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夏休み映画祭り1

 ちょっと勢いをつけて幾つか見たい作品があるので2、3……と続けたいなという予定で、まずは第1弾として『ゴーオンジャー』劇場版の感想です。

生まれた世界は違っても 見た目や言葉は違っても 願いは繋ぎ合える

◆『炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN! BANBAN! 劇場BANG!』◆ (監督:竹本昇 脚本:會川昇
 「卵には、炎神にも大切な、鉄分や、ミネラルが豊富に入ってるっス」
 卵は物価の優等生!!  (※TV本編の大変重要なテーマ)
 ガイアーク三大臣が巨大バンドーマにより次元の壁を破壊し、ヒューマンワールドと他のワールドを混ぜる事でしっちゃかめっちゃかに世界を汚そうとする計画を発動。それを阻止しようとするゴーオンジャーの前には再生蛮鬼獣軍団が立ちはだかるが、ウィングス、そしてアリゲーターとホエールが駆けつけ、キャラ紹介(ヒューマンと炎神をセットで紹介するのが、まさにゴーオンジャー)も兼ねつつ疾走感のある突撃シーンで冒頭から炎神が大集合。
 「みんなの力を、一つにするぜ!」
 そのまま勢いに乗せて一切の出し惜しみなく炎神王G9を放り込んでくる怒濤の劇場版作劇により、再生軍団を巨大バンドーマともども粉砕するG9だが、次元の亀裂の向こうからやってきた謎の3人組が光球と化してG9と衝突すると、G9が強制合体解除。
 「弱い者に、炎神を手にする資格はない」
 「なんだと……?!」
 炎衆、を名乗った、猫舌・忍者・小さい、の過去ヒーローキャスト3人組は赤青黄の炎神キャストを奪うと次元の向こうに姿を消し、走輔達は、アリゲーターとホエールが身を挺して亀裂のつっかえ棒になっている内に3人組を追って別の次元へとダッシュ全開飛び込んでいく事に……。
 そして辿り着いたのは、太秦、ならぬ、サムライワールド。
 「ズバリ、サムライワールドって?」
 「誰もが戦い、殺し合う世界だ」
 派手なやられ芝居を見せてくれる福本清三のゲスト出演、ナンパ設定がまだ生きていた範人、人間から闘争心以外を消し去ってしまう狛犬怪人コンビ(CV:デンジグリーン&メガブルー)の登場などノンストップで目まぐるしく展開し、修羅の国と化したサムライワールドの住人達に取り囲まれる走輔達を助けてくれたのは、どういうわけか炎衆。
 走輔は3人に、スピードル達のキャストを返して欲しいと訴えるが……
 「相棒?」
 「そうだ。俺達は、炎神を相棒に戦う、正義の味方なんだ!」
 「……正義などない。この世に必要なのは、強さだけだ」
 炎衆のリーダー・烈鷹ことたっくんの反応は冷たく、Vの字ハチマキとか巻いてはいますが、劇場版の圧縮作劇にファンサービスも加えて、たっくんは8割方たっくん(同一化を避けたいなら全然別の性格を用意するでしょうし、理由はあるとはいえネーミングも意図的でしょうし)。
 そこに軍平と範人を捕らえた狛犬怪人コンビ(バイクに変形するのが面白い)が出現し、それに対抗するべく「炎神・入魂!」により、赤青黄のキャストと一体化しようとする炎衆だが、拒絶反応により失敗。結局、赤青黄緑黒、5つの炎神キャストが、サムライワールドを支配する魔姫の元へと、奪い去られてしまう……。
 一息ついて情報の整理が行われ、炎衆は、強くなる事だけを求めて次元から次元を旅していた流れ炎神の素性を明かす。だが3人はサムライワールドで魔姫の奸計にはまって肉体を奪われ、魂だけが人型となって分離。魔姫を倒して自分たちの体を取り戻そうとスピードル達のキャストを利用しようとするが、敢えなく失敗に終わったのであった。
 「おまえたちは、辛くないのか? 心と体に分かれて」
 「たとえ辛くても、相棒が居れば、耐えられる」
 「相棒……」
 早輝は炎衆の境遇に涙を流し、連はオムレツを差し出し、そういえばこの人、深く静かに狂っているのでした……。
 「魔姫を倒して、おまえ達のキャストも取り返す。それで、この次元のみんなも、幸せに暮らせる筈だ」
 「余計な事を」
 「そうでなきゃ、ヒューマンワールドに戻っても、ぐっすり眠れねぇんだよ」
 走輔は、おでこつんを発動した!
 「言ったろ? 俺達は、正義の味方なんだ」
 「……我らは正義ではない。正義はここにない」
 「あるさ! ――ここに」
 走輔は、両肩をがしっと掴むと、たっくんの胸に拳を当てた!
 ……後にこの劇場版の内容がTV本編の第39-40話に接続され、劇場版未見の状態で見た第40話の感想において、


 「あれは走輔にとって、大切な烈鷹の……」
 で早輝の発言がルート確定済みみたいな言い回しなのですが、何があったんだ劇場版。
 今作のヒロインは、知らない所で既に決まっていたのか?!
 と書いていたのですが、そうか、やはりここで、『ゴーオンジャー』真ヒロインのフラグは立っていたのか……。
 一夜明け、走輔達5人が魔姫の城に乗り込むと、魔姫の傘下に入ったフリをしていた金銀兄妹が奪われたキャストをいつの間にやら取り戻しており、色々と好き放題の金兄が歌い出しそうな勢い。
 「みんな! 見せてやろうぜ! 心がどれだけ、強いのか!!」
 ジャーとウィングスは勢揃いでフル名乗りを決め、金銀の背後で舞うキラキラの量が、劇場版仕様でなんか凄い。
 「……正義、か」
 「……なあ、俺達なぜ強くなろうと思ったのかな?」
 「……忘れちゃってたけど、私たちも、最初はなりたかった気がする。誰かの為に、戦える――」
 「……正義の、味方か」
 洞穴で体を休めていた炎衆は頷き合い、その頃ゴーオンレッドは、単身天守へと突入。
 「感じる。脅えているな。その心がお前を弱くする」
 魔姫(サムライワールドの理からも外れた存在という事か、中国風デザイン)役のソニンは、いかにも戦隊劇場版的なキャストでありますが、抑えた低めの声は、なかなか雰囲気が出ていて良い感じ。
 「なんと脆い心よ」
 「ああ! 俺は迷う! 脅える事もある! だけど、その心を一度も捨てたいと思った事は、ねぇぜ!」
 心を捨てるのではなく、心があるからこそ強くなれる、と抗うゴーオンジャーだが、魔姫&狛犬怪人に揃って苦戦。
 「我が秘術で心を消してやろう」
 「おまえも、自分の心を消したのか」
 「そうだ。強くなる為に」
 「へへっ……違うな。おまえは弱い!」
 一つ前の「事は、ねぇぜ!」の区切り方や、この笑い方が如何にも走輔らしい台詞回しで、格好いい切り返し。タイプとしてはストレートな単細胞系レッドの走輔ですが、勢いのある言い回しが特徴付けになっていて、改めて上手いキャラ造形。
 「……なんだと」
 「自分の中の恐れや苦しみと戦わず、逃げただけだ!」
 威勢良く啖呵を切るもずんばらりん寸前、駆けつけた炎衆によってレッドは助けられ、ここで主題歌イントロがかかりだすのが、絶妙なタイミング。
 やはり私は“この瞬間”が大好きで、しかし“この瞬間”だけでは物語は成り立ち得ないからこそ、如何に“この瞬間”を劇的にするかの為に凝らされる技巧が大好きです。
 「来ると思ってたぜ、烈鷹」
 「走輔の言う通りだ。おまえは弱い!」
 「私たちも弱かったよ。でも今は、違う!
 「たとえ体はなくとも戦う。心の力でな!」
 ここから主題歌に乗ってヒーロー反撃のターンとなり、青をスケートボード扱いする銀と、チェーンの上を走る金が色々凄いのですが、TV本編とのタイミング的に、翼兄妹はまだブースト期間中であったのでしょうか。
 狛犬コンビを痛めつけた青黄緑黒金銀は、揃って満タンガンに炎神ソウルをセット。
 「今、この武器に、炎神達のソウルが入った!」
 「俺達が心を込めて、引き金を引く!」
 「人間と炎神の心の力が、一つになるんだ!」
 「心の無いあなた達には、わからないでしょうね」
 「これが人と炎神の、心の絆!」
 「見せてやろう、絆の力」
 …………えーつまり……殺意×殺意?
 ヒューマンワールドやマシンワールドとは別の戦いなので、ここで一つになる心ってそれしか思いつかないわけですが、狛犬コンビは一斉射撃により爆死。天守では炎衆と魔姫による殺陣を挟んで、たっくんと赤の連携攻撃が炸裂し、勢いで、見た目人間を回転斬りするゴーオンレッド、劇場版の思い切りって怖い。
 獅子之進と月之輪のキャストは狛犬コンビの体内から取り戻されるが、烈鷹のキャストを取り込んでいた魔姫は、その力によって巨大なムカデギドラに変貌。ゴーオンジャーは炎神王で挑むも合体解除に追い込まれてしまうが、一人ゴーオンレッドだけがムカデの頭部に食らい付き、ダメージで変身解除や一部損傷ではなく、戦闘中にメット部分だけが弾き飛ばされた状態でそのまま戦う、というのは戦隊史上でもかなり珍しいでしょうか。
 ゴーオン走輔はスピードルのソウルを供にそのまま掟破りの突撃を敢行すると、たっくんの炎神キャストを取り戻し、命がけで約束を果たしたその姿に心震える烈鷹ルートがダッシュ全開!
 炎神キャストを失った魔姫は炎魔大僧正モードに変貌し、炎衆は取り戻したキャストを手に、巨大化を決意。
 「獅子之進! 月之輪! ……参るぞ!」
 「しかし今の俺達じゃ、元の姿では長くは戦えない」
 「それどころか、傷ついた私たちでは、これが最後……」
 「思い出したのではなかったのか。誰かの為に、戦うという事を」
 「……そうね」
 「俺達の正義は――ここにある!」
 たっくんは自らの胸の内側を指し示し、要所要所に置いた台詞と散りばめたテーゼを鮮やかにまとめ、ゴーオンジャーのヒーロー性のみならず、ゲストが“ヒーローになる”瞬間を描き出してみせたのが、実にお見事。「思い出したのではなかったのか。誰かの為に、戦うという事を」は、今作の中で一番好きな台詞です。
 入魂し元の姿を取り戻した炎衆は、走輔を運転席に迎える事で炎神合体を成し遂げ、ここに神大将軍、堂々出陣!
 本編の核となるキーワードとはいえ、TVシリーズを前提とした劇場版としては、前半、あまりにも「相棒」「相棒」と繰り返されるのを少々くどく感じていたのですが、炎衆の正体が明かされ、3人が炎神合体という人と炎神の心の繋がりを目の当たりにし(ここで目を瞠る烈鷹たちの反応を抑えているのが手堅い)、失っていた肉体と、見失っていた“本当の魂”を取り戻したその時、走輔という「相棒」を迎えて炎神合体を成し遂げる、というのは綺麗にピースがはまり美しいクライマックス。

――「俺とおまえが出会って、相棒になった。それが最高のキセキだ」――

 大刀を振るうも炎魔大僧正の火力に押し負ける大将軍だが、ゴーオンソードを拾って二刀流を発動。
 「ゴーオンソードは、スピードル達の心と繋がっている! 心の力、見せてやるぜ!」
 二本の剣で大僧正の矛と盾を叩き落とした大将軍は、スピードル達の殺意もとい心を乗せたゴーオンソードの投擲で大僧正を魔姫城に串刺しにすると、ゴーオン紅蓮斬りで一刀両断! 大将軍は翌年を先取りする納刀を披露し、
 「「「「チェッカーーーフラッグ!」」」」
 魔姫の消滅によりサムライワールドの人々も元に戻り、歓声に包まれる炎神大将軍。だが、無理な変身により、炎衆の存在は限界を迎えていた……。
 「悲しむな、走輔」
 「俺達はここでサムライワールドを見守るよ」
 「ヒューマンワールドにも、私たちにそっくりの人間が居るかもよ。そこでは、正義の味方とかやってたりしてね」
 誰かの為に、戦うという事を取り戻した炎衆の3人は満足げに走輔に語りかけ、石と化していく大将軍……。
 「これでゆっくり眠れるか? 走輔」
 「おまえ達……」
 実に心憎い台詞の拾い方で力を失った炎衆は眠りにつき……完っ璧に、たっくんが走輔の心の中で永遠になっているーーー!!
 ヒーローとヒーローの魂の共鳴がストレートに描かれていたと思ったら、いつの間にやら黄色も銀色もぶっちぎって完全なる真ヒロイン誕生の瞬間に辿り着いてしまい、會川さんはもしかして、ヒロインを描こうとするよりも、“もう一人のヒーロー”を描こうとした時の方が、強力なヒロインを生んでしまうのでは(笑)
 「走輔、俺達にはガイアークとの戦いが待っている」
 哀しみに立ち尽くすゴーオンジャーの元に、ボンパーさんから次元の亀裂の保持が限界に達しているという緊急通信が入り、涙をぬぐった走輔は、帰還を決意。
 「……そうだよな。俺達、正義の味方なんだ!」
 第1話のサブタイトルに始まり、コアなテーマとはしていないものの、作品全体を貫く通奏低音として折に触れ「ヒーローとは何か」をキャラクター個々の視点から持ち込むのは本編の特徴の一つですが、そこに少し切ないニュアンスを加えているのは、この劇場版独自の色づけ。
 「あばよ、烈鷹……よーし、マッハでヒューマンワールドに帰るぜ!」
 哀しみを振り切り、ダッシュ全開で走り出すゴーオンジャー、の姿からEDに突入し、劇場版オールキャストのスペシャルダンスEDで、完。
 TV本編で序盤の傑作第8話をものにした會川昇が脚本を担当し、基本的にナチュラルヒーローである走輔達と、それを見失ってしまった炎衆を対比させていく中で「ヒーロー」の姿を本編とは少し違う角度から描き出し、後に會川さんとのコンビで本編屈指の名作回である第30話「友情ノパンチ」を担当する竹本監督が、密度の濃い會川脚本をテンポ良くまとめ上げ、劇場版らしいサービスとスピード感の融合が、お見事でした。
 特に、最初にG9を見せる → 理由をつけてアリゲーターとホエールを別行動に → 炎衆に物語の焦点を合わせていく、事により、既存ロボの見せ場を確保しつつ、劇場版恒例となっているスペシャルロボの登場に無理なく繋げ、物語として劇的なクライマックスに仕立ててみせた構成は、素晴らしかったです。
 一方で、TV換算にして約1話半のボリュームで物語をまとめるに当たり、かなり割り切ったレッド偏重の作りになっており、赤を除くと炎神含めたレギュラーメンバーで見せ場があるのがせいぜい青と金ぐらい、というのは好みの分かれるところでしょうが、最終的に辿り着く「走輔と烈鷹の物語」としては、完成度を高める良い思い切りであったと思います。
 満足の一本でした。