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流れよ我が涙、と狼は言った

仮面ライダーゼロワン』感想・第33-34話

◆第33話「夢がソンナに大事なのか?」◆ (監督:田崎竜太 脚本:筧昌也


 「おい知ってるか? 夢を持つとな、時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなる。……らしいぜ。俺には夢がない。でもな、夢を守る事はできる」
(『仮面ライダーファイズ』第8話 (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹))
 不法投棄されていたテニスコーチギアを拾ったアルトと不破。再起動して持ち主が判明し、コーチギアの「目指せグランドスラム!」の夢を確認すると納得しているのですが……いやそれ単に、そういうプログラムの設定なのでは……? 案の定ですが、アルトが「何を持ってヒューマギア自身の意思としての夢」と認定しているのか、早くもさっぱりわからない事に。
 ……まあ、これまでの経験則から「こいつはシンギュラリティに達している」とか判断できているのでしょうが(イズも居ますし)、結果としてはその熱血すぎる指導が持ち主の少年との間に亀裂を生んでおり(しかもその亀裂を明言された後でもコーチギアは全く理解できない)、瞬きする間にヒューマギアの幸せが人間の不幸を生んでいるのですが、「人間と一緒に笑い合えるように、俺がヒューマギアを、導いていく」とは一体なんなのか……?
 少年が本心を隠している事になんとなく気付いている節は見せて、アルトもそこまで阿呆の子ではない、みたいなフォローは入れているのですが、だからといって間に立って何かするわけでもないので、飛電製作所の前途は極めて多難。
 「もう一度、ラブチャンとはうまくやってみます」
 「うん、それは良かった」
 ひとまずコーチギアを家に連れて帰る事になる少年ですが、それ、家に置いておくと、アサルトライフル持った連中にいきなり襲撃されるのでは……正直前回、バトルシーンの都合で、A.I.M.S.のヒューマギア処理実行部隊を飛電製作所に乗り込ませたのは大失敗だったと思っているのですが、石墨先生が血まみれの蜂の巣になって邸宅の床に転がっていないか安否が気遣われます(まあ、石墨先生は金もコネもあるので、なんとかしているかもですが)。
 ……とか思っていたらA.I.M.S.ご到着で、アルトと不破は変身。
 「不破! おまえは仮面ライダーになんか、なるべきじゃなかった! 私のせいだ……私のせいだ!」
 天津から不破の過去を聞かされた唯阿は激しく動揺しており、何故かA.I.M.S.の部隊に襲われたところを不破に助けられ、撤収。唯阿にヒューマギアの処理を厳命した天津は、「不破諌を消す」為に自ら飛電製作所を訪れると、必死に止めようとする唯阿の前で、不破諌の真実を告げる――。
 「君の12年前の記憶……あれは全て、嘘の記憶だ」
 「…………嘘の記憶?」
 「暴走したヒューマギアが中学校を襲ったという事実は――どこにも存在しない」
 最近すっかりやられ役の小者が板についてきた天津社長ですが、連敗街道を全く感じさせない愉悦の表情は素晴らしかったです(笑)
 運命の大きな転機となった事件そのものが存在せず、憎悪を煽り道具として使う為に植え付けられた偽物の記憶だと告げられた不破はがっくりと膝を付き、今作というか不破さんのキャラ造形が映画『ブレードランナー』(原作小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)を意識しているのはほぼ確実だと思うのですが、記憶そのものが加工されていた事も判明して、すっかり一人P・K・ディック(米SF小説家。前掲小説の作者)みたいな事に。
 あと5話ぐらい後には、「不破諌……君が居るのは、地球ではない。――火星のコロニーだ!」みたいな事になるのでは。
 「私に夢は無い……。でも信念がある。……技術者としての信念が」
 「なんだと?」
 「テクノロジーは、人に寄り添ってこそ意味がある」
 「私に言っているのか!」
 「あんたは! テクノロジーで人の夢を弄んだ! 私は……私は絶対にあんたを許さない!」
 不破に対する徹底的な人間性の蹂躙に怒りの炎を燃やした唯阿が、遂に天津による隷属の鎖を断ち切るのですが、もう長いこと唯阿さんのパーソナルな部分は切り捨てられていたので、「技術者としての信念」を持ち出されても、ピンと来ないのが正直なところ。
 またここで、唯阿が再起するという話の都合により、“先に怒れない”アルトはビックリした顔で固まっているしかないのが、どうにも絵作りというか構成というかが上手く噛み合っておりません。戦闘の都合で量産型部下を連れ歩く天津も、前半と後半に量産型2体ずつ倒すだけのワークゼロワンの扱いも、手持ちのピースが綺麗な絵になっていない印象。
 今回に関しては、唯阿×不破回とはいえるのですが、根本的なところで、不破さんに主人公的な設定を与えすぎで、もう少し全体的に整理できなかったものだろうか、とは。
 唯阿は久々にバルキリーに変身し(なお、前に変身した時はペンギンレイダーに大苦戦しました)サウザーと戦うが、洗脳チップの効果もあって苦戦を強いられ、それを目にして、立ち上がる不破。
 「ZAIAを……ぶっ潰す!」
 ここで殴られてよろめいたバルキリーと体を入れ替えての反撃から、二人一斉の回転ダッシュ射撃攻撃は、痺れる格好良さ。
 「よく聞け、ZAIA! 俺は変わった! あの記憶は、もうどうでもいい! 俺にはな……憎しみなんて……もういらない! 今の俺には、夢があるからな。おまえが作った――仮面ライダーという夢が」
 過去を軸としたアイデンティティの喪失を、未来への視線で乗り越えようとするバルカンですが、振り切るように叫びながらも体が小刻みに震えている、のはとても良い芝居でした。
 「おまえらは道具だ……道具に夢などいらない」
 サウザーとジュウオウバルカンの必殺攻撃の打ち合いにホーネットが参戦し、蜂の子ミサイルでサウザーを地面に転がすと、追撃のスティンガーキック!
 「知らないのか? 想いはテクノロジーを越える……らしいぞ。ZAIAをぶっ潰す!」
 遂に唯阿さんのターンかと思ったらやっぱり不破さんのターンになってしまうのかと思ったら最後に唯阿さんが取り返したのは嬉しかったところで、衝撃波を打ち砕かれたサウザーは至近距離から弾丸をぶちこまれ、とうとう、バルキリー相手にも大爆発。
 ここまでの蓄積から成り行きに物足りなさもありますが、仲間の助けを借りて格上の強敵を打ち倒す(そしてそれが、支配からの脱却の意味を持つ)のは、基本的なフィクションの快感原理に則っており、久々に気持ちのいいバトルでした。
 今回も盛大にボロボロになった天津は、這いつくばって逃げようとするも唯阿に追われて慌てて洗脳チップを起動するが、それに耐え抜いた唯阿は「これがわたしの辞表だ」パンチを叩き込み、変なBGM・大げさすぎる夕陽のエフェクト・ギャグ顔になる天津、の全て悪ノリ感あって、どうして急にそんなトーンになったのか、激しく困惑。
 唯阿の放り投げた銃をキャッチし、行動を見守って背後で微笑む不破さんは格好良かっただけに、天津が唐突に、賞味期限切れのコンビニ弁当みたいな扱いになったのがさっぱりわからないのですが、今回の件で再起不能になって次回は車椅子で精神病院に運ばれてしまうのでしょうか。
 「僕たちは亡を解放したい。……君の腕を貸してくれないか」
 晴れて無職になった唯阿には滅と迅が近付き、不破の為には利害の一致と考えてか、唯阿さんテロリストに転職? で、つづく。
 冒頭に引用しましたが、田崎監督を迎えた上での「私に夢は無い……。でも信念がある」や「知らないのか? 想いはテクノロジーを越える……らしいぞ」は、『仮面ライダー555』第8話を思い出すところ。勘ぐりすぎかもしれませんが、特に後者の「……らしいぞ」の言い回しは、偶然としては出来すぎに思え、「夢」というキーワードに引っかけたのかなと。
 今作の重要なキーワードである「夢」を、過去作オマージュに繋げる“お遊び”をしていたとしたら、正直ちょっと好みではないですが。

◆第34話「コレが滅の生きる道」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:筧昌也
 「お二人の笑顔を検出しました」
 「……うん。人間とヒューマギアが一緒になって野菜を作る。この工場は、人間の知恵と工夫で出来た、テクノロジーの結晶なんだな」
 前々回のモデルギアといい今回の農場といい本来ならもっと前に見せておいてほしい光景で、出来れば2クールぐらい掛けて作品世界の基盤としてじっくり描いておきたい要素であったと思うのですが、劇中の空気も物語の現在地点からは不自然なほど穏やかに描かれていて、前半に取りこぼした要素を今更ながら抑えに行っている気配。
 とにかく今作の難点は、“物語世界の現在地点”がわからない内に“新しい状況”がやってきて、“それまではこうだった事にされてしまう”ので、主人公(達)の目指す“目標地点までの距離感が不明&気がつくと転移している”事なのですが、諸事情あるだろうにしても、シリーズ構成の難を感じずにはいられません。
 「我らヒューマギアは、愚かな人間どもに鉄槌をくださなければならない」
 高度な人工知能で管理された農場を「人類のエゴ」と断ずる滅が絶滅ギアを引き連れて姿を見せ、もともと古典的な“人類に悪意を抱いた巨大コンピューター”の支配下にあるので、非常に正攻法の環境テロリストめいて参りました。
 「この世界の害虫は、おまえらだ」
 農場を破壊する絶滅ギアに怒りのアルトは変身し、強敵とわかっているポイズン相手に二世代前のシャイニングを繰り出すというのが、たまに出さないといけない都合が丸出し過ぎて辛い(デザイン的には好きなんですが)。
 案の定、ポイズンに後れを取ったシャイニングは農業ギア・ミドリを人質に取られてしまい、遅刻してきた用心棒はイズに厭味を言われる事に。
 「本当の過去が気になるか」
 さすがの不破さんも己の真実について引きずっている、と前回でさっくり解決にしなかったのは良かったところで、迅と手を結んだ唯阿は不破に接触し、今回の見所は、首筋にチョップ一発で不破を気絶させる唯阿に目を丸くする迅。
 あと、ZAIAと訣別した唯阿さん、わかりやすく髪型と服装がモデルチェンジしたのは、良い感じ。
 「私は野菜を育て、人の役に立つ為に生まれた。……あなたは、何の為に生まれたのですか?」
 囚われのミドリは、迅に対してヒューマギアとしての本分を問い…………ええと、あれ、3話ほど前には、「どう生まれたかが問題ではない。どう生きていくかが重要なんだ」という話をしていた気がするのですが……???
 「あなたが生まれた本当の理由がある筈です。人間と共に生きる理由がある筈なんです」
 冒頭でアルトに“自由意思の元の夢”に太鼓判を押されていたミドリが、1000%ヒューマギアの本分に縛られた問いかけを行い、たった3話で「ヒューマギアの(自由な)夢」の扱いが原子分解を起こしましたが……これ、脚本家間での深刻な解釈違いが発生していませんか。
 更なる問題は、第31話(高橋脚本)におけるフリーハンドな「これから先、どう生きてくかは、あいつら自身が決める事」よりも、ヒューマギアとして「生まれた本当の理由・人間と共に生きる理由」の存在は大前提とした上での“夢”の方がまだ納得しやすい事なのですが、或いは第31話はあまりにもやりすぎたという判断で急遽針路変更する事にでもなったのか……とにかく、第3部のコアになるのかと思われた要素が、既にゾンビのミンチ状態でぐっちゃぐちゃ。
 「黙れ! …………アークの意志。それが俺の全てだ」
 滅はやや感情的に声を荒げてミドリの問いかけを否定し、滅が元々は其雄ギアのデータをベースとした子育てヒューマギアである事を確認したアルトは、雷電ギアのデータを手に取引の場所へと向かう。
 「滅……おまえは自分がなんの為に作られたのか知ってるのか?」
 ?????
 「なんの話だ」
 「おまえは、父親型ヒューマギアだったんだ。人間の子供を育てる為に作られた」
 ミドリの問いかけ時点で疑問符は山ほど浮かびましたが、第31話で「まずはGペンの意志を聞かなきゃ。これからは、ヒューマギアの気持ちを一番に考えよう」と基本プログラムからの自由さえ唱えた(迅の考えに同意した)アルト自身が、「滅の作られた理由」を説得材料に持ち出して、もう、何を言っているのかわかりません。
 「おまえが迅を育てようとしていたのは、おまえが父親になろうとしてたからじゃないのか?!」
 「データを渡せ」
 「思い出してくれよ!」
 勿論、滅の夢があくまで「人類滅亡」だった場合にそれを許容する必要性はないですし(という点でラッパーギアへの対応はホント深い傷に)、滅はアークにハッキングされているのでまずは初期状態に戻そうとしている、という解釈は出来なくもないですが、それをやるのはアルトの発想として噛み合わない上に物語の流れと蓄積が全く活かされないので、滅に生まれた時の役割を思い出させようとする事自体が話のベクトルを後退させる行為となってしまい、右を選べば焼け野原、左を選べば底なし沼。
 説得を諦めたアルトはデータキーを渡すが、滅はミドリを抹殺し、その行為にアルトは怒りに打ち震える。
 「滅……おまえを倒すしかない」
 狙いとしては、滅にさえギリギリまで説得を試みた上でしかしその非道な行為に怒りの変身! と劇的な盛り上がりを作ろうとしたのでしょうが、なにぶんアルト、「俺は……ヒューマギアだろうと人間だろうと、関係なく戦ってきた!」とのたまい、一般人レイダーぼかーん! 天津サウザーぐしゃーん! A.I.M.S.レイダーどかーん! としてきたので、むしろヒューマギア相手の方が戦いを躊躇っているのは大変いびつ。
 まあ、アルトの中ではヒューマギア全体が「被害者」扱いになっている可能性はあり、それはそれでわかるのですが、アルトが本当に信じないといけないのは「ヒューマギアの善性」ではなく「人間の善意」であって、それが出来ない限り、「悪いのは人間の悪意だ!」から脱皮できないアルトは、実は天津と同質である気がしてなりません(と考えると天津というのは位置づけそのものは悪くないキャラなのですが)。
 ポイズンとの激闘の末に至近距離からファイナルストラッシュを直撃させたワークゼロワンは、膝を付いたポイズンが変身解除すると何故か変身を解き、この期に及んで1000%手心を加える暴挙に出るのですが、とにかくここ数話、話の都合による雑な展開が目立ちすぎます。
 それらを雑に見せない為の、細かな目配り、心理描写の積み重ねが、あまりにも希薄。
 雷電キーを取り戻すアルトだったが、街ではZAIAスペックを身につけた人々の様子がおかしくなり、「人類滅亡」を口にしながら暴走を開始。それを行ったのは、唯阿が不破からの吸い出しに成功して甦った亡であり、アルトを強襲したフェニックスが雷電キーを奪い取って、つづく。
 次回――1000%社長風前の灯火となりそうですが、悪の組織の踏み台作劇は1年に1回が限度だと思うので、一ひねり欲しいところであり。