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新年初映画

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』感想(ネタバレあり)

 アメリカ男ヨーロッパでモテモテ作戦は?」
 「あれは……ガキのたわごとだよ。そしてそいつに、出会いがあった。相手はとても強くてパワフルな女性で、彼はもう……大人になった」

 『ホーム・カミング』に続く、新生『スパイダーマン』第2弾にして、『アベンジャーズ:エンドゲーム』直接の続編にあたる、MCU作品(公式しては、フェーズ3の掉尾を飾る位置づけとの事)。
 前作は、MCUが築き上げてきた世界観の中に“親愛なる隣人”を誕生させつつ単独作品として見る事も可能な作りでしたが、今作は『エンドゲーム』と深く接続されており、“親愛なる隣人”の視点から『エンドゲーム』後のMCUを描いていく、積み上げられた世界にニューヒーローが登場するのではなく、次のステージへ進む事を余儀なくされたヒーローの姿を通して新たな世界の導入になるという点で、前作とは対といえる構造。
 なお「ファー・フロム・ホーム」の日本語訳は、「蜘蛛男欧州漫遊記~悪い大人に振り回されて恋のトラブルアセンブル~」みたいな感じ。
 以下、本編内容に触れる他、作品の性質上『エンドゲーム』のネタバレも含みますので、ご留意下さい。
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 そういえば、『エンドゲーム』公開当時、『ファー・フロム・ホーム』の予告に『エンドゲーム』のネタバレ要素があるので注意、みたいな話があった記憶。
 というわけで『エンドゲーム』の構成上、もう一つわかりにくかった(落ち着いて説明している暇の無かった)、指パッチンで消滅した人々は復活後にどういう扱いなのか、についてが具体的に語られる(消滅した人々は消滅前の状態で復活する為、消滅しなかった人々とは5年のギャップが発生する)説明的なスタートの一方、ピーターがMJに夢中だったり、メイおばさんがスパイダーマンの正体を知っていたり、前作からの状況の飛躍が存在するのは、視聴者の困惑と、5年後の世界に対するピーターの戸惑いを重ねる仕掛けでしょうか。
 トニーの死を引きずり、気になるあの子ともいちゃいちゃしたく、ヒーローであり続ける事に悩みを覚え、気になるあの子といちゃいちゃしたいピーター・パーカー@だって16歳は、心身を休ませ様々な状況を整理してあわよくばMJとお近づきになりたいと夏休みに学校のツアーに参加してヨーロッパ旅行へと繰り出す事を決めるが、そこで待ち受けていたのは、巨大な水の巨人!
 『エンドゲーム』では実質出番の無かったフューリー&マリア・ヒルがこの事態にがっちり絡んでおり、そこに現れる、別のアース(多元世界)からやってきた超人・毒ガス金魚鉢仮面。緑のガスを噴出しながら飛び回り、魔法とも超能力ともつかない謎のエネルギーを操る金魚鉢仮面――ベックは、自らのアースを滅ぼしたエレメンツを追い、このアースを救う為にやってきた戦士であり、市民からは「ミステリオ」と呼ばれる事になる。
 成り行きからベックと共闘するピーターだが、夏休みの続行にこだわり、フューリーからの協力要請を拒否。
 その一方で、フューリーから受け取ったトニー・スタークの形見によりスターク・インダストリー謹製の軍事システムへのアクセス可能な身となって、恋のライバルをいつでもドローン攻撃できる権利を得てしまい、トニーさん 加減を知らない 過保護ぶり。
 この新たな相棒・イーディスの登場で、前作で素敵だった“スーツのお姉さん”が登場する目が無くなってしまったのは個人的に残念な部分でした(笑)
 ヒーローの先輩にして憧れの人で精神的支えにもなっていたトニーを失い、青春を謳歌する事に逃げようとしているピーターと、トニーに選ばれた者としてスパイダーマンの戦力をアテにするフューリーの思惑にラブコメ要素が加わってコミカルなドタバタ劇を軸に展開しつつ、随所にピーターとトニーの感情の交差が挟み込まれてしんみりとさせ、緩急の付け方が実にスムーズ。
 悪い大人の金と政治力に翻弄されるピーターは、いちゃいちゃプランを犠牲にしてエレメンツとの戦いに身を投じざるを得なくなる中で、髭の特殊効果により、ベックとの友好度が急上昇。一方、実力と結果こそが全てであり、信念とプライドを持った大人相手ならともかく、その形成過程にあるティーンエイジャーと相性最悪のフューリーとはぎくしゃくし、ますますベックに懐く事に。
 魔術の街プラハにおいて、最強最悪の火のエレメンツを打ち破った夜、トニーの形見に残された「第二のスターク」というメッセージを、「自分が第二のスタークになる」のではなく「第二のスタークを選び出せ」と解釈したピーター(「僕の色々なやらかしを全て知っている筈のトニーが僕を後継者指名するのはおかしい」と言っている側から「でも僕の人を見る目は割と間違っていない筈」とやらかすのが面白すぎる)は、イーディスの使用権限をベックに預ける。
 だが……それこそがベックの狙いであり、全ては、新たなる脅威とそれを打ち破るヒーローを捏造し、頼れる父性@髭付きを演じる事でピーターの心の隙間に付け込み、トニー・スタークの遺産――イーディス――を手に入れようとするベックの、周到な罠だったのだ!
 MCU全体ならともかく、『スパイダーマン』において、今度の敵は別世界からやってきた悪の精霊巨人だ! というのはどうもしっくり来ないものを感じていたのですが、ミステリオもエレメンツも超高度なホログラフィとドローンの連動の産物であり、敵はハイテクを駆使する悪党だった! というのが丁度映画の折り返し地点で明かされて色々な要素がストンと収まる、まさにターニングポイント。
 ミステリオに関しては、原作ファンならば登場時点でヴィランとわかったのでしょうが、やたらピーターに親身な髭の中年男性というあまりにも出来すぎな存在のベック、ミステリオのアクションがアイアンマンとストレンジ先生のコピーめいている上に能力について全く説明されない、といった違和感の積み重ねが、綺麗に着地するのも巧妙。
 ベックの正体は、別のアースから来た謎の毒ガス仮面などではなく、トニーに自分の研究を否定された上に会社を解雇されたが、空席となったその玉座を譲り受けようという、複雑な憎しみを抱いた元部下。……て、
 またあんたのせいかーーーーー(笑)
 世界を取り戻した英雄として、死後に偶像化されつつあるトニー・スターク/アイアンマンの姿が至る所に散りばめられてきた後で、その負の面がきっちり顔を出してくるのが、大変トニーです。
 かくして今作後半は、トニーが選んだ者と選ばなかった者、大いなる責任に向き合う事を恐れる者とその栄光だけを手に入れようとする者、偉大な英雄達が去った後の世界で、若き英雄の卵が虚像の英雄に立ち向かう、という対決の構図を強く打ち出すのですが(スティーブ・ロジャースの退場も効いてくる事に)、その舞台でスパイダーマンが戦う相手が、超高性能ホログラフィとドローンに脚本家や演出家を加えて壮大な詐術(イリュージョン)を仕掛ける、劇団系ヴィラン“チーム”であるというのが、なんとも皮肉な作り。
 肉体的には常人ながら極めて巧緻にして頭の働くベックは、真相に気付いたスパイダーマンを一方的に翻弄し、自身は戦闘能力を持たないながらホログラフィとドローンを縦横無尽に駆使する悪役の“強さ”の描き方は、幻覚攻撃の恐ろしさに説得力があって面白かったです。
 列車アタックを受けるも辛くも生き延びたピーターはハッピーに助けを求め、友を、人々を救う為、一路ロンドンへと飛ぶ。
 「誰もトニーの期待には添えない。トニーでさえな。……彼は親友だった。いつも悩んでた。自分がした事が正しかったか、いつも迷ってた。たった一つ迷わなかったのは、おまえを選んだ事。トニーが自分を犠牲に出来たのは、自分が死んでも、おまえが居るってわかってたからだ」
 フューリーとマリア・ヒルの活躍など、『エンドゲーム』のフォロー要素があちこちに見える今作ですが、トニーにとってキャップとは、全肯定はできない(したくない)が、自分自身とは違う形でトニー・スタークの期待に添える存在だった、というのが暗に示されると共に、己の中に矛盾を抱えた“人間”だからこそ、英雄に殉じる事が出来たのだ、というのは良い補強でした。
 飛行機の中でスーツを新調したスパイダーマンはロンドンでベックとの対決に臨み、身から出た錆とはいえ、ベック操るスタークドローン軍団が敵になることで、ピーターがトニーと戦う擬似的な父殺しの神話構造が組み込まれ、新たな英雄の誕生(英雄の世代交代)が強く意味づけられます。
 スパイダースーツを新造するピーターの姿にハッピーがトニーを重ねて見るのをピークに、『ホーム・カミング』同様、基本的にピーターとトニーの関係が軸になっており、特に今作は『エンドゲーム』後の世界における“継承”の要素が強調されているのですが、最後の最後、ウェブの切れたスパイダーマンが簡易シールドとハンマーを作成し、キャップ&ソーの魂も受け継いで戦いに挑むのは、最高に痺れました。
 トニーが中心になるのは納得した上で、この目配りがとても素晴らしかったです(まあキャップ決戦仕様だと考えるとソー要素無いのでは疑惑もあるのですが、一応、自分探しの旅に出た三段腹の神様の事も意識していたと思いたい)。
 ピーターむずむずを発動したスパイダーマン(今作世界ではスパイダーセンスに目覚めていない設定でしたっけ……?)はベックの幻覚攻撃を打ち破り、焦ったベックは自滅。最後のトリックも見破り、イーディスを取り戻したピーターは事態の収拾に成功してBJとも両思いになり、万事解決ハッピーエンド。
 大いなる責任を胸に、最後はこれをやらないとでしょ、とマンハッタンをウェブスイングでひゃっほうと飛び回り、明るく爽やかにらしく落着……するのかと思いきや、ベックは自分が敗北した場合の一手も準備しており、スパイダーマンはミステリオを殺害した極悪人であり、その正体はピーター・パーカー! という告発映像が流れてしまう事に……で、実質つづく!
 ……成る程これは、権利関係の問題でMCU離脱?! の報が大騒ぎになる筈だ、と今更ながらの大納得でした。
 原作でどういうキャラクターなのかは知りませんが、映像を操り、物語を作り出し、自分の思い描く現実を大衆の真実にしようととしたベックは多分に昨今のフェイクニュース問題などを意識した悪役としてリファインされており、最終的にはその望み通りに、“世界を救った英雄”として名を(少なくとも一時的には)遺す事になるのですが、そこで遺る名は本当のベックではなく、別世界から来たヒーロー・ミステリオという、“虚構としてのベック”である、というのがかなり哀れな悪役(そしてそれ自体がトニー・スタークのいびつな模倣になっているのが、どこまでも皮肉)。
 とはいえ、その死してなお残された自己顕示欲の悪意に利用された身はたまったものではなく、果たして、ベックの置き土産たる猛毒は、“親愛なる隣人”スパイダーマンを如何なる窮地に追い込むのか?!
 個人的には、スパイダーマン=ピーター・パーカーと知ったバルチャー娘が、父を刑務所送りにしたスパイダーマンに復讐する為、ヴィランとして帰ってきつつBJとの仲を引っかき回してほしいです(笑)
 前作の可哀想なヒロイン、あのまま投げ捨てるには勿体ないポジションのキャラだったと思うんですよ!
 そんなわけで、キャストクレジット後の引きシーンがあまりにも衝撃的すぎて、エンドロール後のおまけがいつも以上にどうでも良くなりましたが、基本的に憎まれ役も辞さないポジションにしても、ピーターへの当たりの強さから嫌でも好感度の下がるポジションだったフューリーは、実はシェイプシフターの変身で本人ではありませんでした、というのは正直ズルい(笑)
 このモヤモヤした気持ちは、一体どこにぶつければいいのか。
 JJJにお便りすればいいのか。
 BOW!
 『エンドゲーム』の後始末要素が多く、単体のヒーロー映画としては、前作『ホーム・カミング』の方が好みでしたが、十分以上に楽しい一作でした。
 毎度の事ながらサブキャラの使い方が巧く、今回はハッピーが有能&いい人ぶりをフルに発揮する大活躍。宝物庫でのキャップネタも嬉しかったですし、それがクライマックスへの前振りになっているのも巧妙。また、メイおばさんと妙な雰囲気を出している事にピーターが気を揉み、どちらかといえば“愛情を向けられる”側のポジションであるピーターが、メイおばさんと遊びだったらただじゃ済まさねぇ的なオーラを出す新たな一面を描き出し、良いアクセントになりました。……まあこちらに関しては、想像を絶するオチが待っているのですが(笑)
 ネッドは前作ほどの活躍は無かったものの、ピーターの貴重な友人として、欠かせないコメディリリーフ
 ピーターに悪意を向ける同級生(ただしスパイダーマンの大ファン)の実況が、決戦の地に向かう際のキーになる、という伏線も鮮やか。
 引率の先生2人が妙に押し出しが強かったのはよくわかりませんでしたが(コメディリリーフとしては面白かったですが)、その内、背中から触手でも伸ばすようになるのか。
 『スパイダーマン』としては、今回は“大いなる責任”と改めて向かい合う事を選ぶまでの物語といえ、向かい合った先でどんなヒーローになるのか、を描く物語がこの次なのではと思われるので、あの凶悪なオチもありますが、次回作も楽しみです。