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消えたアシスタントの謎 ヒューマギアとパフューマン剣は二度笑う

仮面ライダーゼロワン』感想・第5話

◆第5話「カレの情熱まんが道」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:筧昌也
 恐らく近作では異例の早さでサブライターが参戦した途端、光の速さで地雷を踏んだのですが、今回のエピソードの最大の問題点を一つに集約すると、アルトが終始「たまさか絶大な権力を手に入れてしまった厄介なファン」でしかない事。
 「新人社長がファンとして暴走してしまった話」であればアルトがたしなめられて反省する展開が必要ですし、
 「社長も人の子、たまにはファンとして前のめりになってしまう話」と受け止めるには社長業の積み重ねが足りないですし、
 「巨大IT企業を率いる若き社長の使命の話」としては延々と大惨事。
 1-4話では比較的うまく使っていた「社長」という要素が、メインライター以外が書いたらいきなり火を噴いて社屋の一部を吹き飛ばす、という今後への大きな不安と課題が浮き彫りになってしまいました。
 そんなわけで、アルト社長、明らかな職権濫用で、憧れの超有名漫画家のお宅訪問。
 そして、家に届けられた段ボール箱を開けると、中に服を着た成人男性が入っているというのは、想像以上に猟奇の香り。
 ……まあ、この世界の人々にとっては、比較的ありふれた光景なのかもしれませんが。
 …………という事は、箱の中身はてっきりヒューマギアだとばかり思っていたら本当の人間の死体だった! という導入のミステリが、この世界には、きっとある。
 脱線しました。
 OP、前回はゼロワン魚フォームのカットが挿入されていましたが、今回はファルコンフォームに差し替わり。バルカンもゴリラフォームになり、増やすのは無理があるので入れ替え制になるようですが、映像自体も格好良く、こういったスピーディかつ凝ったマイナーチェンジは細かく嬉しい部分(『ビルド』の時は、本編と大きくズレたOP映像変更の遅さが、割と不満だったので)。
 デイブレイクタウンでは、プログライズキーで仮面ライダーに変身したがる滅亡フードこと迅を、滅亡バンダナこと滅がたしなめ、ぜつめライズキーの戦闘データを収集する事によりアークを復活させ、アークに接続する事でヒューマギアの大量暴走を引き起こすのが滅亡ギルドの計画である……と、困惑するほど勢いよく説明。
 情報公開の度合いに関してはプロデューサーなどのオーダー通りでしょうが、あまりに芸も捻りもない開陳の仕方に、初見の脚本家への一抹の不安がよぎります。
 ……まあ今回、「迅」「滅(ほろび)」と滅亡ギルドの二人の名前が繰り返し呼ばれ、今作の固有名詞の聞かせ方からすると、本当は第4話までに説明しても良かったけど情報量の配分として今回は滅亡迅雷ネットの順番、という程度の重要度なのかもですが。
 「自我の芽生えたヒューマギアがまた一人。迅、おまえのお友達だ」
 これまで「シンギュラリティ」と称されていたものも「(ヒューマギアの)自我の芽生え」とされ、台詞回しからすると、迅はヒューマギア、という事になるのか。
 一方、職場訪問中のアルトは憧れの漫画家・石墨の冷たい対応を受け(正直迷惑)、もはや自分では一切絵を描かず、全てアシスタントギアに丸投げという現場と、ヒューマギアを使い捨ての消耗品としてのみ扱うその態度にショックを受ける。
 「……ねえ君、先生ってさすがにストーリーは作ってるんだよね?」
 「いえ、ストーリーは出版社の編集担当さんが。僕もたまに考えますが」
 買い出し帰りのアシスタントギア・ジーペンはあっさり口を割り、色々な部分でセキュリティが不安だぞ飛電ヒューマギア!
 憧れのマンガの真実を知り大ショックを受けるアルトだが、そのジーペンが滅亡フードによりドリルマギアへと変貌。ドリルはあくまでモチーフの変形で、古生代の海中とかに居そうな雰囲気だと思ったら、ドリル部分はゼロワンいわく「貝」との事。
 ドリルというより巻き貝の殻だったマギアの堅さに苦戦している所にA.I.M.S.が駆けつけ、バルカンは唯阿の投げた新装備・アタッシュショットガンを使用。……まるっきり、鞄ソードの類似商品なのですが、誰が技術を流しているのか、そろそろツッコんで欲しい(笑)
 威力と比例して反動も大きいショットガンはドリルマギアをかすめるに留まり、ダメージを負ったマギアは逃亡。この戦闘で石墨のアシスタントギアが全て暴走・破壊されてしまった事から(一歩間違えば、有名漫画家・白昼の惨劇!になるところでしたが……)、石墨は急ぎ代替え品の用意を求めるが、アルトはそれに不満を呈す。
 「先生はそれで、お仕事が楽しいんですか?」
 契約に反して、社長権限で代替え品の配送を止めるアルトの元を副社長一行が訪れ、副社長の腰巾着がセミレギュラーとして用いられているのは、副社長は社内の権力者である事を明示・補強できて、好きな要素。こういう部分に目配りがあるのは、今作の良いところです。
 著名人の大口顧客からのクレームが公になればますます会社の株価が何してくれるんだこの野郎、と憤激を露わにする副社長だが、既に絵にも物語にも関わっていない石墨のマンガへの姿勢に、抱いた疑問をアルトは晴らせない。
 「だけどヒューマギアは奴隷じゃない……。やる気の無い人が使っても、それはただの、金儲けの道具でしかない」
 いや、あの、飛電インテリジェンスは、それで金儲けしているのでは。
 美術の世界でも「工房」というものが昔からありますが、現実的にも微妙な要素を孕む集団作業による創作物の問題に深く切り込むのを避け、かといって法的にグレーな要素に企業倫理から疑問を抱くという程の事案でもなく、結果的にアルトの「一ファンとしての私情」に基づいた“やる気”に焦点を合わせた結果、極めて曖昧な主観に支配された物語は激しく蛇行運転を開始。
 「私は、アルト社長のおっしゃる事が理解できていません」
 イズからカウンターが入ったのは一瞬良かったのですが……
 「だけどさ……先生にはもう、情熱が無いじゃん」
 アルトは「やる気が無い/情熱がない」を理由にそれを否定し、アルトが「市井の一ファン」ならばそれでも良かったのですが、アルトは「飛電インテリジェンスの社長」であるが故に、情熱を失った漫画家など干上がってしまえ、と私情に基づいた権力を振りかざして個人の社会的生命を終わらせようとする巨大企業の横暴な社長になってしまい、大変バランスを欠く事に。
 1-4話では、「社長」だから「止める」「夢を語る」「知ろうとする」と上手く繋げていたのですが、メインライター以外が書いた途端に、「社長」としての一線を越えてしまう大惨事。
 それがルーキー社長の失点と成長要素として描かれるなら話は別ですが、アルトはずっと無自覚なままですし。
 アルトの言い分に納得の行かないイズは、利用規約の中から「情熱」という単語を検索するが、見つからない。
 ――「情熱を持って仕事をしている全ての人々を助ける。これが、我が社のやるべき事だ」――
 しかし、自らのメモリーの中に残っていた先代・是之助社長の言葉から、「情熱」という条件の持つ意味を理解しアルトの行為を支持する、のですが、それは別に、持っていない人は助けなくていい、という話ではないのでは、というか、その解釈は危険では。
 まあこれに関しては、飛電が巨大化するあまりに理念が失われ、それが暗部と暴走を孕むに至っている、という解釈は可能ではありますが。
 「漫画家は、人の心を動かす、凄いお仕事なんですよ!」
 アルトは熱意を持って石墨に語りかけ、メタ要素を含んだ創作賛歌も入ってくるのですが、「人の心を動かす」という点がアルトの前身に繋がりますし、もっとストレートにそこへ焦点へ合わせても良かった気がして、なんだかとってつけた感もある中途半端さ(そういうテーゼを得意とする會川脚本に染まりすぎかもですが)。
 「もし、人間に情熱が無くなったら、AIの勤勉さに負けるだけじゃないでしょうか」
 AIに対する人間の価値とは「情熱」ではないか、という話の持って行き方は悪くなかったのですが、部下を消耗品として扱い、名前だけで商売している石墨が「社長」として好ましからざる人間として描かれている一方、今回のアルトは、同じかそれ以上に「社長」として疑問のある行動ばかりしているので、説得フェーズの納得力は非常に薄め(ヒューマギアと人間の違いはあれど、両者とも他人の生殺与奪に関する権力を振り回しているのが悪い意味で重なっているのですが、そう見ると明らかに後者の方がタチが悪いわけで)。
 せめてこの、アルトが一方的に石墨に要求する「情熱」を、アルト自身の「情熱」と繋げる事が出来れば良かったのですが、ヒューマギアの夢の証明に繋げるわけでもなく、かつては芸能の人であったアルトの他人を笑わせたいという想いに繋げるでもなく、そもそも、アルトが大好きだという石墨のマンガから受けた影響も特に具体的に提示されるわけでないので、全方位に連動不足。
 物語における具体的な落とし込みが一つも発生しないまま、情熱がただひたすらに空転していきます。
 今回恐らく、火炎攻撃フォーム→熱→情熱、といった具合に、必要条件からキーワードを連想してお仕事フォーマットに接続する形で製作したのかと思うのですが、曖昧な観念が曖昧なまま振り回されて、アルトの主観にも拘わらずアルトの人間性と一切の結合を見ない、というのが大変残念でした。
 ブラック漫画家をサツガイだ、と元アシスタントが豪邸に乱入し、逃げ惑う石墨は、机の上に置いていた一本の古びたペンを必死に手にする。
 「先生、あるじゃないですか、情熱」
 その姿に石墨の真実を見たアルトは、豪邸の屋根を破壊しながらゼロワンファルコンに変身してドリルマギアを外へと連れ出し、新たなキーにより、情熱タイガーフォームへと変身。
 ゴリラ×ショットガンで助けに入ったバルカンと並んでマギアと向き合い、早くもすっかり癒着しているゾ、ゼロワンとA.I.M.S.
 前回の件を通してアルトも不破も人間的にお互いそこまで悪印象は無く、暴走マギアへの対応という点では協力できる部分はあるのでしょうが、根本の思想的には相容れない筈なので、ちょっと一気に緊張感を緩めすぎてしまった気がします。基本的に今回A.I.M.S.は、タイミング良く現れてショットガンを撃つ仕事なのですが、そこで人間関係を意識したワンアクセント入れられるかどうかが、“出来る”“出来ない”の分かれ目かも、とは思うところです。
 炎を纏うタイガーの登場シーンは格好良かったのですが、その姿に情熱を取り戻してスケッチブックにペンを走らせる石墨の視点から、マンガ風のコマ割りと擬音を用いたバトル演出は、個人的には盛り上がらず。
 このシーンが盛り上がるには、冒頭から傲慢な態度で積み重ねられていた石墨の悪印象が、劇的に好印象に逆転している必要があるのですが、ペンを守ってアルトに情熱を認められる程度では逆転に至らず、マンガの形で締めるクライマックス、というのが別に何も嬉しくない事になってしまい、必要条件の足りていないアイデア倒れになった印象です。
 ラスト、石墨が自ら描いた新キャラのモデルはゼロワン……ではなくゴリラでした! というオチは面白かったですが。
 そしてデイブレイクタウンでは、キー欲しさのあまり勝手な行動を取る迅に、滅が衝撃の告白をしていた。
 「お前は俺の――息子だ」
 言われた側が、何こいつ頭オカシイ? みたいな顔になっているけど、どうなる滅亡ギルド?! で、つづく。
 というわけで、本来の主題は「創作者と情熱(創作者に情熱は必要か?)」だったのかもしれませんが(これをアルトの過去現在と繋げれば、まだどうにかなった気はするのですが)、テーマ云々という以上に、「極めて主観に基づいた情熱の有無の判定により他人の生殺与奪権を振りかざす我が魔王」という大問題が発生してしまい、早めのサブライター投入が完全に裏目、というのが率直な感想。
 ただ、戦隊はまだともかく、平成ライダーの方は特に、連続ドラマ志向の強さからメインライターへの負担が大きい&新たな脚本家を試す隙間が無かった事に関してプロデューサー陣も思う所があるようなので、当面、それなりの波があると割り切って見た方が良い作品になるかもしれません。
 次回は、今回の登場が布石だった声優ギアがメインゲストのようですが、続けて「ファンとしてのアルト暴走」パターンにならないかは心配。予告からすると、滅亡ギルド側を含めた別テーマになるようなので大丈夫だと思いたい。