東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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広がる海の彼方から 何が呼ぶというのだろう

『アクアマン』感想(ネタバレあり)


 ――「作家のジュール・ベルヌは、「海に漂う二艘の船は、風と波がなくても出会う」、そう書いたが……俺の両親も、二艘の船のように出会った」
 1985年、アメリカ・メイン州。嵐の夜、岸辺に打ち上げられていた女を救った灯台守のトム。白銀に光る不思議なスーツに身を包み、人間離れした怪力を振るい、美味しそうに金魚を踊り食いする女は、アトランティスの女王・アトランティアを名乗る。
 ――「出会う筈がなかった二つの世界。俺は、許されぬ愛から生まれた」
 全身ずぶ濡れの銀色スーツの成人女性+槍、をお姫様抱っこで家まで運ぶお父さん、凄い。
 さすが、灯台守(海の男)。
 恐らくは意図的に少々古めかしい調子の、叙情をかき立てるような渋いモノローグで始まり、地上とアトランティスの間に生まれた、混血の王子の帰還を真っ正面から英雄叙事詩として描く、《ジャスティス・リーグ》に集うDCヒーローリブート映画の一作。
 物語としては非常にストレートな“王の帰還”の物語であり、「現代と神話を融合する」よりも「現代に神話を再生する」という方向性が、海中を飛び、魚たちと意志を通じ、鋼の肉体を誇るヒゲのマッチョと、水操作能力を持つ赤毛のプリンセスによる世界の海を股に掛けてのアクションまたアクションと上手く噛み合い、遡って『ジャスティス・リーグ』を見てもいいかな、ぐらいには面白かったです。
 ただ……『バットマンvsスーパーマン』『ワンダーウーマン』の感想と重なるのですが、今作も、「(内容に比して)長い」
 英雄叙事詩としての冒険要素の必然性はわかるので、名前を挙げた2作に比べると「少々長い」ぐらいの印象に緩和されてはいますが、個人的な好みとしては、もう少し刈り込んでほしかったところです。
 基本的に、馬鹿丁寧に世界観を見せていく作品で、そこが楽しい、という向きもあるとは思うのですが、見せたい事にこだわりすぎて少しずつシーンが長くなる傾向があり、物語を紡ぐリズムの緩急という点で、私の求める気持ち良さよりは、総じてやや間延び。
 これはもう完全に、私個人の肌感覚に基づく好き嫌いでありますが、「面白かった!」と「まあ面白かった」を分けるポイントではあるなと。
 そこの点で、惜しい一作でありました。
 以下、ストーリー内容に触れながらの感想。ラストまで触れるのでご留意下さい。
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 冒頭、軍隊ばりの装備に身を包んだ海賊に占拠された潜水艦が、海中を高速で移動する何者かによって強制浮上させられると、潜水艦の中に飛び込んできたのは上半身裸のヒゲマッチョというもはやホラー寄りの状況で、非常識な不審者に当たり前のように銃を撃つ海賊の皆さんは、練度が高いと言えば高いと言えるけど状況に適応しすぎではと引っかかったのですが、冷静に考えるとこの世界はBさんとかSさんが認知されているのだったか……と思っていたら、救出された船員がヒゲマッチョを見て「アクアマン!」と声をあげるので、そういう世界観で良い模様。
 その後、「メタ・ヒューマン」という単語も登場し、発表順に『ジャスティス・リーグ』から見ていれば、スッキリ飲み込めた部分だったのかなと思われますが、SさんにもBさんにも特に触れられないけど、既に“パラダイム・シフトの起きた世界”が前提として展開。
 マンタ父子のナイフの受け渡しは、この後に訪れる運命が丸わかりの上、占拠途中の潜水艦の廊下で始めなくても……感が強かったですが、因果応報とはいえ父を見殺しにされてアクアマンに深い怨念を抱く悪役の誕生としては、印象的になりました。
 ここでは、ヒーローが、救うべき者とそうでない者を決めていいのか? というテーゼが提示され、地上のマンタと海の弟というダブル悪役体制で物語が進行するのはなかなか面白いのですが、マンタが主に次回作への引きのため、アクアマンことアーサーの心境に変化こそ与えるものの、クライマックスで両悪役のかざすテーゼが劇的な結合を見せる、とまで行かないのが、一つの映画としては惜しいところ。
 イタリアの街を舞台に、ブラックマンタ率いる追跡部隊と、アーサー&メラの戦いを同時進行で描いたのは映像的にもアイデア的にも面白く、この映画で一番好きなアクションシーン。
 メラ王女の、アーサーにひけを取らない女傑ぶりが際立ちましたし、水操作能力は、便利な上に格好いい。
 “神話と地続き”な世界で展開する今作において、ブラックマンタのレトロフューチャー感溢れるスーツも、面白かったです。
 難をいえば、ここに限った事ではなく今作全体の傾向なのですが、〔迫真の展開→突然の衝撃で吹き飛んだりスローモーションで落下-(ギャグっぽい間合い)→ざーん! ざーん! みたいなBGMで再起動〕的な演出が繰り返されすぎで、定番ではあるのですが、今作全体の個人的間延び感にも繋がっており、根っこのところでこの監督と合わなかった部分だなと。
 イタリアで観光しながら秘宝の調査中に、雰囲気出していたら突然のビーム攻撃! は面白かったですが(笑)
 秘境での冒険を繰り広げ、母と再会し、試練を乗り越えたアーサーが真なる王の証たるトライデントを手にしていた頃、弟王は海底統一の為に甲殻類王国に戦争を仕掛け、様々な海洋生物をモチーフにした海底戦艦のデザインなどは面白いものの、ここで甲殻類王国にはこんなのもこんなのも居るぞ! と“見せたがって”時間をかけるのも、個人的には冗長に感じた部分。
 地上の兄と海の王に分けて七つの海(国)を世界周遊しつつ、物語の緊迫感を高めていく狙いはわかるのですが、とにかく全部を見せたい、と欲張りすぎた気がします(これでも、色々削った可能性はありますが)。
 デザインといえば、アトランティス王国の都市は、古典的なSF未来都市の引き写しで(アトランティス入り口とかまるっきり、スターゲート前の渋滞風景ですし)、あまり面白みを感じなかったのですが(原作再現要素もあったのかもですし、これを海底にやる事自体が、妙味ではあったのでしょうが)、途中で見せるメラ王女のクラゲドレスは、SF×海底の融合度合いが、見事なデザインでした。
 戦場に巨大怪獣と共に割って入ったアーサーは、結構な勢いで、後々統治の対象となる兵士達を戦艦ごと虐殺しまくり、さすがに途中で王女が止めに入った後、海上での弟との決闘に勝利。
 これを満足げに見つめる、地上でこっそりアーサーの師を務めていたアトランティスの参謀さん、もともと母親側の家臣だったのかもしれず、この人の立場なりに軌道修正を図ろうと頑張った末なのかもしれませんが……先代から王家に仕え現役で参謀を務めていた側近中の側近が「おまえは駄目な奴だから俺は兄を育てていたぜ」と面と向かって言ってくるような環境で育ったらそれは弟も歪むよな、と思うわけで、悪役側の理由を与えるという以上に、こういう良識人みたいな顔してしれっと立っているけど明らかに弟を歪めた責任者の一人では、みたいな存在が平然としているのは、個人的にはすっごく引っかかります(笑)
 この点で言えば、ブラックマンタも海賊一家で育ったという出自が与えられており、劇中ではそれ以上に冷酷な殺人者として描かれているものの、そう育ってしまった事情があるといえばいえ、冒頭のバトルでアクアマンが怒っていたのは何よりも「自分が海賊だからと息子を海賊に育てた父親」に対してなのですが、“出自を越えて、人は何者になれるのか”というのが、一つのトータルなテーマではあるのかもしれません。
 最後に母親と再会して、弟は一応救われるのですが、そもそも、政略結婚を嫌がって地上で別の男と子供を作ったが、色々あって海底王国に戻ってきて嫌々政略結婚した相手との間に生まれたのが自分、というのが深刻な歪曲事案なので、この母親の存在そのものが弟にとってはトラウマなのでは……という点は微妙にスッキリしないのでありました。
 弟、国家としての戦争主導を始め、魚人王の殺害や兄と婚約者への暗殺指令など、基本的に非情な殺戮者として描かれている一方で、運命の犠牲者であるという要素も与えられているのですが、それなら、もうちょっと弟の心情に寄り添うキャラが一人ぐらい配置されていても良かったかな、と。
 今作、冒頭でブラックマンタ誕生の経緯を劇的に描く事により、悪役の背景事情に視線を誘導する構造になっているので、必然的に弟の背景にも目を向けざるを得ないわけですが、そうすると、父からは延々と呪いを吹き込まれ、母はトラウマ案件で、側近は20年以上に渡って兄に荷担しており最近は実質スパイ、という割とあんまりだ案件になってしまい、だからといってその行為が許されるわけでないのは前提にしろ、ブラックマンタともども、「悪人の子は悪人」という作劇になってしまっているのは、喉に小骨の突き刺さる部分。
 特に今作にせよ『マン・オブ・スティール』にせよ、「片田舎の素朴な父親の心の中に真のジャスティスがある」という物語構造なので、そこから外れた者がイビルである、と読める形になっているのは、ずんなり飲み込みにくかった部分です。
 トドメにラスト、拘束された弟に向けてアーサーが「いずれ話そう」と呼びかけるのですが、アーサーなんの悪気もなく「ちなみにお前の元婚約者は今、俺の彼女だぜ」と肩組んで牢屋に来そうで、憎しみの力でシルバーマンタが生まれそう。
 後引っかかるというと、ヒロイン父が、うまいこと弟を神輿に仕立てて地上にヒャッハーしようとしたけど、トライデント持ちが帰ってきたので今日から僕はアーサー王のお友達です、という見事なフットワークの軽さを見せ、次作以降への引き要素なのかもしれず、そうでなくとも政治劇の要員ではあるのでしょうが、若干もやもやは残るのでありました。
 ……なんだか、細かい部分を取り上げたら、マイナス点ばかりになってしまいましたが、これら諸々の細かいマイナスをひっくるめた上で、大筋としては面白かったです。ただ、ストレートな神話構造が全体を支配し、王の帰還を軸とした一大スペクタクルとしては満足できる内容の一方で、悪役にまつわる物語性を劇的に盛り込もうとした結果、端々に苦みと引っかかりが顔を見せる為に、良くも悪くも、気持ち良かった! で終われなかった映画。私にとって映画の大きな評価基準は、見終わった後に気持ち良いかどうか、なので、そこが少々、満足度を下げる部分。苦みを否定するわけではなく、苦みを飲み込みきれる気持ち良さにまでは辿り着かなかった、そんな一本でした。