『光戦隊マスクマン』感想・第26話
◆第26話「熱砂に消えた命!」◆ (監督:長石多可男 脚本:藤井邦夫)
砂浜でバイクの上に寝っ転がっていたケンタは、澄んだ鈴のような音を鳴らし、白い傘を差し白い衣装に身を包んだ女が、中学生らしき少年達を引き連れながら砂丘を歩んでいく、不思議な情景を目撃。風に飛ばされた女の傘を拾い、手渡すケンタだが、奇妙な行進はケンタの目の前で砂の中に溶けるようにかき消えてしまう……。
「夢? ……ゆ、夢なんかんじゃない!」
普段だったら遭遇戦が一回終わるぐらいの尺を割き、映像的にも時間的にも空白をたっぷりと使って、白い女・奇妙な行列・女の鳴らす鈴のような音色、を徹底的に印象づける文芸映画的な演出でスタート。
パイロット版からここまで、肩からもげよといわんばかりに東條監督と共に二人ローテを続けている長石監督が、ガラリと雰囲気の違う大きな変化球を一つ投じてきましたが、全編このテンポで進むというわけではなく、演出も物語も普段より哀調を帯びてはいるものの、後半に入ると普段のテンポに近付いていってしまったのは、残念だったところ。
女の正体は、ジルガドグラーの幼獣に餌として人間の生命力を与えて育て、その代わりにドグラーの作り出す赤い実(女の持ち歩く硝子瓶の中に収められ、鈴のような音を鳴らす実)を貰って生きる、共生獣セイラ(演じる蜷川有紀は、演出家・蜷川幸雄の姪。映画デビュー作が、真田広之の初主演映画『忍者武芸帖 百地三太夫』(1980))。
「運命に背けば死あるのみ」
ジルガドグラーに餌を運ぶ事を拒絶しようとするセイラだが、ゼーバの光線を浴びると、醜い獣の姿に。
「夏の日の蜻蛉のように、短い命を少しでも長らえる為に、人間の女となり、若い男を誘い込む、なんとも哀れな共生獣よ」
「まことにまことに。ふひひひひひ」
見下しながらも僅かに憐情を滲ませるイガムに対し、同調しているようで嘲弄しているアナグマスのいやらしい口調の巧さは、第1話の我が帝王ポエムの頃より、随所で高いポイントを稼ぎます。
ケンタとセイラは再び出会い、傷ついた鳥を助けて名乗り合うが、監視役のオヨブーから無慈悲に下される「こ・ろ・せ」のハンドサイン。赤い実を鳥に与えた事で苦しむセイラを介抱するケンタにオヨブーが襲いかかり、互いの敵対関係が判明。連続行方不明事件とセイラの関わりが疑われ、悩めるケンタは、チューブの命令と自分の命の為に男達を連れ歩くセイラの姿を見つけ、セイラは自らの運命をケンタに語る……。
運命に縛られた心優しき地底獣とケンタの交流エピソードなのですが、ケンタ側にこれといって「運命を乗り越える」的なテーマ性が無い(&与えられない)ので、良い怪人プロット×惚れっぽいポジションのケンタ回×藤井先生好みの悲恋物、を果汁100%で混合して、両者の関係の発生による飛躍が特にないまま、用意された悲劇性をただなぞるだけになってしまったのは大変残念。
最大の問題は、実質一目惚れからのストーキングを行っていたケンタ(序盤でもやっていたような)が好意を抱いているのは“擬態としてのセイラ”であり、“醜い共生獣としてのセイラ”と向き合わないまま物語が進んでしまうので、一応、小鳥を助けて互いの優しさを知る、という挿話はあるものの、基本的に、ケンタが魅了されているのはセイラの外見、という点で、異類婚姻譚的ではありますがヒーロー物との相性が悪く、クライマックスの盛り上がりを著しく削いでしまいました。
ケンタが醜い獣としてのセイラの姿を知った上でなお守ろうとする姿が描かれないので、どうしても、外見に魅了された“惚れっぽい男”という要素が心情の一番表に出てしまいますし、そうなると、セイラの側がケンタの優しさに心打たれた(これは立場を越えた心と心の繋がりである)、という逆サイドの説得力も同時に減じてしまう事に。
それらが噛み合ってこそ劇的なクライマックスになるわけですが、ケンタをかばったセイラが消滅する最後の瞬間、本当の姿をほんのちらっと見せるだけなので、その後のケンタのリアクションも劇的になりきらず。
この辺り、キャスティングによる事情もあったのかもしれませんし、映像的な美しさを優先した可能性もありますが、諸々の一番悪い部分が組み合わさって、“物語”を棄損してしまった印象。
また、ジルガドグラー成獣と戦う都合により、ヒーローが助けに来た後に犠牲者が出る、というのも印象の悪い部分。それを言い出すと知らなかったとはいえ冒頭に学生の犠牲者を見過ごしてもいる為、ジルガドグラー成獣を倒すとサボテン化された人々が元の姿に戻るのですが、人間の命を奪った事を悔いるセイラの悲劇性を強調する為の要素が、ヒーロー物としての帳尻合わせの為に雑に修復されてしまい(そのまま放置しておけば完全に死んでいた、という事ではあるのでしょうが)、全体のバランスを大きく欠く内容になってしまいました。
犠牲は犠牲のままでいい、というわけでは勿論ないのですが、それならば他のアイデアを考えなくてはならない部分であって、練り込み不足の引っかかるエピソード。
巨大戦で、ドグラーの放った飛び道具を、グレートファイブがジャイロカッターを手に一回転して弾き返すのは、格好いい立ち回りで良かったです。
砂浜に白い傘とセイラの幻像を見るケンタを4人が励まし青春砂浜ダッシュ! 波打ち際に取り残された白い傘と、その柄からぶら下がる砕けてしまった硝子の小瓶が大きく映し出されて、つづく。
次回――なんか凄く面白そうな人が!!!
アナグマス出馬→グレートファイブ敗北→ギャラクシーロボ登場、の一連の展開により揺れる天秤の傾きが大きくマスクマンに寄ったところで、チューブ側の新戦力登場。チューブの強化、ぞんざい系の必殺武器ショットボンバー敗北?、チューブ側の人間関係を引っかき回してくれそう、と非常に楽しみ。
特にショットボンバーは、必殺兵器としていまひとつ面白みを感じられずにいるので、手が入ってくれると嬉しい部分。