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仮面ライダーゼロワン』感想・第1話

◆第1話「オレが社長で仮面ライダー」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:高橋悠也
 「自我が芽生えた人工知能が人間を超える。今こそ、人類を滅ぼす時が来たのだ。かつての――この街のように」
 物語は、飛電インテリジェンスのプロモーション映像という形で、人型AI・ヒューマギアの紹介と、それに自ら出演していた創業者社長の死去報道から始まり…………これは、9割方、実は生きているパターンでは(笑)
 売れないお笑い芸人である主人公・飛電或人の行動を追いながら、大きな耳当て部分が人間との明確な外見的差異であるヒューマギアの存在が日常に溶け込んだ、ここではない世界観をテンポ良く見せていく掴みは良い出来。
 特に、文字通りに体を張って笑いを取るヒューマギアお笑い芸人の登場が、筋骨隆々にデザインされたお笑い芸人がアリなら、他にもちょっと変わったヒューマギアが色々存在してもおかしなくない、とヒューマギアの外見及び職種の可能性を映像の力で大きく広げて日常への浸透度合いに強い説得力を生み出し、それと同時に不穏な要素の伏線そのものにもなっており、なかやまきんに君が非常に好キャスティング。
 遊園地の支配人からクビを宣告されたアルトは、秘書ヒューマギアの案内で飛電インテリジェンスの緊急取締役会議に出席し、亡き祖父の遺言状を公開する役目を負う事に。
 遺言で会社と人類に迫り来る危機を予言し、会社経営と全く関わってこなかったと思われる孫を後継者に指名し、その混乱を「社員一丸となって、会社の危機を乗り越えてもらいたい。以上」で締める社長、これはほぼ、“隠されていたビデオメッセージ”の亜種であり、とんでもないダメ祖父野郎なのではないか。
 とりあえず、飛電インテリジェンス社員一同には、早急に会社の地下を調査する事をお薦めしたい。
 「戦え。――戦え。そして勝ち続ければ、きっとその答がわかる」
 ……ううっ、何かノイズが。
 だがアルトは、居並ぶ役員達に向け、社長になど就任する気がないと宣言。
 「俺の夢は、笑いを取る事だから」
 会社を出て行くアルトは、幼い日、一人のヒューマギアを笑わせようとしていた過去を思い出し、ヒューマギアを「父」と呼ぶのは、一体いかなる理由なのか、現時点では謎。敵組織の根城であるデイブレイクタウンの様相や、室内の小道具、湖底に沈む何かなど、思わせぶりで興味を引く要素の散りばめ方も上手く、脚本家に見える“二回目の余裕”と『ルパパト』をくぐり抜けた杉原監督の相性は、ここまでのところ良い感じ。
 クビを撤回してもらおうと再び遊園地に向かったアルトだが、そこで見たのは、他の芸人を見て爆笑する観客達、そして、何やら様子のおかしい筋肉ヒューマギア。
 「私の仕事は人間をわラワ――…………滅亡させること」
 デイブレイクタウンから来た謎のパーカー男により、抵抗むなしく役割を上書きされてしまった筋肉ヒューマギアは、ベルトにカードを填め込む事で、カマキリギアへと変貌。駆け寄る係員ヒューマギアもオーバーライドされる事で暴走して戦闘員扱いとなり、元はロボットなので破壊可能だが、同時に部分的に人間性を有したキャラクターでもある、というのは色々と使い勝手が良さそうな設定です。
 純粋に他者を笑わせようとしていたヒューマギアが、破壊の使徒へと強制的に変えられてしまう悲劇性もウェットになりすぎないながらしっかりと盛り込まれており、“人間とヒューマギアの関係性”について想像させる物語の奥行きを作っているのもお見事。
 「人間を皆殺しにする」
 カマキリギアを中心に暴走したヒューマギアによって、破壊と殺戮の惨劇の地と化す遊園地。
 そこに謎の特殊部隊が現れて銃撃戦を展開し、「ひゃっはー、ヒューマギアどもは消毒だー!」男と、なんだか苦労していそうなその女上司が登場。
 一方、支配人を守ろうとカマキリギアに飛びかかるアルトは、呆気なく叩き伏せられてしまう。
 「私の、夢が……」
 「人類に夢を見る未来は、来ない。あっはっはっはっはっはっは!」
 だが……
 「……笑うなよ!」
 「……あん?」
 「何もわかってないくせに……人の夢を笑うんじゃねぇよ!!」
 「わかっている。夢とは、将来の目標や希望、願望をしめ」
 「人の夢ってのはな! 検索すればわかるような、そんな単純なものじゃねぇんだよ!」
 ――「俺の夢は、笑いを取る事だから」から、「笑い」をプラスの要素としてのみ描いていくのかと思いきや、「他者の夢を踏みにじる邪悪な笑いの否定」を挟んだのはひねりが効き、アルトの求める「笑い」とは何か――主人公の信念の在処――の強調にもなって、啖呵も格好良く決まってとても良かったです。
 アルトは、遺言状の内容に従って追いかけてきた秘書子から、暴走したヒューマギアを止める事の出来る祖父の遺産――ゼロワンドライバーを受け取り装着。飛電インテリジェンスの所有する通信衛星に接続され、人工知能と同じ思考速度で用意された戦闘マニュアルを読む事で、変身し立てのヒーローが何故戦えるのか、という部分を理由付け。
 通信衛星から放たれた?バッタアーマーを装着したアルトは蛍光イエローの仮面ライダーへと変身し(今のところ「仮面ライダー」の呼称は用いられていないのですが、サブタイトルでは明言)、今作のベルト音声は“よくわからないけどなんとなくかっこよさげ”な英語音声。玩具的には、子供が真似して口ずさみやすいようなキャッチー系統の方が良いのかもですが、個人的に、あまりやかましいベルトは苦手なので、“わかりやすい”よりも“大人っぽい格好良さ”を狙ったと思われる今回のベルトは、割と好きな路線。
 「おまえはなんだ!?」
 「ゼロワン! それが俺の名だ!」
 ゼロワンはくるっと一回転して名乗りを決めると、暴走ヒューマギアとの戦闘に突入。バッタの脚力をアピールし、秘書子からのパスを受けて鞄ブレードで雑魚を切り裂き、最後はカマキリの飛び道具をかわしながら高速移動で間合いに飛び込むと、必殺の飛び蹴り、オレより面白い芸人は許さねぇぇぇ!キック……じゃなかった、ライジングインパクトにより撃破するのであった。
 …………最初から技名が登録されていたという事は、祖父がノリノリで考えた可能性が高く、ますます不穏な疑惑が膨れあがっていきます。
 「忙しくなりそうだな」」
 「……歴史は、繰り返すのか」
 謎の特殊部隊も雑魚を鎮圧し、何やら、以前にもヒューマギアの暴走事件があり、どうやらそれがアルトとその父の過去、そしてデイブレイクタウンに関わっているらしい事を示唆。
 「ゼロワンか」
 「先代の社長も、ただでは死ななかったみたいだね」
 「いずれにせよ……人類が絶滅危惧種となる日は近い」
 そしてデイブレイクタウンでは怪しげなパンク男二人が嘯き、湖底では謎の装置の残骸が赤い輝きを放つのであった……。
 カマキリギア騒動を解決するも、ベルトの使用者=社長、という条件を思い出し、社長就任は固辞しようとするアルトであったが、遊園地からの去り際に、支配人と子供の会話を耳にする。
 「おじさん! もうこの遊園地やめちゃうの?」
 「……いや。謎の黄色いヒーローが、ここを守ってくれたんだ。だからこれからも、この遊園地は、お客様に、笑顔を届けます!」
 支配人はアルトの姿を認めると下手なウインクを飛ばし、主人公がその願い通りに誰かの夢を守ると同時に、主人公の善意が確かに届く、というのが気持ちのいい落着。
 「或人様の夢である、笑いの表情を多数検出しました」
 「…………こういう笑いの取り方も、ありって事か」
 頷いたアルトは車に乗り込み、秘書子から社長専用のライズフォン(スマホ的アイテム)を受け取る。
 「飛電インテリジェンス、代表取締役社長……よし! やってやるか!」
 そして、通信衛星の中でチュートリアルプログラムを受けたアルトは、閃いた。
 「名刺を見つめる……名シーーーン!! はい! アルトじゃーナイトーーー!!」
 だが、お笑いのレベルは、一つも上がっていなかった。
 「それは、伝統的な言葉遊びで、名刺と、名シーン、とを」
 「あーーーー! お願いだからギャグを説明しないでぇぇぇーーー」
 主人公の“個人の夢”を、過去の謎にまつわるサスペンス要素と絡めつつ、“ヒーローの動機付け”へとスライドする構造が非常に鮮やかに決まり、まずは快調な滑り出し。
 ハイテンションで鬱陶しくて面倒くさいスレスレの主人公と、字義通りに体温の低い秘書子のコンビとしてのバランスも良く、ラストでその秘書子が「笑い」というキーワードを拾うのも、巧くはまりました。秘書子さんは大変おいしいポジショニングなので、今後の転がし方に期待大。
 また、劇中において重要な固有名詞の聞かせ方が丁寧、というのも好感触でした。
 次回さっそくセカンドライダー登場のようで、せわしなくなりがちな序盤の展開をどう捌いていくのかがまず一つ(私にとって)恒例のハードルになりそうですが、脚本・演出ともに冴えていた上で、主人公が見ていて悪い気がしないのは非常に大きく、ツボに入ってきてほしい。