東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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果てしなき三下の道はつづく

キカイダー01』感想・第37話

◆第37話「剣豪 霧の中から来たワルダー」◆ (監督:今村農夫也 脚本:長坂秀佳
 OP、早くもマイナーチェンジされた映像で新キャラが登場するタイミングが、ザンネンダーがめっためたに殴り飛ばされているシーンの直後であり、忍び寄る格差社会の気配。
 霧に包まれた森をアキラとヒロシを探して彷徨うミサオは不気味な低い笑い声を聞き、振り向くと立っている、黒いコートと帽子、包帯で顔を覆った男の背中にサブタイトルが入るのが格好良く、謎の男が指し示したのは、ジャングルジムにくくりつけられたヒロシとアキラ。包帯男が気合いの声をあげるとアキラとヒロシに次々と手槍が突き刺さり、直後に夢オチが判明するが、現実でもアキラとヒロシは姿を消しており、二人を探すミサオは、夢で見たジャングルジムの付近で血に汚れた包帯とヒロシの上着を発見……するが、二人は怪我した犬を助けていたのだった、とあっさり再会。
 「犬」と「不気味な悪意」要素がこの後の展開に繋がっていくものの、ヒロシとアキラが! というのは完全にショックの為のショックで筋から分断されているのが残念ですが、今更、アキラとヒロシにフィーチャーされてもそれはそれで反応に困るのが、今作の陥ってしまった難しい部分。
 その中で、ミサオと二人の関係性強化や、気がつくと屋根のある所に寝泊まりしている姿が描かれているのは軟着陸の方向性を示唆しているようにも見えますが、前回は廃ビルに忍び込んでいたし、今回も、空き家に勝手に潜り込んでいるのではないかとドキドキはします。
 一方その頃、シャドウ基地。
 「なんだと!? 俺に犬を?!」
 周辺地域の犬を皆殺しにせよ、と完全無欠の雑用を命じられた窓際社員ダーは当然のごとく拒絶しようとしていたが、社長命令を強調されプライドの崖っぷちに追い詰められていた。
 「儂は超一流の殺し屋、人造人間ワルダーを雇った」
 「ワルダー? なんだそれは」
 「ワルダーはことのほか犬が嫌いでな」
 待って。
 次回予告で盛り立てた悪の新キャラの株価が、あっという間に上場廃止しそうな勢いで転がり落ちていき、大丈夫か『01』……!
 「犬の気配があっては、このシャドウ基地へ来てもくれまい。ワルダーにゼロワンを殺してもらうという儂の計画もふいになる。ハカイダー! 5時間以内にこの辺りの犬どもを、皆殺しにするんだ」
 すっかり落ちぶれてしまったハカイダーを象徴する下っ端仕事かと油断していたら思わぬ無茶を要求され……さすがにちょっと、可哀想になってきました。
 「ビッグシャドウめぇ……! これがハカイダー様にやらせる事か!」
 だがもはや、独立起業の意志もとうに失ってしまったハカイダーは自棄になって犬の抹殺に励み、そこに悪のある所センサーによりダブルマシンで乗りつけたイチローが立ちはだかる。とうとう素手イチローにあっさり愛銃をはたき落とされ、思い切り飛び蹴りを食らって無様にひっくりかえるハカイダー! 頑張れハカイダー
 「ハカイダー、罪も無い動物をなぜ殺すんだ」
 「ま、待ってくれゼロワン」
 さすがに今回は、弁解させてほしい。
 ハカイダーうしのその時、笛の音が周囲に響き渡り、霧の中から歩み出たのは銀色ベースのボディに赤い三日月型の胸甲を身につけ、頭の上に付いた半球系のドームの中でくるくる回るパトランプ! たれ目が印象的な、かなりイカれた風貌の新たな人造人間!!
 「……ワルダー!」
 「いかにも拙者ワルダーでござるが、拙者をご存知のご貴殿は」
 ひゃら~りひゃらり~こ ひゃら~りひゃらり~こ と、横笛吹いて時代劇口調のワルダーは、胸部分のデザインをハカイダーと共通させてライバルロボの流れを汲みつつ、黒いマント状のひらひらを加える事で羽織のモチーフを取り込んでおり、頭上のドームはちょんまげなのでしょうが、ちょんまげの中に明滅するランプは必要だったのでしょうか(笑)
 ガンマンとサムライ、卑劣と高潔、ハカイダーの逆を行く設定なので、ハカイダー頭脳をひっくり返したイメージが入っているのかとは思われますが。
 (……強い。こいつは或いは俺以上に)
 「やれ! やれぃ! 今がチャンスだ、ワルダー!」
 (……隙が無い。こいつの前ではチェンジできない)
 ハカイダーはワルダーにゼロワン抹殺を命じ、無言で佇むだけのワルダーを、横できゃんきゃん吠えるハカイダーイチロー兄さんの心理描写で持ち上げていき、あらゆる悪役が自動的に格を下げていく事で名高い『01』では考えられないような、見事な格上げムーヴが炸裂!
 イチローと間近で睨み合ったワルダーは、まだシャドウ組織と契約を締結したわけではない、と気ままな流れ者を称して去って行き、その背を見送るイチローハカイダー
 ナレーション「――恐ろしい奴。ワルダーというこの人造人間は、今まで見たどのロボットよりも強い。極度の緊張のあまり、イチローの体内はオーバーヒートを起こし、冷や汗にも見える体内のオイルが全身をぐっしょり濡らしていた。……静かなる対決が終わった。そう思ったイチローの心に隙が生じた。これをハカイダーが見逃す筈はなかった!」
 あまりの実力差に、とうとうイチロー兄さんから路傍の石ころ扱いを受けてしまうハカイダーだがこれ幸い、奇襲のクライマックスカニばさみを浴びせ、まさか……まさかの! (太陽電池の弱点を突いてハカイダー四段攻撃を決めた)第2話以来35話ぶりのクリティカルダメージ!!
 これが最底辺まで墜ちた者だけが繰り出せる、クライマックスV字回復ジャンプだ!
 (なお、第2話の時はゼロワンの戦闘力は10分の1にまで落ちており、今回はチェンジさえしていない世知辛い現実については、「勝てば官軍」という言葉を掲げさせていただきたいと思います)
 「ふふふふふふふ、これで死ぬのは、貴様のようだな!」
 至近距離からイチローに銃を向け、苦節37話、大事な基地を次々と破壊され、兄弟機も次々と木っ葉微塵にされ、シャドウ組織に拾われて雑巾がけの忍従の日々、殴られても、蹴られても、爆発しても、放置されても、しぶとく生き延び立ち上がり続けてきた者こそが最後の勝利を掴むのだ、と有頂天のハカイダーだが、今度はハープの音、更にギターの音が響き、身も凍るデストロイの予感に慌てて撤収。
 ギターの音とハカイダーの台詞だけで、キカイダーの存在を示したのは、実に秀逸……と思ったら、霧の中から現れたのはなんと、二つの楽器を起用に抱えた服部半平。
 「ハンペン!」
 「正義の味方・服部半平、アンコールにお答えして、前回に引き続き、堂々二度目の登場」
 色々なんでこうなってるの感はありますが、これは素直に面白かったです。……この後、ミサオとまるで初対面のような会話をかわしてもいるので、やはり色々なんでこうなってるの感は湧き上がりますが(笑)
 シャドウ組織では、ビッグシャドウの盃を受けたワルダーがゼロワン抹殺の仕事を請け負うが、さっそく最低な感じで因縁をつける駄目な先輩ダー。
 「ハカイダー殿とやら、拙者も御貴殿も、いかに力んだとて、所詮はただの作られた機械。争うなどとは愚かなること」
 だがワルダーはそれに泰然自若として取り合わず、その態度を惰弱と罵るハカイダーとの格差は開いていく一方。
 「拙者あくまでも、雇われ殺し屋が生業にござれば、痩せ犬の遠吠えなどいちいち気に致しておれぬわ」
 しつこく絡んでくるハカイダーを舌鋒鋭く切って捨てるワルダーだが、興が乗った社長命令により両者は対決する事に。物陰からビジンダーが見つめる中、ハカイダーショットを軽々とかわしたワルダーは空中から仕込み槍を放ってハカイダーの動きを封じると穂先を突きつけ…………剣豪?
 サブタイトルに偽りありですが、侍は侍でも、剣士というよりは、忍者要素を加えた武芸者、という方向性の模様。アクションのバリエーションの広げやすさ及び、アクション班の持つ蓄積を活かしやすいというのがあったのかとも思いますが、ここに来て少々、伊上勝テイストが取り込まれた、という感もあり。
 惨めに敗れたハカイダーは腹いせに子犬を惨殺して今回は大変犬に厳しく、それを見咎めた怒りのマリと衝突する事に。
 「ハカイダー、私はあなたを許せません。ワルダーに負けた腹いせに、あんな可愛い子犬を殺してしまうとは」
 「ほざくな。犬を殺せというのは、ビッグシャドウの命令だ」
 今度は上司に責任を転嫁し、ハカイダーの格下ムーヴがとにかくキレキレ。
 本来なら、新たなライバルキャラを持ち上げる為に先代ライバルキャラを必要以上に貶めるのはあまり誉められた手法ではないのですが、戦歴といい扱いといい既にこれ以上なく奈落の底を彷徨っていたハカイダーが、新ライバルと対比される卑劣極まりない踏み台として機能する事により新たな輝きを手に入れ、突き抜けた底辺ぶりが面白くなってしまう驚愕の空中殺法(笑)
 正直、ここまで来てハカイダーが次のステージに到達するとは、夢にも思いませんでした。
 「言い訳は、聞きたくありません」
 「俺とやるというのか……面白い。相手になるぜ!」
 「やってみますか? あなたの指と、私の動きとどっちが早いか」
 マリは満面の笑みで構えを取り、完全に格下扱いされてるーーー(笑)
 ところがそこに、子犬の仇を討とうとするヒロシが乱入して事態は混迷。両者危うしのその時、卑劣な手段を好まないワルダーがハカイダーを攻撃し、そのまま格好良く立ち去ろうとするが、アキラが連れてきた犬を見てフリーズしてしまう。
 そう、幼い日のワルダーは、野良犬に、男の子の大事な(以下略)。
 「ははははは。そうか、思い出したぞワルダー。貴様が犬に弱いという事をな」
 崖を無様に転がり落ちようが、時間稼ぎぐらいはできるだろうという期待感だろうが、後輩にあっさり格下認定されようが、いつだってアップダウンが激しいのが真のライバルの証明と生き残りのコツ、と嵩に掛かったハカイダーはワルダーを銃撃するも、ビジンダーが参戦すると犬を連れて逃走し、逃げ足の速さも真のライバルの証明と生き残りのコツ!
 「ワルダー、あなたほどの人が、なぜ犬なんかに」
 「犬は、畜生ながら物の善悪を見極める心というものを持ち合わせてござる。悪い奴には吠える、泥棒には噛みつく。拙者それが、恐ろしゅうござる。拙者には、その犬ほどの心の持ち合わせもない。それが腹立たしく、たまらなく恐ろしいのでござらば」
 『01』名物、極端な弱点設定からの残念な展開、かと思いきや、己を「所詮はただの作られた機械」と任じ、心を持たないロボットゆえに、犬の中に心を見出す事に恐怖する、という形でキャラクターの掘り下げと接続され、ワルダーが予想外に、『01』ここまでの問題点に対応してきます。
 ワルダーはゼロワンとの果たし合いの約束の為にバイクで走り去り、ビジンダーが「心」というものについて悩む中、遂に両雄は激突。
 「ワルダー! 隠しているな! おまえの体は銃弾を受けている」
 「お気になさいますなゼロワン殿。これは拙者の未熟さゆえの負傷。存分に参られよ。下手な同情は命取りになり申す」
 奇天烈なデザイン・弱点は犬、と最初はどうなる事かと思われたワルダーですが、その実力と態度、台詞回しでひたすら格好良く見せ、熾烈を極める両者の戦いが続く中、ワルダーへの意趣返しの為、犬を連れたハカイダーが崖上に登場。
 動きの鈍ったワルダーにゼロワンの攻撃が突き刺さるが、ブラストエンドの発動直前、咄嗟に放たれたビジンダーレーザーが事象変換を妨害し、撃ち落とされたゼロワンは谷底へと落下。自分の行動に慌てたビジンダーは、ゼロワンの行方を探し、打ちひしがれる。
 「ああ……私ってなんて事を」
 「――気にするなビジンダー
 だが完全なるヒーロー・イチロー兄さんは笑顔で復活。
 「俺が君だったとしても、多分同じ事をした筈だ」
 ビジンダーの行為を責めないイチローが、ワルダーを「殺したくない相手」と述べつつ、「シャドウに雇われている限り、殺らなければならない」と力強く宣言するのが時代を感じさせますが、実際のところ、劇中描写だけでも相当の人的被害を出している悪の組織なので、そこは一線が明確であるとはいえます。
 ナレーション「シャドウに、新しく客分として雇われたワルダーは、良心の無いことを悲しむ、孤独な人造人間だった。だが同時に、恐ろしい腕を持つ、殺し屋ロボットでもあった」
 いったい誰が作ったんだ感はありますが(この先の展開に関わってくる事はあるのか?)、ワルダーがビジンダーと積極的に絡む事により、“人造人間達の物語”の空気がぐっと加速。
 ナレーション「ワルダーに向けられたゼロワンの必殺技を、思わず封じてしまったビジンダーは、今、とても哀しく、辛く、惨めだった」
 の所で、カメラが岩の上に立つハカイダーに向けられるのは、意図的なのでしょうか(笑)
 ナレーション「泣けビジンダー。ゼロワンにすがって泣くがいい。そして明日になったら、あの太陽のような明るい笑顔を見せるのだ」
 マリ/ビジンダーが絡むと私情が入る事でお馴染みナレーションさんもハカイダーに負けず劣らずキレキレの名調子で激動の新展開を彩り、特に


 「極度の緊張のあまり、イチローの体内はオーバーヒートを起こし、冷や汗にも見える体内のオイルが全身をぐっしょり濡らしていた。」
 は非常に面白かったです。これもワルダーの仕掛けアクション同様、忍者マンガ的なテイストが見えるところですが。
 「ゼロワンめ……ビジンダーめ……! 俺は必ず貴様達を、殺す! どんな汚い手を使ってでも、殺す、殺してやる!」
 とても哀しく辛く惨めな立場だが遠吠えタイムは渡さない、と憎しみの炎を燃やすキカイダーが改めて悪逆無道をゆく事を宣言し、つづく。
 キザでストイック、実力と美学を兼ね備えた正統派ライバルキャラが出現し、犬を見てプルプル震える一幕はあったもののひとまずその座を保ち切る『01』らしからぬ新展開となりましたが、面白いのは、ワルダーが主人公・イチローよりもむしろ、ビジンダーハカイダーの対比に置かれている事。結局、ゼロワン/イチローに対するネガとは、“完全無欠の悪”という少々以上に厄介な存在になるしかない、という事情もあるのでしょうが、これにより各キャラクターの陰影と立体感が一気に高まる事に。
 また、“不完全な良心回路を持つ”ビジンダーに続いて、“犬を見ると心理的葛藤から硬直してしまう”ワルダーの姿は、“ギルの笛に動きを封じられる”キカイダー/ジローを彷彿とさせるところがあり、「前作主人公」として一段上のヒーローとして扱わざるを得なかったジローの持っていた要素を解体・再構築してビジンダーとワルダーに振り分ける事により、イチローがそれらと向かい合う構造が改めて成立した、とも思えます。
 となれば、ワルダーの登場によりネガ・キカイダーとしてのハカイダーの存在感が上昇するのは当然の帰結とも見て取れますが、その過程において新しい面白さに到達してしまったのは、たぶんミラクル(笑)
 今回何が面白かったかというと、物語のテーマ性とも繋がった格好いいライバルキャラとしてのワルダーが登場した結果、組織もライバルの座も崩壊し何もかも見失って最底辺を這いずり回っていたハカイダーに、ヘドロの底に沈む汚物の中の汚物としての開き直った新たな役割と輝きが与えられた事であり、何よりも“真っ当な悪のライバルキャラ”を必要としていたのはハカイダーだった! この闇の底の光明が、腐海の奥でどんな果実を実らせるのかは、楽しみにしたいと思います。
 気になるのは、途中からザダムの気配が消失してしまった事ですが、明らかに持て余されそうな状況で、ジャイアントデビルの様な扱いを受けない事は祈りたい(笑)
 次回――文通、そして三角関係。