『海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第18話
◆第18話「恐竜ロボットドリルで大アバレ」◆ (監督:加藤弘之 脚本:荒川稔久)
――「来い、Vレックス!」
「確かに俺、“大いなる力”、持ってます。しかも……三つも!」
ナレーションからも「謎のお調子者」「付きまとった」扱いを受ける伊狩鎧だが、ゴーカイジャー?に変身できるのみならず、スーパー戦隊の“大いなる力”を所持しているという自供からガレオンに招かれ、大はしゃぎ。
そこで海賊たちに取り囲まれて尋問を受けた鎧は、力を得たきっかけを語り出す……それはある日、車道に飛び出した少女をかばって、トラックに轢かれた事から始まった。
少女を無事に救うも意識不明で病院に運び込まれた鎧は、夢の中のような不思議な空間で、ドラゴンレンジャー、タイムファイヤー、そして、アバレキラーと出会う……って、つまりここ、あの世?
「自分の危険を顧みず誰かを守る……俺の知り合いにも居たぜ、そういう無茶の出来る奴が。久々にときめいた」
「え?」
「受け取れ」
鎧はそこで、だいぶ恰幅の良くなったみこ様から「俺たちが生み出した」というゴーカイセルラーとレンジャーキーを与えられると共に、アバレンジャー・タイムレンジャー・ジュウレンジャー、3つのスーパー戦隊の“大いなる力”を託される。
「思い切りときめけ」
3人は光に包まれて姿を消し、奇跡的な快復を遂げて病院のベッドで跳ね起きた鎧は、その手にゴーカイセルラーとゴーカイシルバーのレンジャーキーを握りしめている事に気付く……。
「……夢? …………夢じゃ、ない。俺、本当に力を貰ったんだ」
つまり、異世界転生。
……2011年当時に、既にこれが「異世界転生」のパロディとして成立していたのか、或いは今だから余計にそう見えるのかはわかりかねますが、〔『ゴーカイジャー』世界に限りなく似た世界A → トラックに轢かれる → 入院 → 生死の狭間で境界空間に入り込みダイノガッツ教団の神霊的存在と化していた仲代壬琴と接触 → いわゆるチート能力を与えられる → 『ゴーカイジャー』世界に転生〕と考えると、なんだか筋が通ってしまうのですが(待て)
……今頃、世界Aでは本来の伊狩鎧の肉体が、冷たく固い土の下に眠っているのでは。
というか今回、何が凄いって結局、ゴーカイセルラーとゴーカイシルバーキーの正体は不明のまま終わる事で、確かにみこ様、《天才》スキル持ちで開発能力もありましたが、海賊戦隊を模した変身アイテムを生み出す説得力はこれといってなく、しかし今回、それでもかなり面白いエピソードとしてまとまっているのも、凄いところ。
「それを使って、一番のヒーローになれ」
みこ様の言葉に背を押されて力を手にした鎧だが、託された筈の“大いなる力”がどうしても発現できず、困り果てた末に海賊戦隊に接触。対応するレンジャーキーがあれば力を出せるのでは、とマベに宝箱の中身を見せられると大興奮で飛びつき、個々のスーパー戦隊にほとんど興味の無い海賊達との温度差が重ねて描かれる事に。
特にハカセは、珍しく露骨にイライラした表情を見せ、前回からの要素の引っ張り方が巧い。
背中に冷めた視線を浴びながら、基本的に肝の太い鎧は動じず問題の三つのキーを発見するが、「甘いよおまえ」と、キーとセルラーをまとめて取り上げられる事に。
「こいつらはそれぞれ、俺に無い何かを持ってる。おまえにはあんのか? 俺が欲しいと思う、何かが」
「……時間を下さい。俺、絶対答を持ってきます!」
仲間入りを熱望する鎧に、海賊戦隊に入るだけの価値を見せてみろ、とマーベラスは厳しく条件を課し、凱は一度下船。
ここで前回のような一方的な自己PRを繰り返すのではなく、かといって怯まず諦めない事で、口先と勢いと身勝手な愛だけの男ではなく、マーベラスの真剣さを受け止めてそれに応える何かを見つけなければいけないと考えられる男として描かれたのは、個人的にかなり好感度が上がって良かったです。
一方、前回の行動隊長爆弾作戦失敗のショックで殿下が寝込んでいるのをこれ幸いと、ダマラスはごつくて強そうなスカラベ隊長を呼び出し、前線基地の作成を命令。
そして凱の去ったガレオンでは、マーベラスがじっと考え込んでいた。
「あいつはザンギャックと戦うって事の、本当の重大さをまだわかってねぇ。宇宙全体を、敵に回すって事だからな」
さすがに、都合良く利用し尽くしての強盗行為ではなく、先の「甘いよおまえ」は、海賊相手に正直すぎる、と海賊戦隊に入る事の意味をよく考えているとは思えない、と二つの意味がかかっていた事が判明し、アウトプット機能には色々と問題がありますが、マベちゃん、この辺りの感覚は歴代シリーズでもかなり真っ当な部類に入る印象。
自分を夢に向けて導いてくれたアカレッドへの強い憧れと敬意、が恐らく背景にあるのでしょうが、「海賊」である事と同じぐらい「船長」である事にこだわっているというか。
基本的にマベちゃん、出力は雑だけど頭は良いタイプだと思って見ているのですが、それが責任を我が身に背負う事で根付いていったものなのかどうか、「マーベラス」がいつから「キャプテン・マーベラス」になったのか、が今後語られるかはわかりませんが、キャラの背景として気になるところではあったり。
身内からそう呼ばれる事はほとんどありませんが、マーベラスにとっては「キャプテン」の名を背負っている事は、相当の意味を持っているのではないか、と感じています。
翌日――河川敷で大の字になって考え込んでいた鎧は、爆発音と悲鳴を聞きつけてスカラベ隊長率いる部隊に襲撃を受ける工事現場に駆け付け、本日も、凄い模様のシャツから、エアゴーカイチェンジ。
「あーっ?! そういえば、今、レンジャーキーも、セルラーも持ってなかったんだったぁ!」
「なんだおまえは?」
「……海賊戦隊6人目の男、の予定の、伊狩鎧! 又の名を――ゴーーーカイシルバー!」
鎧はそれでもポーズを決めて啖呵を切り……
「馬鹿かおまえ」
なんか段々、「カーーーレンジャー!」はシルバー登場への周到な伏線だった気がしてきて荒川×浦沢タッグの手の平の上で踊らされているのではないかと疑心暗鬼に陥って参りましたが、伊狩鎧というのは要するに、90年代半ばぐらいから形を取り出し、00年代前半の主流として一つのパブリックイメージとなった〔熱血・単細胞・思い込み強め・知力低め・戦闘力高め・正義感抜群〕系レッドの煮込み、みたいなキャラクターなのだな、と。
つまり、シリーズ異色のピカレスクヒーローであるゴーカイジャーに対して、ifレッドとしての「運命の悪戯から特別な力を得た」主人公属性の塊をぶつけているわけで、前回凄く、世界観の揺らぎを感じて受け止め方に悩んだ事に納得がいきました(笑)
そんな鎧をカウンターに当てる事が逆に、スーパー戦隊の歴史が“それだけではない”事を示しているのが巧妙ですが、主人公属性だけだと過去ヒーローとの衝突をなぞってしまうので、主人公属性×三下属性、というキャラ付けがお見事。
また、一歩間違えると「こんな主人公が見たかったんでしょ?」的な内輪のおふざけないし皮肉に堕してしまうのですが(前回の前半になんとなく感じていた引っかかりの正体が、多分それ)、ここまで17話の積み重ねて海賊戦隊がそれを軽々と弾き返すだけのキャラ強度を持っているのに加えて、この後、そんな伊狩鎧の意味の見せ方が鮮やかに決まり、今作はとにかく落とし穴の回避が巧い。
鎧は迫り来るゴーミン部隊にいきなり飛び蹴りを決めると生身で立ち回り、景気良く飛び回し蹴りなども決めてみせるが多勢に無勢、袋だたきにされそうになるも角材振り回して反撃し、地球人にとって投石と破壊工作は小学生の必修内容です。
だがスゴーミンには角材が通じず、一方的に嬲られた上でスカラベ隊長の攻撃も受け、絶体絶命の大ピンチ。
「地球人ごときが、どんなに頑張っても無駄だ!」
「……そんな事あるか。頑張れば、必ず何かに繋がる筈なんだ。だから俺は諦めない。最後の最後の最後まで! やめないんだぁぁぁぁぁぁ!!」
屈せず絶叫する鎧にトドメの一撃が迫ったその時、スカラベ隊長に銃弾が突き刺さり、現れる海賊達。
「思った以上に、無茶苦茶な奴だな」
「ホント、信じらんない」
「……まるで、どっかの海賊そっくりだ」
「わたくしは…………素敵だと思いました」
「ま、とりあえず根性は認めてやるよ」
同じ三下属性を感じているのか、炎のジェラシーパワーを燃やしまくるハカセ(笑)
「どうする? これを使えばザンギャックを、宇宙全体を敵に回すぞ」
マーベラスはセルラーを取り出すと、この先に続く、戦いの苦難を説く、が……
「……違いますよ、マーベラスさん。ザンギャックを倒し、宇宙全体を平和にするんです!」
「ザンギャックを倒すって……」
「宇宙全体をひっくり返すって事か」
スーパー戦隊に興味の薄い海賊たちの前に現れた、スーパー戦隊を愛してやまない男という異分子が、異分子であるが故に海賊戦隊の基本的前提をひっくり返す事でその存在の意味を見せ、同時にその宣言――夢――により、ただ力を持っているだけではない「真の意味でのヒーロー」となり、「海賊戦隊の一員になる」事と「真のヒーローになる」事が結合しているのが、実にお見事!
「……ははっ! 面白い! 気に入った! 鎧! おまえはゴーカイジャーだ! 6人目の仲間だ!」
異分子ゆえの言行が新たな価値観や力を生み出すのは一つのセオリーで、つまるところ「俺はこのチームで全国優勝を目指すぜ!」「へっ、おもしれーじゃねぇか」のノリなのですが、そこで「マーベラスが面白がるポイント」と「凱のヒーローとしての羽化」が一点に集約されているのが実に美しい飛翔であり、マーベラスの言葉を否定した凱がマーベラスの発想を超えてみせる事でマーベラス(達)にとっての価値が生まれる、のもしっかりとした説得力を持ち得ました。
マーベラスは凱にセルラーを返却し、6人並んでゴーカイチェンジ。
「ゴーカイレッド!」
「ゴーカイブルー!」
「ゴーカイイエロー!」
「ゴーカイグリーン!」
「ゴーカイピンク!」
「ゴーーーカイシルバー!」
「海賊戦隊!」
「「「「「「ゴーカイジャー!!」」」」」」
そこから当然の主題歌バトルに突入し、新参のシルバーがそれぞれ、既存メンバーの戦いに参加して(援護したり邪魔になったり)二人で同じフレームに収まるのを5人分行うのが、粋な演出。
「やるな!」
「ありがとうございます!」
実際、えらく強いのですが、やはり転生チートなのか(笑)
まあ、追加戦士仕様なのでセルラーもレンジャーキーも高性能、と思っておけば良いのでしょうが……みこ様が若い頃のノリで、敗北すると東京が地上から消え去るレベルの大爆発を起こしたり、「今度目が醒めたら、もう痛みは感じない」副作用を仕掛けていないか、ちょっとだけ心配になります。ときめくぜ。
「皆さん、ここはシンケンジャーで行きましょう!」
「おまえのは?」
「あるでしょ。顔に漢字が書いてあるやつ!」
「これだな。ほらよ」
から一人ずつ《シーンケンジャー》していくのは、クライマックスにしても妙に回りくどい演出だな、と思っていたら……
《オーーレンジャー!》
でシルバーがキングレンジャーに変身、は大笑い。
改めて光の寿司屋キーを渡されて6人並んだ海賊シンケンジャーは、シンケン6連斬りでスゴーミン部隊を成敗する新たな力を見せ、やたら格好いいフィニッシュポーズを取る青、サンマに興味津々の緑。
「おもしれぇな。おまえなかなかいいぞ」
「じゃ、お祝いという事で。大サービス」
追加戦士キーを使ったゴーカイジャーはオール銀色にゴーカイチェンジし、レッドは普段レッドなのでゴーカイチェンジの違和感は基本的に無いのですが、今回のボウケンシルバーは、リーダ感皆無(笑)
剣キャラのゴセイナイトを青に譲るとしても、その中なら、せめてメガシルバー(黄)でも良かったような……(中心に立たせるには90年代は古い、という判断だったのかもですが)。……後は、ボウケンシルバーにスカートを着せにくかったのか。
銀色大進撃は一斉射撃でスカラベ隊長を追い詰め、ゴーカイシルバーが凄い銀色の銃弾でフィニッシュ。スカラベ隊長とスゴーミン軍団が巨大化し、いよいよ、銀は託された“大いなる力”を発動する――!
「時を超えていでよ、タイムレンジャーの、“大いなる力”!」
ファイヤーキーをセルラーにセットして番号を打ち込むと、なんか未来から豪獣ドリルが送り込まれ、どうなってるんだ未来(笑)
続けてジュウレンジャーの“大いなる力”で豪獣レックスに変形し、物凄い勢いで振り回されるドリル尻尾が大迫力。そして口から放たれるレーザーもとい放射能火炎。
「やっぱり恐竜はいつの時代でも強いなぁ」
最後はアバレンジャーの“大いなる力”により、豪獣神へと変形し、右手にドリル、左手に恐竜ヘッドが唸る、人型巨大ロボが誕生。
「うわー、燃えるぅ! 驚異の三段変形!」
……君たち、さっきからちょっと、感想がメタだぞ。
「ときめくーーーぜ!」
豪獣神は右のドリルと左の顎で、捉えたスゴーミンを振り回して爆殺し、みこ様すっかり、ドリル愛好家みたいな扱い。
ドリルが割れて中から槍が顔を出すトライデントモードと、展開して回転するシールドモードのギミックが格好良く、最後は、三つのキーを同時にセットして放つときめきトライアングルドリルが炸裂し、スカラベ隊長、大爆死。
三つの“大いなる力”を兼ね備えた凄いドリルのロボットが、ギンギンでド派手なデビュー戦を飾るのであった。
……なお、キラーオーの外見をすっかり忘れて画像を確認するも特にドリルがついておらず首をひねっていたのですが、考えてみるとアバレンオーの方でしょうか。
こうして伊狩鎧は見習いとして海賊に迎えられ、それぞれに改めて挨拶。「ドンさん」が爆誕して、つづく。
既存メンバーに対して不協和音パターン……どころか、ゴーカイジャーと過去《スーパー戦隊》の間の距離を強引に接着しようとする事により世界観を破壊しかねないレベルの恐ろしい追加戦士でしたが、さくっと前後編で仲間入り。
鬱陶しいけど好戦的ではなく、基本的に三下属性なので新入りとしてはチームに馴染みやすいタイプではあり、引っ張って変にこじれるよりも、スッキリと前後編でまとめてくれたのは好印象(今作の場合、やる事が多い、という事情はあったでしょうが)。ヒーロー宣言も納得いく形で収まり、今後お互いがどんな化学反応をしていくのか、楽しみです。
次回――「僕のジェラシーが、その男を倒せと言っている」。そして……何、あれ。