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ティラミス・コンニャク・アイム・ド・ファミーユ

海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第13話

◆第13話「道を教えて」◆ (監督:坂本太郎 脚本:香村純子)

 ――誰も知らない 場所へ行くなら キミの後ろに 道が生まれる

 戦隊・メタルヒーロー不思議コメディ仮面ライダー……と数々の東映ヒーロー作品でメガホンを取ってきたベテラン坂本太郎監督が、戦隊シリーズには『轟轟戦隊ボウケンジャー』以来となる参戦。
 いつかそんな日が来て混乱する事になるのでは、と前々から思ってはいたのですが、坂本太郎監督と坂本浩一監督が同じ作品に参加するのは、これまで見てきた作品では、多分初。
 そしてこの参戦が、続く第14話への気付いてみればあからさまな伏線だったとは、この時はまだ知るよしもないのでした……。
 冒頭、筋トレに励むジョーや、宝石コレクションを整理するルカなど海賊達の日常が描かれ、凄く強いぞうに切られた傷もすっかり回復したマベは重役出勤。船内に姿の見えないアイムは、一人ぶらぶらと地球の下町を散歩中、道を尋ねてきた男に親切に案内を買って出たところ、誘拐を目的とした男に銃を突きつけられ……勿論、さっくりと制圧していた。
 恐らく、男に命じられるまま倉庫に連れて行かれている間に、重量感や握った手の動きから拳銃が偽物だと判断しており、くぐってきた修羅場の数が違いました。ついでに多分、バックに組織が存在していた場合、根絶やしにする気であったと思われます。
 アイムが海賊の一味と知った誘拐犯は土下座して服従を宣言し、ゴーカイジャーは地球の一般市民に「巷で噂の宇宙海賊」と認識されている事が判明。脱サラして店を始めるも開業資金を借りた相手が悪徳業者で、借金に追い詰められた末に切羽詰まって犯行に及んだという男の事情を聞いたアイムは、おもむろにガレオンへと電話。
 「あ、ハカセさん。わたくし今、誘拐犯さんと一緒なのですが……」
 「誘拐犯?」
 「お金が必要だとおっしゃっているので、日本円で……3億円ほどご用意いただけますか?」
 「おぉい?!」
 さらっと桁を変えたアイムに誘拐犯が驚愕の声をあげ、制圧→肩入れまでは予想された流れながら、アイムの金銭感覚が事態のギアを厄介な方向に一つ引き上げ、ここが掴みで大変面白かったです(笑)
 「なにやってんのあんた?」
 「お金はわたくしが都合します。もう大丈夫ですよ」
 「いや、全然大丈夫じゃないよ! 今のまるで脅迫電話じゃないか」
 横から電話を切った誘拐犯は、自分がしようとしていた事を棚に上げて逆ギレ(笑)
 「脅迫だなんて、そんなつもりは」
 「しかも、何……3億円?! 俺の借金、3000万だよ?」
 「沢山ある方が、助かるかと思いまして」
 序盤からスポット回はあったものの、今回初の単独メインでゲストキャラと絡む事になったアイムはあくまで親切を主張し、台詞もさる事ながら、間合いの取り方や表情の出し方で、ふんわりと優しげながらどこか大きくズレている事が上手く表現されて面白いやり取りに。
 1クールを経てスタッフ・キャストがそれぞれのキャラクターを掴んできているのに加え、一つの山場を乗り越えた後の非レジェンド回という事で良い意味で空気の軽さもあったのか、誘拐に血相を変えるガレオン組などアイムに限らずキャストが全体的に伸び伸びと演じて見え、初参戦の坂本太郎監督もその魅力と表情を活き活きと引き出してくれました。
 ルカとハカセは慌てふためき、そこに訂正の電話をかける誘拐犯だが……船長は、マジギレしていた。
 「俺たちの仲間をさらうとは、いい度胸してんな。そこで待ってろ。動くなよ」
 ドスを利かせたマベの表情ばかりでなく、電話の向こうでそれを聞く誘拐犯の、これ詰んだ……という絶望のリアクションでマベの激怒ぶりを示す演出が秀逸で、事情の如何を問わず卑劣な犯罪者であった誘拐犯に、ここで可哀想な面白さが生じるのがポイント。
 「……もう終わりだ」
 「大丈夫ですよ。マーベラスさんがいらしたら、わたしくしがきちんと説明しますから」
 にこやかに請け合うアイムだが、地球に落下した猛毒性の鉱石を探索中の行動隊長がそこに現れ、大きく口を開けたチョウチンアンコウの中に人型の怪人が収まっているようなデザインなのですが、お陰で、上半身裸に見えてちょっと落ち着きません(笑)
 アンコウ隊長は誘拐犯に対して鉱石の引き渡しを要求し、身に覚えのない誘拐犯の手を引いてアイムが逃げる際、速攻で照明潰すのが大変場慣れしています。
 一拍遅れて、銃を乱射するマベを先頭に宇宙海賊たちが倉庫に突入し、一行は、アンコウの攻撃をかわした際に床に落ちたアイムの首飾りを発見。
 「アイムを誘拐したのって……」 
 「「ザンギャック」」
 マベと声を合わせる事により、感情をあまりオープンにしないジョーも十分に怒っている事が示され、ドタバタ喜劇のセオリー通りの勘違いが発生するが、腕に覚えのあるアイムもザンギャックになら誘拐されてしまうかも、と海賊達に納得が生じる(そして思い込みが加速する)のも手抜かりの無い作り。
 アンコウ隊長に追われるアイムはゴーカイチェンジし、モモレンジャー爆弾で目をくらまし、ゴセイピンクとなって誘拐犯と共に飛行して逃走。誘拐犯が500円玉だと思って道で拾った薄いメダルのようなものこそが、ある種の電気刺激を与える事で猛毒を発生させる極めて危険な宇宙鉱石だと判明する。
 「借金はなくならない……誘拐は失敗……海賊に狙われた挙げ句に、ザンギャックにまで襲われて、なんでこんな運が悪いんだよぉ。ホント最悪だ……」
 「……いいえ……あなたは幸運です」
 後ろ向きな嘆きと共に座り込む誘拐犯だが、アイムはそんな男に微笑みかけ、鉱石を受け取る。
 「あなたが、この鉱石を拾った事で、この星の、あなたや、大勢の人々の命を救えるのですから。王女でありながら、何も出来ず、星を失い、たった一人で逃げなければならなかった……そんな人もいますから」
 シンケン編のジョーに続き、アイムの経験した大きな喪失にスポットが当たり、誘拐犯の「個人単位」の嘆きとアイムの「統治者単位」の視点の間には大きなズレがあるのですが、それが、かえって男のやさぐれた心に光を灯すのは、上手く接続されました。
 なにしろ、巷で噂の宇宙海賊認定の地球を救った男になったわけで、たとえ個人の問題は何も解決していなくても、とびっきりの幸運で地球を救ったと言われたならば、それに見合うだけの格好を付けなくてはいけないのが、34のスーパー戦隊が守ってきたこの星の原理なのでありましょう。
 「でも、生きていれば新しい道を切り拓く事はできます。だからあなたは幸運です」
 男を励ますアイムだが、鉱石の探知装置によりアンコウ隊長率いる部隊に再びの襲撃を受け、アイムがゴーミンを蹴散らす背後で、拾った棍棒でゴーミンを殴りつける事により、誘拐犯に再び立ち上がる意志が宿り始めているのを行動で示しているのが、地味にポイント。
 アイムの危機にマベらが間に合って生身の立ち回りを挟み、関節技に走るハカセ。すっかりザンギャックによる誘拐事件だと誤解しているマーベラス達は溢れる殺意を剥き出しにし、もうそういう事にしてしまおう、と冤罪をスルーしたアイムはゴーカイチェンジ。
 「派手に、参りましょう!」
 姫は、口封じをご所望です。
 (そうか……これが王女だったあの子が、新たに切り拓いた道なんだ)
 誘拐犯はゴーカイピンクの戦いに見惚れ、意外や高い攻撃力を持っていた行動隊長を相手に、ゴーカイジャーギンガマンにゴーカイチェンジ。前々回、凄く強いぞうの引き立て役にした事もあってかギンガマンが活躍し、「炎のたてがみ」以外のアース攻撃は、映像上は初披露でしょうか?(新設定?) アースでたっぷりあぶったアンコウ隊長を、連続ギンガの舞で銀河炸裂し、ゴーカイブラストでフィニッシュ。
 「ざまぁみなさい」
 (……ごめんなさい)
 冤罪被害者のアンコウ隊長は、デカゴーカイオーによる取り調べからシンケンゴーカイオーの処刑執行でデリートされ、問題の毒性鉱石は、塩水で分解されて無害になる、とハカセが一発解決。…………あれ、ハカセが、機械の操作以外で知識を役に立てたの……初?
 かくして全ての犯罪はアンコウ隊長と共に地球の海に葬り去られ、謝罪する誘拐犯に対し、何もなかったとして事を収めるアイム。
 「……俺、もう一度なんとか踏ん張ってみるよ。あんたみたいに」
 「……もし、どうしようもなくなったら、わたくしに声をかけてください。 ヤミ金ぐらい秒で潰せますから まだしばらくは、地球に居ますから」
 「……ありがとう。……俺の幸運は……あんたと会えた事だ!」
 誘拐犯の問題が万事解決する奇跡は起こらないが、しかし男は確実に前を向いて歩き出し、現実問題としては厳しいけれど、しかしそこには寓意としてのヒーローが常に寄り添っている(だから負けない)。そして、一方的に与え救う側なのではなく、地球の民草と触れ合う事により、かつて失ったものの一部を僅かなりとも取り戻したアイムもまた、かすかにではあるが救われている、のが気持ちのいい着地点。
 最終的にゲスト(及びそれに関わったメインキャラ)の「前向きな変化」が描かれる・ゲストキャラには(できればポジティブな)視聴者が近付く為のフックをつける・話の流れでそれぞれのキャラクターの魅力を引き出す・エピソード内部の因果と心情に相応の決着が付けられる、と要点を押さえた上で、過剰な救済をもたらさない・アイムの天然ほだしで全てを解決しない、とはまりそうな落とし穴も鮮やかに回避し、香村さんの技巧の高さがよく出たエピソード。
 「……なあ、あれはいったい誰だったんだ?」
 「……ちょっと道を教えて差し上げたんです」
 誘拐犯の虚言がサブタイトルを経て真実へと変わり、それはきっと「王女」としてのアイムがなすべきでなせなかった事である、と綺麗に繋がって、つづく。
 シンケン編で志葉薫との絡みはこれといってなかったアイムですが、姫編から姫編というエピソード順になった事で「王女」としてのアイム像がより引き立てられたのは、偶然か必然か良い流れになりました。また、誘拐騒動で浮き足立つマベ達のこれまでにない表情を引き出しつつ、アイムはアイムでしっかり戦っているので、ただ守られる側の存在になってはいない、のも目配りが非常に良かったです。
 一山越えて箸休めぐらいの気分で見たら思わぬ秀逸なエピソードでしたが、次回――えーと……これは……もしかして、“大いなる力”詐欺?