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キミだけの道は無限大

海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第7話

◆第7話「ニキニキ! 拳法修行」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)

 ――「……どこでもいいんだ。グイグイ進めば、それが俺の道になるから」

 『炎神戦隊ゴーオンジャー』で戦隊脚本デビュー(荒川稔久と連名)し、『天装戦隊ゴセイジャー』epic30「ロマンティック・エリ」(監督:中澤祥次郎)で『ゴセイジャー』屈指の名作回を繰り出し、この後『動物戦隊ジュウオウジャー』『怪盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』でメインライターを務める香村純子がサブライター一番手として参戦。
 「虎の子を訪ねろ」という鳥占いに従って街へ繰り出した海賊たちは、相変わらず地球人とは少し感覚のズレているところを見せ、くどくならない範囲でスムーズに持ち込みやすいコミカル要素が用意されているのも、今作の設計の上手いところ。
 動物園の虎、虎の着ぐるみ、虎柄のスカーフ……外れくじの末に「とらねこ」に目を付けたゴーカイジャーだが、肝心の猫が高層ビルの崩壊する音に驚いて姿を隠してしまう。
 「次は指一本であのビルを壊してやろう」
 それは、両肩の巨大な手の意匠が印象的なザンギャックの行動隊長・宇宙拳法家の仕業であり、虎の子探しを邪魔され、ほぼほぼ逆恨みで怪人に襲いかかる海賊戦隊(笑)
 雑兵を蹴散らすゴーカイジャーだが、宇宙忍法……じゃなかった、宇宙拳法・磁石拳によって剣と銃を奪われてしまった上に、両肩から伸びた手によるパンチ攻撃により緑と桃はダウン。赤青黄がガオレンジャーになると接近戦の猛攻で撤退に追い込むが、ハカセとアイムはマーベラスらとの実力の違いを改めて突きつけられる事に。
 「わたくし達、まだまだですね」
 「今回は、相手が悪かったんだよ。僕たちだって、普段は、戦えてるじゃん」
 物語の開幕当初から、見るからに荒くれ者の3人と、修羅場がいまいいちそぐわない2人、の年季と距離感の違いは丹念に織り込まれていますが、万事に及び腰のハカセと、意外と前のめりなアイムの 殺意の差もしっかり感じ取れます(笑)
 「ジョーさんのように、たくさん修行をすれば……もっと強くなれると思うんです」
 第4話の内容とも繋げ、力不足を感じたアイムが、子供達に拳法を教える赤い道着の男を目にして弟子入りを志願する、のはスムーズな流れ。だがハカセは「やるだけ無駄」と逃げ腰になると、夕飯を理由に修行に背を向け……その夜、「とらのこ」ではなく「とらねこ」を連れて帰ってきたマーベラスに「ばっかじゃないの」を発動した鳥、猫責めを受ける事に。
 アイムがテーブルの前で船を漕いだ末に頭をぶつける姿で慣れない修行の疲労を描き、ルカが部屋に連れて行くのを見送るジョーとハカセ
 「珍しいな。いつも自分を律しているアイムが」
 「やっぱり……向いてないんだ。アイムが拳法の修行なんかしたって、ジョーみたいにはなれない。素質が違うんだよ。マーベラスやルカなんて、なんにもしてなくてもあんなに強いわけだし」
 「何もしてない……か」
 博士のぼやきにジョーは多くを語らず去って行き、見張り台で黄昏れていたハカセはふとしたきっかけで、ルカが子供の頃からの日常的習慣で動体視力を鍛えていた事(ルカにしては丁寧に説明してくれるので、アイムやハカセの様子から色々と察して遠回しにアドバイスしてくれている節もあり)、そしてマベが、いっけん遊んでいるようで実は鍛錬を続けていた事を知る。
 「マーベラス……船に居る時はこんなの付けてたんだ。僕が知らなかっただけで」
 キャプテン養成リストバンド(大変重い)、というのが凄くマベらしいですね……!(笑)
 そして翌日――アイムは青空拳法教室で型の修行に打ち込み、そこに気合いを入れ直したハカセがやってくる。
 「僕にも、拳法を教えて下さい」
 「無駄なんじゃないのか?」
 「何もしなかったら、僕は置いていかれるだけだ。でも、今からでも始めたなら、僕も、変われるかもしれない!」
 『マジレン』回で「内に秘めたここ一番の勇気」を見せたハカセが、今回は「自分を諦めずに変わりたい意志」を見せ、通例だと年下ポジションが担う事の多い「成長株ポジション」を臆病な性格から担当する事になる、ちょっと変則的な配置。
 真剣な表情でじっとハカセを見つめていた拳法家は、ニカッと破顔し、『ゲキレン』本編のメイン監督であった中澤監督という事もあってか、ここで一番いい表情を持ってくるのが、スイッチの切り替えとして鮮やか。
 「よーし、みんなで一緒に、修行するぞー! 俺も、ニキニキの、ワキワキだー!」
 「ニキニキ?」「ワキワキ?」
 お母さん、もとい、通訳、居なかった。
 一方、引き続き虎の子を探すマベ達は、インサーンの改造手術を受けて雪辱に燃える宇宙拳法家と遭遇して戦闘になり、丁度良いので太陽戦隊サンバルカン
 修行中のハカセとアイムも鳥から連絡を受け、仲間の元へと向かう事に。
 「このままで居るのは嫌なんです」
 「まだ修行を始めたばっかりだけど、僕はあいつと戦わなきゃいけないんだ。僕が、変わる為に」
 「そっか」
 「すみません。戻ってきたら、修行のつづきを」
 「んにゃ。俺の教える事なんてもうねぇよ」
 「「え?」」
 「修行なんて本当はどこでも出来るんだ。高みを目指し、学び、変わろうとする気持ち。……それさえあればな」
 本編では度々インスタント修行が作劇のネックになってしまった『ゲキレン』ですが、一番重要なのは「気持ち」とした上で、それは「気持ちがあれば何でもできる」といった気合い思想ではなく、「変わろうとする気持ちがあればなんだって修行になる」と再構築し、マーベラス達の行動でその説得力を引き上げているのが、実に鮮やかな構成。
 だからこそ、アイムに「このままで居るのは嫌」という気持ちがあり、ハカセが「何もしなかったら、僕は置いていかれるだけだ」とやってきた時に、既に師匠の仕事の大半は終わっており、導く者がなすべきは“キミだけの道”に進むきっかけを作る事なのだと、その後の『ゲキレンジャー』としても美しく着地。
 勿論、『ゲキレン』本編では物語のギミックとして「気持ち」で終わらせるわけにはいかなかったのですが、「修行」とはなにか? の本質を抽出して1エピソードの中で海賊達の物語と接続した上で、更に「変わる」事を重要なキーワードにして今作と『ゲキレン』の双方のテーゼを補強する、という非常に幸運な化学反応となりました。
 キャラとキャラの化学反応は戦隊シリーズの醍醐味の一つですが、それを、シリーズの構造上、“終わった作品”にまで適用して「作品と作品の化学反応」を起こしてみせたのは、お見事。
 また、「向かい合い」「気付き」「自分を諦めない」事の重視は、後の宇都宮P×香村純子作品にも見えるテーゼといえ、興味深いところです。
 「マスター、最後に一つだけ。よろしければ、お名前を教えていただけませんか」
 「俺、ジャン。漢堂ジャン。――虎の子だ」
 通りすがりの人が実は……という、レジェンドとしては、完璧な名乗り方(笑)
 「あのお兄ちゃん達、大丈夫かな?」
 「大丈夫さ。あいつらもスーパー戦隊なんだから」
 一方、バルシャークのクロー殺法、バルパンサーの今回も凄い連続バック転、そしてバルイーグル影の舞で拳法怪人を圧倒する赤青黄だが、突然まさかの、宇宙科学拳法・電磁砲が炸裂(笑)
 つまり、


 「世界征服の為、ヤンは科学力を結集して、究極の拳法を作り上げた。それがメカンフー」
(『電影版 獣拳戦隊ゲキレンジャー ネイネイ!ホウホウ!香港大決戦』(監督:中澤祥次郎 脚本:荒川稔久))
 という事ですね!
 度々書いてますが、『ゲキレン』夏の劇場版は本当にお薦めの怪作なので、騙されたと思って騙されていただきたい一本です。
 そこに緑桃が合流すると覚えたての拳法で挑むが、勿論、付け焼き刃。逆に宇宙科学拳法の連打を浴びてしまうが……
 「勝ちます! 勝ってみせます!」
 「おまえを倒す事が、僕にとって最初の修行だ!
 高みを目指し、学び、変わろうとする気持ちを胸に宿した二人は屈せず立ち上がり、緑の音頭で五人揃ってビースト・オン。ビーストアーツ根性スクラムで怪人の両肩を破壊すると元に戻ってゴーカイブラストでフィニッシュし、『ゲキレン』主題歌インストは無し。
 巨大戦ではいきなり大砲打ち込むも弾き返されるが、ゴーカイオーでの格闘戦を行うと、覚醒したゲキレンジャーの“大いなる力”によって飛び出したゲキビーストが蹂躙して瞬殺し……これまでのザンギャック行動隊長では最弱だったような(笑)
 「良いのかジャン? まだ、お主に出来る事があるのではないか?」
 「……かもしんない。でも……あいつらは自分で変われるよ。俺達の魂は、ちゃーんと受け継がれてる。ズンズンだ」
 「うむ」
 戦いの結末を見届け、最後においしい所だけ持っていって師匠顔しようとした猫ぉぉぉからお約束のトライアングルを奪ったジャンが一本取って、猫の出番が少なくて本当に良かったです(笑)
 ……いや、猫に対して悪意があるわけではないのですが、不信感が山ほどあって。
 最後は、ルカやマーベラスに一方的に流されずに軽くやり返してみせ、少しずつでも変わっていくハカセの姿が描かれて、つづく。
 『マジ』『デカ』に続く3回目のレジェンド登場回にして、これまでで最も原典のテーゼと深く接続。先にハカセは今作における、ちょっと変則の成長株ポジションと書きましたが、そのハカセと『ゲキレンジャー』原典においては成長株ポジションであったジャン(こちらも作品コンセプト上、やや特殊な配置でしたが)を絡める事により、マスターとなったジャンの姿がより鮮明に浮かび上がり、『ゲキレン』劇終後の漢堂ジャンを描くエクストラストーリーとしても成立する造りに。
 スタートから二ヶ月、レジェンド回における原典を知らなくても楽しめるかどうかのバランスは色々と調整中かと思われるのですが、そういう観点ではかなり踏み込んだ一本であり、完結から約3年、という期間は役者さんの加齢を含め、丁度良い距離感、ではあったのかもしれません。
 改めて、「修行」というギミックの難しさも感じる事になりましたが、そもそも「修行」とは何かといえば、それは「変化をともなう前進の過程(の象徴)」であると置き、その気持ちに従い歩み出していけば、キミの後ろに道が生まれる――というのは戦隊らしさも含めて綺麗にまとまって秀逸回でした。