『キカイダー01』感想・第38話
◆第38話「必殺の仕掛 血闘三つ巴!」◆ (監督:松村昌治 脚本:曽田博久)
見所は、郵便局にブラストエンド。
ゼロワンのターン! 魔法カード《ブラストエンド》の効果により、郵便局は木っ葉微塵に大爆発する!
荒野をバイクで走るワルダーを、何やらハカイダーぽいカットとBGMで見下ろすイチロー兄さんの姿で始まり、悪役めいた登場があまり似合うので、しばらくこのイチローはハカイダーの変装なのでは? と疑っていたのですが、特にそんな事はありませんでした(監督が初参戦という事で、従来と違うニュアンスが出たのかもしれません)。
イチローのストーキングを受けているとは知らないワルダーは、湖に己を映して見つめるマリの元を訪れると手紙を取り出するが、木陰から様子を窺っていたイチロー先生は、おいおい君、先週転校してきたばかりでうちのマリにちょっかいをかけようとはどういう了見なんだい?! と思わず割って入ってしまう。
「ゼロワン殿ともあろう御方が、他人の秘密をのぞき見するとは。――許せぬ!」
怒られました。
「闘争回路が殺人指令を出したぞ。殺す、殺してやる」
ワルダーは背中の剣を抜くとイチローに切りかかり、「闘争回路」の所で頭部のパトランプがアップになる事から、チョンマゲ部分がワルダーの頭脳回路という事の模様。
マリが間に入って刃傷沙汰を止めると、いずれ果たし合いに際しては書状をしたため正々堂々と尋常な勝負を挑むと言い残してワルダーは撤収。渡された手紙に目を通したマリは、ロボットとしての己を惨めに思うワルダーに対し、作られた機械でも希望を持つ事を知ったと矢文を返す。
「ロボットが希望を持つ……?」
果たして、役割を持って生み出された人造人間は、その軛を超えて「正しい心」を持つ事が出来るのか?
完全無欠・問答無用のヒーローであるゼロワンが、「正しい心」を持つ者(劇中における“正しさ”の象徴)としてビジンダーの理想の存在になる事で、「なぜゼロワンはヒーローなのか?」という部分が補強されるのですが、そこにはまたゼロワン自身もそう作られた存在であるという一つの虚しさが生じ(ある意味で、イチロー兄さんには、「“ビジンダーやワルダーのような心”がない」ともいえます)、東映ヒーローとしてそれに一つの解を出していくのが、後の『特捜ロボジャンパーソン』になるのかもしれません。
「……希望……夢……全ては虚しいのでござるよ。正しい心など及びもつかぬこと。やはり拙者、殺し屋にすぎぬ」
口では言いながらもワルダーは筆を取って返信をしたため……
ナレーション「ニヒルな人造人間ワルダーと、孤独な人造人間マリの間に、いつしか、手紙のやり取りが始まっていた」
心に弱みを抱えた人造人間同士が、敵味方を超えて文通を始める、という強烈な展開(笑)
一方その頃、シャドウ組織はとある街の郵便局を襲撃して職員達を皆殺しにすると、それに代わるシャドウ郵便局を設置する!
「これこそ私が作り上げたシャドウ郵便局だ。本物の手紙を破り捨て、偽の手紙を配達して、人間の信頼感をズタズタにし、世界を大混乱に陥れるのだ」
……そうか……頑張れ……。
だが偽手紙作成部隊のシャドウマンに鮮烈な煽りの才能があったのか、ハカイダー(一人称が「私」だし、ギル脳と混線中?)の計画は予想を超える成果を上げ、街は憎しみを募らせた人々で大混乱。
「なぜ人々が、急にこんなにいがみ合うんだ……」
困惑するイチローは、目が合った途端に逃げ出した怪しい郵便局員を追いかける内にシャドウ郵便局員軍団と戦闘になり、シャドウマンが爆弾封書を投げつけてくる、といった作戦内容と合わせたギミックの一工夫は好み。
その頃シャドウ郵便局では、律儀にポストに投函していたらしいワルダーからビジンダー宛ての手紙が、シャドウ組織の手に落ちてしまう。
「お……これは、恋文ですな」
「よこせ。……ふふふふふふ……あの馬鹿者めが! よぅし、このラブレターを逆用して、ゼロワンとビジンダーを戦わせるのだ!」
これまで、ポジション的に「そこまで最低でいいのか……?」という戸惑いがどうしてもつきまとっていたハカイダーですが、「最低でいいのだ!」という開き直りを宣言した事により、最底辺路線の切れ味を、大変素直に受け入れやすくなりました(笑)
「シャドウよ! 手紙は、人の心を託す、尊いもの! その手紙を悪用する貴様達の悪事、許すわけにはいかん!」
ハカイダーがせっせと馬に蹴られる準備をしている一方、シャドウ郵便局を発見したミサオ達の窮地を救ったイチローは、再びシャドウ郵便局員軍団と激突し、襲い来る自転車配達攻撃!
下手な怪人相手より遙かに苦戦するイチローだが、チェンジ・キカイダーゼロワンすると今度は炎の車輪が次々と宙を舞い、怪人ポジション不在の穴埋めという意識もあってか、戦闘員相手の戦闘シーンで色々と工夫を入れてくれたのは面白く、割とこの辺りで、妙な満足感が。
更にシャドウ郵便局からの砲撃が大地を揺るがすが、ミサオ達を守って砲撃の中を駆けるゼロワンは、新技ブラストアタックにより、雑な遠隔攻撃で砲台を無力化。
「ええぃゼロワンめ! これで終わりではないぞ。今この瞬間から、貴様にとって最後の闘いが始まるのだ。ゼロワン! 貴様の死に場所は、俺が用意してやった」
必殺のブラストエンドでシャドウ郵便局を廃墟に変えるゼロワンだが、ワルダーからの果たし状が廃材に手裏剣で突き刺さり、一方のワルダーにも、ハカイダーの用意した偽の果たし状が届けられる。
ビジンダーとワルダーの交流を前振りとして、郵便作戦(阻止)→謀略による決闘、に繋がる二段階クライマックスの変化球なのですが、ワルダーからビジンダー宛ての手紙が文面も紹介されないままマリにあっさり偽手紙と見破られてしまい、「よぅし、このラブレターを逆用して、ゼロワンとビジンダーを戦わせるのだ!」要素が全く活用されないにも拘わらず、ゼロワンとワルダーの決闘に我が事なれりとハカイダーが喜ぶので、だいぶ意味不明な事に。
放っておいてもワルダーとゼロワンは殺し合う筈なので、ハカイダーとしてはビジンダーに送った偽手紙で状況を悪化させる予定だっと思われるのですが、文通要素と謀略が、集約されるべきところでどこかへ消し飛んでしまいました。
ワルダーの猛攻に追い詰められたイチローは、鎖を断ち切るとチェンジゼロワン。一気のラッシュを浴びせるが、反撃の仕込み銃を受けたところで、両者の戦いをビジンダーが止める。
「お待ち。この戦い、ハカイダーが仕込んだ罠よ」
物陰で頑張れワルダーしていたハカイダーは、ビジンダーキックを受けて無様にひっくり返ると取り押さえられ、華麗すぎる三下ムーヴ。
手紙を盗み読んだ事をワルダーになじられると、
「ははははははは、バレてはしかたがない。怒るなワルダー。ゼロワンはこの俺様が殺してやる。文句はあるまい!」
完璧に意味不明な供述と共にゼロワンに銃を向けるもビジンダーにはたきおとされ、格上3人に睨まれると煙玉ですごすご撤退し、ワルダーというスパイスの登場により、3クール目も終わる頃合いになって、遂に芸風を完成させた感があります。
ハカイダーに乗せられる形での決闘は本意ではない、と刃を収めたワルダーは、ビジンダーへも文通の終了を宣言。
「拙者は、しょせん作られた機械。その中でも最低の殺し屋でござる。せめて、ビジンダー殿が持ち合わせる心ほどでも、理解しようと思ったが無駄でござったわ。はははははは……御免」
切なく乾いた笑い声を残してワルダーは去って行き、その背を無言で見送るしかないビジンダーとゼロワン。マリはワルダーからの手紙を湖畔で焚き火にくべ、イチローはいずれ来る決着の日に向けて闘志を研ぎ澄ます。
「ゼロワン……俺の執念を見くびるなよ。俺はおまえを殺す。今度こそ、もっと汚い手で殺してやる」
そして、もはや底辺にこそアイデンティティを抱き始めたザンネンダーは、雪辱の炎に身を焦がしながら遠吠えを欠かさないのであった!
次回――「ゼロワンのブラストエンドも跳ね返す、強敵・空飛ぶ円盤が現れた」。
クライマックスで布石が活用しきれなかったのが残念でしたが、文通・郵便局員攻撃・次回予告、の3点で、割合と満足度の高いエピソードでした(笑)