて事は思います。
 「これ以上ジェットマンを探すな。いいな?」
 「なんなんだ、おまえは?!」
 「結城――凱だ」
 マーベラスもまた変身アイテムを奪われてしまい、ジェットマンにまつわる「消えたブラックコンドル」の話を鎧から聞かされる一同。そして夜の公園で闇雲に剣を振るうマベの前に再び姿を見せた結城凱は、マーベラスの抱えている恐怖を指摘する。
 「ったく、ガキだな。自分の弱さと向き合えないとはな。今のおまえじゃ、ジェットマンの“大いなる力”を、使いこなせやしねぇから」
 トリッキーなくすぐりを交えつつ、先達が“試し”を与え、それを乗り越えた時に“大いなる力”が得られるのは、作品初期を感じさせるスタイルで(参考にしたプロットが序盤のものだった?)、凱を追ったマベが辿り着いたのは、結城凱の名が刻まれた、一つの墓碑。
 「やっぱり……死んでいたんですね」
 「そんな……馬鹿な」
 墓碑の周りには酒に煙草、新鮮な野菜に花束からアコちゃんラーメンまでが捧げられていて、泣かせます。
 「わかりました。なぜ結城凱さんが、ジェットマンの皆さんを探すのを、邪魔したのか。結城凱さんと、他のジェットマンの皆さんは、今も強い絆で結ばれている。だからこそ凱さんは、他の4人を、戦いに巻き込みたくないんですよ。普通の暮らしをしている、仲間達を」
 鎧の解釈と、凱の行動は、レジェンド大戦の存在を前提とする(かつてのヒーローは今もヒーローであり続けている)今作の世界観においては少しズレが出ているのですが、『ジェットマン』最終回には、共に戦った仲間達の分までヒーローの業(カルマ)を背負って凱が去って行く(エターナルなヒーローに昇華される)という面があったので、『ジェットマン』の最終回からは納得の行く接続。
 そう考えると、今作冒頭におけるレジェンド大戦の映像にブラックコンドルが加わっていた事への強引を承知の解釈として、そもそもあそこには、むしろブラックコンドルしか存在せず、他の4人の姿は、ブラックコンドルが背負って共に翔んでいた、概念的なジェットマンの力であったのかもしれません。
 そして、『ジェットマン』が描いたヒーロー像の先としては、ゴーカイジャー』の1エピソードにおいて『ゴーカイジャー』そのものへのアンチテーゼが突きつけられているのですが、ヒーローを解放せず、去って行った者達を揺り動かす『ゴーカイジャー』の抱える負の側面が死者の名の下に問われるのは、メタ的に誰に対してもきつい事をやってきた上で、それにGoサインを出して映像にしたのは、それでもそこには確かな意味があるという、スタッフの矜持を感じるところです。
 ……なお個人的に、この辺りに関するちょっとした引っかかりというかわだかまりというか抵抗感というかを大きく解消してくれたのが、最終的な今作と、後の『烈車戦隊トッキュウジャー』なのですが、もしかすると宇都宮Pにとって『トッキュウジャー』には、『ゴーカイジャー』へのアンサーの面があったのかも、と今回を見て。
 マーベラスらが凱の真意に気付いた頃、手負いの海賊戦隊に代わり一人で気合道に挑む結城凱は、ゴーミン達を生身で蹴散らすと、駆け付けた海賊戦隊の前で、超掟破りのブラックコンドルへと変身。
 「嘘でしょ……レンジャーキーはここにあるのに」
 「死んでもなお戦っている。……他のジェットマンを守るために」
 死者の平穏を守るために生者が戦うのではなく、生者の平穏を守るために死者が戦う姿は、穿った見方としては「時間が止まっている」からこそ「エターナルなヒーローで居られる(故に凱はブラックコンドルと同化している)」とも見えますが――そしてそこには一抹の寂寥が漂いつつ、しかし、冒頭と結末で凱がその生き様を謳歌しているように見せるのもまた、井上脚本の一面であり――、これも後のトッキュウジャーが、「時間を止められた」ヒーローであった事を考えると興味深い点で、個人的には『響鬼』以降、大幅に切れ味が落ちたと捉えている井上敏樹ですが、二重三重に仕込んだ「ヒーロー」への問いが、さすがの凄み。
 死闘を繰り広げるブラックコンドルの姿に何かを掴んでマーベラスが進み出ると、その背に微笑むジョー、そして続く仲間たち。
 「おまえ、ようやく恐怖を乗り越えたようだな」
 「……自分に勝つ力、自分の壁を打ち破る力。死をも乗り越える、意志の力」
 「わかったみたいだな“大いなる力”が。さっさとあいつを倒してこい」
 これが『ジェットマン』の“大いなる力”と言われるのは正直ピンと来ないのですが、原典が、ヒーローとは? 人間とは? 正義とは? 悪とは? を一年かけて徹底的に突き詰めていった作品だったので、そのテーゼをそのまま『ゴーカイジャー』に取り込むのはどう考えても容量オーバーする為、穏当なところに落とし込んだ感じ。どちらかというと、井上敏樹も参加しており『ジェットマン』への影響も感じられる『光戦隊マスクマン』の“大いなる力”と言われた方が納得しやすいのですが、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もありメディテーション
 凱からモバイレーツを返却されて6人はゴーカイチェンジし、ゴーミンを切り伏せ、自ら気合道へと斬り掛かった赤は、その攻撃を受けても屈せずに顔を上げ、豪剣を一閃。
 「ジェットマンで決めろ、ゴーカイジャー!」
 から、クロス・チェンジャー!
 ……本人の見ている前で、よりによって黒がハカセという、凄い落差(笑)
 「貫くぜ!」
 主題歌インストが無いながら、飛翔アクションからの5人連続攻撃は格好良く、トドメは、バードニック忍法火の鳥が炸裂し、その退屈を癒やしてくれる三つ目の薬――永遠の死を感じて高笑いしながら、気合道は死亡。
 「やったな。ったく、世話焼かせやがって」
 「……結城凱」
 わざわざ、一段低いところに降りて(上座と下座の関係性を作って)から声をかけるマベ、君はホント、兄貴風を吹かせてガンガン来るタイプが、内心で大好きだな!!
 「何も言うな。けつがかゆくなるからな」
 対してベンチに座り込んだ凱は、かなり直球なオマージュの姿で、眩しい空を見上げる。
 「綺麗な空だ。目にしみやがる。わかってるな。おまえらが守る番だ、あの空を」
 「……海賊にそんな事を任せていいのか?」
 凱に背中を向け、悪ぶった台詞ながらもマーベラスは微笑を浮かべ、それを見つめる凱もまた、鼻をこすって小さく笑う。
 「……あばよ」
 マーベラスが振り向いた時に凱の姿はそこになく……
 「……いっちゃったね」
 「まったく、キザな奴だ」
 「でもま、いい男だったなぁ。もっと早く会いたかったかも」
 「うーん……わたくし的には微妙です」
 「結局、最後まで見えませんでした。どうしてですか?!」
 なんか終始、蚊帳の外だった鎧(とはいえ、凱の心情を紐解く役目なのですが)の叫びが虚しく響き、
 (結城凱、確かに受け取ったぜ。ジェットマンの、“大いなる力”)
 マーベラスは、飛行機雲の伸びる澄み渡る青い空を見上げ…………その、遙か先。
 「どうだった? 地上のお酒は」
 「ああ。美味かったぜ。最高にな」
 再び瀟洒なバーで男女がカードに興じ、女の手役は、ストレートフラッシュ。男の手役は――ロイヤルストレートフラッシュ
 「あんた神様のくせに弱すぎだぜ」
 「ねえ、一曲聴かせてくれない? 凱」
 女の求めに応じて男はサックスを吹き鳴らし、店の名前は「Golden Gate」、マッカランの横に並ぶボトルの名前は「HEAVEN SKY」で、気まぐれなブルースの調べに乗せて、つづく。
 結城凱登場・脚本:井上敏樹、の大盤振る舞いだった「ジェットマン」編、酒・女・カード!と全部揃えて、ある意味でジェラシット回以上に好き勝手やりやがって!でしたが、浦沢回同様に、今回も、それをこそ求めていたのかな、と。実際のところ、(少なくともある時期までの)井上敏樹はちゃんと分析してくるタイプなので、『ゴーカイ』に寄せてくれと言われたら、もっと『ゴーカイ』に寄せたものを出してきたのではと思いますし。
 そういったテーゼの擦り合わせを、恐らく敢えて行わなかった結果、「生者の平穏を乱す現役ヒーロー達を、死によって時間の止まった(永遠となった)男が止めようとする」事で、作品の在り方そのものに一石を投じる歪な構造が生み出されたわけですが、そこで海賊達に相対したのが、


 「おまえ本気で言ってるのか?! 命の尊さをなんだと思ってるんだ!」
 「おお、いい子ぶりっこしやがって、おけつがかゆいぜえ」
 という、戦隊史上きってのアウトロー・結城凱という存在であったことにより、「宇宙海賊が35番目のスーパー戦隊になっていく」今作の基本構造と、「気取ったアウトローがヒーローとしての充足を得るに至る」『ジェットマン』の構造的同調が生じたのは一つ、天の配剤であったでしょうか。
 これでTV本編のレジェンドゲストとしては、赤・黄・長官/番外戦士・追加戦士・桃・青・黒、とレッドに限らず一通りの立ち位置が登場した事になりましたが、次回――「狂気」と「復讐」以外にも、海賊戦隊に欠けているものがある! そう、伝説の「女装」、再・臨?!