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青のネクサス

ウルトラマンネクサス』感想・第26話

 「――誰ひとり俺の事を知らない場所へ行ってしまえば、俺は、自分の未来を忘れていられる。そう思って、俺はあの日、ダラス・フォートワース空港発、東京行きの飛行機に乗った。ここは、とても居心地がいい。俺は、会う人みんなを好きになる。それでも……俺は時々考える。俺の命は、どこから来たんだろう?」
 明朗だがどこか淋しげなピアノのBGMに乗せ、鬱蒼とした森の中へ伸びる廃線、白い霧に包まれた遊園地、止まったメリーゴーラウンド、水辺、沈む夕陽を背景に動き出すアトラクション、そして――夕焼けの中で石棺と出会う青年、という端々に隠喩を想像させる映像に青年のモノローグが重ねられ、第1話の導入を意識したであろう形で、後半戦がスタート。
 謎と恐怖を適度にブレンドした独白(「俺は、会う人みんなを好きになる」は個人的にちょっと怖い)の力もあって、石棺と向かい合う青年の姿が印象的になっており、またそういう狙いにしても妙に客観的な言い回しで焦点をぼやけさせていた孤門モノローグと比べて、明確に「個人」にカメラが寄っているのが、一つ大きな変化といえます。
 作品としての思惑はともかく、それが面白いのか、という部分において前半戦の問題点の一つだったキャラクターとのカメラの位置関係が修正されてきていて、物語の導線となる謎が主観キャラクターと明確に紐付けられる事により、ぐっと入り込みやすい構造になりました(これが、「第1部があったからこそ」なのか「第1部の反省を踏まえて」なのかは、なんともいいがたいですが)。
 そこに居るのは誰か彼か、そは逢魔ヶ刻に見る夢か――暮れゆく夕陽を浴びながら、青年はじっと石棺と向かい合って自問する。
 「……そして、俺の命は、どこへ行くんだろう? ……俺の命は……どこから来たんだろう。……俺の命は――どこへ行くんだろう」


◆Episode26「憐ザ・サード」◆
(監督:小中和哉 脚本:太田愛 特技監督小中和哉


 タイトルコールまでは同様ながらも、新主題歌に合わせてOP映像もガラリと変わり、まずはビル街をアクロバットに跳ね回るウルトラマンの姿から入るのが、非常に印象的。「白と赤」(アバンタイトル)から「黒」(タイトル)、までは前半戦のイメージを引きずりつつ、「青」い空をバックに軽快なアクションを見せるウルトラマンの姿がまさにイメージ一新で、色の移り変わりがそれをより鮮烈に引き立てました。
 前期OPでは致命的にわかりにくかったNRの誰が誰なのか! も戦隊OP的な見せ方で非常にわかりやすくなり、スタッフの本意ではなかったかもしれませんが、中途半端なリアリティにこだわる前にまずキャラクターを大事にする、という姿勢を新OPで見せてきたのは、とても良かったです(この形式のOPこそベスト、というわけではありませんが、今作の前半戦はあまりにあまりだったので)。
 そして隊長は、空手チョップを卒業(の代わりに物凄い形相に)。
 チェスターも前期より目立ち、イラストレーターも存在感を出し、強い眼差しで正面を見つめる新キャラのアップから、下を向いて体育座りする孤門くんに繋げ、その孤門くんが見上げたそこに太陽の光を背にした青きウルトラマンが……と孤門くんが相変わらず孤門くんなのは心配になりますが、人とウルトラマンの対比と同時に、キャラの対比関係も示されて、ドラマ性を感じる良いカットになりました。
 これも、ドラマ性の明瞭なOP映像こそが良い、というわけではなく(そもそも今作の前期OP映像が嫌いなわけではありません)、そこは作品それぞれなのですが、今作に関しては恐らく放送短縮の影響もあった上で(後期OP制作時点では、放送短縮は決定していなかったとの事)、前半戦で大きな穴となったキャラクターの掘り下げ不足をOPのドラマ性で補う、という方向に思い切って舵を切ったのは、今後に向けて明るい材料に感じます。
 とにかく大幅に見せ方の変わった後期OPですが、新ネクサスの色と合わせて押し出される空のイメージが、前半の暗い印象を一気に払拭にかかってきて、ちょっと怖いぐらい(笑)

今日からは今日からの 明日からは明日からの
新しいストーリー 刻めばいいでしょう

 後半戦に関する好意的なコメントを聞いている事によるバイアスというのは働いていますが……う、うん、そうかもしれない(笑) と思わず頷いてしまいかねない勢い。
 歌詞「今日からは今日からの」ところで、新ネクサスが斜め上を見上げる映像(脚本クレジット部分)が入る、というのは上手いOP演出で、またここが前期OPにおける、姫矢が手元の折りたたみ傘を見つめるシーンと対応している、というのは考えさせられます。
 遊園地でアルバイトする青年・千樹憐を中心にかなり明るい雰囲気で進行し、川原で野宿していたところを拾われ、遊園地に住み込みで働いている前歴不明の憐は、生化学分野に関する豊富な知識を見せると、冗談めかして「俺の親って……DNAだから」と発言。
 「おめぇはさ、なんか将来の夢とかってねぇの?」
 「夢とかそういうの、俺ないんだ」
 「ふーん……そんじゃ、希望とか望みとかは?」
 「俺の望みは、ここに来る子供達や、親やお年寄りや、恋人同士や、みんなに幸せな時間を過ごしてもらう事」
 「へぇ~……そんで、おまえは?」
 「俺は、見てるの。ずっとここに居て、幸せな人間を見ていたい」
 「……なんか、変わった奴だなおめえって」
 「そうかな?」
 「そうだよ」
 バイト仲間とのやりとりは前半と近い緩めのテンポなものの、遊園地で愉快に働き子供にも優しい憐と、ちょっと困った感じもあるがなんだかんだ面倒見の良さそうなバイト仲間、の両者をしっかりと描写して愛嬌と好感度を付けた上で、物語の中心人物とその抱える謎に明確な焦点が合っているので、良くも悪くもオーソドックスな作劇が物凄く入りやすい、という事に。
 勿論、何もかも“オーソドックスな作劇”に寄りかかっていてはいずれ袋小路にぶつかるわけで、そこを突破しようという試み自体は必要な事だと思うのですが、それを試みるなら“オーソドックスな作劇”とは別の面白さを設定しなくてはいけないのにそれを出来ていなかったのが今作の前半戦であって、新しい建物を立てるにしろ、目の前の壁を突き破って別の道を作ろうとするにせよ、基本の足場作りがまず必要、という部分にようやく目が配られた感。
 また、そのオーソドックスさの中にしっかりと堅実な技巧が施されています(これは今作初参戦の太田さんのテイストか)。
 一方、世間では人間を喰う怪物バンニップの存在が都市伝説的に囁かれており、ビースト事件に対する“外”からの視線が改めて挿入され、ティルトにより偽装された落雷事故の現場映像を目にした憐は、そこが夢で石棺と出会ったのと同じ場所だと気付く。
 現場に向かった憐は、自覚的な能力なのかどうかはまだ不明ですが、アスファルトの地面に触れてそこで実際に起こった出来事をリーディングし、ビーストによる工員襲撃、そしてMPの活動を目にする。
 「君は……誰だ?」
 MP後輩の女性キャラ、という新ヒロインになりそうなポジションも印象的に登場し、とにかくヒーロー交代劇に合わせて、徹底して作品の再構築が行われる事に。
 遊園地に戻った憐が、何かの装置を腕に巻き付けて数値を確認する姿から、NRサロンで座り込む孤門のシーンに切り替わり、前回のラストと接続。
 「光が……去ってしまう筈がない」
 そこにエマージェンシーがかかり、ナイトレイダー、スクランブル。そして同時に、“それ”を感じ取った憐は、黄昏の荒野(位相空間?)に転移すると気合いを入れて謎の遺跡へと走って行き、NR出撃シーンと憐の疾走シーンが交互に描かれる一工夫。
 憐は、かつて姫矢が出会ったものと同じとおぼしき青白く明滅する石棺に辿り着き、それに反応するイラストレーター。
 「――誰だ?」
 そして、憐は光と接触する。
 「あんたか、俺のこと呼んだの? 俺のこと全部わかってて呼んだわけね。……上等じゃん」
 光の巨人は無言のまま外部でのNRとサソリビーストの戦いを映し出し、それを見つめる憐。
 「そんじゃあ……行きましょうか!」
 ここまでの伏線的には、寿命の短い人工天才児(クローン?)のような雰囲気ながら、姫矢とは対照的な活力を見せる憐の体がまばゆい光に包まれ、チェスターの攻撃を全て弾き返すサソリビーストに立ち向かう、新たな巨人が出現する!
 「……姫矢さん?」
 「……いや、あれは姫矢じゃない」
 首を振るイラストレーターがモニターで見つめる中、ウルトラ憐(以下、面倒なので呼称は「ネクサス」で統一します)は、姫矢ネクサスとは違う、青い体色のネクサストライアルへとフォームチェンジ。
 「新しい……ウルトラマン
 「ようこそ、ザ・サード。君が三番目だ」
 …………あれ、このカラーリングだと、ザ・ファースト(ネクスト)は、黄色だったのでしょうか。……というか、それが「イエローアイズ」?! という今頃の気付き。
 雄壮なテーマ曲に乗せ亜空間を展開したネクサスは、OP映像でも印象的な疾走から強烈な飛び蹴りをビーストへと放ち、その勢いのままに大地を滑って土煙をあげながら、ブレーキをかけて振り返ったところで、To be continued...
 主観人物のモノローグで開始、動物園と遊園地……など、今作プロローグと意識的に重ねたと思われる第2部開幕編、ウルトラマンが登場したと思ったらろくに戦闘しないままつづく、まで踏襲してしまいましたが、そこまでを1話にまとめた&新ネクサスを素直にヒロイックに描いた事で、第2話の時ほどの悪印象は発生しませんでした(まあこれは、悪い意味で今作に慣れてきてしまったのかもですが)。
 憐を探る謎の視線、憐自身の不穏な様子などの薄暗い要素は残しつつも、話の描写を陽性に寄せる以上に、主観人物に愛嬌をつける・好感を持たせる・主観人物と絡むサブキャラにも愛嬌を与える(これにより自動的にサスペンス要員になる&会話シーンの意味づけが増す)前半戦に致命的に不足していた薬効成分が大幅投与され、キノコ毒でやられて地面に横たわっていた物語に電気ショックでライジンが執行される事に。
 丁寧に足場を固めるところからやり直した上で、愛嬌を与え謎を抱えさせた主観人物がヒーローとして変身するというのはもはや改造手術レベルですが、衝撃のヒーロー交代劇を活用し、トーンの違う第2部主人公が、物語に別の角度から光をあてながら第1部主人公と関わり合っていく、という構想があったとすればそれはそれで納得はでき……その納得を遙かに上回るレベルで、第1部の出来が悪すぎたが為に、手術室を出てきたら半年間の記憶を失っていたように見えなくもないのが、困った所でありますが。
 とはいえ、随所に前半戦の要素をなぞりながらの再構築により新章の幕を開ける手腕は実に巧妙で、前半戦があったからこそ、この後半戦をすっきり見る事が出来ているのか、いや別に、最初からこれで良かった気がするのか、あと2話ぐらい進んでから、一度深呼吸して考えてみたい感はあり(笑)
 とりあえず、孤門くんと憐をどう絡めるのか、で一つの方向性が見えてきそうですが、次回、背後から首を絞められて眼球すれすれに爪楊枝を突きつけられる孤門くんのピンチを、楽しみに待ちたいと思います!(あれ?)

 ※本文中で「憐(れん)」と「燐(りん)」の打ち間違いを発見したら、生暖かい目で見逃してやって下さい。